「ねぇ友実、今日からゴールデンなウィークじゃん?」
「そうね」
「だからさ、明日から旅行に行かない?」
「行かない」
大学三年生に上がって少し。休日を利用して衣替えの準備をしに実家に帰省した時、遥が聞いてきた。
「即答……なんで? そんなに私と行きたくないの?」
「いや、話が急過ぎて準備も何もできないじゃない」
「なら夏休みなら大丈夫?」
「……そうね、夏休みなら良いわよ」
「へ……?」
間の抜けた声が遥から出た。
珍しいと思いそちらを見ると、遥はこっちをポカンとした表情で見てきていた。その後ろでは最近うちで再ブレイクした大乱闘スペシャルの遥のキャラが、友香のキャラにやられている。
「……何よ」
「いや、友実があっさり私の誘いに乗るとは思わなくて……まだ策はいくつか残してたのに」
「あぁ、そんな事……て最後なんて?」
「そんな事はどうでもいい! 友香ちゃんを誘うチャンスだ!」
「そうだよ!」
あ、遥のストックを0にした友香まで混ざってきた。
「夏休みのいつ行くの? 私も同行したい!」
「東野院!」
「理由としては二つ」
「まさかのスルー!?」
いや、一々二人のネタにつっこんでたら話が進まないのよ。
「一つはさっき言った通り、話が急過ぎて準備ができてないから」
人差し指をピッと立てて言う。それから二人が何か言わない内にそのままデレビ画面を指す。
「二つ目はそれ」
「テレビ?」
「じゃなくて。友香今年受験でしょ。夏休みの帰省中に毎日のように遥に来られて、友香の勉強の邪魔されたくないの」
「邪魔じゃないもん!」
「そうだそうだ! 私が邪魔する訳ないだろー!」
「……」
「……ごめんなさい」
「すいません……」
「まぁそんな訳で夏休みの間、遥を友香から遠ざけられるなら旅行に行くのはいいかなって」
遥と旅行とか今更だしね。それに遥の口調からして、元から夏休みに私を旅行に誘うつもりだったみたいだし。
「それで? 旅行ってどこい行くの?」
「んーと、ここ!」
バッと鞄から一枚の冊子を取り出す。表紙には豪華なホテルの外見とホテルオハラの文字。
「……ねぇ、これ見るからに高そうなんだけど?」
「だーいじょぶ。ちょっとした伝手で安く泊まれるから」
「具体的には……?」
「んーと、あんまり大声で言えないんだけど……」
遥はそう言いながら、スッと携帯を見せてくる。えーと、一、十、百……
「嘘でしょ?」
「ホントホント」
「本当に大丈夫? いきなり『あなたを詐欺罪で訴えます! 理由はもちろん、お分かりですね』ってならない?」
「ないって。これは保証するよ」
「それにしても安すぎるでしょ!」
「えー、いくらなのー?」
「ひ・み・つ」
友香が携帯を覗き込む前に遥は待ち受け画面に戻して、値段を隠す。
「あ、そうだ。アレよね? 一泊の値段が、よね? そうだと言って!」
「そうだよ」
「そうよね!」
「いや、友実が用意する宿泊費が全額であれだけだけど」
「そうだって言ったじゃん!」
あまりの出来事に遥の肩を掴んで揺らす。
「だだ、だって友実ががが……待ってく、苦しい……」
「あ、ごめん……」
「ふぅ。いや、だって友実がそう言ってって言ったから、そうだよって」
「今この状況でそのボケいらないから……」
「ま、そんな訳で、友実はこの金額を夏休みの旅行までに用意しておいてね」
「はいはい」
「どうしたの友実。窓の外なんて眺めて。何か面白いものでもあった?」
空調の効いた新幹線内で外を眺めていると、隣に座っている遥が読んでいた観光雑誌から目を離さずに聞いてくる。
「別に? ちょっとゴールデンウィークの事を思い出してたの」
「……嫌だった?」
「もしそうならその時断ってるわよ。私の性格知ってるでしょ?」
「それもそうだ」
遥が肩をすくめるのとほぼ同時に、もうすぐ乗り換えの駅に到着する旨のアナウンスが流れる。
遥は雑誌を鞄にしまい、私も座席テーブルに乗せていた物を鞄の中にしまう。と言っても私も遥も携帯や財布程度しか出してなかった為、しまうのにそんなに労力と時間はかからなかった。
「ほら友実こっちこっち」
「分かってるから引っ張らないで」
泊まりの荷物は先に郵送してるので、軽装な私。遥はなぜかリュックサックも背負っているが……まぁ遥の動きを阻害するほどでもない。つまりそれは遥がいつもと同じように動ける事を指していた。
まぁ流石の遥も旅先でいきなりそんな事をすることはあまりないし、今は普通に空いた手を引っ張られ、そのまま流れるように電車に乗り込む。
「さ、あとはこの電車で数駅」
「そういえばホテルまで何で行くの? タクシー? バス?」
「ふっふっふ。そこはちゃんとサプライズをご用意しておりますぜ?」
「口調が変になってるし、サプライズする相手にサプライズするって言ってどうするのよ」
私の指摘にしまった、と額を叩く。まぁ、遥の事だからお迎えとか来てそうだなー、とは思っておこう。小さ過ぎる予想より、大き過ぎる予想の方が心構えが出来るってものよ。
「あ、そうだ友実。駅に着いたら少し渡したい物があるんだけど」
「それ、今とかホテルに着いてからとかじゃダメな物?」
「ダメな物。これに乗る前とかでも目立ってたと思うから、タイミングとしては駅に着いてからがベストかなって。ほら、私達一応可愛い綺麗の部類に入るし」
最後の一言を呟くように言った遥。その言葉に私達の容姿を再確認する。
私は過去に音ノ木坂三大美女と言われた経験があるから置いといて。あったとしても当時から髪を少し伸ばした程度。
遥はまるで海のように澄んだ青い瞳。栗色の髪をポニーテールに纏めた、一見活発に見えるが綺麗な印象を受ける。活発なのは違いないけど。
「なるほどね。分かったわ」
「お、友実にしては珍しく話わかるじゃん」
「あのね、遥はいつも急すぎるの。ちゃんと前もって言ってくれれば私だってちゃんと聞くわよ」
「本当に?」
「ええ」
私の言葉にどこか嬉しそうな遥。一体何が嬉しいのやら。
「それにしても暑いわね」
「もう夏真っ盛りだからね。あ、そうだ。夏と言えば祭り。祭りと言えば今月末に今年のラブライブ! の地区予選があるらしいよ。見てかない?」
「地区予選かぁ。友香達出るのかな」
「んー、どうだろう。大会決勝が年度末なんじゃなかったっけ?」
「あー、じゃあ出なさそうね。アレで一応受験生の自覚あるみたいだし」
「そう考えると絵里達はよくやったよね」
遥の言葉に頷きながら目的の駅に着いたので降りる。そのまま改札に向かおうとするのを遥に止められる。
「友実こっちこっち」
「改札そっちじゃないわよ?」
「渡す物あるって言ったでしょ」
なぜか呆れたように言う遥に連れられたのはなぜか女子トイレ。戸惑う私を無視して遥は手前の広めの個室に私ごと入る。
「で、こんな所で渡す物って?」
「んーとね、はいこれ」
「はいって……これスーツ?」
遥から渡されたのはパンツスタイルのスーツだった。遥は遥で動きにくそうなドレスを一着取り出していた。
「さ、早く着替えよ」
「色々と思考が追いつかないんだけど」
「友実にしては珍しいね。ま、事情は後で話すから、ね?」
「……ハァ……絶対だからね?」
遥に念を押してから隣の個室へ移り、遥に渡されたスーツに着替え始める。
「サイズはどう?」
「ムカつくくらいにピッタリ」
「そう、それは良かった」
私服からスーツに着替えるのにそう時間は掛からず、軽く腕を回したりしていると、遥 隣の個室から声がした。遥に伝えた通り、今日急に渡されたのにも関わらずサイズが私に合っていたし、普段の動きは出来ないものの、それに近い動きは出来そうだった。
「着替え終わったならちょっと手伝ってくれない?」
「自分で着れないの?」
「いくら私でも手が届かないんじゃどうしようも」
「はいはい」
今まで来ていた服を綺麗に畳んで、また隣の個室へ戻る。そこには紺色のパーティドレスに身を包みかけてる遥が、こちらに背を向けて立っていた。
「ちょっと上げてくれない?」
「良いけど……」
「けど?」
「馬子にも衣装って感じ……でもないわね」
ファスナーを上げつつ普段の遥からは想像のつかないほどドレスを着慣れてる様子が見てとれた。
「そう言う友実は……うん、似合ってるね」
「ありがと。ほら後ろ向いて。髪結ってあげる」
一度こちらを見て褒めてくれた遥を、また後ろを向かせて髪を結う。手櫛で髪を梳いてから櫛を使って本格的に梳く。そのまま髪の一部を編み込んでハーフアップにする。
結い終わった事を伝えると、遥は手鏡で髪型を見始める。
「どう?」
「うん、バッチリ。やっぱり友実に頼んで正解だったよ」
「化粧はしなくて大丈夫?」
「それはしなくていいかな。今日は」
今日は、ですか。
さてと、流石にここら辺まで来たらなんとなくこの事態に予想はついたけど、ちゃんと説明してもらいましょう。
「それで? ちゃんと説明してくれる約束よね?」
「ちょっと時間ギリギリだから、待ち合わせ場所に向かいながらでも良い?」
「もちろん」
それからスーツとドレスが入っていたリュックに私達の服を入れ、今度こそ改札を通って待ち合わせ場所に向かう。
「あんまりこう言う言い方好きじゃないんだけど、友実って
「ええ、まぁ」
「それでね、それ関係のパーティらにお呼ばれしちゃって、今まで断っていた分そろそろ断り切れなくなっちゃって」
「今までって、どのくらい?」
「大学に入ってから」
「それは遥が悪いわね」
「まぁその通りなんだけど……でね、いい加減お父様から出て来いって言われて、なら家のガードマン達より私の事を捕まえられる友実にその役が回ったわけよ」
……うん? 今気のせいか話飛ばなかったかしら? でも言いたい事はなんとか分かった。
「つまり『この旅行中私を護ってね』って事で良いのかしら?」
「イグザクトリー」
「断ったら?」
「ちゃんとその分のお金……と言うより対価はあります」
「……それは安すぎた宿泊費と関係がありますか?」
「それはYESでありNOでもある」
どゆこと?
「伝手で安く泊まれるのは本当。ただ受けてくれないと私と別室になるってだけ」
「断ろうかしら」
「そんなに私と同室嫌なの!?」
「冗談よ。それで? なにか気を付けなきゃいけない事とかあるの?」
「さすが友実。受けてくれると信じてた」
「なら今度からは、そこら辺込み込みで予め説明しておいてね?」
「はい」
ここに来る前に言ってくれればもう少し護身用の本とか読んで勉強しておいたのに。
「あ、一応友実の分のドレスも郵送した物の中に入ってるから、着たくなったら言ってね」
「ドレスってそう言う扱いしていいものじゃないわよね?」
「いいのいいの。どうせ安物なんだし」
手をヒラヒラさせながら言うも、それでも遥の着てるドレスは見るだけでも安くないのは分かる。
「それで一つだけお願いがあって、出来ればその、高校時代の仮面を被って頂けたらなぁ〜と思いまして」
「別にそれ位なら構いませんが、どうしてそんな言いづらそうにするんですか?」
「いや、ほら、あんまりいい気分じゃないかなって」
「別に悪い気はしないので大丈夫ですよ。ちなみに、いつまで被ってればいいんですか?」
「んー、パーティ中は必ず、かな? あとは友実が必要だと思ったタイミングだけでいいよ」
「分かったわ」
とりあえず今すぐ聞きたい事は聞けたから、ロータリーに出る前に遥の持ってる荷物を持つ。
「……?」
「流石に雇い主に荷物持たせてたらマズイでしょ」
「……友実もしかして」
「なによ」
「執事とボディガードごちゃ混ぜになってない?」
「……たぶん」
「まぁ友実がいいならお世話係り役もお願いしようかな。あ、もちろんその分のお金も三条家が出すよ?」
「いや、でも」
「大丈夫大丈夫。友達の家でアルバイトしてる気分でいればいいから。あ、お迎えだ」
遥に言い返そうとしたらお迎えが来たようで、背筋を伸ばす。私もさり気なく遥の斜め後ろに移動して車が来るのを待つ。
お迎えとして来たのはパッと見で高級車と分かる黒塗りの車だった。
ササっと車の後部座席の扉を開け、遥が乗った後に私も乗り込む。……これで大丈夫よね?
「お待たせしました」
「いいえ、私達もちょうど出て来たところでしたよ」
「そちらの方は」
「私の友人兼お世話係りです」
遥の運転手さんへ紹介にペコリと頭を下げつつ、私は遥がこんな話し方もできる事に驚く。
車が出発してからハンドサインでどうしたのかと聞かれたので、驚いた事を素直に伝えるとうるさいと返された。
……あとお世話係りって聞かされた時、運転手さんに少し同情されるような視線受けたけど、あなたなにしたのよ。
「ギジャジャ、ゴセビギデロジガギヅシデデバンジザベ」
「………」
「ゾグギダン?ザラデデボヂヂリデ」
「ここではリントの言葉で話しなさいよ」
「お姉ちゃんなに言ってるのか分かるの!?」
「いえさっぱり」
「さてと、ずいぶん久し振りな投稿だけど、内容はのないよう」
「は?」
「メンゴ。冗談だよ。内容はあれだね。前回言ってた友実を何ヶ月か放り込むとかのやつ」
「私の出番が無いですけどね」
「完全に無いよりマシでしょ」
「そりゃあそうだけど」
「それにしてもまさか友実が執事とボディガードを混ぜるとは思わなかった」
「いやその方が話進めやすいでしょ」
「まさかのメタ視点!?」
「実際その通りだし、私が混ぜて覚えてたのに深い理由はないわよ」
「まぁ頼んではいるけど、やってる事普段と変わらないんだよね。お世話係りって言っても、大学に上がってからは友実と同居して、家事半々でやってるし」
「お姉ちゃん同棲してるの!?」
「言い方言い方」
「にしても53話やって初めて私達の容姿への説明があるとは」
「お姉ちゃんが綺麗なのは知ってるから問題ない」
「私は?」
「はいはい可愛い可愛い」
「友実からの扱いが雑ぅ」
「でも私の容姿についてはまだ言及されてないんですよね」
「まぁ私達そんなに似てないってわけでもないからその内書かれるかもしれないわよ?」
「そうそう。なんやかんやで作者私達の事好きだからね」
「ま、そんなわけでこの話まだまだ続くから次回もお楽しみに!」
「いつになるか分からないけどね!!」