英雄になるのを望むのは間違っているだろうか   作:シルヴィ

59 / 92
意外な一面

 シオン達が学院へと向かう前。まだ朝日が昇り始めたかどうかという時間帯。

 その頃にはもうベートは起きて、活動していた。若干の眠気を感じさせる頭を冷えた水で覚醒させ、服を脱いで寝ている時に出た汗を布で拭う。

 適当に終わらせると、次は昨夜の内に用意しておいたインナーを着る。体の動きを阻害しないように作られた特注品を違和感無く着こなし、念の為に体を動かす。ほんの少しだが、手足の動きが鈍い。

 ――身長、伸びてきたか。

 体の成長に伴い、このインナーも買い換える必要が出てきたようだ。こういった些細な違和感をほったらかしておくと、後々後悔することをベートは知っていた。今日のダンジョンから戻ってきたら、いつものところで注文しておくべきだろう。

 一通り動かすと、胸当て等の急所を守る鎧を身に纏う。ベートは前衛壁役(ウォール)じゃないので、付ける鎧は最低限。そうしないと速度が遅くなり、一番の長所である足が殺されてしまう。

 だから普段であればそこで着るのは終わりなのだが、今日は例外。ベートは箱にしまっておいた篭手と靴を取り出した。

 肩と肘のちょうど中間まである中途半端な長さの篭手と、膝まである靴。できるだけ軽量化してあるものの、両方付ければ十分重い。ベートは少し眉を寄せたが、必要な事だと割り切ってその二つを付ける。

 久しぶりに篭手と靴をつけたが、案外覚えているものらしい。容易に終わった。

 一度、二度と飛び跳ねて重さを測る。

 最高速度は――問題ない。自分の限界の走力は出せる。ただ、重さが増した分持続力は減っただろう。

 代わりに増えた部分はあるから、安い代償だが。

 双剣を腰に差して、回復薬や携行食料等の道具を入れたリュックを背負い部屋を出る。早ければ椿も準備を終えている頃だろう。

 待ち合わせの時間はまだまだ先だが――不必要に待たせる必要はない。さっさと門前にまで行くべきだろう。

 まだ誰もいない時間。廊下を歩いても響くのはベート一人分の足音のみ。そうして最後まで誰とも会わない、そう考えていたのだが。

 そうは問屋が卸さず、ベートはズリズリと『何か』を引きずるティオネを見つけた。

 「――ッ」

 思わず頬が引きつる。それは、ティオネが引きずっている物が者だったからだ。ボロ雑巾のようになっているアレは、どう見ても自分達とそう大差ない年齢の人間である。

 「……何やってんだお前は」

 「あら、ベート。その格好、これからダンジョン? 精が出るわね」

 どうにも気になって問いかけたが、ティオネは答えてくれなかった。答えてくれるとも思っていなかったが、視線は彼女の手の先に行ってしまう。

 その視線に気付いたのだろう、ティオネはひょいと持ち上げた。同時、首がしまったのかグェッと蛙が潰れた声が漏れ出る。

 「ああ、これ? 確か、ラウル、とか言ったかしら。アキやナルヴィの同期、みたいだけど。鍛えて欲しいって言ってきたから、ちょっとあしらってあげたのよ」

 どう見ても『あしらう』という表現では足りない気がするのだが。ニッコリ笑っているティオネを見る限り、どうにも逆鱗に触れたらしい。

 ラウルとかいう少年が、瞳を潤ませ助けを求めるように無言の懇願をしてくる。だが、ベートはそっと視線を逸らした。

 触らぬ神に祟りなし。

 これからダンジョンへ行くというのに、余計な面倒事を招くのはゴメンだった。

 「それじゃ、私はもう行くわね。これからまた続きをしないといけないし」

 見捨てられたと察したラウルがショックを受けたように硬直する。それが何かの合図となったのか、ティオネは手を下ろし、そのままどこかへ行ってしまう。

 ラウルとかいう少年、散々に虐められそうな気がする。まぁティオネとて鬼ではない。鍛えて欲しいというのが本当であれば、経緯はどうあれ結果的には強くなるだろう。

 ベートは小さく溜め息を吐き出すと、玄関へと足を向け、

 「――あ、そうだ。一つ伝えておかないと」

 「うぉ!? 驚かせんじゃねぇ!」

 ひょっこりと顔を戻してきたティオネに驚いて一歩下がってしまう。完全に気が抜けていた、失態である。

 からかわれる、そう考え身構えていたベートに、

 「ダンジョンでちょっとおかしな事があるそうよ。十分に気をつけて行きなさい」

 予想外にも、真剣な顔をティオネは向けてくる。からかいなど一切ない。彼女は本気でベートを心配していた。

 「そうかい。……忠告ありがとよ」

 だからベートも、驚かされた事への怒りを消して、真面目に礼を言った。ティオネはそれに小さく口元を綻ばせると、

 「ま、仲間だしね。死なれちゃ寝覚めが悪いもの。じゃ、今度こそ」

 そう言って、再度振り返ることなく、完全に去っていく。ベートはその背中が見えなくなるまでそこにいたが、いなくなると、頭を振って頬を両手で叩いた。

 「――いつものダンジョンじゃないって事は、忘れないように気を付けねぇとな」

 たかが18層までの道のり。そんな安易な考えは捨てて、十分に警戒していこう、そう決めたベートだった。

 

 

 

 

 

 ――パチリ、と目が覚めた。

 鈴は長旅の経験から、起きようと決めた時間帯に目覚める事ができるようになった。起きたばかりとは思えぬテキパキとした動作で、寝巻きがわりにしていた浴衣を脱ぐ。

 そして用意するよう頼んでいたお湯があるのを確認するとタオルを浸し、絞る。それを使って体を拭くと、インナーを纏い、その上に鎖帷子を付ける。驚くことに、鈴の『鎧』と言うべきものはそれ一つだけ。胸当ても何も用意しない。

 鈴曰く『刀を振るうのに支障が出る』とのこと。彼女の会得している『スキル』はどれもこれもクセが強すぎるので、これらをまともに使うのなら、鎧なんて使っていられない。本音を言えば鎖帷子すらいらないのだが。

 それを言った瞬間、シオンの体から怒気が発せられたので断念した。アレは無理だ。勝てる未来が見えない。

 今でも思い出すたびゾクッと背筋が凍るそれを、慌てて頭を振ることで追い出す。鎖帷子を付けたら、その上に着物を着た。この着物もやはり特注品で、動きにくそうに見えるが実際はかなり動きやすかったりする。

 形的には道着、あるいは巫女服に近い。故郷で着ていたようなガッチガチの着物は、ダンジョンに行かない休日用だ。

 ちなみに鈴が和装を用意できる理由は簡単だ。

 ここはオラリオ、世界の中心と言っても過言ではない都市。世界のあらゆる文化が集まっているこの街には、当然鈴の住んでいた国の文化もある。和装はその一つだ。

 服の準備を終えると、鈴は腰にポーチを付ける。ベートが大体の荷物を持つと言ったので、このポーチの中には彼と離れ離れになった時のための保険として万能薬が一つと、携行食料を少量入れておいた。

 今着ている服とは合わないが、仕方ないと諦める。

 いつでも出られる準備は整えた。ベートとの待ち合わせまで、まだ多少の時間がある。

 鈴はテーブルの上に置いてあった二本の刀の内、一本だけを持ち上げてベッドに腰掛けた。柄に片手を添えるものの、しばらく鞘をジット見つめる鈴。それでも何かしらの覚悟を決めたのか、一つ深呼吸をすると、そっと鞘から刀を抜いた。

 ――いつも通りだ。

 『不壊属性』がある以上、目に見える変化はそう起こらない。それでも、鈴は『オロチアギト』に変化が起きていないことを、想像以上に安心している自分がいることに気付く。

 この刀の存在によって、何度危機に晒されたか。当時この刀の価値を知らなかった自分のせいでもあるのだが。愚痴くらいは言わせて欲しい。

 しかし物言わぬ刀に話しかける姿は、控えめに言っても変人だ。愚痴を言うのは諦めた代わりに鈴は溜め息をし、刀を鞘へと戻した。

 ――その一瞬前。

 鈴の瞳が、()()()()()()()()のを、部屋の鏡は映していた。

 けれどそれに気づく者はいない。鈴自身でさえ、それに気付いていなかったのだから。

 鞘へ戻した刀を持っていくかどうか悩む。しかし、最終的には持って行かない事にした。使うつもりが無いのに持って行っても荷物にしかならないからだ。

 いつも通り『コテツ』だけを脇に差して立ち上がり、もう温くなりかけているお湯を片手に部屋を出る。

 このお湯は頼んでおいたもの。そして、その頼まれた人物は今何かをしているはずだ。できればお礼を言っておきたい。そう考えた鈴は厨房へと足を向けた。

 正直言って、寒い。夏だろうと冬だろうと、まだ朝日が出てきたばかりの時間は寒いのが困りものだ。しかし厨房へ近づくと、その寒さが和らいでいく。火元に近づいているからだろう。

 微かに明かりの漏れる厨房をソッと覗く。そこにいたのは一人の少女。最近ほんのちょっとだけ髪を伸ばしだした彼女は、何度も近くにある紙を見ては、一心不乱に料理をしている。

 その手つきは危なっかしいにも程がある。何でも力任せに戦ってきた彼女は、繊細な技術とは無縁なところにあった。そのツケが今になって回ってきたのだ、戸惑いもする。

 だが、決して弱音は吐かない。手元が狂って手を傷つけても、回復薬で癒やして治す。血が付いて使えなくなった材料は自分で食べておく。そうやって、練習していくのだ。

 「ッ・・・・・・またやっちゃった」

 不揃いで、グチャグチャで、完成させても決して綺麗にはできない。人に出す事を考えられないデキの悪さ。

 それでも続ける理由を、鈴は知っている。

 「――全く、よくもまぁこんな時間から精が出る」

 本当なら邪魔をしたくなかったのだが、ふいにそんな言葉が口から漏れた。朝から晩まで頑張り続ける姿を見続けたせいか、どうしてもそう思ってしまうのだ。

 最初は本当に、酷かった。

 料理とさえ呼べなかった。

 それが、どうだ。今では良い匂いを漂わせるものとなり始めている。例え見た目は酷くとも、おいしそうな匂い。

 皮肉のようなその言葉は、しかし抑えきれない感嘆を滲ませていた。

 「その声、鈴?」

 料理をしていたティオナが顔をあげる。火を弱め、声のした方、入り口の扉に目を向ける。Lv.3となった彼女の聴覚は、鈴の声がした場所を見抜いていた。

 鈴は素直に姿を晒す。扉を開けて中に入り、何となく厨房を見渡す。基本的には整理整頓されているのだが、ティオナの周辺だけは、切った野菜の皮や破片が飛び散っていて汚かった。

 顔を戻し、ティオナを見る。余程集中していたのか顔が赤い。チラチラと鍋の中身を気にしているのは、自信が無いからか、恥ずかしいからか、あるいは煮込む時間のためか。

 どれにしろ、あまり時間をかけるのはよくないと判断。

 「これ、わざわざすまないね。ありがとう」

 「届けに来てくれたんだ? 後で取りに行こうかなと思ってたんだけど」

 「ティオナは使用人じゃないんだ、これくらいはするよ。にしても、朝っぱらからよくやるね。それ、シオンにかい?」

 「ううん、自分用。誰かに出すには、味も見た目もまだまだだから」

 少し恥ずかしそうな彼女の本音は、こんなのまだ見せられない、だろう。半年以上も前になってしまうが、あの時出された料理は中々の物。

 シオンが作ったらしいアレを超えなければ、納得できない。それが、恋する乙女のプライドだから。

 「食べられるなら別にいいけど。……太るよ?」

 「うっ。だ、大丈夫。ちゃんと運動はしてるし。ダンジョンに行ってるから、むしろ痩せてる方だから!」

 痩せてる――そう言われて一瞬胸に目が行ってしまったのを、責める事はできない。だが、見られた当人は、別だ。

 「鈴? どこ見てるの?」

 「ッ!?」

 焦りによって慌ただしく動いていた顔が、無表情に切り替わる。両手は己の胸元に添えられ、目線は鈴の胸に。

 どうしようもない現実――即ち膨らみの存在(あるかないか)を、親の仇のように見つめるティオナ。

 「……削ぎ…………ティオネも……」

 「ひっ!??」

 物騒すぎる単語に、鈴の全身に鳥肌が立つ。

 「あ、あーあー! そ、そういえばもう待ち合わせの時間だね!? あたいはもう行くよ!」

 本能に従い、言い訳と共にその場を離脱する。それほどまでにティオナが恐ろしかった。あの光のない澱んだ瞳――察する。

 ――ティオナの()()だけは、弄ってはならない!!

 心ではなく、魂に誓って。

 「……どうしたんだろ、鈴」

 一方、いきなり走り去ってしまった鈴にティオナは首を傾げる。

 ティオナの名誉のために弁解しておくと、削ぐ云々は別の物を指していただけだ。何とは言わないが。

 しかし鈴はこの時の経験から、人の身体的特徴をからかってはいけない、という常識を学べた。それがどんな役に立つのかは、まだわからない。

 「ハァッ、ハァ――ハー……」

 バクバクと鳴る心臓を抑える。あまりの恐怖に今更足が震えだす。目で見ただけでこれだ。直接口に出していたら、どうなっていたことか。

 「何やってんだお前」

 「ひゃ!?」

 未だ恐怖に怯えていたところでかけられたその声に、思わず変な声が出てしまう。慌てて振り向いてみれば、待ち合わせ相手であるベートが目を見開いた状態で固まっていた。

 「ひゃって……」

 「気にするな」

 「いや、だが」

 「気にしたら、斬り落とす」

 「そうだな、俺は何も見ていない。よし、ダンジョンに行くためにもその刀を下ろすんだ」

 ベートが瞬きした瞬間、神速の居合抜きで放たれた刀が目の前に現れる。目を閉じていても他の五感でそれを察したが……羞恥で限界を突破するとは何なのか。

 ――まぁ、余程恥ずかしかったんだろうが。

 これが天敵であるバカゾネス姉妹であればからかっていたところ。だが、鈴はからかわないしからかわれもしない。

 要するに、意外と冗談が通じにくい。こういった切羽詰まった状況だと特に。

 しばらく鈴は息を荒げていたが、ベートの言も一理あると感じたのだろう。ゆっくりと、刀を下ろし、鞘にしまう。しかしその眼力は、細くなったまま。

 動かない鈴を見て、ベートは少しだけ頬を揺らす。

 ――コイツ、後ろからついてくるつもりか。

 これは、やばい。下手なことを言えば、本当に首が飛びそうだ。それぐらいの殺気を、今の鈴は纏っている。

 そして、ふいに思う。

 ――どうしてこう、うちの女共はまともなのがいねぇんだよ!?

 アイズは比較的マシ――あくまで『比較的』だが――だけれども。

 他三人は、まぁ、察してくれとしか言えない。

 「ハァ……」

 小さく溜め息を吐いたベートの姿は、【ロキ・ファミリア】では割とよく見る光景でもあった。何故なら、男性陣は大概そうなるから。

 何時の世も、男は女に苦労させられる生き物である。

 最終的に二人で腹ごなしをして機嫌を直してもらったが、ダンジョンに行く前から異様に疲れたベート。

 「よぅベート、肩を落としてどうした? 珍しいな」

 「よりによってテメェかダズ。今の俺は機嫌悪いんだよ、どっか行ってろ」

 狼人のダグラス・リェリア。流石狼人、というべきか、ベートと同じく目つきは鋭い。その上高身長でガタイもいいから、結構な威圧感がある。並みの子供なら怯えているだろう。

 実際鈴も、一瞬だけだが驚きで硬直していた。

 ダグラス――ダズはそんな鈴を横目で見ながらベートの耳に口を寄せると、

 「お前の()()か?」

 「よし、どうやら死にたいらしいな。その喧嘩、買わせてもらうぜ」

 「おいおいちょっとした冗談だろ!?」

 ちなみにこのダズ、見た目に反してベートより弱い。比べる相手が間違っているのだが。

 小声でやり取りしたかと思えば背筋を仰け反らせるダズに鈴は苦笑してお茶を濁す。それ程ダズの慌てようは滑稽だった。が、しがないLv.2であるダズではLv.3のベートに勝てないと、本人が身に染みるほど知っている。それ故慌てながら冗談だと引きつった笑みを浮かべ、

 「全く、昔より丸くなったと思ったんだがな」

 「相手の機嫌くらい見て冗談を言え」

 「それは確かに……どうにも御仁は敢えて空気を読まないみたいだが」

 正論を言われて――それも年下二人に――更に顔が歪む。降参を示すように両手をあげて、ダズは話を変えた。

 「悪かった。……侘び代わりに一つ。その格好からしてダンジョンに行くんだろ? それなら一つ情報だ」

 「ダンジョンがおかしいってのならもう聞いたが」

 「それなら話は早い。俺が言いたいのは、それをもうちょい踏み込んだ奴だ」

 「踏み込んだ、とは?」

 今初めて聞いた異変に鈴は興味を示す。ダンジョンでは一つのミスが命取り。そのミスが出る可能性を減らせる情報は大事だ。

 身を乗り出す鈴に、ダズは声を潜めると、

 「何でも、一部のモンスターが強いらしい」

 「あ? どういう意味だ」

 「まぁ待て、ちゃんと教える。……普通、ゴブリンが二体か三体いても、戦闘力にそう差はないよな?」

 当然だ、例えばある程度戦闘をこなしたゴブリンは経験から強くなっているが、基本的な能力はほぼ同じ。でなければ、ダンジョンで命を賭けるのは危険すぎる。

 と、そこでダズの言葉の意味を悟った。

 「おいダズ、まさか、お前が言いたいのは」

 「ああその通りだ。モンスターの中に、同じ個体でも異様に強い『変種』が紛れ込んでる。たかがゴブリンと侮って返り討ちになった奴もいるみたいだぜ」

 それが本当であればかなり厄介だ。

 「強さの違いは?」

 「ランクが違うって程じゃないが、数層分強くなってるらしい」

 「そう、か。おい鈴、どうする。俺はともかくお前は大丈夫か?」

 いくつかの個体が強い程度なら問題はない。そのくらいベートは強くなった。だが、鈴は違う。彼女はまだLv.1だし、ダンジョンに慣れきっている訳でもない。

 「手に負えないと判断したら、ベートに投げればいいか?」

 「……おい。いや、それでいいけどよ」

 何の疑問もなく『囮にします』発言に脱力する。ダズなんて腹を抱えてゲラゲラ笑っている。ちょっとウザい。

 「ちょっと逝っとくか?」

 「え、遠慮させてもらうぜ。色んな意味で」

 ベートの不穏な発言に何かを感じたのだろうか。

 引いているダズは、変な笑みを浮かべながら手をあげて去っていく。その背にふぅと息を吐きつつ鈴に目を向ければ、

 「……んだよ?」

 「いや……」

 眉を寄せている鈴がいた。彼女はしばらく悩んでいたかと思うと、

 「ベート」

 「だから何だよ」

 「――友達、いたのだな」

 「余計なお世話だ!?」

 しょうもない事を言ってくれた。額に青筋を浮かべるベートに肩を竦めると、彼は唸りながら目を細めて睨みつけてくる。

 それを受け流しつつ歩き出す。

 腹ごなしはしたのだし、後はダンジョンに行けばいいだけだ。これ以上何か言って爆発させてはいけないだろう。

 クスクスと楽しそうに笑う鈴。それにベートは、しょうがねぇなと言いたげな苦笑を返すと、文句を言わずにその後ろをついていった。

 時間が経ったからか、人影がまばらに増えてきた。その幾人かにベートはぶっきらぼうな挨拶をすると、相手は笑顔で返してくる。その光景に、鈴は珍しい物を見たとでも言いたげな顔を向けてくる。

 「意外と、人気があるんだね?」

 「知るかよ。気付いたらこうなっただけだ」

 ベートから挨拶するのもそうだが、相手がそんな対応でも不快そうな顔を見せないのにも驚かされた。

 仲間六人でいる間は見えてこなかったものが、二人きりだと色々見えてくる。新鮮な感覚に、しかし鈴は面白そうだった。

 そう思っている間に、ベートは親の手伝いをする子供が転びかけていたのを抱きとめたり、考え事をして物にぶつかりかけた相手に注意したりしていた。

 ベートは面倒見が良いと知っていたのを、改めて再認識する。というより、意外な人気の理由はこれのせいなのでは。

 「ったく、どいつもこいつもちゃんと前を見て歩けよ。危ないったらありゃしねぇ」

 「…………………………」

 どこかで聞いたツンデレという言葉を思い出す。言えば問答無用でぶん殴られそうなので何も言わなかったが……。

 何とも言えない微妙な顔をする鈴と、それに気づかぬベートの二人は、そんな雰囲気のままダンジョンへと足を踏み入れた。




先週は大学の新歓が2個重なったので投稿できませんでした。二次会三次会で朝までフィーバーしたら書く気力なんて残ってなかったよ!

それはともかく。
ツンツン言いながらも助けるベートはツンデレ。異論は認めるけど私はこの意見を貫く。

ちなみにベートがこうなったのは大体シオンのせい。手のかかる子がいるとお兄ちゃんは苦労するんだね。

鈴の瞳の変化とか、力任せに生きてきたせいで加減しながら包丁を使えず苦労するティオナとか、(過去編で)初登場なラウルの出オチと容赦ないティオネとか。
色々出したけど、ここらへんの意味はその内。

もしかしたら先週分という意味で明日も投稿するかもしれない。でも期待しないでね。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。