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「とまぁ、これが大体の<遊戯王>のルールなのです」
キリカちゃんは、トン、トンと分厚いスリーブに覆われたデッキの山を整える。――何重にもしてカードを守るらしい。正確には、カードとキャラスリ……? なるものを。
カードが資産なら、高価なスリーブは資産らしい。サプライの棚にかかっているものはひとつ800円もしないものだが……キリカちゃんからしてみればそれでも高い、ということだろうか。
「あ、うん……」
まぁ、本題はキリカちゃんのスリーブではなく、私が<遊戯王>のルールを覚えるということなので、気を取り直して。
話は大体理解できた。要するに、相手の<ライフ>をゼロにしたら勝ち、逆に<ライフ>を削りきられたり、デッキを空にされたりしても負け、と。
他にもちょっと複雑なターンの流れと、<チェーン>の概念、大体把握できたと思う。曰く、とりあえずこれだけわかれば<デュエル>はできると、まぁ、確かに流れさえわかれば、後は細かいルールだけだろう。
「ま、遊戯王はここからが険しき道なわけなんですけど……」
そんなことをキリカちゃんはドヤ顔で、というか明らかに含みの在る笑顔で言う。……高橋くんにも脅されていたけれど、そんなに難しいのだろうか、<遊戯王>。
ちらりと、助け舟をキリカちゃんの隣に座るアイカさんに求めると――
「そうね」
別に、とでも言わんばかりの素っ気なさ。……言葉を選べなかったのだろうか。でも、否定はしないと。
「ま、ま、まずは一回やってみましょうよ! 楽しいですから!」
キリカちゃんは気にした様子もなく、不敵な笑みを引っ込めて、デッキを軽くシャッフルしてみせる。私もうん、と頷いて同じようにデッキをシャッフル――と、キリカちゃんがデッキをこっちに差し出してきた。
「カットしてくださいっ! お願いしまっす!」
カット……えっと、あぁ、カットか。トランプとかはすることあるけど、カットとかあんまりしないからなぁ。
「えっとね……こうすることで、自分はデッキに細工はしてませんっていう、意思表示になるの、ね。だから、言ってしまえば一つのマナーよ。大会なんかじゃデッキをシャッフルするたびに相手にカットしてもらうのを忘れないようするの」
と、少し最初は言いよどみながらも、最後の方はハッキリとアイカさんが教えてくれた。とはいえ、とキリカちゃんが補足する。
「デッキぶん回してるとシャッフルなんて一度に何回もするから、その度にっていうのは面倒だしむしろ失礼です。なので、デッキからカードをドローするときか、一連の動きが全部終わった後にしてもらいましょう」
言いながら、こちらが差し出したデッキを複数に分けて、それから組み直す。こちらも同じように真似をして、それから戻ってきたデッキから、カードを五枚引いて、手札にした。
ちなみに、この際カットではなくシャッフルをする人がいる。けれども、それはデッキがバラけさせてしまったり、雑なシャッフルをしてしまうことがあるのでおすすめはしないそうだ。このカードは相手のものなので、丁寧に扱わなくてはいけない、と。
「じゃ、いっきますよー!」
「よろしくお願いします」
そうやって、私とキリカちゃんは互いに息を合わせて――
「<デュエル>ッ!」
二人同時に、そう宣言した。
そして――
「ふふふ――<竜の霊廟>発動! これでデッキから<墓地>にドラゴンを……」
「あ、じゃあえっと<マスク・チェンジ>で<ダーク・ロウ>を……」
「ちょっとぉ!?」
思わず、という様子でキリカちゃんが崩れ落ちる。隣ではアイカさんが呆れ顔、キリカさんは渋々と言った様子でデッキからカードを<除外>する……
「いやそれ、アンタ相手が<HERO>なのは解ってるんだから、それでも問題ないようなデッキ選びなさいよ。接待でもしたいの?」
「……完全に頭のなかから抜け落ちてました、<ダーク・ロウ>」
ぶぅ、と唇を尖らせながら、キリカちゃんはむぅ、と難しい顔で固まってしまった。<ダーク・ロウ>は、初心者ながらこうして実感してみると、やっかいだなぁという効果を複数持っている。奇襲性が高いのもポイントかもしれない。
ふむふむ、とキリカちゃんの渋面をよそに、私はそんな風に考える。
キリカちゃんはここまで何度かデッキを変えてやっているが、そのすべてがドラゴンに関わるものだ。本人曰く、「私こそがねこのみーに名高きドラゴン使い、ドラゴンキリーその人なのです!」とのこと。よくわからないけれど、とにかくドラゴンという存在にこだわっているのだろう。
何か一つのタイプにこだわるプレイヤーというのは、さほど珍しくはないらしい。<遊戯王>の場合、属性とかそういう概念が希薄なのだけれど、他のカードゲームなんかではよくあることだとか。
「……ぅーん」
横ではキリカさんも難しい顔をしている。もう私に対するレクチャーが必要な部分が終わったからだろう。そしてキリカさんの場合、デュエルしていない時こそが本番、と言った様子だ。
すごく真剣な様子でデッキのカードを並べて吟味している。よくわからないけれど、青いカードがたくさんだから、<儀式デッキ>というやつだろうか。
「んー……ダメです、ターンエンドで」
「あ、じゃあ私のターン、ドローっと。それから<スタンバイ>、<メイン>……えっと」
と、そこで気がついてアイカさんが立ち上がろうとする。――さっきから、こっちのターンになる度に席を変えて、大変ではないだろうか。ありがたいのだけれど。
「……ん? おう、遊河峰、それ使ってみろ」
――しかし、そんなアイカさんよりも早く、後ろから声がかけられる。意識の外からの者、誰のものかは明白であるけれど、少しびくんと、驚いてしまった。
「た、高橋くん!?」
「……冴木、どうしたの急に」
手には何やらダンボール、どうやらゴミを片付けに行く途中らしい。アイカさんは冴木の方を睨みながらこちらによってきて……なるほど、と頷いた。
「そういうこと。……残念だけどキリカ、貴方の寿命は後一ターンよ」
「次のターンで華麗に逆転ってことですか?」
「このターンで死ぬって言ってるの」
何やら物騒な会話だけれど、意図はまったくよく解る。要するに、この場を完全に詰みへ持っていける手札なのだろう。……ええっと。
「ちょっと複雑だからヒントだけ教えてあげる。あとは自分で考えなさい、こういうのは考えるよりなれる方が楽だから」
最初に使うカードはこれだ、と指で示されて、うぅむとかんがえる。そのカードを見つめて一瞬の思考停止、それではいけないと頭のなかで考える。
――できることは大体教わった。ルールのミスなんかはこれから少しずつ覚えていく他にない。
「これを……こうして、あぁダメか、手札が足りない。っていうとじゃあ……」
ぶつぶつと、その声はきっと私にしか届かない。届いちゃいけないのもそうだし、その方がずっと、それらしい。
私はゆっくりと、自分の中に埋没していく。まるで、これまで開くことのなかった扉を開くかのように、見たこともない風景を、自分の奥底から引き出してしまうかのように。
ミチの先、私はそこに――何が在るかを、知りたいと思った。
そして……
「…………行きます」
実際に形にしてみないと、絶対は言えない。けれど、この形なら、きっと良い結果が得られるはずだと、私はアイカさんに示された最初の一枚を手にとって――プレイする。
「――――」
キリカちゃんはただ無言、固唾を呑んで見守っていた。すでにアイカさんは元の席に戻ってデッキの調整をしていたが、その手は今、止まっている。
一人、高橋くんだけは私が最初の一歩を踏み出したことを見届けると、安堵に近いような顔で嘆息し、それから店の奥へと引っ込んでしまった。
パタリと、押戸が元の位置に戻されて、それを境に、会話と呼べるものが、音と呼べるものが消失した。――否、店内にはどこか軽妙なBGMが流れていたけれど、それが耳に入らなく鳴ったのだ。
聞こえてくるのは、私の声と、こちらが確認を取る度に、どうぞと促してくれるキリカちゃんの声だけ。
そうして、ようやくひとつの答えに、私は行き着くこととなる。
「――これで……攻撃します」
「……んー」
手札を少しだけ眺めて、難しそうなキリカちゃんの顔、まだ何かあるのだろうか。こちらはこれが最適解だと思うし、それを防がれるなら、きっと負け。
そんな一瞬で、たとえアイカさんがこのターンで勝てるといったとしても、私は息を呑まざるをえない。だって、私にはまだ答えが見つからないのだから。
沈黙は一秒くらいの――けれども決して短くはない――間を開けて、キリカちゃんの言葉が答えとなる。
「――――参りました」
端的で、まったくもって装飾のない、簡単な言葉。
でも、だからこそ解る、持っていた手札を放り投げて、諦めたように目を閉じるキリカちゃんの様子は、それを雄弁に語っていた。
……勝ったのだ。ほとんど、ルールを覚えてまず緒戦、勝てる見込みなんてまったくもって見えていなかったというのに。
勝ってしまった。勝ててしまうのだ、私が。
ぱぁっと、晴れやかな笑みはきっと誤魔化すことは出来ず……
「やった!」
思わず、そう喜んでしまうのは無理の無いこと、のはずだ。
「うぇー、負けたぁ……でも、うん、始めてなのにいい感じでしたよ、センパイ!」
「そうね、筋がいいというか、飲み込みが早いというか。そういうの、なんていうかその……好印象よ?」
「んもう、相変わらずアイカセンパイは言葉選び下手なんですからー」
「なんですってぇ!?」
机の向こう側は、なんだかがやがやと騒がしさを増してしまった。まだ人はほとんど来ていないようだからいいものの、店に迷惑ではないかと少し思わなくもない。
とはいえ、口を出すには少しばかりの勇気がいるわけで、私はそれをできず、あてもなく視線を周囲に向けてみる。
――と、
「おう、お疲れさん」
店の奥から、再び高橋くんが顔を出した。何だかそうやって言ってくれると照れくさい、ありがとう、とそっけなくはあるけれど返してしまう。
「どうだった?」
「楽しかったよ?」
その質問には、素直に答えることができた。嘘はないし、ためらいもないから、気が楽だ。
「そうか。まぁ、何にせよまずは楽しいと思うことが大切なんだ。ここで難しいとか面倒とか、そう感じたらたとえ始めてもさほど長く続かない。その点――」
ちらりとそう言って高橋くんは目を向ける。
その先には苦々しげに唇を噛むアイカさんと、それを楽しげにからかうキリカちゃん。長い付き合いだろうから、まったくもって遠慮がない。見れば高橋くんはやれやれと嘆息気味だが、彼はそういう立ち位置なのだろう。
お疲れ様だ。
「――あいつらが見てくれて助かったよ。俺だって別に物を教えるというのが苦手というわけではないが……異性よりも同性のほうが親しみやすいのは事実だろう」
「あー……それはそうかもね。うん、高橋くんが悪い人ってことはないだろうし、信用もしてるけど……そこは良し悪しかな」
別にどっちでもいいといえばいい。というか、一長一短だと思うけれど、まぁ、アイカさんもキリカちゃんも親しみやすいし、高橋くんはなんというか、スパルタそうだし。
「センパイの場合直ぐに話が脱線してそうですよねー。何で<遊戯王>教えてるのに<MTG>になってるんだろう、みたいな!」
「それはあるわね。こいつのTCGキチっぷりはヤバイんだから。気をつけなさい」
まぁ、確かにというか、あまり専門用語の多すぎる説明っていうのは、素人には解りにくいものだ。その点、それなりに高橋くんは配慮してくれてたけれど、だからと言って完全に封を出来ていたかといえば、別にそうでもではないわけで。
「別にいいだろう。そもそも、それを言ったら説明なんてできっこないアイカみたいなのも居るじゃないか。この場合、俺かキリカか、別にどっちでもいいだろうがよ」
「何よ、随分失礼なことを言ってくれるじゃない」
「否定出来ないからそう思うだけだろ。もう少しコミュニケーションを何とかしろ、おまえの場合黙っていても人生回せそうだが、それじゃいかんだろう」
やいのやいのと、アイカさんと高橋くんが言い合いをする。クスクスとキリカちゃんは楽しそうだ。私も、何だかおかしくて笑ってしまう。
「もう! 貴方まで何よ」
「何、というか……別に、というか……」
愛想笑いでもないけれど、おかしくて笑っても、おかしいと思う理由は見つからない。ただこう、なんというか……居心地がいい、ずっとこうしていたくなる……ような?
「ははは、<デュエル>するにしても、一回一回はそれなりに時間が掛かる。――が、その間時間を意識することはない。気がつけば二時間三時間なんてこともザラにある。そういうことだな」
言って、高橋くんはまたカウンターの方へ戻っていってしまった。ちょうど他のお客さんもやってきたのだ。見れば大分時間も経って、人が来るようになるとすればそろそろなのかもしれない。
だったら邪魔をしても悪いと私は意識をそちらから外す。
ちょうど、アイカさんがこちらに意識を向けたようだった。
「よし、決めたわ。キリカ、変わりなさい。そこの失礼さんを私が倒して差し上げる……!」
「了解しましたー。それにしてもアイカセンパイ興奮して口調がおかしくなってますわぞ。……学校だといつもこんな感じなんですかねー」
……たしかに、今のアイカさんはちょっとプライドが高いお嬢様みたいだ。これまでの様子を見ると、どうにも詐欺のような気がしてならないけれど。初対面の時もそうだけれど、とてつもない威圧感がこちらを襲う。
「さぁ、始めるわ。うふふ、目にもの見せてあげようかしら」
思わず息を呑むほど強烈な瞳、それゆえにここがカードショップであるという一点がゆえにシュールすぎてシュールすぎて、笑いを噛み殺しながらもなんとか、私はアイカさんとのデュエルを始めるのだった。
◆
「――――ただいまぁー」
店の扉が開かれて、いらっしゃいませと呼びかけようとした俺の声を遮るように、それは響いた。どこか間延びするような、聞いていて力の抜けてしまう声。
特徴的であるが故か、ストレージでカードを漁っている少年――おそらくは中学生、見慣れていないので初心者か――が顔を向けて、そして硬直する。
さもありなん、今フリースペースで何やらかしましくデュエルをしている面子もそれ相応の容姿だが、彼女のそれは別格だ。――隔絶した美、というのは、基本的にその人物を映像の向こう側に追い込むものだ。その人は、そこにいていながら、どこか遠い。浮世離れした本人の気性もあるのだろうけれど。
――猫宮美由紀、このカードショップ「ねこのみー」の店主。二十代半ばの、長身の美女。ふんわりとウェーブがかったブロンド髪と、おっとりとした顔立ち。チェックのブラウスとジーンズという、どこかラフな服装も、その美貌ゆえにしっくりと来る。そんな人。まぁなんというか、あの少年――惚れたな。
彼女のおかげでキリカやアイカが通いやすいというのも、このショップのいいところ。本人はどこか抜けているようで、抜け目はない。おっとり系だけどしたたか、というのが長い付き合いでの印象か。
「お待たせぇ、一人で任せちゃってごめんねぇ、ありがと」
俺にそう声をかけて、ゆっくりとこちらに近寄ってくる。しばらく店を開けるからと任されたわけだが、まぁどうということはない。
「いえいえ、そんなに大変じゃありませんでしたし、どうってことないですよ。……あぁそうそう、ウチの学校の同級生なんですけどね――ほら」
とはいえ、何もなかったかといえばそんなことはない。
むしろ、彼女の存在は、カードショップでの出来事としては、かなり特徴的なことであろう。
俺が目を向けた先に、キリカ達と遊ぶ遊河峰の姿、つまるところ新しい<デュエリスト>、身も蓋もない言い方をすれば新しい常連候補か。
対して猫宮さんはまぁ、と楽しげに声を上げて手を重ねる。ニコニコと楽しげな顔で、やるじゃないと肩をたたいた。
「隅に置けないわねっ」
「別にそういうわけじゃないんですけどね」
苦笑する。確かに女性のTCGプレイヤーというのは珍しいけれど、別に俺が理由というわけじゃないだろう。そも、俺と遊河峰は学校ではほとんど接点はないわけで。向こうも俺がここでアルバイトをしているなんて知らなかったのだし。
「でもお手柄よぉ。新しくカードを買いに来る人ならいっぱいいるけど、ウチでカードを買って始めようって人、いつ以来だったかしら」
「俺の知る限りでは……始めてじゃないですか? そもそも、興味があってふらりと立ち寄ったっていうシチュエーションがまず稀有ですし」
――別のカードゲームをしていたり、友人から誘われて、その際に何枚かカードを受け取っていたりと、興味があって、けれどもまったくカードを持っていないという人間も珍しいだろう。
もっと言えば、始めて直ぐに仲間に恵まれる事のほうが、稀で幸運なことなわけだけれど。
「彼女、どんなプレイヤーになるかしらねぇ……直ぐにやめちゃうってことも、なさそうでしょ?」
「そうですね、楽しそうですし。あんまりアイツのことは知らないですけど、飽きっぽいっていうイメージもないですから」
――視線の向こうで、アイカと楽しげにゲームをする遊河峰がいる。笑顔が絶えず、時折難しい顔をするけれど、それを全く苦にしていない。楽しくカードができるなら、それはとてもよいことなのだ。
「アイカみたいに勝つことにこだわるか――はたまた、キリカみたいなこだわりを持つようになるか。何にせよ、それはアイツの経験次第ですよね。……俺としては、そこに興味があります」
「貴方らしいわねぇー。まずは、カードを楽しむことを覚えて欲しいものだけど」
そうですね、と首肯する。
TCGプレイヤーにも種類がある。それは、アイカとキリカというお互い長い付き合いの幼馴染が、全く違う趣向を持つことからも察することができるが、プレイヤーの趣味趣向は本当に多岐にわたる。対人の趣味なのだから、それも当然といったところか。
「んー」
――と、何やら猫宮さんが思案顔で首をかしげる。思わず見とれてしまいそうな仕草だが、はて、一体何があるというのだろうか。
考えていると、
「あ、あの……すみません」
声、幼い声だ。見れば例の中学生が、おずおずとストレージのカードを差し出している。更に視線を後ろへ向けて――
「ケースのカードを、その」
「はい、かしこまりました。少々お待ちください――」
俺が承って、店のカウンターの下から鍵を取り出そうとした所、「ちょっと待って」と横からそれを遮る声がした。
猫宮さんのものだ。
「私がやるわぁ、高橋くんはもう上がって貰っていいわよ。随分任せきりだったし……ほら、あの娘の所言ってあげたほうがいいんじゃないかしら」
「……なるほど」
確かに、いうことは最もだ。既に時刻は五時を回って、大分俺も働き詰めである。カウンターの前に立ち続けているわけでもなし、疲れるということもないが、普段の労働時間から考えれば十分な頃合いだ。
とすれば、実際猫宮さんの提案はありがたい事この上ない。
まぁ、
「……別に、付き合ってるわけじゃないですって」
苦笑いしながらそう返して、それではと俺はその場を離れる。――一人取り残されドギマギしている少年には、ある種合掌を向けながら。
軽く後片付けをして、デッキを店の奥から持ち出してくる。相も変わらず楽しげな連中に、躊躇うことなく声をかける。
「おい、俺も混ぜてくれよ」
「そこはデュエルしろよじゃないんですかー!」
賑やかしい仲間とともに――一日は、楽しげな思い出を残して過ぎてゆく。