すいません。
リアルがだいたい落ち着いたのでまた投稿していきます。
私はごく一般的な家庭で生まれた。
千影と名付けられ、ごく普通に愛情を注がれながら育った。
でも、どんな家庭でも悩みというものは存在するように私にも当然あった。
私には姉がいる。
二つ上の面倒見がいい完璧な姉だ。
最初の頃はそれが自慢だった。
テストをすれば必ず満点をとり、作文を書けば必ず何かしらの賞をとってくる。
運動神経も抜群で明るく、容姿端麗でクラスの人気者。
そんな姉を自慢しない筈がない。
私は頭はあまりよくないし、運動神経はそこそこあったけど内気な性格からそこまで友達もいなかった。
そんなある日、0点の答案用紙を見て、母は私を叱りつけた。
"お姉ちゃんを見習いなさい"って。
その時の母もその言葉が失言だったと悟り、謝って来ていたがもう遅かった。
その日、私の心という水面に石が投じられた。
たった一言、たった一つの石。
それでも、波面は次々と広がっていく。
何となく気づいてた。
なにもできない私となんでもできる姉。
何も持っていない私となんでも持っている姉。
そんな姉と私を比べて劣等感に苛まれていたのだ。
姉のことは大好き。
でもそれに比例して姉のことが大嫌いだ。
何か私の中に黒いものが溜まっていくのを感じた。
母や父に何を言われてもお姉ちゃんの方がすごいでしょと言う。
それが私の口癖になっていた。
自分は必要とされていない、この家族には姉だけがいればもう満足なんだ。
私という存在はただ気まぐれに育てているペットのよう。
そこまで考えて自嘲気味に笑って言葉を濁す。
何回繰り返したか分からない思考の渦を永遠に続ける日々。
段々、家族と疎遠になっていく。
私は居たたまれなくなって、高校の卒業と共に家を出て一人暮らしを始めた。
そんな中、彼と出会ったのは本当に奇跡といっても良いぐらいだ。
彼は大学の同期として私の前に現れた。
最初の出会いは散々だった。
彼は一人、いつも大学の近くの公園のベンチに寝転がり惰眠を貪っていた。
その姿に不思議に思って見ていると、目を覚ました彼は私に向かってこう言いはなった。
"なに見てんだよ、この覗き魔"と。
確かに見ていた私も悪いかも知れなかったけれど、開口一番にそれも初対面の人にそれはないんじゃないって思って言い返した。
そこからはもう悪口の応酬となった。
でも、そんな彼は実は私の住んでいるマンションの隣の部屋で受講してる講義も同じだったなんてほんとにビックリした。
それからはなんやかんやあって、結局付き合いだした。
彼は喰種の被害にあって家族全員を殺されていたらしい。
全てを失って誰にも受け入れて貰えなかった彼と、誰かに必要とされたかった私が結ばれたのも、もしかすると必然だったのかもしれない。
大学卒業と共に私達は結婚した。
私の名字が"名瀬"から"栗原"になった日だった。
籍を入れてからはや二年、私達に始めての子供ができた。
名は千晴。
男の子なのに女の子っぽい名前は嫌がるかな。
でも
そんな意味を込めての千晴だ。
この子にはいっぱい、沢山の愛情を注ごう。
そう思って込めた名前でもある。
千晴が産まれてから七ヶ月。
奇妙なことが起きた。
出生七ヶ月で歩きだしたのだ。
通常の赤ちゃんというのはこの時期くらいにやっとはいはいが出来るくらいだと聴く。
それに時おり窓の外を見る千晴は何か言い知れないような恐怖心を煽られる。
それでも気のせいだと、これは何かの勘違いだと考え直す。
そんなことをしながら三年の月日が流れた。
千晴はもう普通に話ができるような年頃。
そんな千晴はある日、突然表情が固定されたかのように笑った。
何に対しても笑顔で敬語こそ使わないものの、なにか他人行儀な感じになった。
私が何か欲しいものある? とでも聞くと千晴は顔面に笑みを張り付けて、大丈夫だよ母さん、ありがとう。と返してくる。
三歳児の言葉とは思えない。
それに何だろうこの感じは。
そう。あの頃の自分に向けられた視線のような、自分を必要としない完全な拒絶の瞳。
忘れたかった過去が次第に思い出される。
やめて、千晴。 私を、そんな目で見ないで!!
それから数ヶ月、もう耐えられそうにない。
あの目から逃げるようにして千晴には極力会わないようにしてきた。
でもそれももう限界に達しようとしている。
そんな時に千晴の声。
大丈夫? 母さん、顔色悪いよ?
だめ。その目、その目だ。
言葉は優しいがあなたの視界に私は写っていない。
何も必要としていない、形だけの言葉。
思わず私は千晴の頬を叩いてしまった。
突き飛ばしてしまった。
罵声を浴びせてしまった。
でも、千晴から返ってきたのは微笑みだった。
気味悪く、寒気がおさまらない。
これは化け物だ。
私の息子じゃない。
こいつは……。
それから千晴には会うたび暴力を振るった。
殴っているとき気が張れた。
あの過去を払拭しているような、そんな快感が私を満たした。
ある日、それでもいつもニコニコ笑っている千晴に頭に血が上って首を締めた。
やばい。そう思ったときはもう遅く、千晴は黄色い吐瀉物を吐き、息をしなくなっていた。
それだけならまだよかった。いや人一人しかも息子を殺しているのだから全くもって良くないのだが、それでもそれだけならまだよかった。
そこからは非現実が現実に変わる。
それは有り得ない光景だった。
千晴の身体から黒い何かがあふれでて、一つに集束していく。
そこには黒い化物が姿を現した。
全身に巻かれた包帯は古代エジプトのピラミッドの玉座に鎮座するミイラを幻視させ、長く伸びきった鋭利な爪や歯は未知の生物への恐怖を与えた。
そんな黒い化物は私に向かってこう言った。
どうして? ねぇどうして殴るの? 僕はただ誰にも迷惑をかけないようにしていただけなのに。痛い。痛いよ。
その言葉に自然と口の端がつり上がる。
化物の言葉は千晴の言いたかったこと、千晴の紛れもない本音。
何故か直感的にそう思ったからだ。
ああ、やっと貴方は私を見てくれた。
それだけで何故か過去に私を見てくれなかった、必要としてくれなかった全てが私を見ている気がした。
母や父、それにあの完璧な姉まで。
正体不明の化物が目の前にいると言うのに私を支配する感情は歓喜だけ。
何度も何度も痛いと叫び続けながらその長くて鋭利な爪をつきだす化物を私は笑顔で受け入れた……。
◆◆◆◆◆
ーーーぐぅ~……。
「あっ……」
自身の空腹の危機に他でもない体が反応した。静寂に満たされた真夜中であったことで余計に響き、少女は少し恥じらうように頬を朱に染める。
「……お腹すいたなぁ」
腹部の臍の辺りを擦りながらひとりごちる。
そう言えば最後に食事をしたのは何時だったか……。
一週間? いやもうちょっと前だった気がする。
実際、少女が食事をした日は十日ほど前である。本来なら悠長に話す余裕等なく衰弱しきっていても何ら可笑しくない。
だがそれは少女が
……そう。少女は人間ではない。
人を殺し、人を糧として生きる。
種の名を
喰種は短時間に食事を摂る必要はない。せいぜい一ヶ月に一度摂ればそれでこと足りる。そういう生き物なのだ。
それでも少女はたった十日足らずで空腹を訴えている。
それがどれだけの異常であることかは想像に難くないだろう。もしかすると少女は喰種でもないのかもしれない。
……薄暗い街灯に照らされながら力なく少女は歩く。
頭を振り、辺りを見渡す。するとある一点で止まった。
それはチカチカと点滅する、蛾の貼り付いた街灯にもたれ掛かりながら話をしている数名の若い男達。
少女は満面の笑みを浮かべ、そそくさと若い男達に向かって走る。
数歩先に手が届く辺りまで近づきぴたっと止まる。
流石に男達も気づいたのか次々と少女に視線を移した。
「……うぉっ!人間!? って違うか、お仲間かよ」
いきなり私が現れたのに驚いたのだろう。
一番近くにいた金髪の男は奇怪な声をあげた。
こんな時間に出歩く小さな子供=喰種という等式が彼の頭の中で出来上がったのだろう。警戒心を無くした目で此方を見つめる。
「おいおい。ここは俺達の喰場だろ?とっとと家に帰りなガキ」
大柄で筋肉質な体をした五分刈りの男ーー恐らく二十代ーーが威圧するように此方を見下ろす。
……いつもの反応との違いに違和感を覚えた。
いつもなら気味悪がられる筈だ。
しばらくしてその真意に気付く。
そっか今日は包帯とってたんだっけ。
いつもは全身に包帯を巻いているのだが、今回は夜風に打たれたいという気まぐれな気分によって着けていなかったのだ。
そっか。顔、見られちゃったなぁ。
…まあどうでもいっか。だってすぐに……。
ーーーー喰べちゃうんだから。
見下すように立つ男達を前に少女は眼を細めて嗤う。
それじゃあーーーー
「ーーーーいただきます」
◆◆◆◆◆
天からこさえた大粒の泪が、この硬いコンクリートに降り注ぐ。
そんな中、少年は歩く。
誰もいない薄暗い路地を一人で。
ズルズル、ズルズルと何か重い物を引き摺りながら。
今日も今日とて
成人男性の平均身長ピッタリくらいのザ・平凡☆といった顔立ちの男性を運ぶ。
あっ。顔面は潰してしまったので今のは想像だ。
ズルズルと足を持って引きずる。
「……重い」
こいつ、案外重い。
そんなに太っては居ないようだがそれでも子供の腕力で大人一人運ぶのは結構きつい。
死体は放置しても喰種だからいいかな? と思ったけど、こいつが襲ってきたのは俺のマイハウス付近だったため、これじゃ夢見が悪くなりそうでいやだから運ぶことにしたのだ。
まあマイハウスといっても雨が凌げる屋根があるだけで後は段ボールを敷き詰めた簡易的なものだが……。
つーかとうとう降ってきちゃったな……。
今も尚降り続けている雨に若干辟易する。
雨の日はうまくクロスケ使えないんだよなぁ。
確か亜人の作中では雨で電波が妨害されるラジオみたいだっていってたっけ。
こんな時にもう一回襲われたらどうしよっかな。
一応この前CCGの捜査官からくすねてきたナイフのような形状のクインケはあるにはあるけど。
でもそんなんで喰種に勝てるかね?
まあいつも見たいに逃げればいっか。
最近は避ける行為に磨きがかかりプロを名乗っても遜色無いくらいにはなってきている。(何のプロかはわからないが)
最初の頃は雨の日は隠れて過ごすしかなかった。
それでも見付かってしまったときは喰われ続けて雨が止むのを待ってたなぁ。
なんて感慨深く過去を思い出しながら歩く。
そんな時、ピチャッと水溜まりを勢いよく踏む音が聞こえた。
……はぁ。
俺は何かと宜しいタイミングで遭遇させる運の悪さに辟易し、天に向かって悪態付いた。
……フラグ回収、お疲れ様です。
◆◆◆◆◆
ーーーー辻斬りジャック。
推定レートS~。尾赫。
黒いロングコートに黒いシルクハット。仮面の左頬には縦に二本の深い傷がある。主な活動区域はなく、一度遭遇すれば老若男女関係無く、時には同胞まで
二つに別れた長大な赫子で両断する。善悪の認識に大きな歪みが見られ、重大な人格破綻者であると推定されている。
ーーーー喰種対策掲示板より一部抜粋。
◆◆◆◆◆◆
今宵は曇りときどき雨。
絶好の雨日和。
足を踏み出し水溜まりを蹴って歩こう。
アカ、アカ、アカ、アカ、赤い雨。小さな子供と楽しい楽しい遊びの時間。逃げてはダメよ。脚がなくなっちゃう。
泣いてもダメよ。喉が無くなっちゃう。……ああ。ああ。なんて楽しい時間なのかしら。正気が満ちてあたしがあたしで無くなっちゃう。
でも楽しい一時は直ぐに終わっちゃう。みんながみんな、悪くなっちゃうから。みんなあたしに向かって悪口言うの。叩いたり蹴ったりするの。だから。悪い子にはお仕置きしなくちゃ。
ぐちゃぐちゃ。ばきばき。ごりごり。もぐもぐ。
ぐちゃぐちゃ。ばきばき。ごりごり。もぐもぐ。
ぐちゃぐちゃ。ばきばき。ごりごり。もぐもぐ。
ぐちゃぐちゃ。ばきばき。ごりごり。もぐもぐ。
あたしが
ジャックがあたしであたしがジャック。
気付くとみんないなくなる。
赤い雨を残して。
どうしてあたしは一人なの?
皆が悪い子だからあたしはジャックになっちゃう。
ひとりは寂しいからまた新しいのを探さなきゃ。
あっ! あれなんてどうかな?
赤い雨と青い雨に濡れた少年。
一緒に遊ぼ?
あたしがジャックであなたは……。
次の投稿はいつになるだろうか……。