「じゃあ改めて、紙を見るよ?」
取り敢えず演技しよう、周りの目もあるし。
「うん!」
「一体何と書いてあるのですか?」
ことりと海未は既に穂乃果の元へ行き、ワクワクした様子で紙に興味を示している。
さて、私は帰ってもよろしいかな?
「お姉ちゃん今帰ろうとしたでしょ」
アハハナンノコトヤラー。全く穂乃果は偶に鋭い所があるから困る。
「友実先輩も早く来て下さい」
「友実先輩、おねがぁい」
「分かりました。分かりましたからことり、その動作を異性の方にはやってはいけませんよ? 絶対です」
「う、うん」
全くことりは卑怯だよ。瞳を潤ませて胸の前で手をキュッと握りお願いする。女子の私でさえ即頷いてしまった…
「じゃあ見るよ?」
穂乃果は私がそばに立つのを確認すると、緊張した様子で紙を広げる。そこに書かれていたのは「μ's」というただそれだけだった。
「ユーズ?」
「石鹸?」
「これはミューズと読むのです」
「あと南さん。これ石鹸ではなくギリシャ神話に出て来る文芸を司る女神達「ミューズ」の事です。ミューズとはヘーシオドスによって纏められた九姉妹の事で、九姉妹はそれぞれつかさどる分野を持っています。書板と鉄筆を持っている長女カリオペーは叙事詩の分野ですし、次女のクレオニーは…」
「友実先輩、そろそろ穂乃果のキャパシティーが危ないのでやめた方が良いと思います」
海未の言葉に穂乃果を見ると、笑顔で頭から煙りを出していた。あり、やり過ぎた?
周りを見回すと尊敬の眼差しでこちらを見る穂乃果達のクラスメイトが視界に入る。ええい、そんな目で私を見るな! 目立つのが嫌いなんだよ私は!
「今更ですよ。友実先輩」
「……勝手に心を読まないで貰ってもよろしいですか?」
私の心を覗いたかの様な海未の的確な指摘に、思わず作り笑いで肩を掴む。海未も私の作り笑いに何かを感じたのかなんとも言えない顔をする。
「やっぱり海未ちゃんはエスパーなんだ」
「多分違うと思うよ…?」
穂乃果とことりが何やら話しているも多分私とは無関係だろう。そう思いたい。
「取り敢えず、そろそろホームルーム始まるので私は失礼しますね。では」
手を振って教室を出ると、クラスにいたほぼ全員が手を振り返して来た。なんか怖かった。
☆☆☆
その日の放課後。委員会で帰るのが遅くなった……あぁ本読みたい。
「きゃー!!」
「…………あぁ本を読みたいです」
見なかった。私は何も見ていない。神田明神の階段下で巫女服を着た東條さんらしき人が赤毛の一年生の子の胸を揉んでいる光景なんて見ていない。見ていないったら見ていない。
「ち、ちょっとそこのあなた見てないで助けなさいよ!」
「あ、東野さんやない。やっほ」
「……東條さん何をしているんですか?」
別に赤毛ちゃんを助けるつもりはないが、話しかけられた以上返さないのも悪い。
「何ってわしわしやで? 東野さんもご所望?」
「今回は遠慮させて頂きます」
わしわし……多分今赤毛ちゃんが今されてる事だろうから断ろう。乙女の胸は簡単に触らせてはなりません。え? 目の前の赤毛ちゃん? ワタシハナニモミテイナイヨ。
「ちょっと、そろそろ離しなさいよ!」
「ふふ、まだ発展途上っていった所やな」
この人は一体何の話をしているのだろうか。階段の上で練習している穂乃果達の事か、それか赤毛ちゃんのを触った事への励ましなのか。出来れば前者であって欲しい。
「でも望みは捨てなくて大丈夫や。大きくなる可能性はある」
「何の話よ!」
本当に何の話だ……
「恥ずかしいんならこっそりという手もあると思うんや」
「……だから何の事よ」
「分かってるやろ。ほな」
それだけ言って東條さんは階段を上って行った。後に残ったのは状況が分かっていない私と、東條さんの被害者の赤毛ちゃんのみ。
「えと初めまして。ですよね」
「え、ええそうですね東野先輩」
「私の名前……」
「東野先輩クラスで結構有名ですよ」
あ、やっぱり有名なんだ……いやね? 今日ことり達に言われてもしかしたら一年生も知ってるのかなぁ。って思ってはいたんだけど、まさか本当に知られてるとは……
「えと、あなたのお名前は」
「西木野真姫です」
「では西木野さん。改めまして東野友実と申します。これから同じ音ノ木生として何かと縁があると思いますが、よろしくお願いします」
「こ、こちらこそよろしくお願いします」
西木野さんってもしかして良い所のお嬢様? 結構礼儀正しい。最初はタメ口だったけど、まぁそれは良いかな。取り敢えず
「あの、時間も時間なので私はこれで失礼します。では気を付けて」
「あ、はい。東野先輩も気を付けて」
さて、本が私を待っている!
☆☆☆
私の帰宅後。自室で本を読んでいると海未が駆け込んで来た。
「海未。何があったのか説明して?」
「そ、それがですね」
海未が正座しながら、なぜ私の部屋に駆け込んで来たのか話し始める。
「つまり海未は衣装に不満がある、と」
「ううっ……はい……」
どうやらことりが作った衣装のスカート丈が短くて恥ずかしくて履けないらしい。
「短いって言っても制服とそんなに変わらないんでしょ? だったら別に良いんじゃない?」
「それとこれとは話が別です!」
「そうなんだ」
正直同じだと思うけどな……って言ったら多分長い演説みたいなのを聞かされるだろうから取り敢えず頷いておこう。
「それで海未は衣装着たくないから私の部屋に避難して来た、と?」
「はい……」
「私これでも一応受験生なんだけど……」
「……ハッ!」
こいつ忘れてたな? まぁそれくらい切羽詰ってたみたいだから良いけど。それに勉強してなかったし。取り敢えず
「海未、そろそろ穂乃果の部屋に戻った方が良いよ。ほら」
「え……?」
窓の外を見ると穂乃果とことりがこちらを心配そうに見ていた。実はこの部屋と穂乃果の部屋は窓越しにお互いの部屋が見える位置にある。
「……あの、そろそろ戻ります。ご迷惑お掛けしました」
「いや、まぁ、うん。これくらいはもう茶飯事だから慣れたよ」
家の前まで海未を送り部屋に戻る。
「お姉ちゃんちょっとちょっと」
戻ろうとして友香に呼び止められる。
「何?」
「あれ、お姉ちゃんちょっと機嫌悪い?」
「読み溜めてる本を消化したいんだけど」
「お姉ちゃん私と同じ受験生だよね!?」
「受験生だけど?」
三学年離れてるんだから友香が受験生なら私もだろ。何言ってんだ友香は。
「そんな「何言ってんだこいつ」みたいな目で見ないでよ!」
「いやみたいな、じゃなくて正にその通りだよ。良く分かったね」
「酷い! ってじゃなくて。数学、この前教えて貰えなかったから今度こそ!」
数学の問題集を手に詰め寄る友香。さらば私の読書タイム。ていうかあれ?
「友香ってそこまで成績悪かったっけ?」
「いや、悪くはないと思うけど……」
「思うけど?」
「雪穂や亜里沙を見てるとね……」
「あー……」
雪穂ちゃん達成績良いからな~。亜里沙ちゃんに至ってはそこにロシア語を話せるし。何回か聞いた「ハラショー」の発音が素晴らしかった。あれこそハラショーだね。
「でも私も数学得意じゃないぞ?」
「でも穂乃果さんよりかはマシでしょ?」
「あれと比べると大半の人がマシだよ」
「だよねー……」
何とも言えない空気が私達の間を流れる。
「ま、まぁそんなに得意じゃなくても良いなら教えるよ」
「う、うん。よろしく」
取り敢えずは海未が来る前に読んでいた本を手に友香の勉強でも見るとしますか。
衣装はアニメよりも早く完成しました。
そういう事にして下さい。
ではでは感想、誤字脱字、アドバイスお待ちしております