「さ、友実ちゃん! グッと行って!」
「いや、そんなお酒みたいにいけないでしょ、これ」
私の目の前にはこんもりと盛られた白米と、輝く様な目で見てくる花陽。多分動画とかだと「こっち見んな」ってコメが流れるだろうね。まぁ私は別に見られても良いんだけど。
「何言ってるの友実ちゃん。そのお酒だって、日本酒はお米が原材料なんだよ!」
「いや、そんな事言っても私未成年だし……てか花陽もだよね?」
「そんな事は関係ないの! 今の問題は友実ちゃんがこれをグッといくかどうかって話なの!」
えー……いや、もし花陽がお酒を飲んでたら一大事だよね? でも花陽の中では
「ほら早く早く!」
「いや、あのね、花陽。人には出来る事と出来ない事があってね?」
「大丈夫! パルクールとか色んな事が出来る友実ちゃんなら出来るって!」
どうしよう。後輩からの期待の視線が痛いです。いくら私でも出来る事と出来ない事があるからね? て言うかどうしてこうなったんだっけ……あぁそうだ。アレは確か数時間前のあの一言が原因だったなぁ。
〜数時間前〜
「ゴメンね花陽。手伝って貰っちゃって」
「ううん。それよりも、友実ちゃんっていつもこれを一人でやってるの?」
「いつもはもう一人いるんだけどね。今日はその子が風邪で休んでるの」
いつも暇だから一人でも大丈夫と思って代わりを呼ばなかったんだけど、そういう時に限って混むんだよね。しかもなぜか遥さんも今日は見かけないし。
「いや~でもまさか、花陽が来てくれるなんて、ホントに助かったよ」
「あははは。どういたしまして、かな?」
そう今花陽に手伝って貰ってるのは図書委員の仕事。放課後に偶々図書室に来た花陽がそのまま手伝ってくれているんだ。優しいね、さすがμ'sでことりと揃っての癒し担当。
ちなみに今は本を棚に戻す作業をしている。私が返本作業をしてカートに乗せ、それを花陽が棚に戻しに行くって感じ。私も返本作業が終わり次第、花陽から引き継ぐ予定。
「よし、これで終わりっと。花陽、後は私がやるから休んでて良いよ」
「ううん、最後まで手伝うよ」
「花陽は本当に良い子だね」
思わず抱き締めたくなる程健気で良い子だよ。将来悪い男に引っ掛からないか心配するまである。まぁその話はいいや。取り敢えず軽くハグをしてからカートに手をかける。
「それじゃあお願いしようかな……花陽?」
「……ひゃ! はい!」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫です。ええ!」
本当に大丈夫かな、顔が真っ赤だけど。熱とかじゃないよね?
「うぅ。友実ちゃんにギュってされちゃった……」
「花陽何か言った?」
「い、いいえ! それより早く終わらせちゃいましょ!」
私からカートを奪う様に奪い取ると、花陽は押して行ってしまう。あれ? 結局奪われてるじゃん。それに何か言ってたと思うんだけどな……まぁ、本人が言いたくなさそうだから良いや。
「花陽。今日は部活は良いの?」
凄い今更感があるけど、花陽は放課後になってからすぐとは言わないけど、それなりに早い時間からいるんだけど、部活は行かなくていいのかな。
「うん。今日はお休みだから大丈夫だよ」
「そっか。じゃあこの後どこかにお出かけする?」
「えぇ!?」
えぇーちょっとお出掛けに誘ったら物凄い驚かれました。どうしよう。泣いて良いかな?
「いや、この後用事が入ってたりしてるなら無理を言ったね。ゴメンね」
「う、ううん! そうじゃなくて、あの、ビックリしちゃって」
うんビックリしたのはさっきの反応で何となく分かってたよ。
「えと、その、友実ちゃんから誘われるなんて思ってなかったから」
む? て事は特に嫌だという訳じゃないのか。良かった良かった。
「いや~てっきり花陽が私と出掛けるのが嫌なのかと思って内心大号泣だったね」
「そ、そんなに!?」
うん、ゴメン。大号泣はしてないや。でも泣きそうになったのはホントだよ?
「さ、そうと決まったら早く終わらせて遊びに行こう!」
「うん!」
「東野さん? 小泉さん?」
やる気を出す為に意気込むと、後ろから聞こえた
「良いですか。図書室という場所は……」
三十分後……
「あ、あの松田先生」
「であるからして……なんですか東野さん」
「今日職員会議があるって言ってませんでしたか?」
「……いいですか二人とも。今日はもう帰っていいので、これからは図書室では静かにする様に。特に東野さんは」
それだけ言うと松田先生は早歩きで図書室を出て行く。いや~笹原先生に聞いといて良かったよ。正確には呟きが聞こえたんだけどね。
「さて花陽。少し遅くなったけど、どこかに」
行こうか、と続けようとした所に小さくなる空腹を知らせる音。
「ゆ、友実ちゃん……?」
い、言わないで……」
ええい、皆まで言うな! そうだよお腹空いてるよ! 今日はなぜかいつもよりお弁当の量が少なかったんだよね。しかも午後に体育がある始末。運の良い事に今日はドッジボールだったから特に体力消費はしてないけど、お腹は空くもんだねぇ。
「あの、良かったらご飯食べて行く……?」
「……うん」
てなわけで遊びに行くのはやめにして、急遽食事へ。場所はなぜか
「ただいま~」
「お帰りなさい。あら、いらっしゃい」
「お邪魔します」
なぜか花陽の家へ。どうしてだ? いやまぁ確かに“どこで”食べるかは言ってなかったけど、まさか家に呼ばれるなんて思いもしないって。
「初めまして。花陽の母の小泉
「あ、初めまして。東野友実と言います。今日は突然お邪魔してすいません」
「良いのよ。花陽からもよく話を聞いてるし。ゆっくりして行ってね」
なんと言うか、花陽の雰囲気は母親譲りなのかもしれないって程花陽と香さんは似ているな。
「友実ちゃん。ここが私の部屋だよ」
二階に上がり、花陽の部屋に入る。部屋の中は綺麗に片付いていて、箪笥の上にはクリームやら鏡やらが置かれていた。本棚の中にはアイドル系の雑誌に雑じってお米に関する本がある。花陽のお米に対する愛情が伝わってくるね。
「えっと、時間まで何してようっか」
「う~ん。何を、て言われても……何をしよう」
お互い特にやりたい事がなく何をしようか悩んでいると、ふと一冊の冊子がめに入る。
「ねぇ花陽。もし良かったらアルバム見せて」
「え、アルバム? 別に良いけど」
本人の許可を得た為、東野友実、今から花陽のアルバムを見ます!
「ん? この写真」
「あ、これは幼稚園の入園式の日の写真だよ」
花陽の言う通り、確かに後ろには『入園式』って書かれた立て看板が置いてあるけど、問題はそこじゃない。隣に立ってる香さんがさっき会った時と変わってないって事。20歳に産んだとしても、今は35歳とかでしょ? え、女の人ってここまで変わらないものなの!?
「凛ちゃんとはこの幼稚園で会ったんだ〜」
「へぇ。て事は幼少中高って13年間一緒なんだ」
「そうだよ〜。それで、これが小学校入学式の時の写真で〜。こっちが運動会の時の写真だよ」
それから香さんが呼びに来るまで花陽の思い出の解説とともにアルバムを捲っていた。
「まったく、何かに夢中になると周りが見えなくなっちゃうのは私譲りなんだから」
「お、お母さん! そんな事より早くご飯食べよ!」
「はいはい。今日は鍋よ」
香さんの言う通り、食卓の上には一つの鍋と人数分の食器。
「あれ? 白米はないんですか?」
「米……?」
……なんかいけない事を聞いてしまったらしい。その証拠に香さんが徐々に俯き、花陽がアワアワしだしてるもん。何がいけなかったんだ……なんて言えば正解なんだ……? あっ、そうか分かったぞ!
「や、やっぱり鍋は鍋だけで頂くのが良いですよね!」
ど、どうだ。これで香さんのお怒りは収ま……らない!? WHY! まさか……
「……お米は単品で食べるに限りますよね!」
「……そうよねぇ。やっぱり東野さんもそう思うわよねぇ」
よ、良かった。どうやら
「それじゃあ頂きましょう」
「うん」
「それでは私も」
それから三人でそれなりに量のあった鍋を平らげる。うん。お腹いっぱいですよ。
「さ、それじゃあメインディッシュいきましょうか」
「そうだね!」
「……ぇ?」
何やらテンションの高い小泉母娘の手には空のお茶碗と、その先には炊飯器。いやいや、まさか、ねぇ?
「東野さんもたくさん食べて良いのよ。遠慮しないで」
「友実ちゃん、はい。どうぞ」
「あ、うん」
笑顔で渡して来る花陽に、断る事が出来ずに受け取ってしまった私。
そして話は最初に戻る。
うわぁ回想長かったなぁ。はい、現実逃避はおしまいにして、目の前の白米を平らげる事に専念しますか。大丈夫。美味しいお米って食欲を唆るって言うし。……多分大丈夫だよね?
「あ、そうだ! 花陽に渡したい物があったんだ」
「私に渡したい物?」
「そ。今日は花陽の誕生日だからね。ハイこれ」
鞄の中から取り出したのは一つの大きなぬいぐるみ。それはお茶碗に山盛りに装われたご飯のぬいぐるみ。大きいって言っても抱き抱えれる大きさだから、そこまで大きくはない。
「はい、花陽。誕生日おめでとう」
「あ、ありがとう!」
その後、山盛りの白米は美味しく頂きました。ウチで食べてる白米が霞む程の美味しさでした丸。