恐らく、これで九章はおしまいです。
短いですね、すみません。。
女性が、凛とした声ではっきりそう言う。
すると、お菓子の家にいた子ども達が、元通りの姿で彼女のもとに集まってきた。
その中には、ジョンや何度もポル達を助けてくれた少女・ガナッシュ、そしてポルに抱かれて死んだあの少女も混じっていた。
その少女はポルに気づいたらしく、タタタッとポルのもとに駆け寄ってきて、ぎゅうっと抱き着いてきた。
少女はあの時とは違い、傷一つついていない可愛らしい女の子になっていた。
『ありがとぉ、おにいちゃん。おにいちゃんのおかげで、わたしママといっしょにてんごくにいけるの。うけいれてくれて、だきしめてくれて。・・・あいしてくれて、ありがとぉ!!』
少女はそう言うと、満面の笑顔をポルに見せた。
ポルは何も言わず、ただ少女の頭を優しく撫でてやった。
それでも、撫でられている少女には、ポルの気持ちが確かに伝わっていた。
次にポル達のもとにやって来たのは、ジョンだった。
ジョンは頭をかきながら、申し訳なさそうにポル達に謝る。
『・・・えっと、あの時はごめんなさい。。僕、走るの大好きだから、足とられちゃったのが悔しくて悔しくて。。お兄さんも、怪我させてごめんね』
「気にすんなよ。まあ、確かにちょっとびびったけどさ。。元々悪いのは魔女だったんだし、ポルも気にしてないってさ。なあ、ポル」
スコーンがそう言ってポルを見ると、ポルは「ああ」とだけ言って頷いた。
ポルがジョンの頭をくシャッと撫でてやると、ジョンはくすぐったそうに身をよじった。
『ありがと、お兄さん。ジョンのこと、許してくれて。。』
そう声をかけてきたのは、何度も何度もポル達を助けてくれた、ガナッシュだった。
ガナッシュはそう言ってほんの少し微笑み、何か言いたげにちらっとポルを見た。
そんなガナッシュの様子に気づいたポルが「どうした?」と声をかけると、ガナッシュは少しもじもじしながら、こう尋ねてきた。
『・・・あの、あのね?もし、私達が生きていたときにポルに逢っていたら。。ポルは私達のこと、護ってくれた・・・?』
聞きづらそうに顔を背けるガナッシュの頭を、ポルはまた優しく撫でてやる。
「・・・ああ、当然だ」
ポルがそう言うと、ガナッシュはパアアッと表情を明るくした。
そして、ほんの少しだけ頬を赤く染め、ガナッシュは小さな声で言った。
『えっとね、私ポル大好き……』
ポルはガナッシュの頭を撫で続けながら、優しく微笑んだ。
一通りお別れを済ませたことを確認し、女性は子ども達に声をかける。
『さあ、皆。そろそろ行きますよ。・・・ザッハトルテ、あなたもいらっしゃい』
女性がそう言うと、魔女は嫌々というように頭を振った。
先程までとは違い、魔女は怯えて逃げ惑っている。
そんな魔女の姿を見て、女性は困ったように笑う。
女性はいとも簡単に魔女を捕まえると、その胸に抱き締めてやった。
とたんに大人しくなる魔女に、女性は言う。
『こんなことを続けていたって、あなたは誰にも愛してもらえないわ。だから、私と一緒に行きましょうね。。私があなたを愛してあげるし、面倒を見てあげますからね・・・』
女性は、優しく魔女の頭を撫でてやる。
ぎゅうっと魔女が自分に抱きついてきたことを確認し、女性はガレット達の方に向き直る。
『・・・この子は元々、親に捨てられた可哀想な湖なのよ。。生きるために色々なものを食べてきたせいで、最期には人まで食べるようになってしまったの。でも本当は、この子もただ愛されたかっただけ。だから、私がこの子の母親になってあげることにしたのよ』
ーそれから、この子達のー
そう言って、女性は犠牲になってしまった子ども達を、自分のもとに呼び寄せた。
「母さん、どうして魔女はトルテにそっくりなんだ?」
ポルが尋ねると、女性はクスクス笑った。
『似ていたのは、トルテじゃなくて私なの。私を食べたせいで、その姿になっただけ。本当は、もっと愛らしいんだから』
女性がそう言って魔女を見ると、魔女はこくんと頷き、もとの姿に戻った。
現れたのは、綺麗な黒髪をした、なんとも愛らしい女の子。
それが魔女の本当の姿であり、本来の姿だった。
魔女は一度女性から離れ、ポル達の方へやって来た。
スコーン立ちは少し身構えたが、ポルほまったく動じずに魔女を見る。
魔女はポルのもとまで歩いてくると、ポルの傷にそっと手を触れる。
「っっ」
ポルは少し痛そうに顔をしかめたが、逃げようとはしなかった。
ぽうっと魔女の掌が光り、暖かな光がポルの体を包んでいく。
その光が収まる頃には、ポルの傷は足の怪我以外ほぼ完全に治っていた。
体力自体はまだ回復していないものの、ポルはゆっくり体を起こして立ち上がった。
「凄い力だな。。ありがとう、お陰でずいぶん楽になったよ」
ポルがそう言うと、魔女は嬉しそうにはにかんだ。
そして魔女は女性のもとまで走っていき、彼女に抱き着いた。
女性は魔女を優しく抱き留め、周りの子ども達の頭も撫でてやった。
そして、ポルとトルテに優しく声をかけた。
『・・・私達は、もう逝くわね。そろそろ、この子達を連れていってあげなくちゃ。だから、さよならよ。二人とも』
女性の言葉を聞いた二人ほ、目を見開いた。
彼らの見ている前で、女性と子ども達は暖かな光に包まれていく。
「やだっお母さん逝かないで!!また、逢えたのに。。離れたくないよぉ!!」
トルテが、涙声になりながら必死で女性を引き留めようとする。
「母さん・・・」
ポルが小さく呼び掛けると、女性はそっと首を振った。
優しく微笑む女性に、トルテが叫ぶ。
「いや!!……だったら、私も連れてって!寂しいのはやだよ!!」
そう言って、トルテは女性のもとに駆け寄ろうとする。
そんなトルテを、ポルは後ろから抱き締め、必死で止める。
「離してお兄ちゃん!お母さんが、お母さんがぁ!!」
泣きわめくトルテを強く抱き締め、ポルは言った。
「駄目だ、トルテ!・・・これ以上、母さん達を苦しめるわけにはいかないだろ?」
ポルの言葉を聞いたトルテは、暴れるのをやめて泣きじゃくる。
トルテを引き留めてはいるものの、本当はポルも母親と一緒にいたかった。
それを口にしなかったのは、母の気持ちが痛いほど分かっていたから。
「・・・母さん、トルテは俺に任せてくれ。俺が、今度こそちゃんとトルテを護るから。心配しないで、俺は兄さんだから」
そう言って、ポルは精一杯笑顔を作り、女性に笑いかける。
『お願いね、ポル。。トルテ、ポルの言うことをきちんと聞きなさい。ポル、何でも溜め込んでは駄目。少しは他人を頼りなさい』
女性の言葉に、二人は素直に頷いた。
輝きが強くなっていき、別れが近づいてきているのがわかった。
『あなた達は、本当に立派に成長しました。もう、私は必要ありません。だから私は、母親が必要な子ども達のもとに、旅立ちます。・・・最期に、私からは二人に、お願いがあります。聞いてくれますね?』
二人が頷くと、女性は目を瞑って静かに言葉を紡いだ。
それは、彼女が二人に送る、最期の言葉であり、願い。
『……生きなさい。これから先、何があっても、どんな困難が待っていても。私の分まで、この子達の分まで。。そして、忘れないで。この子達がいたことを、私がいたことを・・・』
光が強くなっていき、もうほとんど女性達の姿は見えなくなってしまっていた。
「お母さん!私、忘れないよ!!お母さん達のこと!」
「・・・母さん。。母さん!あの時、折角作ってくれた料理を食べなくて、ごめんなさい!!俺、勝手に勘違いしてた。あれは、人の肉なんじゃないかって。。母さんのこと、疑ってごめんなさい。こんなことになるんだったら、ちゃんと聞いておけば良かった。食べていればよかった……っっ!ごめん、母さん。親不孝な息子で、本当にごめんなさい!!」
ポルがそう叫んで、涙を流す。
女性は泣いているポルに、優しく微笑みかける。
『いいの、ポル。あなたとトルテが、喜んでくれただけで。・・・こんなに私のことを思ってくれる息子と娘がいるだなんて、私は本当に幸せ者です。親不孝なんかじゃない。あなた達は、本当に親孝行な優しい子達です』
ひときわ強く、光が輝き出す。
眩しすぎるほどの光に、ポル達は思わず目を瞑った。
『・・・さようなら、私の愛しい息子達。。あなた達の幸せを、天から見守っています』
母の声が、すぐ耳元で聞こえた。
クシャッと、誰かが二人の頭を撫でていく。
・・・それは、慣れ親しんだ、優しい母の手の感触だった。。
『バイバイ、お兄さん達!!』『また会おうね!』
『さようなら~!』『うまれかわったら、あいにいくね!』
子ども達の声と、楽しげな笑い声が聞こえてくる。
最後に、こんな声が聞こえてきた。
『・・・色々ひどいことをして、ごめんなさい。。あなた達のお母さんをつれていってしまって、ごめんなさい。おわびに、これあげるね』
その声の主は、きっと・・・。
これで、九章はおしまいです。
次はとうとう、終章となります。