「アバンス!」
黒い霧が、林に流れる風と共に溶けていく。
アバンスと守り人を囲んでいたドームはもはや形も無い。
「……ふぃー。疲れた……。おう、ダルク無事か」
「こっちのセリフだ。……ま、お前が負けるなんて考えちゃいないが」
「そいつはどうも。……っと」
アバンスは手元にカードの感触を感じる。
チラ見すると、それは黒いカード枠にエクシーズモンスター。
「これが、今回の『No.』か」
「ああ、中々に手強かったぞ。4100が4体並んで結構危なかった」
「なにそれこわい」
「これが今回の調査の収穫です。封印されていた『No.』が1枚、エンデュミオン北西部の林で発見しました」
4枚重ねのスリーブに収納したカードを、レポートとともにハストルに提出する。
ハストルは感嘆したように息を吐くと、カードをアバンスに手渡した。
「ご苦労だった。このカードは君達が使いたまえ、次の活躍を期待する」
矢継ぎ早に告げながら、身体を黄色い衣の中に隠し、身なりを整えている。
「……出張ですか、ハストルさん」
「ああ、少し上に挨拶してくるだけさ。……おっと、時間が無い。明日にでもゆっくり話を聞かせてくれ。ではな」
そう返し、風の神性は空気に溶け、消えてしまった。
後に残るのは、ダルクとアバンス以外に誰もいないオフィス。
2徹で任務から帰還。
残されたのは2人。
「ふむ、業務終了ってことでいいんかね、これは」
「……じゃないか?書き置きも無い、誰もいない。おまけに定時」
誰にも文句は言われないよな、とこっそり早足でオフィスを後にする二人なのであった。
京東ウォーターフロント、都市部に呼び出されたハストルは、待ち合わせた場所で待機していた。
『あの男』に呼び出されたからか、どうも胃が痛い。
しばらくして、数人の黒服を連れた男がハストルの前に姿を現わす。
「やぁ、久しぶりだなハストル。わざわざこんな極東に呼び出してすまない」
呼び出した張本人である男は、上物のダークスーツに身を包み、整えられたブラウンの髪、柔和に微笑む銀色の瞳でハストルを出迎えた。
「ああ、随分久しぶりだ。長官殿」
「肩書きで呼ぶのはよしてくれ。仕事以外での知人にそう呼ばれると肩が凝る」
長官と呼ばれた男はシッシッ、と取り巻き達を手で追い払い、嘆息したように肩を回す。
「まぁ、外で立ち話もなんだ、酒でもどうだ?」
「……折角遠路遥々極東の島国まで来たんだ、つまらない店では無いだろうな?」
「もちろん。特上の蜂蜜酒とパインサラダをご馳走しよう」
「おいばかやめろ」
「マスター、彼に蜂蜜酒。私にはいつものを」
「かしこまりました」
ダンディズム溢れる声のマスターが、二人の前に中身の入ったグラスを置く。
「下戸は相変わらずのようだな、アランレイヴ。……いや、混沌帝龍と呼んだ方がいいか?」
懐かしい名だ、とでも言うような目で、アランレイヴはグラスに注がれた烏龍茶を煽る。
「……ハストル、例の件は首尾が上々のようでなによりだ。今日もまた、新たに回収できたようだな」
「……既に耳に入っていたか。『ゼロ』の『No.』捜索は機密情報の特務だと言うのに」
「子飼いの情報屋は優秀でね。……そもそも、『ゼロ』は私の直轄組織だ。私は部下の活動を知る義務がある」
「最もだ。……本題に入らせてもらう。今日私を呼び出した要件とは何だ?ただ世間話をするためではあるまい」
カラン、と静かなラウンジに氷の砕ける音が響く。
アランレイヴは空になったグラスをカウンターに置くと、口を開く。
「……お前には話しておこうと思ってな。私の計画を」
「……計画?」
「私は、『スピリットコード』に辿り着き、書き換える。そのための計画だ」
時計が鳴る音だけが、自室に響く。
エンデュミオンの住宅街の一軒家に住むダルクは、月の光を眺めながらベッドに横たわっていた。
「なぁ、クリアウィング」
『どうした、ダルク』
ダルクは誰もいない部屋でその名を呼ぶと、1体の半透明な竜が言葉を返す。
「5年前のあの事故。アレは、なんだったんだ?」
『前にも話したと思うが、『スピリットコード』に至る為の実験。……それ以外は我も知らぬ』
ダルクはその"事故"で失った腕に目をやる。
その時の僅かな記憶の欠片が思い浮かんでは、消えていく。
『我はそれを不幸な事故とは思うまい。本来『スピリットコード』とは真理そのもの。我等真理の守護龍ですらも触れるべきでは無い存在。だがダルク、お前は……』
「俺は、それを手に入れる。その真理とやらの先にある何かを、この手に掴む!」
さあ、ようやく物語が動き始めます。
新しい用語が出過ぎてわけわからんとかもあるかと思いますが、後々に謎が明かされていきますので、今後もよろしくお願いします。