「んふふ。お姉ちゃん♪」
「はいはい。どうした?」
「なーんでもないよ♪」
どうしてこうなった……いや、理由はハッキリしてる。過去の自分を殴りたいと思った事は何回かあるにしても、今回の事は本気で机の引き出しを開けかけた、いや開けたね。
一応言っておくと、今腕に抱き付いていて上機嫌になっているのはもちろん友香……じゃないんだよなぁ。そうだったらまぁ、姉冥利に尽きるのかな? でも友香がいきなり甘えて来たらそれはそれで怖いな。裏がないか疑うレベルだよ。
話が逸れた。そう、今抱き付いて来てるのは友香じゃない。じゃあ誰かって?
「ことり、いくら夏が開けたからとは言え、そうひっつかれると少しばかり暑いんだけど」
「え〜だって今日一日お姉ちゃんになってくれるんでしょ?」
「いや、確かにそうなんだけどね?」
「だったらぁ、少しくらい甘えてもいいでしょ?」
「姉妹ってそういうものだっけ!?」
どうやら私とことりでは姉妹の在り方と言うものが根っこの辺りから違うようだ。これは話し合った方が良いのかな?
取り敢えずなんでこうなったのかを思い出そう。そう、あれは昨日の夜。ことりから急に電話が来たんだった。
☆☆☆
「もしもしことり? こんな時間にどうしたの?」
『お姉ちゃんって、明日って予定空いてる?』
「明日? 明日なら読書をするっていう重大な用事が入ってる」
『えぇー!』
うっさ! ことりの声って比較的高いから電話越しとは言え耳元で叫ばれると煩いんだよ。
『お姉ちゃん酷い……明日が何の日か忘れちゃったの?』
「いや忘れてはないよ。誕生日でしょ、ことりの」
『覚えていてくれたんだ!』
そりゃあ幼馴染みの誕生日ですからねぇ。
「今年はμ'sのメンバーで集まるんじゃないのかな〜って思ってさ」
『皆で集まるのは夜なの! そんな事より、去年くれたプレゼント覚えてる?』
去年……何あげたっけ? 思い出せそうで思い出せない……
「あーアレでしょ、アレ。うん覚えてるよ」
『……本当?』
「うん、あれだよね!」
『……忘れてるでしょ』
ハハ、バレテーラ。
『んもう。「一日お姉ちゃん券」だよ!』
「あーそんなのあったな」
『やっぱりお姉ちゃん覚えてなかったじゃん!』
いや〜何か思い入れがあるならともかく、ことりがこれで良いって言って適当に書いて作ったやつだからなぁ〜。そんなに覚えが無かった。
『そういう訳で、明日よろしくね。お姉ちゃん♪』
「え、ちょ、ことり!?」
切れた……え、ちょっと待ってよろしくって何を!? 取り敢えず落ち着こう。そして分かった事をまとめよう。えっと……
「明日の予定が、ことりで埋まった……だと……そうだ! 助けてホニャえもん!」
思わずそう叫び、机の引き出しを開けてしまった始末である。
☆☆☆
「お姉ちゃん?」
「ん? あぁごめんごめん。で、なんの話だっけ?」
「んもう、これからお買い物に行くんでしょ」
そうでした。まぁお金に余裕あるし、何着かなら買ってあげれるかな。
「さてでは行きますか」
「うん!」
腕から引き剥がしはしたものの、それ以上の拒否を認めない事を確認したことりは、右手を掴み指を絡ませる、俗に言う恋人繋ぎというやつだ。まぁせっかくの誕生日だし、このくらいは良いかな。
「お姉ちゃん♪」
「なんか嬉しそうだね」
「うん♪ だってお姉ちゃんとこうして二人でお買い物に行くの初めてだもん!」
確かに言われてみればそうかもしれないな。昔は遊ぶ時は穂乃果と海未も入れて四人だったし、買い物よりも読書を優先させたりしてたしな。
「ま、偶にならこうした買い物も良いかもね」
「じゃあまた今度行こ。約束ね?」
「はいはい。予定が合えばね」
「もう。そうやって行かないんでしょ?」
笑って流すと頬を膨らませて見上げてくる。そんなわざわざ見上げる為に前屈みにならなくても良いのに。
「ほら、早く行かないと時間なくなっちゃうよ」
「そうだね。やりたい事もあるし、早く行こっ」
やりたい事とな? 凄い気になるけど聞いても教えて貰えないんだろうなぁ。まぁその時になったら分かるから良いか。
「で、ことり。まずどこに行きたい? 如月デパート? それとも近場の洋服店?」
「う〜んとね、ことりが行きたい場所は……」
候補として服飾系の場所を上げたのは、ことりが服飾系に興味がある事を知っているからなんだけど、ことりは首を横に振ってとある場所の名前を上げた。
「へぇことりがねぇ」
「やっぱりおかしい、かな?」
「いやいや、そんな事ないよ。珍しいなぁって思ってさ」
あれから場所を移し、着いた先は私御用達の本屋だった。ことり曰く「普段のお姉ちゃんがどういった場所に行ってるか知りたい」んだそうだ。そして行き先を本屋と言った途端ことりはまさかの大はしゃぎ。あまりの出来事に目を丸くした私は悪くないはず。
「それでお姉ちゃんはいつもどんなのを買ってるの?」
「ん? あぁ特に偏ったジャンル分けはしてないよ。ただ面白そうと感じたものを手に取ってるだけ」
「ふ〜ん。やっぱり選び方とかってあるのかな?」
選び方かぁ…その人それぞれにあると思うんだよなぁ。穂乃果は多分表紙とタイトルだけで決めそうだし、海未はジャンルで決めそう。私? 私は
「私はまず背表紙を見て、興味を少しでも惹かれたら表紙の絵。その後最後に裏のあらすじを読んで買うか決めてるかな」
ま、これは決め方であってことりが見習う必要はない。さっきも言った通り選び方なんて人それぞれなんだから。現に
「あ、この絵可愛い〜」
ことりは一冊の本の表紙イラストを見てほんわかしている。今ことりが持ってる本は確か、ゲームの世界に取り込まれて生き抜くバトルあり、恋愛ありな内容のもの。多少流血シーンがあるものの、私は楽しく読ませて頂いてます。現在十四巻まで刊行されており、十五巻は来月発売だった気がする。
「気になるなら買ってみれば?」
「うん!」
ことりは笑顔で頷くとレジの方へ歩き出す。
「あ、ことり。ちょっと待った」
「どうしたの?」
「どうせ買うなら一緒に買いなよ」
「?」
うん。我ながら大分言葉足らずだと思う。まぁこれから先は私の本分じゃないけど、この際だからことりに本屋の楽しみ方を教えようではないか。
「まだ小説コーナーしか来てないでしょ。どうせだったら向こうの漫画コーナーや雑誌コーナーも見てから会計を済ませよ」
「は〜い」
とは言ったものの、私も普段は小説しか買わない。漫画は読むには読むけど、大体が友香が買ってきた物なんだよね。雑誌は完全に私達姉妹の守備範囲外。まぁ一切行かないって訳じゃないから場所と、ジャンルの分けられ方は分かる。
「ことりは普段漫画とか読む?」
「ううん。あんまり読まないよ?」
むむ、それは困ったな。一体何を薦めて良いのやら……ん?
「ことり?」
「……へ?」
何を薦めるか考えてるとことりがとある一点をジーっと凝視していた。ことりの見ていた所を見ると所謂GLと呼ばれるジャンルのコーナーだった。
「ことり、そういうの好きなの?」
「え!? ええと、その……変、かな?」
「別に変じゃないでしょ。私も偶に読むし」
「お姉ちゃんって、その、こういう事どう思う?」
ことりが顔を赤くしながら一冊の漫画を見せてくる。あーこれは表現がギリギリでR-18の境界線とまで言われてる事で有名なGL作品ですね。
「まぁ私は否定はしないかな。創作物って割り切ってるし。でもさすがにリアルでは百合とかGLに巻き込まれるのはちょっと勘弁ってとこ」
最近はなぜか下駄箱に手紙が入ってる事が増えてるからマジ勘弁……私は普通に男子が好きなんだ! 桜でトリックしてる作品とかとは大違いなんだ! まぁ作品としては好きなんだけどね、あのノリをリアルで求められるとキツイものがある。
「あ、この漫画新刊出てたんだ。帰ったら友香に教えてやろう」
「何の漫画?」
新刊コーナーに友香が読んでる漫画の新刊が出てたので手に取っていると、ことりが近寄ってくる。
「これは主人公達が落語家って設定なんだけど、落語要素があまりないもので、主に楽屋での会話を楽しむ作品だよ。去年アニメも放送されててね、この緑の髪のキャラの声が絵里に、赤い髪のキャラの声が亜里沙ちゃんに似てるんだよね」
「面白いの?」
「私はアニメから入ったけど面白かったよ」
「じゃあことりも買ってみようかな…」
と真剣な表情で悩むことり。まぁ真剣に悩む事は良い事だよ。それが例え漫画を買うかどうかにしてもね。
結果、それからさらに数分悩み恐る恐る一巻を手に取り先程の小説と一緒に会計を済ませた。
「そろそろ時間も時間だし、どこかでお昼にしようか」
「うん!」
二冊の本が入った袋を嬉しそうに抱き抱えてことりは笑顔で頷く。
ふむ。お昼という事で近場だとファーストフードのチェーン店しかないな。しかしせっかくの誕生日のお昼がファーストフードというのもなんだか味気ない。どうしよ。
「ねぇお姉ちゃん。少し時間かかるけど、如月デパートに行かない?」
「う〜ん、そうだね。あそこならフードコートとか行けばお昼ご飯食べれるし」
と、いう事で来ました如月デパート。そこのフードコートで私は親子丼、ことりは蕎麦を注文し、食べる。
「さて、今度はことりの行きたい所に行こっか。さっきやりたい事あるって言ってたし」
「うん! お姉ちゃん。行こ」
食器を返却してことりが手を引いて歩き出す。なんだろう。すごく嫌な予感がする。
「さ、お姉ちゃん。着いたよ」
着いた先はやっぱり服屋。そして中に入り止まった場所は試着室の前。まさか
「さ、お着替えの時間ですよ〜」
やっぱりかぁぁぁ!! 気付けば両手に様々な服を持って目をキラキラと輝かせてる。
「まずはこれ♪」
「……はい」
抵抗は諦めたよ。まぁ着替えるだけだから良いけど。さて、渡されたのはっと肩の所がヒモの白いワンピースと麦わら帽子。ご令嬢?
「お姉ちゃん着てみて〜」
「仕方ないか…」
「やったぁ!」
それからは清楚系、カジュアル系、ボーイッシュ系、ガーリッシュ系、フェミニン系と次々に着せ替えられる。さすがにアダルト系とロック系はお断りさせて貰ったよ。
「はぁ〜なんか緊張した〜」
「あの、ごめんなさい」
「別にことりが謝る事は無いよ。私が勝手に緊張しただけだから」
それに私はあまりオシャレに気を使わないからね。こんな風に取っ替え引っ替えで色んな服を着た事がないんだよ。
「さてと、ことり。何か欲しい物とかない?」
休憩スペースに設けられていたベンチから立ち上がりながら聞くと、ことりは凄く不思議そうな顔でこちらを見上げる。なんか変な事言ったっけ?
う〜ん、と一人考えていると、ことりが慌てたように手を振る。
「そんな、お姉ちゃんを一日お姉ちゃんに出来ただけでことりは満足だよ」
って言われてもなぁ。実際は今こうしてことりが私と出掛けてるのは去年のプレゼントのおかげな訳で、つまりそれはこのお出掛けが去年のプレゼントの範疇だと言う事で。
何が言いたいかと言うと、私の中ではまだ今年のプレゼントを渡せてないと言う事だ。
「良いから。今日くらいはお姉ちゃんに甘えなさいなって」
笑顔でそう言うと、ことりは困った様に笑ってから腕を組んで考え始める。私はそんなことりの横に座りなおし、答えが出るまで待つ。
それから数分後、プレゼントを決めたらしいことりはにっこりと笑ってこちらを見る。
「決まった?」
「うん! あのね。これからもずっと、ことり達のお姉ちゃんでいて下さい」
ニュアンス的には今まで通りの幼馴染みの姉としてお願い、って事だよね。まぁそれなら吝かではないし
「うん、分かった。これからも私はことり達のお姉ちゃんだ」
「本当! やったー!」
私が頷いたのを見て跳んで喜ぶことり。
ことり、誕生日おめでとう。
いかがでしたか?
満足していただけたなら幸いです。
それでは!