「なぁなぁ友実っち。知ってる?」
「希。主語が抜けてるから分からない。せめて分かるように聞いて」
本から目を逸らさずに私の死角にいる希にそう返す。
「えりちの誕生日なんやけど」
「あーそう言えば来週か」
「って友実。あんたもしかしてμ'sの全員の誕生日を覚えてるの?」
「あっはっは。まさか! 安心して、にこの誕生日だけ知らないよ」
「なんで私だけ!?」
ショックを受けた様子のにこ。私と希はそれを見て笑う。まぁ嘘だよ、一応九人と遥さん、雪穂に亜里沙ちゃんの誕生日はカレンダーに書いあるよ。
「それで、話が逸れたけど。絵里の誕生日がなんだっけ?」
「なんでそこで「祝う」って単語が出てこないのよ」
「せやで。皆で一緒にお祝いしようと思うてるん」
絵里とは去年の中頃から生徒会の付き合いがあるし、まぁその内半年を仮面被って過ごしてたけどね。
「祝うのは吝かじゃないけど、夜とかは流石に家族で祝うんじゃない?」
他の家はどうか知らないけど、東野家ではそうだ。たとえ残業を頼まれてもお父さんはそれを断って帰って来る。私と友香は追試などがあっても夜までには帰れる様に頑張る。
まぁもっとも、私と友香は追試を受ける程成績悪くない。不思議なのが、そんなに重役ではないお父さんが残業を断れる事なんだよね。話が逸れた。
私の言葉に希は笑顔で携帯を見せて来る。
「えりちのお母さんからOK貰ったから、その日皆でここに遊びに行くんよ」
画面を見ると近くの大型レジャーランド「ディスティニーランド」のホームページだった。確かにここなら一日中遊んでも飽きはこないだろうし、ご飯もここで済ませられる。にことか行き慣れてる感じするからサクサクと遊べそうだし。
「良い考えなんじゃない? 楽しんで来てね」
「だから、なんで友実はそうやって蚊帳の外にいる気なのよ」
「え、だってμ'sの皆で遊んでくるねって言うあれでしょ?」
「どうしてそうなるのよ……」
え? そういう事じゃないの?
「そうじゃなくて友実っちも一緒に行こうってお誘いなんやけど」
「予定とか入ってたりする?」
「んーと、確か空いてたような、空いてなかったような」
えーと、何か新刊が出てなければ予定は空いてるなぁ〜っとパソコンで新刊情報のサイトを開けると、見事に無かった。まぁ下旬だとさすがにないか。
「空いてるよ」
「じゃあ決定ね」
「これ、時間と待ち合わせ場所やから遅れんように気を付けてな」
「はいはい」
希に渡された紙を見ると確かに待ち合わせ場所と日時が書いてあった。うわぁ集合時間早い……
「まぁ大丈夫でしょ。多分」
「因みに、遅れた人にはわしわしやで」
絶対に遅れてなるものか。
☆☆☆
ヤバイヤバイ! やらかした! 今の状況を一言で表すなら「遅刻しそう!」まさか昨日の夜にふと読み返した本が思いの外懐かしくて、続きを読み始めてしまうなんて! このままじゃあ、わしわし決定しそう。やんやん遅れそうです!
「ハァ…ハァ…ハァ…クソ、こうなったら」
最終手段で行くしかない。あまりやりたくないけど、体力がない私じゃこのまま駅までダッシュした所で途中で歩くのは必須! だったら!
「パルクールでショートカット!」
危険なので良い子はマネしないように!
まずは近場のガードレールから塀に跳び移り、そのままの勢いで屋根を掴んで登る。そこからは駅まで屋根の上を一直線に跳んで走っての繰り返し。
運の良い事に高低差の激しい建物はなく、難無く屋根伝いで駅まで行けた。最後に電柱の足場を使って道路に降下。膝を上手く使って衝撃を逃しながら着地。目の前には驚きで目を丸くしている九人の女神達。
いやー動きやすい格好で良かったよ。
「お、お待た、せ……」
「友実、あんた凄いわね」
「まぁ、ね……遅れる訳にはいかなかったし」
息を整えてにこに返す。あ、もうダメ。誰か〜お助けを〜
「て、何で私に寄りかかるのよ!」
「だって〜絵里の次に身長近いじゃん。それに真姫ちゃん優しいし」
「……んもう! 今回だけなんだからね!」
と、言う訳でプラットホームまで真姫に肩を貸してもらいながら歩く。真姫、ありがとね。
「それにしても友実っちがあんな事まで出来るとは思わんかった」
「まるで忍者みたいだったわ」
「その分体力とか、犠牲にするけどね」
あーこれ明日筋肉痛かなー
「ねぇ友実。気のせいか足震えてない?」
「あぁ気のせい気のせい」
本当は軽く震えてるけどね、心配かけさせたくないし、これはパルクールの疲労から来てるものだから目的の駅に着くまでには回復してるさ。
「皆! 電車来たよ!」
「穂乃果ちゃん落ち着いて」
「下がらないと危ないですよ」
「かよちん楽しみだにゃ〜」
「うん。久し振りに行くもんね」
私達と少し離れた場所では穂乃果達が盛り上がっていた。
「ほら真姫ちゃんも行っておいで」
「べ、別に私は!」
「良いから良いから。ほらほら」
顔を赤くして照れてるだろう真姫の背中を軽く押す。上手く踏ん張れなかった私は反動で一、二歩後ろへっと、なにやら誰かに受け止められた感覚が
「にこ?」
「まったく、少し座ってなさい」
「それじゃあお言葉に甘えて」
にこに誘導され空いてる席へ座る。幸い朝早くと言う事で十人全員が座る事が出来た。
「いや〜すまないねぇ〜」
「はいはい。それは言わない約束でしょ」
おお、にこはこのネタ分かってくれたか。
それから目的のに着くまで座り続け、体力は万全になっていた。いや〜若いって良いね。
チケットを買い、園内に入る。久し振りに来たな。最後に来たの確か友香が中学二年になってしばらくだから、一年ぶり?
「よし、遊び尽くすぞー!」
「「おー!!」」
絵里の誕生日って事覚えてるか? もちろんさ。さてまず何から乗るよ?
「凛あれ乗りたいにゃ!」
「えー! 最初はあっちだよー!」
「穂乃果、凛? 少しは落ち着こうね?」
「「はい!」」
うん良い返事です。取り敢えずどこ行くか、全員でガイドマップ片手に話し合う。
うわぁ、一年来ないだけで新しいアトラクションが増えてらー
「まずはここから行きましょ」
絵里が指したアトラクションは「クマの蜂蜜ハント」。これって確か緩やか系のアトラクションだった気がする。
「良いんじゃない? 最初だからゆっくりしたいし」
「そやね。乗る前に他のアトラクションの早乗りパス取っておけば時間の無駄遣いにもならんしね」
「じゃあここに向かう前にパス取るアトラクション決めちゃいましょ」
おぉ、流石にこ。やっぱり慣れてるか。
「じゃあこのアトラクションに乗りたいな」
花陽が選んだ場所はお化け屋敷がモチーフになってるアトラクション。
「あ、このアトラクションと同じタイトルの本、前に読んだな」
「ち、因みにどんな内容だったの?」
「まぁあまり話してもアトラクション自体の楽しさを失くすかもしれないから、一言だけ言わせて貰うね。これは絵里の苦手なジャンルだよ」
怖がってる絵里を落ち着かせる様に肩に手を置いて言うも、絵里は顔を引き攣らせていた。
「よし、じゃあパス取りに行くわよ。穂乃果、凛!」
「分かったにゃ!」
「うん!」
にこに連れられ穂乃果と凜とバカトリゲフンゲフン、元気トリオが走り去って行く。あ、凛だけが戻って来た。
「み、皆のチケットが必要なの忘れてたにゃ!」
「まったく、しっかりしなさいよね」
凛にチケットを渡しながら真姫が注意している。まぁテンションが上がると仕方ないよね。
それからアトラクションの列に並んでいると三人が帰って来た。
「随分早かったわね」
「ま、まぁ近かったしね」
「にこちゃん凄いんだよ!」
「まさかあんな近道があるなんて知らなかったにゃ〜」
一体にこはどんな道で帰って来たんだよ……
「あ、次私達の番みたいだよ」
「どう座る?」
五人掛け二列の乗り物を見て私は後ろを振り返る。後ろでは既に席順を決めるグーパーに分かれるやつが行われていた。
結果。組み合わせは私、希、穂乃果、ことり、凛と絵里、にこ、海未、花陽、真姫となった。なんだろう、このアンバランスさは……明らかに私が苦労するパターンだよね、この組み合わせ。
「ま、煩くしても今回は許容範囲内か」
「何が許容範囲なん?」
「あぁ、穂乃果、凛の騒がしさだよ」
「友実ちゃん酷いにゃ!」
「そうだよ、穂乃果達そんなにはしゃがないもん!」
「あーうん。そうだね」
別に諦めた訳じゃないよ。普段から静かだと思ってるさ、ユミウソツカナイ。
「さ、早く乗りましょ」
「せやね。えりちの言う通り早く乗らな、他のお客さんの迷惑よ」
それからお化け屋敷のアトラクションに乗ったり、濡れる事で有名なウォーターマウンテン、火山の中を進むセンター・アース、山の中を駆けるジェットコースターを最後にアトラクションの一部と繋がっているレストランで昼食を取る事になった。午前だけでそれなりの数を回った。
「あ~疲れたわね」
「そうだね。途中途中でゆったり系挟んだけど、さすがに疲れるね」
「なに言ってるのよ。まだまだこれからじゃない」
「にこっちは元気やな」
私と絵里は席に座るなり各々楽な態勢を取り、にこは希に宥められながらもやれやれといった様子。隣のテーブルでは机に突っ伏している穂乃果をことりと海未が介抱していて、その向こうでは凛が突っ伏し花陽が介抱、真姫は顔に出してないものの楽しんでるようだった。
穂乃果と凛が突っ伏してる理由としてはテンションの上げ過ぎが原因だから大丈夫でしょ。私と絵里もそこまで疲れてる訳じゃないからこのお昼ご飯で回復すると思う。
「何食べようかな……」
「あ、私ペペロンチーノ食べたい」
「じゃあウチはこのシェフのおススメってやつにしてみる」
「あ、私もそれを頼むわ」
ちょ、三人とも選ぶの早くない!? 私まだメニュー表見終わってないんだけど!
「ほら、後は友実だけよ」
「そう急かしてくれるな。えーっと……じゃあこのサンドウィッチセットで」
「かしこまりました」
うおっ! 一体いつからいたんだ、あの店員。いきなり後ろから声が聞こえたからびっくりしたよ。
「びっくりした……」
「いやいや、店員さんなら友実っちが何を食べようか迷ってる時からいたよ?」
「そんな時からいたのか……」
え、じゃああの迷って動揺してる姿って見られてたって事? まぁ良いけど。
「それで? 次はどこ行く?」
時間の節約の為に料理の待ち時間に地図を広げる。
「こことか良いんじゃない? お昼の後ならゆっくりしたいでしょ?」
そう言ってにこが指したのは大型カヌーに乗って川を渡るアトラクションだった。
確かにこれならゆっくり出来そうだな。
「確かに午前中は激しいアトラクションばかりだったからね。少しはゆっくりと楽しみましょ」
「そうやね」
「お待たせしました」
次に行く場所が決まった時、まるでタイミングを計ったように注文した料理が運ばれてくる。
それから談笑しつつ昼食を済ませ少し休憩してからアトラクションへ。
「あ、見て見て! 魚だよ!」
「穂乃果。あまり身を乗り出すと落ちるよ? むしろ落とすよ?」
「えぇ!? お姉ちゃん酷い!」
「だったら大人しくしてる事」
「は〜い」
大人しく座り直した穂乃果を見て前の席に座っている絵里と花陽がクスクスと笑っている。二人とも他人事のように笑ってるけど、一緒のカヌーに乗ってるんだから転覆したら二人も被害に遭うんだからね?
「あ、綺麗な鳥さん!」
穂乃果が座ったまま指した方を見るとそこには美しい鳥がいた。
「どれどれ。おぉ、ケツァールだね」
「ケツァール?」
「そ。中米の熱帯林に生息している世界一美しい鳥って言われてるんだよ」
「お客さん詳しいですね」
「それ程でもないですよ」
首を傾げた花陽達に解説しているつもりが、なぜか係員の人にも感心された。まぁ暇つぶしに鳥の図鑑を読んだりした事があっただけだし。
「じゃあじゃあ! あの鳥は?」
後ろの輪が左にいる鳥を指して聞いてくる。
「あれはですね――」
「じゃああれは?」
「あれはね――」
「じゃあじゃあ、あれは!」
と、穂乃果達の質問になぜか私と係員の人の回答バトルが始まり、カヌーを降りる時に互いに握手を交わしていた。
「さすがスタッフですね。知識が素晴らしい」
「そちらこそ。メジャーなものからコアなものまでよくご存知で」
いや〜思いの外楽しかったよ。他の皆もなんだかんだと私達の知恵比べを楽しんでたみたいだし。ていうか最終的に鳥だけじゃなくて木とかについても聞いてきたのは一体……?
「ほら友実先行っちゃうわよ」
「あ、待って!」
ちょっといくらなんでも置いていくとか! 良いのか? 私泣くぞ? あ、やっぱ泣かないや。よく考えたらそんな歳でもないし。
「て、本当に置いてくとか、酷くない!?」
「のんびりしてた友実が悪いんじゃない」
「真姫ちゃーん、にこが意地悪言うよー」
「なんで私に来るのよ!」
えー、だってにこの相手と言ったら真姫じゃん。まぁ前に本人達にそれを言ったら怒られたけど。
「ほら真姫から離れなさい」
「はいはーい。ところで次は何乗るの?」
「あれよ」
真姫から私を引き剥がした絵里に次のアトラクションを聞くと、レイズ・ド・スピリットとの事。……マジ?
「あー私少し下で休んでるよ」
「? 具合でも悪いの?」
「いや、ただちょっと疲れちゃってね」
私の苦し紛れの言い訳に首を傾げる一同。まぁ穂乃果達も知らない事だから仕方ないか。
「そういう事で九人で楽しんでおいで」
「……なら私も休憩の為に下で待ってるわ」
「絵里!?」
「さっきのカヌーで少しはしゃぎ過ぎちゃったみたいなのよ」
確かにさっきのカヌーでの私達の知恵比べで一番盛り上がってたのは絵里だけど……
「分かった。ならえりちと友実っちは出口付近で待っとってな」
「ええ」
「え、でも希ちゃん!?」
「ほら早よ行かんと時間がもったいないで」
「う、うん」
何か言おうとした穂乃果の背を希が押して列に並ばせる。その時こちらを見てウィンクしてきた所を見るに、二人の間で何かがあったのだろう。
「絵里は行かなくて良かったの?」
「えぇ。実を言うとこういった乗り物あまり得意ではないのよ」
「こういった?」
絶叫系なら午前中も乗ってたと思うんだけど、まさかその時から我慢してたのか?
「ほら、このアトラクションって途中で縦に回るじゃない? 私そういうの苦手なのよ」
「へ~意外。絵里はそういうの楽しみそうだけど」
「意外って言うなら友実もよ。まさか友実もこういうのが苦手なんてね」
「やっぱりバレてた? 実は前に家族と乗ったらその後十分くらい座ってたんだよ。さすがに今日そうなる訳には行かないからね」
「まったくよ。疲れた、なんて嘘までついて」
なんせ今は絵里の誕生日。皆に迷惑をかける訳にはいかない。だから私は疲れてる風を装って乗るのを辞退したんだけど、それさえバレていたか。
「なんで嘘ついてたって分かったの?」
「あのねぇ。これでも一年近くもあなたの演技を見てたのよ。今更あんな即興の演技くらい見れば分かるわよ」
「あーなるほどね」
確かにそれならバレても仕方ないか……ないのか?
「でもそう考えると絵里とはまだ一年の付き合いなんだよねぇ」
「そうね。しかも演技を止めてからはそんなに経ってないのよ?」
「それはその、うん。その件については誰も悪くないよね!」
「……そうね」
あ、あの。私が悪かったのでにっこり笑顔で見るの止めて貰えませんか?
「そ、そうだ。絵里、喉渇いてない? 飲み物買って来ようか?」
「あら良いの? じゃあお願いしようかしら」
「任せて!」
よし、何とか逃げ切れた。さてと、あとは自販機なり販売所なりを見つけるだけなんだが、右を見ても左を見てもらしきものはない。仕方ない、少し歩くか。
☆☆☆
ねぇなんでここの販売所ってあんなに並ぶの? 結構時間掛かったんだけど? 友実さんオコだよ?
「絵里~お待た……せ?」
絵里がいた場所に戻ると何やら見知らぬ男(二人)に絡まれていた。あれってナンパ?
「しくった。流石に絵里を一人で放置はまずかったか」
問題は男達をどうするか。屠っても良いし、逃げても良い……うん取り敢えず逃げて、撒けそうになかったら屠ろう。体力? この人ごみの中だから全力で逃げなくても大丈夫。
「お待たせしました」
「お、この姉ちゃんもお友達? 可愛いじゃん」
「一緒に遊びに行かね?」
「ご遠慮します」
「そんな事言わずにさぁ」
しつこい。一回断られたんだから諦めろよ。
「な? 悪いようにはしないって」
「だから遠慮するって……言ってるでしょうに!」
肩を掴んで来た輩の腕を掴んで足払い、地面に叩き付ける。唖然としてる内にもう一人の絵里に手を伸ばしている輩の鳩尾に肘鉄を入れ沈める。
誰かが通報したのだろうか、係員の人が二、三人こちらに駆け付けてくるのが目に入る。
あれ? これマズイんじゃない?
「大丈夫でした?」
「あ、はい。一応は。絵里も大丈夫?」
「私も大丈夫よ」
そのあと係員の人から聞いた話によるとどうやらあの二人、よくここでナンパを繰り返してたらしい。結局、係員の人にお礼を言われ終わった。そのタイミングで希達もアトラクションを乗り終わったらしく、出口から出て来る。
「なんか係員の人と話してたみたいやったけど、何かあったん?」
「ちょっと落し物拾ってね。スタッフの人に渡してただけだよ」
絵里にウィンクしながら希に答えると絵里も意味を理解してくれたらしく、頷いて同意してくれる。さすが生徒会長、空気が読めるね。
「お姉ちゃんも元気になった事だし、早く次行こう!」
「行っくにゃー!」
いやいや元気過ぎんだろ。二人ともさっき昼食の席でダレてたよな? 晩御飯の時も二の舞になるんじゃないよね?
「ま、元気な事はええ事やろ?」
「いや、元気過ぎるのも考え物じゃ……て言うかナチュラルに心読まないでよ」
「え~、顔にはっきり出てたで?」
う……それは否定できない。海未程ではないけどポーカーフェイスが不得意とよく言われ……てないよ! まったく、伊達に二年も演技していません!
「どうでも良いけど早く行かないと二人を見失うわよ」
見失う? にこは何を言って……あれ? 穂乃果と凛が消えた!?
「まさか迷子か!?」
「違います。もう次のアトラクションを決めて並んでいるんです」
「二人とも目標が決まったら早いもんね」
ことり、苦笑いで言ってるがそれは団体行動では取っちゃいけないからね? あ、にこが駆け寄って行った。さすが年長者、注意する事は注意しないとね
「ちょっと、なにボーっとしてるのよ。早く乗るわよ」
「にこちゃん……」
「私の感想を返せよ……」
返せよ。たった一言の感想なんだよ……あ、これ何か錬成しそうだから考えるの辞めよう。
「仕方ないわね。皆、行きましょう」
「次のアトラクションって何かな?」
「えっと、車に乗って財宝を探す感じのやつみたいよ」
ふむ。きっと博士がナビゲートしてくれるに違いない。と言うか確かそうだった気がする。これなら特に激しい動きは無いから大丈夫だね。
「あ、そうそうこれ途中で写真撮影があるみたいだから、気を付けてね?」
私の言葉ににこと花陽以外が首を捻る。おいおい大丈夫か? スクールアイドル達……
「まったく、あんた達は分かってないわね~。アイドルたるもの、いつでも笑顔は基本よ」
「うんうん。にこちゃんの言う通り」
「でもさっき二人とも凄い顔してたよ?」
穂乃果の言葉ににこと花陽の顔が引き攣る。さっきのってレイズ・ド・スピリットの事か。
「ほ、ほら! 後ろがつっかえてるわよ。早く進みなさい」
「そ、そうだよ穂乃果ちゃん。前に進まないと」
二人が慌てたように穂乃果を前に押す。確かに前と離れたけど、そこまでじゃないでしょ。どんだけ話逸らしたかったんだよ。
それからまだ乗ってなかったアトラクションを回り、気付けば辺りは暗くなっていた。
希の要望で晩御飯の前に二人乗りのアトラクションに乗る事になった。
「で、なんで絵里じゃなくて私と乗るの?」
「別にええやろ?」
「まぁ良いんだけどさ。希と絵里で乗って何か話したかったんじゃないかと思ってさ」
「う〜ん、えりちは中々話してくれそうにないと思ってね」
つまり私ならアッサリと聞き出せる、と? 舐めて貰っちゃ困るな。
「あの時、係員の人達と話してたのって落し物とちゃうんやろ?」
「……お見通しって訳かな?」
「カードがウチにそう告げたんや」
「そっか」
希が今日カードを持って来てない事を私は知ってる。そして私がそれを知ってる事を希も知ってる。つまりバレバレな嘘。
「友実っち」
「はいはいバレバレなら話すよ」
私はなるべく隣に座っている希を見ないようにし、目の前のセットを見続けながら話す。
「ふーん。そんな事があったんやね」
「嘘ついてごめん。だけど、他の皆を心配させたくなくてね」
あれ? なんでこんな男っぽい事言ってるんだ? 違う違う。色々戻さないと。えーっと、取り敢えず
「今日の晩御飯、予約したんでしょ? 時間大丈夫なの?」
「んーと。うんまだ時間には余裕があるはずやで」
「そっか。なら大丈夫だ」
いや、戻し過ぎた気がしないでもない。うん。ま、結果オーライかな。
それからアトラクションが終わるまでの間、先程の会話を忘れたかのようにはしゃいだ。それはもう年甲斐もなく、ね。
「うわぁ眩し……くない」
「もう夜やからね。さすがに昼間みたいにはならんよ」
「だよね〜。あの感覚結構好きなんだよ」
「あ、分かる! まるでお昼寝した後みたいだよね!」
穂乃果、賛同してくれるのはありがたいけど、その感覚は分からないや。
「お腹すいたにゃ〜」
「確かに。お昼から何も食べてないものね」
「うん」
凛、真姫、花陽の言葉に呼応するように空腹感が襲ってくる。確かにこの育ち盛りな時に動きっぱなしだとすぐにお腹は空く。
「じゃあそろそろ行こっか」
「でも希、時間大丈夫なの?」
絵里の言う通り、予約したなら時間通りに行った方が良いと思う。早く行っても向こうに迷惑だしね。
「大丈夫よ。その場所、ここから少し遠いから」
「にこっちの言う通りや。だから歩いて行けばちょうどいい時間に着くんよ」
「さすが希ですね」
「私は!?」
にこどんまい。でも私は知ってるよ、晩御飯食べる場所を選んで予約とかしたのもにこだって。
「取り敢えずさ、移動しない?」
「そうね。行きましょう」
いつまでもグダグダしてても時間もったいないし、何よりこの時期のこの時間は肌寒いものがある。つか、寒い。
そして場所を移し、レストランへ。中に入りカウンターでにこが受付を済ませると、なんと個室に案内された。
いや、個室のあるレストランってどうなんだ? いや、他のお客がなんとも思ってない所からすると、ここはそういう場所なのか。
「さ、早く座っちゃって。あ、絵里は上座ね。今日の主役でもあるんだから」
にこがテキパキと指示を出していく。なんか珍しいな。
「友実。あんたもボーッとしてないで早く座りなさい」
「はいはーい」
怒られた。別にボーッとしてた訳じゃないんだけどなぁ。ま、いっか。
「それじゃあ音頭は友実に任せようかしら?」
「ちょっと待とう。なぜそうなる」
「ええやん。友実っちそういうの慣れてるやろ?」
まぁよく司会進行任されるから慣れてるっちゃー慣れてるけど、それと音頭取りは違くないか?
他の子にパスしようとしたら全員が期待の眼差しで見てくる。絵里を見ると優しい微笑みで返してくれた。
違う。欲しい答えはそれじゃない。が、絵里が私でも良いらしいのでやろう。
「えーそれでは今日は絵里のおめでたな日という事で」
「おめでたじゃないわよ!」
ボケたら絵里に突っ込まれた。そこ、海未。顔を赤くして拳を握らないで。照れるか怒るかどっちかにして……出来れば照れる一択で。
「ま、とにかく。絵里、誕生日おめでとう!」
『おめでとう!』
十人しかいない個室にグラスの当たる音が響き渡った。