矢澤さんと会ってから早くも一週間が経っていた。あの日から矢澤さんはよく絡んで来るようになった。主に体育とかで二人一組を組む時とか。
「それで矢澤さん。この状況の説明を三文字でして」
「三文字って無理に決まってんでしょ! まったく。私達がここにいるのは」
いるのは?
「アイドルグッズを買い漁る為……て無言で立ち去るなぁ!」
矢澤さんが拳をグッと握りしめて目的を言ってる途中、私は黙って家路に着こうとした。
「だって家でまだ読んでない本達が待ってるんだよ? 分かってる?」
「いや分からないわよ! て言うか初めて会った時もっとスクールアイドルについて教えてって言ったのあなたじゃない!」
「そうだっけ?」
「あんたね〜!」
さて矢澤さんに引き止められた為、改めて状況を説明しよう。
今私達がいるのは秋葉原のとあるスクールアイドルショップ。店内には全国のスクールアイドルのグッズが所狭しと並んでいる。来た理由は帰りのホームルームが終わった途端に矢澤さんに連こ……ドナドナされたから。
「で? 私帰って本読みたいんだけど?」
「それさっきも聞いたから。ここに来た目的はあんたの為でもあるのよ」
私の? う〜ん。特に心当たりが御座いません。本当になんで?
「あんたが知りたがっていた「Suono」についての情報、ここなら何かしらはあると思ってね」
「あーお母さん達のグループか。確かにこんだけ色んな商品があったら昔のグループのとかあるかもね〜」
「結構有名なのよ? あんたのお母さんのグループは……って、あんた今なんて……?」
「え? 昔のグループのとかあるかもね?」
「その前よ! 誰のグループですって!?」
あぁそっちか。あれ? 矢澤さんにお母さんがスクールアイドルだって言ってなかったっけ?
「お母さんから聞いたんだよ。昔スクールアイドルやってたんだって」
「そ、それ本当でしょうね?」
「いや、知らないよ。私だって矢澤さんに名前言っただけだし、偶々同じ名前の人とは限らないから多分本当」
本人が言ってただけだからなんとも言えないけど、親と同じ名前の人が偶々昔スクールアイドルをやっていた、と言うには偶然が重なり過ぎだろう。
「あ、これ「Suono」のアルバムじゃないの?」
「どれ!?」
「これ」
【昔のスクールアイドル】というコーナーの人気ランキングの上位の方にアルバムが置かれていた。しかも結構品薄。
「本当に人気なんだ……」
「だから言ったでしょ。ネットとかでも、なんでアイドル活動を続けなかったのかって疑問の声が上がるくらいに人気なんだから」
「なんで続けなかったのか、か」
「あんた子供なんだから、何か知ってたりするんじゃないの?」
その疑問に私はただ首を振るしかなかった。
子供だからって親の事を知っているとは限らないのだ。その事はこの一ヶ月でよく分かった。お母さんとの仲は比較的良い方だ。しかしお母さんとは昔の話をあまりしなかった、したとしても学生時代の日常生活の部分と、裕美香さんとの生徒会活動の話だけ。
「ふ〜ん」
「何?」
「あんたの親って生徒会もやってたのね」
「そうだよ。私と同じ書記をやってたみたい。これは昔の生徒会役員名簿で確認したから間違いないよ」
「て事は親娘揃って生徒会役員やってるのね」
矢澤さんはどこか呆れた様目をするも、私自身先代の書記の人に頼まれなかったら請け負ってない。それにお母さんが書記だったって知ったのだって役員になってからだし。
「でも確かに、このジャケットのこの人。どことなくあんたに似てるわね」
「そう?」
「そうよ、特にこの目元」
目元? そんなに目元似てるのかな。
「ま、取り敢えずこれ買ってみるよ。あと」
「?」
「その"あんた"って言うのやめて貰えないかな?」
「じゃ、じゃあ……東野?」
「うん。よろしくね矢澤さん」
少し目を逸らしがちに名前を呼ぶ矢澤さん。その動きに合わせてツインテールも一緒にふるふると揺れる。
「ならあん……東野って呼ぶ代わりに私の事"にこにー"って呼びなさいよ!」
「え、普通に恥ずかしいから嫌だよ」
「うがー!!」
店内で叫び出した矢澤さんから離れる事暫し、落ち着いた状態で近付いて来た。
「やっと落ち着いた?」
「誰のせいだと思ってるのよ!」
「矢澤さんの自制心のなさじゃない?」
「東野のせいに決まってんでしょ!」
ボケ発言に律儀にツッコミを入れる矢澤さんをどうどうと宥めてから件のアルバムを購入、店を出る。
「それじゃあ私買い物頼まれてるから。また明日〜」
「そうね。もう時間も時間だしまた明日」
矢澤さんと店先で別れお母さんに頼まれた物を買いにスーパーへ。
「何々? ターメリックにシナモン、ガラムマサラ? 今夜はカレーか。つか、スーパーにこの材料は置いてあるのか?」
取り敢えず探すだけ探して、無かったら知らん。お母さんの事だから何とかするでしょ。別の調味料を配合して代えをきかせたり、関係ない調味料で違う味出したり。案外なんでもアリな事をしでかすんだよなぁ。美味しいけどね!
「あれ? 東野さんもお買い物?」
「……あ、東條さんこんにちは。も、と言う事は東條さんも買い物ですか?」
考え事をしながら調味料売り場にて探していたら買い物カゴを持った東條さんに後ろから声を掛けられる。
東條さんのカゴの中は惣菜や野菜、卵などが入っていた。正直娘に買わせる物にしてはエラく手の抜かれた物だな。
カゴの中を見られているのに気付いたのか、東條さんは恥ずかしそうに笑う。
「そうやで。こう見えてもウチ一人暮らししてるんよ。だからこうして買い物してるん」
「一人暮らしですか。大変じゃありません?」
「慣れればどうって事ないんよ」
そう言って笑う東條さんは無理して笑っている様には見えず、とても気が楽そうに笑っていた。しかし笑顔の陰に少しばかり寂しそうな、そんな感情がふと、ほんの一瞬だけ見て取れたのは気のせいだろうか……
「あの、東條さん。もしご迷惑でなければ……」
「うん?」
「……いえ、何でも。今のは忘れて下さい」
さすがに急にウチに呼ぶのはイケないだろう。東條さんにも都合というものがあるだろうし。何よりマズいのがキャラを作ってるのがバレる恐れがある。いや別に矢澤さんにバレてるから問題なっちゃーないんだけどね。
「それではさようなら」
「ほなまた明日」
店を出て東條さんと別れる。さて、帰って晩ご飯の時間までに一体どれだけ本を読めるかなっと。
☆☆☆
「お姉ちゃん晩ご飯だよ〜」
友香の声にふと読んでいた読んで本から顔を上げる。確かにリビングにまでカレーの匂いが届いている。
「今行くよ」
読んでいるページにしおりを挟み、食卓に着く。四人掛けのテーブルに親娘三人が座る。お父さんは海外出張でここ数ヶ月見ていないも、元気にやってるみたいだ。
「いただきまーす」
「いただきます」
友香と一緒に手を合わせてからカレーを食べ始める。お母さんと友香が学校の事について話ている傍ら、私はお母さんにいつ切り出そうか迷っていた。なんせ理由によっては空気が重くなる話題だからだ。
「友実は最近どう? 何かないの?」
「何かって何よ?」
「浮いた話の一つや二つないの?」
浮いた話って……
「え、何々? お姉ちゃん遂に彼氏出来たの!」
「浮いた話なんて無いし、そもそも女子校だよ? 出会いが無いって」
「まったまた〜。あなた私に似て可愛いんだからモテるでしょ?」
今の、遠回しに自分可愛いって言ってるよね。まぁ見た目は確かに二児の母じゃないもんな〜。確か私が中学の時なんかは一緒に買い物行くと姉妹に間違えられたものだ。今でも偶に間違えられるが。
「いや、告白された事ないし」
「うっそだ〜! お姉ちゃん偶に手紙片手に頭抱えてるじゃん」
「あれは同じ女子からの手紙! てか見られてたのか……」
なぜか去年から下駄箱に手紙が入ってるんだよな……
「友実、百合に走らないわよね?」
「当たり前でしょ! 私は普通に男子が好きなんだから!」
いくら女子高に通ってるからって百合には興味ないからね!? 初恋の相手はお父さんだったけど!
「そんな事よりお母さんにちょっと聞きたい事あるんだけど」
「聞きたい事?」
「うん。ちょっと、ね」
思わず言ってしまったが、仕方ない。こうなったら腹を括ろう。
「お母さんってむかしスクールアイドルやってたって言ってたじゃん」
「そうね。高校の時の話だけど」
「友達から聞いたんだけど、結構人気があったらしいじゃん」
この時友香が「お姉ちゃんに友達!?」と驚いていたが睨んで黙らせる。
「まぁ当時はそんなにスクールアイドルとかいなかったからね。それにメンバー以外の人達にも救われてたし」
どこか懐かしそうに語るお母さんを見て本当にこの質問をぶつけるべきか、一瞬迷う。別にこれはお母さんじゃなくても裕美香さんや、西木野さんのお母さんに聞いても良いのだ。
「あ、もしかして友実もスクールアイドル始めたの?」
「……いや、前にも言ったけど私はやる気はないよ。それでお母さんに聞きたい事ってのは……」
まだ迷ってる為か中々言葉にできない。私にしては珍しい事だ。しかしふと夕方思った事を思い出す。
お母さんの事で知らない事がある、だから知りたい。
「お母さん……なんでアイドルグループを解散したの?」
「あぁそれ? 簡単な事よ」
「簡単な、事……?」
意を決して聞いた割にお母さんからの返事は軽いものだった。表情もどこかアッサリした感じの表情だった。
「お母さん達三人で話し合ってね、それこそ一週間くらいだったかしら。人気があったのも知ってたし、卒業してからも続けて欲しいって声もたくさんあったの」
「じゃあなんで……」
「三人で話し合った結果、人気のある今の内に終わりにするのが一番だとなったのよ。プロの業界に行っても上手くいく保証なんてないし、仮に上手くいってもパパラッチとかが面倒だったしね」
最後の部分で投げやりに言いつつも笑い「そういう所であなたは私似なのよね」と呟く。
確かに芸能界でもに行くと少しの恋愛でもパパラッチが纏わり付く、それがアイドルなどと言ったら尚更だろう。
「それに」
「他にも理由があるの?」
続いた言葉に聞き返したのは先程から黙っていた友香。お母さんは友香の言葉に頰に手を当て、赤くして答える
「三人ともそんなに変わらない時期に今の旦那と出会ってね、そのまま業界入りするより恋人との時間を取ったのよ」
「本当の理由はそっちかよ!」
別に悪いとは言わないよ? 確かにそこら辺は本人達の自由だしね。でも辞めた理由が……理由が! 一人深刻になってたのがバカみたいじゃん。私ってほんとバカ……
「何よ。私達にとっては大切な事だったんだから」
「ま、まぁお母さんがそれで良かったなら良いんじゃないかな!」
見てみなよ。友香も若干苦笑いしてんじゃん。まったく、本当に気が抜けたわ。
「お母さん達が辞めた理由は分かったよ。聞きたかったのはそれだけ。まぁこれから穂乃果達の事について何か聞くと思うけど、よろしくね」
「へぇ友実にしては珍しく積極的に動いてるのね」
「別に? ただ私は外から応援するだけだよ。生徒会として対応しなきゃいけない時はそうするし、それ以外だったら穂乃果達を応援する。それだけ」
何回も言ってるが、私は誰に何と言われようとスクールアイドルをやる気は無い。嫌ってるとかそういうのじゃない。
だって……
スクールアイドルをやったら本を読む時間がなくなるじゃないか! ただてさえ生徒会業務に加え図書委員会副委員長の業務、さらに遥さんの仕事、受験勉強とやる事があるのだ。これ以上時間取られて堪るか!
「それじゃあ私はもう寝るね。おやすみ」
食器を流しに置き、そのまま自室に戻ると布団に倒れ込み夢の世界へと旅立った。
次回は飛んでいきなり新歓当日。
結局凛花と会わぬまま進んでしまった……
友実「いやだったら間に一話入れれば良いじゃん」
話しが思い付かないんだよ! 友実と凛花の出会いとかどうしろってんだよ……
友実「それ考えるのが作者の仕事でしょ」
そうなんだけど……まぁ、うん。また次回もよろしくお願いします!