涙あり、驚きあり、笑いあり……あったっけ?な卒業式の翌日、もう大学入学までやる事がない為意識不明中に友香が買っておいてくれた本を消化していた時、扉の向こうからドタドタと階段を駆け上がってくる音が聞こえた。
「お姉ちゃん大変!」
「逆立ちした露出狂が道路のど真ん中で腕立てでもしてたの?」
「それは大変な変態!そうじゃなくて、これ!」
私と同じく、高校の入学式まで暇な友香が携帯を差し出してくるも、生憎私は読書で忙しい。余計な面倒事はパスしたいんだけど……
「あのね、μ'sの皆さんが海外に行くんだって!」
「へぇ〜」
「リアクションの薄さ!」
私が見る気が無い事を察して友香が簡潔に見せようとした内容を言い、私の無反応に驚いている。
まぁ義姉として、クラスメイトとして、何より友達としてその事は凄いし、驚くのも無理はないけど。
「私それ昨日教えてもらったから」
「誰から?」
「遥」
「あ、あぁー……」
友香の反応から、私の意識のない間にでも遥の事をよく知れたみたいで。まぁそれは置いておく。
私が遥に
「まぁそんな訳で私はそれ知ってるけど、それがどうしたの?」
「どうしたのって、お姉ちゃん行かなくていいの?」
「なんで私が行かなきゃいけないのよ」
今回の話はμ'sに来たのであって、部員でも顧問でも保護者でもない私が行く意味が果たしてどこにあるのだろうか。
「あ、そっか。そう言われてみれば」
「もうしっかりしてよね受験生」
「受験はもう終わったから、元受験生だもん」
「はいはいっと、ごめん電話」
友香をテキトーにあしらっていたら、机の上の携帯が鳴った。ディスプレイを見ると遥からの着信。なんだろう、嫌な予感がする。
「……はいもしもし」
『あ、もしもしそちら東野友実さんのおで』
「さ、友香。話の続きしよっか」
「……また鳴ってるよ?」
第一声が巫山戯ていたから何か言ってる途中で電話を切ったら、またすぐにコールされた。
「はぁ……もしもし?」
『私だ』
「お前だったのか」
それだけ返し再び電話を切る。そして三度コールがきた。
『なんで切るのさ』
「遥がふざけたから」
『ごめんて。謝るからそのボタン押すのだけはやめて』
遥にお願いされたから通話終了ボタンから指を離す。
「それで?こんな時間に何?」
『こんな時間って、もう昼過ぎだよ?』
「そうね、私最近この時間に本読んでるのよ」
『あ、それはごめ……いやそうじゃなくて。どうせ明日から何日か暇でしょ?』
確かに遥の言う通り暇だけど、大学の入学式までの事前課題やらなんやらはもう終わったけど、私には山と積まれた本がある。なので
「時間はあるけど暇じゃない」
『そっか。じゃあ明日の朝八時に空港に来て。あ、荷物は二泊三日分ね。あ、なるべく温かめの格好でよろしく』
「え、ちょ、ま」
『んじゃ、そういう事で』
私が何か言う前に、今度は遥の方から電話を切られた。すぐさま折り返すも電源が切られてる事を電子音声で伝えられる。
こういう事には手が早いんだからまったく……えーと、なんだっけ?二泊三日分の荷物に朝八時に空港に集合、だっけ。
「お姉ちゃんどうしたの?」
「明日から旅行だってさ」
「ふ〜ん。飛行機に乗るの?」
「みたい」
空港で待ち合わせてるんだし、これで乗らなかったら何故空港で集合したってなるしね。
「それじゃあ明日早くに起きないとね」
「?そうね。取り敢えず三泊分の荷造りでもするから、出てった出てった」
「えー」
ぶーぶーと口を尖らせる友香だけど、用事が済んだ事は分かってるの。ほらお姉ちゃんは忙しくなったんだから、言うこと聞きんしゃい。
友香を部屋から出した後、遥に言われた通り、三泊分の着替えと、暖かめのコートを一着、畳んで鞄に詰め込む。それかれ未読の文庫本サイズの本を数冊、肩掛け鞄の中に入れる。
「さて、後はお父さんに車出してもらえるから聞いて準備はおしまいかな?」
翌朝、私は友香と並んで車の後部座席に座っていた。
「ふわ、ぁ〜」
眠そうに欠伸している友香を尻目に、私は手に持っている本を読みながら、空港に着くまでの時間を潰した。
「あ、友実。あれ遥ちゃん達じゃない?」
「遥?」
お母さんに声をかけられ窓の外を見ると、まだ空港には着いてないみたいで普通に車が横を走っていた。そしてその車の助手席には遥が座ってて、こちらに気付いたのか手を振ってくる。
……待って、お母さんさっき遥ちゃん“達”って言ってなかった?
そのまま視線を後部座席へと移すと、なぜか絵里と希の二人が楽しそうに話していた。遥が私達の事を教えたのか、こちらを見て嬉しそうに手を振ってくる。
私は手を振り返しつつ、もう片方の手で携帯を取り出し、この状況を楽しんでいるてあろう遥に電話をかける。
「もしもし」
『あ、おはよう。ここで会うとは驚きだね』
「なにが驚きだね、よ。どうせ狙ったんでしょ?」
『それは心外。今日はホントに偶然だって』
手を横に振って否定してるけど、前科がある以上それをそのまま信じて良いんだろうか。
そう考えていると、電話口から遥とは別の声が聞こえた。
『もしもし友実?絵里よ。多分ここで会ったのは本当に偶然よ』
「なんで?」
絵里が偶然、と言うからにはそれなりの根拠があるはず。と思って聞いてみたら、どうやら絵里達が駅に向かっている最中に遥と会い、目的地が同じなんだから、と誘われたとの事。
「なるほどね。確かにそこまで行ったら偶然かもしれないわね」
『だから言ったじゃーん!』
電話の向こうで遥が拗ねた声を出すも、普段の行いを知っている私達からすれば身から出た錆な訳で、それを誰も慰めない。
「あ、そろそろ着きそうだから切るね」
『はいはーい。それじゃあまた空港内で』
さっきまでの拗ねた声はなんだったのか、いつもの口調で話す遥をスルーし電話を切る。
それから少しして空港に着き、駐車場所探す為駐車場の入り口で一度別れ、空港への連絡路で再び合流、μ'sの皆がいる場所へ移動した。
「それにしても友実と遥も来てくれるのね」
「いや、私は行くつもり無かったんだけど、なんか遥に強制連行ような流れで今ここにいるの」
「そう言って、本当は嬉しいの分かってるんだから」
「……まぁ、遥込みでの皆での旅行って初めてだからね……」
「素直じゃないのね」
キャスター付きのキャリーバッグを転がしながら絵里とそんな雑談を繰り広げる。
そんなこんなでμ'sの皆と挨拶を交わし、空港の窓から皆乗っているアメリカ行きの飛行機を見送る。…………見送る?
「ねぇ遥」
「どうしたのさ友実」
「私達乗ってなくていいの?」
「大丈夫大丈夫。私達の乗る便まであと一時間あるから」
隣で同じように見送っていた遥に聞くと、一枚のチケットを渡される。そこに書いてある行き先を見ると「新千歳空港行き」と書かれていた。新千歳、つまり私達の行き先は穂乃果達と同じアメリカではなく、北海道。
「さ、善は急げ。私達も搭乗口に向かお」
「その前に説明してくれるかしら?」
「説明も何も、μ'sの皆は海外に行く、私と友実は北海道に行く。OK?」
「……OK」
「なんで不満そうな顔してるのさ。私別に海外に行くなんて一言も言ってないよ?」
……言われてみれば確かに。遥は旅行の準備と待ち合わせ場所しか言ってなかった。ただタイミングがμ'sの出発日時に近いから、行き先も同じだと勝手に思い込んでいた……
「じゃ、じゃあ朝絵里と希を拾ったっていうのは……」
「車内でも言ったけど本当に偶然」
「まじかー……」
「え、信じてもらえてなかったの?」
「だって遥だし」
そっかー、本当に偶然だったのか……あれ? 私は行き先知らされてなかったのに、お父さんはすぐに車出すのを了承したのはなぜ? いや、多分お父さんも、それどころか友香も私がμ'sと一緒に海外に行くと思ってたんだろうね……
「大丈夫?」
「……えぇ、なんとか落ち着いたわ。そもそも遥の行動を読み切れなかった私にも責任の一端は……無いけど、無いんだけれど! なんかもう諦めたわ」
「そっか。あ、ここが搭乗口みたいだよ」
その後、遥に連れられ飛行機に乗り、何事もなく新千歳空港に着き、遥との二泊三日の北海道旅行を楽しんだ。
今回の旅行て驚いた事と言えば、北海道のとある喫茶店に遥の誘導で入ったら、なんとそこは遥の親戚の家が営んでいる喫茶店らしく、店員の鹿角聖良ちゃんと妹の理亞ちゃんと仲良くなった。正確には遥から私の事を聞いていたらしく
「あの遥姉様を捕まえる事が出来るなんて……!」
みたいな尊敬の眼差しを受けた。
まぁそんなこんなあって私の初めての卒業旅行は親友のおかげで色々な意味で忘れられない思い出になった。
やっぱり遥さん自由だなー。
旅行内容の薄さに関しては、作者が北海道に行った事が無いのが原因です