「あ、これは短編だな」と思ったので会話案を書きだしてみたところ、
このまま書き終えられるなと判断したので書いてみたものです。
文章構成能力も低く、
ありがちな話ではあると思いますが、
読んでいただけたのなら幸いです。
「今日はここで最後ですか」
深夜、道を歩く人も僅かな時間帯。街灯の届かない場所で1人の男が左手に持つ紙束をめくり、目の前の病院を見上げていた。
男は黒い髪に黒い瞳。さらに黒くて足首まで丈がある裾のボロボロなマントを羽織っており、服装も全体的に黒かった。それなのに、不思議と男の姿は夜の闇の中でもハッキリと見えていて、それが男の怪しさを際立てている。
しかし何よりも注目するべきは右手に持つ大きな鎌だろう。明らかに銃刀法違反なソレを隠す気も無く所持している。それも、僅かとは言え人が歩く道端で、だ。
……ともすれば、即通報ものであるはずなのだが、男は誰にも通報されていなかった。それどころか歩く人は男に目を向けることもしない。まるでそこには誰もいないかのように通り過ぎていく。
「……そろそろいきましょう」
呟くと、次の瞬間には男は消えていた。
病院のとある一室。月光がカーテンによって遮られた部屋に、1人の少女がベッドで眠っていた。その室内に何の前触れも無く先程の男が現れる。よく見るとその手に紙束は無い。
そして堂々と不法侵入した男は少女のところまで歩くと、少し驚いたように呟いた。
「これは珍しいですね……まさかまだ生きているとは」
「誰?」
男は声を潜めるわけでも無く普通に呟いた為、眠っていた少女が目を覚まし体を起こす。そのまま声の主を探すように目を擦り、男を見つけてそっちを向いた。当然の事である。
しかし男は先程よりも驚いたようで、目を開いた後に手を口元に持って行き、首を傾げた。
「……あれ、私の声が聞こえているのですか?」
「え? はい。聞こえていますが……」
まだ寝ぼけているのか、呆けたように男の問いかけに答える。それに対し男は目を閉じて何事かを考えると、再び問いかけた。
「……私が見えますか?」
「はい。そこに居らっしゃいますよね。黒いマントみたいなのを着て、鎌のようなものを持っていらっしゃる……」
「……失礼ですが、私に触れますか?」
男が少女の前に左手を差し出す。傍から見れば怪しい行為なので普通は触れないのだが……
「冷たい手ですね」
「あなたは暖かいですね。久しぶりの感覚です」
……少女は躊躇うことなく触れた。しかも感想まで述べるという余裕を見せている。
また、男も平然とした様子で感想を言うと、触れていた手を引っ込めた。
そうして一段落ついたのか、ようやく少女が男に対して一番に訊ねなければならないはずの事を再び訊ねる。
「それで……その、どちら様でしょうか?」
「ああ、失礼しました」
死神が謝罪と共に頭を下げる。そして頭を上げてから少女を見て、とんでもないことを言い出した。
「私は……死神です」
そう――男は自らを「死神」と言ったのだ。
確かにそれは紛れもない真実ではあるのだが、普通なら信じられない事である。しかし少女は驚く様子も無く、ただ首を傾げて言われた言葉を確認するように口にした。
「死神……?」
「はい。あなたの魂の回収をしに来ました」
「……」
非情とも思える死神の言葉を聞きいても少女は騒ぐことなく、黙ったまま視線を正面に戻して背中を後ろに寄りかからせる。
数秒の沈黙の後、カーテンで風景の見えない窓の方を向いて少女は一言、
「つまり……私はこれから死ぬんですね」
とだけ言った。その表情は分からないが、言葉にはどこか諦めではない、達観したような感情がこもっているように感じさせた。
「そうなります」
「もう治ることも無いのでいずれは、と思っていましたが……それが今夜なんですね」
少女は坦々と告げる死神に向き直り、笑みを浮かべる。それは酷く儚い、とても綺麗な笑みだった。
「まぁ基本的にはもう死んでいて、魂が体から抜けている状態のはずだったのですが」
「それでさっき『珍しい』と言っていたんですね」
「ええ。ですが無い事ではありません。おそらく3時までには魂が抜けるので、それを回収しろという事なのでしょう」
「そうなんですか」
「そうですね。なので、こちらでその時まで待たせてもらってもよろしいですか?」
「はい。たとえ死神さんでも私の最期を看取ってくれるのは嬉しいですから」
「そうですか。それでは、待たせてもらいますね」
「はい」
死神は残酷な真実を告げたと言うのに、少女は残酷な現実を告げられたというのに、2人はまるで世間話でもするかのように話していた。月明かりすら遮られた病室で、まるで遮るものなど無いかのように、嘘偽りの無い本心を話していた。
しかしそれは、死を身近に感じていた少女にとって当然の事だったのかもしれない。死神にとっても、当然の事だったのかもしれない。
死神が待つことにしてから暫く、持っていた鎌が突然震えだす。
「おや、失礼。連絡が入ったみたいです」
「その鎌は電話だったんですか?」
「通信機のような機能があるんです……っと、少し席を外します」
「はい」
死神が少女に断ってから部屋を出た。
この時、少女は前を向いていたために気付いていなかったが、死神は扉を開けることなく廊下へとすり抜け出た。
誰もいない廊下、死神が誰かと話している声が聞こえる。
「まだ仕事中なのですが――ええ、えぇ……え。一旦戻ってこい、ですか? ……分かりました。それではこれから戻ります」
どこか納得していない様子で通信を終えた死神は、再び少女の病室へと入って行った。
「お待たせしました」
「いえ、大丈夫です。どんな連絡だったんですか?」
出た時と同じように扉をすり抜けた死神が声をかけると、少女は死神を待っているとは思えないほどに優しい表情を向けていた。
しかし少女の質問に、死神の顔は曇る。
「その……大変申し訳ないのですが、急きょ死界――死神のいる場所の事ですね――に帰らなくてはならなくなりました」
「あ、そうなんですか……」
落ち込む少女を見て、死神の顔はさらに曇る。その顔を見れば、死神が本心からそう思っていることが分かった。
「すみません。最期を看取ると言ったのに……」
「いえ、気にしないでください。しょうがないですよ」
「そうですが……」
明るく言って笑ってみせる少女だが、どこか無理矢理そう振る舞っている感じが漏れていた。死神もそれに気付き、表情がまた暗くなる。
……しかし、そんな重い空気を変えるように少女が一回手を叩き、こう言った。
「そうだ。私の魂の回収はどうするんですか?」
「魂の回収ですか……? 今夜は出来ないので明日になりますね」
質問に疑問を持ちながらも、ちゃんと答える死神。それを聞いて少女は、
「分かりました。それじゃあ明日、ちゃんと回収してくださいね」
「――!」
心からの笑顔でそう言ったのだった。
その笑顔を見た死神は一瞬だけ言葉を失い、しかしすぐに口元に笑みを浮かべて少女の最期の願いに力強く頷いて見せた。
「ええ、絶対に回収します。死神は嘘をつきません。約束しましょう」
「約束、です」
「ええ……それでは、また明日」
「はい。また明日」
少女に笑顔で見送られ、死神はその場から消える。
残された少女は死神の消えた場所を見つめていたが、暫くするとベッドに横になって目を瞑るのだった。
所変わって死界。用事を終えた死神はグルグルとその辺を回りながら呟いていた。
「困りました。まさかあの子の魂を回収するのが書類の不備でまだ先だったとは……本当に困りましたね。明日魂を回収すると約束したのに……」
思考と同じようにグルグルグルグル……回り続けてどのくらい経ったか。ようやく死神はその場に止まり、1つの結論を出した。
「……謝らないと、ですね。仕事の前に謝りに行きましょう」
そして次の夜。
「夜分遅くに失礼します。起きていらっしゃいますか?」
死神が前の夜に死の宣告をした少女のいる病室へと現れる。昨夜までの死神の予定では空き部屋になっていたはずのそこには、当たり前のように少女が生きていた。
「……死神さん?」
「ええ、昨夜の死神です」
「……あの」
言葉の続きを察して、手でそれを遮る。
「言いたいことは分かります。何故生きているのか、ですよね」
「はい。私は昨晩死ぬ予定だったんですよね?」
「……そのことに関しましては、本当に申し訳なく思っています。結果的に嘘をつく形になってしまいまして……すみませんでした」
少女の当然の疑問に対して、死神は90°で頭を下げて謝罪の意を示す。そのことに対して少女が慌てた様子で声をかけた。
「あ、あの、頭を上げて下さい」
「そう言うわけにもいきません。何よりも嘘をつかないと言ったのに嘘をついてしまったのですから……」
しかし死神は一向に頭を上げない。
それにしても死神が少女に頭を下げている絵は何とも言えない妙なものがある。しかも真夜中の病室で、だ。2人以外に人はいないが、他人が見れば何事かと案じるか、訝しがられることだろう。
「そんなに気にしないでください。確かに色々と覚悟をしていたのに……とは思いましたけど、このことで謝られるのも何か違うような気がするんで」
「ですが……」
「頭を上げて下さい。それよりも何か理由があったんですよね?」
少女の説得にようやく死神は頭を上げた。それでも、顔には申し訳ないという気持ちが見て取れる。
「……はい。実は書類の不備でして」
「書類……の不備、ですか?」
死神の言葉に困惑した表情の少女。まさか書類の不備などと言うサラリーマンっぽい理由だとは思わなかったようだ。いや、普通は思わないので正常な反応ではある。
「ええ。それで、書類には回収する魂のリストが乗っているのですが、貴方の魂の期限を1年ほど間違えてしまったそうです」
「という事は……私は1年後に死ぬんですね」
改めて行われた死亡通告に静かに呟く。
「正しくは『おおよそ1年』です。これからの生活である程度は前後しますので」
「そうなんですか……でもそれだったら死神さんの責任じゃないじゃないですか」
「確かにそれはそうです。間違いなく。ですが結果的に嘘をつくことになってしまったのも事実ですから……申し訳ありません」
自分の否ではない所を明確に示し、その上で自らが言った言葉の責任として再び頭を下げる。そのことに少女はくすりと笑って、先程と同じように促す。
「ですから気にしないでください。死神さんはこうして謝りに来てくれたじゃないですか。それだけで私は嬉しいです」
「ですがそれでは私の気持ちがおさまらないのです。何かお詫びをしたいのですが……」
「お、お詫びですか……うーん」
頭は上げたものの納得していない死神の言葉に、少女は頭を悩ませる。
「……あ、それなら1つ良いですか?」
そうして悩みに悩んだ末に、思い付いた。
「ええ、私にできることなら」
「それならー……ええっと、暇な時で良いのでまた私に会いに来てくれませんか?」
少し恥ずかしげに言う少女に、死神は快く頷く。
「ええ、もちろんです。ですがこちらに現界していられる時間が21時から3時の間だけですので、どうしても深夜になってしまいますが……」
「24時までなら全然大丈夫ですよ。それに夜は人がいないんで、そういう時にこそ誰かがいてくれるというのは安心できますから。お話も出来ますしね」
「そうですね。それなら今度から仕事が終わった時に時間があれば寄らせてもらいます」
「はい。お願いしますね」
「ええ。では今日のところはまだ仕事があるので、この辺りで失礼させてもらいます」
「はい。また来てくださいね」
「もちろんです」
奇妙な約束を終えて頷き、その場から消える。
残された少女は嬉しそうであった。
……こうして、死神は暇が出来た時に少女と会う約束を交わした。これをきっかけに2人は頻繁に会い、話をするようになる。
それが何かの変化をもたらすのかは、分からない。それでも、それが少女にとってプラスになれば良い事なのだろう。もちろん死神にとっても、である。
登場人物
死神
性別……男。
年齢……享年20歳。死神になって6年。
誕生日(死神になった日)……10月26日。
血液型……死神なので無い。
利き手……右手。
少女
性別……女。
年齢……16歳。
誕生日……6月14日。
血液型……AB型。
利き手……右手。