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四十枚のデッキを、八枚の束に、音もなく振り分けていく。一度、そして二度。その度に心臓は同じタイミングで音を跳ね、やがてそれを終え、幾度と無くデッキをシャッフルする。
静かな時間だ。他のプレイヤーも今はデッキをシャッフルしている最中、ただ、どうにもこちらに視線を感じるのは、きっと気のせいではないはずだ。
しかし、それにしたって、目の前には高橋くんがいるのだ。私の視界に映るのは彼だけで――それはいうなれば、恋する乙女のようだけれど、今の私の心境は、どちらかと言えば親の敵を見つけた復讐鬼のようだ。なんとも物騒な話だが、私に似つかわしくないほど、今は高橋くんしか見えていない。
「……なんだか、不思議な気分だよ」
「そうか?」
言葉とともに、高橋くんにデッキを渡す。
数束にデッキを分けて、互いにカットをする。
「だってそうでしょ? 最初に見た高橋くんは、すごく遠くにいるんだもん。私とは別世界にいる、強いのはあっちなんだって、そう思っちゃてた」
「……それは思い込みだよ。どうしようもなくお互いを隔てる、おおきな思い込みの壁だ」
言いながら、高橋くんは私にデッキを返してくれる。それを、私は一拍だけおいて――手を伸ばす。
「うん、知ってる」
言葉はそれだけで、お互いにデッキを受け取って、手札に変える。五枚のカードはよどみなく、私の手の中に収まった。
さぁ、声は一言でいい。ゆっくりと、高らかにそれを謳いあげ――
「――<デュエル>!」
声は、静かに、けれども確かに店内に響いて。
私の――今日、最後の決闘が始まった。
◆
一戦目、先行は高橋くんだ。
「――俺は<マスマティシャン>を召喚」
「どうぞ」
「――効果で<シャドール・ヘッジホッグ>を墓地、何もなければ<ビースト>をサーチするが」
ありません、と手を差し出して示す。今のところ、手札に妨害札はない、先行は、好き勝手させるほかないということだ。
高橋くんの一ターン目が終わる。高橋くんのデッキは<シャドール>だから、本番はここからだ――伏せが二枚、<ビースト>をサーチしたということは、おそらくそういうことで……さて。
ここからだ。
「……私のターン、ドロー」
そして、スタンバイ、メイン。……さて、どうしようかな。一度息を吸って、吐く。
「最初は――――」
まずは、一歩から。決闘は、あくまで静かに、進行していく。
戦況は概ね私が有利と言ってよかった。最初の高橋くんの一手、案の定それは<エルシャドール・フュージョン>での速攻融合。マスマティシャンを守る形で呼び出された<エルシャドール・シェキナーガ>を、私が<トライヴェール>で処理、アドバンテージの上で優位にたった。
一度、有利な状況を整えてしまえば、カウンターが多いのは<テラナイト>の強みだ。……ぶっちゃけ、それは最近のデッキ、いわゆる<九期>テーマ全てに言える気がするのは、まぁ気のせいだと思う。
カウンターのトラップに<インフィニティ>、守りが強いデッキではあると思うのだけれど。
「……<シャドール・ネフィリム>で<インフィニティ>を攻撃」
……それは防げませんよ?
完全にうまく処理された。高橋くんは、こっちの想定していることを軽く上をいかれてしまう、一体何をすれば勝てるというのだろう。……考えられるのは、やはり物量という選択肢だろうか。
全てにおいて、高橋くんが私の上を行くかのような感覚。
それは、今も私が高橋くんに、届いていないということなのだろうか。ううん、そんなことはない。
高橋くんは、あらゆるTCGに精通するプレイヤーで、だからこそあらゆるゲームにおいていやでも強い。そんな姿に私は、憧れに近いものを抱かざるを得なかった。どうしても遠く感じられる。
私にとっての原点がそこなのだ。私にとっての思いがそこに在るのだ。願いが幾らでも向いているのだ。
だから、だから、
――どうしても。
けれど、しかし。
だからこそ、それをまっすぐそれを見たいと思った。きっとだから――
「……<デルタテロス>で、<ネフィリム>を破壊、何か――ありますか?」
これが通れば、ダイレクトアタックにより一セット目の勝負がつく。しかし、そんなにうまくいくものだろうか、まったくもってそんな気はしない。それはアイカさんとやったときとは別の感覚。
アレは勝利することに多大なプレッシャーのかかるそれ。しかしこれは、全く決着のつく気がしない展開だ。つまり、高橋くんの底が見えてこない。私は――ただ闇の中へと入り込んでいくしかないのだ。
それは、余りにも難しい話で、余りにも遠い話で。私にはもう一生、そんな機会は訪れないと思ってしまうような、そんな――
けれども、
「……ありません」
高橋くんは、目を伏せてそう言って――私のダイレクトアタックが、次に決まった。
……そっか。
そうなんだ。納得してしまう、どうしたって、こんなの、納得しなくてはいけないではないか。一セット目、私がまず勝利した。それはあまりにもあっけなく、けれども意外すぎるものではあったけれど。
――一つ、明確な事実がそこにあった。
勝利ではない。
そんなものはそもそも確認するまでもない、明確ですらない。
確実なのは、もっと別の一点にある。それは私にとって、どうしようもなく嬉しく思えることなのだ。目を細める、なんだかそれは誰かの祝福のような気がして。
そして――
◆
一セット目を遊河峰が先取した。
素直にそれは、賞賛するべきことだろう。俺のプレイングにミスはなかった。単純に、プレイングだけでは追いつけない状況に、追い込まれただけのこと。手札の問題もある、可能性の段階で切り捨てなければ行けなかった手を、相手が打ってくることもある。
特に後者の場合は、そのままずるずるとこちらのヴィジョンが乱されて、敗北することは珍しくもない。時にはこちらのプレイングを完全に上回るプレイングで、敗北するときだってある。
俺だって絶対じゃないのだ、一度の敗北は、決して偶然ではないのである。
だがしかし、俺はそれを偶然にする必要があった。この二セット目、反撃に転じ、遊河峰を追い詰める。
サイドデッキの構築がうまくいったというのもあるだろう、終始優位なメタを貼り続けた俺が、二戦目を勝利することができた。
――この段階で、俺達とは別に現在全勝であった三人目、階段となっていた奴が二セットを連続で奪われ敗北、階段が崩れた。
何が言いたいかと言えば、次の三セット目に勝った方が、この大会の優勝者となるのである。
この大会における遊河峰との最後の対決、間違いなくお互いの全てをぶつけあうことになる。気を抜ける瞬間など、ありはしないだろう。
遊河峰は本当に強くなった。初めてまだ一ヶ月程度の初心者とは思えないくらい、信じられないほど強くなった。それは遊河峰と常日頃から<デュエル>して、引っ張り続けたアイカやキリカの尽力はあるだろう。だが何よりも、遊河峰自身がそれを望み、ここまで強くなってきたのだ。
だからこそ、それに答えてやらなければならないといえる。遊河峰に、面倒な問いを投げかけた張本人として、その責任を取るために。
「……先行もらいます」
少し大きく息を吐いてから、遊河峰はそう宣言した。それまで、連続で後攻を選ばざるを得なかった遊河峰が、初めて先行を選択する。
そうして迎えた第一ターン、スタンバイ、メインと静かに遊河峰は宣言するのであった。
「ターンエンドです」
「……俺のターン、ドロー、スタンバイ、メイン」
続いて回ってきたこちらのターン、少しばかり思考して――一手目は、どれだけ考えても変わらなかった。
「ターンエンド」
「じゃあ、ドロー、スタンバイ、メイン」
こちらが向こうの手を崩し、逆に守りを固めた状態でターンを渡す。それに対し、遊河峰は何やら考え事を始めた。少し考えます、とこちらに告げて、手札のカードをああでもない、こうでもないと何度もいじり回す。
やがてそれも数十秒が過ぎると、おずおずとした様子で、一枚のカードを選んでみせた。
そうやって、遊河峰は選択したのだ。けれども、どうにも釈然としない顔で、まだ正解はあったのではないかと、考えながらもプレイを続けている。
……途中、ミスがひとつあった。俺はそのミスに対して何もすることはできなかったが、もしもそれに対する対抗札が握られていれば、遊河峰のプレイは、たった一つのミスで瓦解することとなる。
遊河峰の戦いは、それほど危ういものだった。しかし、結局俺はそれに何もすることができなかったのだ。――どうやら、少なくとも勝負運というものに関しては、遊河峰は完全にこちらよりも上らしい。
そして――
「……ターン、エンド」
ふぅ、とその後に一息がついた。危うい橋を渡りきり、ここで一度こちらにターンが渡ったのだ。完全にこちらのフィールドは焦土とかしている。手札は潤沢故、まだまだ切り返せる部類だが、さて――相手の布陣、きな臭いにも程が有る。
だが、同時にそれは面白くも在る。ロジックを完成させるのだ、この状況を、完全に一つの鏡に透かす。時には強引に、伏せられた札を引き剥がすのも良いだろう。
幾らでもやれることは在る。
俺は、ドロー、と宣言をしながらも、そのパズルの中へと、埋没していくのであった。
やがて、状況は一つの形に終息する。ターンエンドと俺は宣言した。この時点で、俺の伏せカード、<虚無空間>が一枚、フィールドには<エルシャドール・シェキナーガ>、手札には<シェキナーガ>で使用するための<シャドール・ヘッジホッグ>が一枚。
戦局は決定的になりつつあった。今のところ、遊河峰のフィールドは壊滅している。それを立て直せる機会は、手札の枚数、伏せの枚数から考えてあと一度。
それを俺が防ぎきれば、後は向こうをジリジリと削りきって、この<デュエル>に決着がつく。既に多くのエクシーズを使い切った遊河峰が取れる手段は少ない。既に俺の予測の中には、幾つもの決着のパターンが生まれていた。
そして、その全てにおいて、俺の勝利という結論が、導き出されているのである。
「……私の、ターン。ドロー」
遊河峰が宣言した。これでもう、こいつは前に進むしかない。手札を確認し――残された遊河峰の手札はこれを合わせて二枚、一枚はさきほどサーチした<アルタイル>だ――大きく深呼吸をする。
ここで決めると、そう心に決めた顔だった。
まずは一手目として、こいつは<サイクロン>を使用した。俺の<虚無空間>が破壊され、これで伏せは完全になくなる。
「私は、<アルタイル>を召喚、効果で<デネブ>を特殊召喚、<デネブ>の特殊召喚時の効果は使用しません」
さて、これでレベル4のモンスターが二体。……来るぞ、俺。
「二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築」
――そこで、ふと、思い立った。
そういえば、こいつのプレイングは、多少のミスこそあるものの、かなり完璧な部類ではないか?
なぜ、そんなことを思い浮かぶ? 必要ないだろう、いまさら。関係ないだろう、どうだって。
だというのになぜだか心にこびりつくそれを、俺は少しだけ、拭う。
そうして、気がついてしまった。
こいつは、一体何時<テラナイト>を組んだというのだ?
思い当たるのは先週の土曜、となり町の駅でばったり遊河峰およびキリカと出会った時のこと。あいつは何かを思い浮かんだ様子で声を漏らしていた。あの時に、<テラナイト>を使い、こちらの予想を外そうと思いついた。それが普通ではないか?
――否、違う。それでは余りに“早すぎる”。練習の期間すらない。そもそも大会でぶっつけ本番で新デッキを使ったところで、プレイングはボロボロ、そもそも最初のアイカとの戦いに、一セットも取ることはできないだろう。
だからこいつは、間違いなくどこかで<テラナイト>をテストプレイしていたということになる。それも、一人回しではなく、対人で実際に運用しながら。
つまり、それは――
「なぁ、ちょっといいか?」
「……何?」
「お前、<テラナイト>を使い始めたのは、いつだ?」
あぁ、と遊河峰は頷いて。
「――3週間前、かな」
それは、ちょうど3週間前と言えば。
遊河峰が、“初めて大会に参加した日”だ。そして、俺が遊河峰に問いかけを発したときでもある。だとするならば、こいつは――はじめから、はじめからこのつもりで、ここまで来たということか?
それならば納得が行く、先週あった時に、こいつは“テラナイトを使うために”となり町まで行っていたのだ。そして、その場でばったり俺やキリカと出くわした。だとすれば――だとすれば。
そうだ、だとすれば、“アレ”は一体何だというのだ?
「……続けるよ?」
「あ、あぁ、構わん」
俺はそう遊河峰に促して、直後――
「――――じゃあ、私は<クレイジー・ボックス>を召喚するね」
――完全に、思考が停止することとなる。
◆
「……なるほど、考えたわね」
既に自身のマッチを終わらせたキリカちゃんとアイカさん、二人は遠巻きに私達の戦いを眺めながら、関心した様子で頷いた。
「センパイの最大の弱点。それはすなわち不確定要素、つまり運ですね。それが在るために、どれだけプレイングがよくっても、負けることは幾らでもあります」
「今回の場合、<クレイジー・ボックス>というのが巧いわね。こいつは、これで絶対に迷わなくちゃいけなくなった」
<クレイジー・ボックス>は、効果を使用した際にダイスを用い、ダイスの目によって効果を決定する特殊なモンスター。私が一週間前に考えた対高橋くんへの切り札で、<テラナイト>を使うことと同様に、完全にあちらの思惑を外すことを念頭としたカードだ。
その特性上、高橋くんは考えざるを得なくなる。
つまり、<エルシャドール・シェキナーガ>で<クレイジー・ボックス>の効果を止めるか否か。
<クレイジー・ボックス>は攻撃ができない。そもそも最初から<アルタイル>の制約でどうしたって<テラナイト>で攻撃しないといけない。
つまり、このターンで勝つためならば、絶対に次の一手が必要になるのだ。だから<シェキナーガ>はここで絶対に自身の効果は使えない。使ってしまえばもう、効果を無効にすることができなくなる。
だが、そのためには<クレイジー・ボックス>の効果を使わせ無くてはならない。この状況からどうあっても、<クレイジー・ボックス>の効果で<シェキナーガ>を破壊しない場合に、状況を打破する方法はない。しかし、もしもそれを畏れて<クレイジー・ボックス>に効果を使ってしまえば、間違いなく状況は不利になる。
今にも頭を抱えてしまいそうな状況で、高橋くんは、ひたすら思考の中に沈んでいった。
「……<クレイジー・ボックス>、効果発動!」
オーバーレイユニットを一つ使い、ダイスを振る。その結果次第で、この戦いの行く末は決定される。引かなくてはならない目はひとつだけ――六分の一、明らかに、分の悪すぎる賭けといえた。
しかし、コレ以外に勝利への筋道はなく、またコレ以外で、高橋くんと決着をつけるつもりはない。
さぁ、これが最後の勝負――どうする、高橋くん。
「……何も、ありません」
高橋くんが選んだのは、六分の一の勝負であった。これでもう、後戻りはできない。――私の取り出したダイスに、観念したと言った様子で高橋くんは肩をすくめた。
ゆっくりとダイスを手の中で振る。
――これが、私のやってきた高橋くんを越えたいという想いの終着点。どうか、神様が見ていてくれるなら、――どうか、お願いします。
私に勝利を、そして、確かな答えをください。
思いを込めてダイスを振る――甲高い音をたてて、ダイスはゆっくりと転がっていった。私の手元を離れたそれは高橋くんの元へと向かい――――
――止まる。
出た目の数字は――――「5」、これにより適用される効果は、相手のカードを破壊する効果。
勝敗は、決した。――私の最後のカード、<リビングデッド>を高橋くんが防ぐ術はなく、大会は、私の勝利で幕を閉じることとなる――――
◆
外は、大分雪の足音を小さくしていた。
既に歩いて帰るにはほとんど困らないような空模様、アイカさんは送ってくれるといったが、私の家はここからそんなに遠くない。遠慮しておくことにした。
キリカちゃんにアイカさん、二人と別れて私は、カードショップ「ねこのみー」の裏、狭い路地に足を運んでいた。
そこでは数匹の猫が、のんびりとくつろいだ様子でいる。どれも野良猫だが、実質的に猫宮さんが面倒を見ている、半飼い猫のような猫だ。帰りにこの子達を愛でて帰ることも少なくない。
今日は、そこに先客がいた。
まったくもって珍しいことではないが――そこにいる人物は、私にとって意外な人だった。
つまりは、高橋くん。彼が、猫を眺めてぼんやりとそこに佇んでいる。
「……来たか」
人の気配に振り向いたらしい彼が私を見ると、そんなことを呟いた。曰く、今日はここに来ると思ったから、と。
「待っててくれたの?」
「いや、せっかくだし猫を愛でようかと思ってな、そのついででもある」
「……そっか」
私は頷いて、腰を下ろす。ぼんやりとした人懐っこい猫を撫で回しながら、その場の空気に身を任せるのだ。
ここは店の外でありながら、店の中の穏やかな空気をそのまま醸し出している。ここでなら、私も落ち着けるというものだ。
「――聞かせてもらえるか」
そんな時に、高橋くんが声をかけてきた。
……確かな言葉で聞かせて欲しい、そうやって、高橋くんはこちらを見ているのであった。
「……そう、だね」
既に私の中で答えは出ている。けれども、それを高橋くんに伝えないわけにはいかないだろう。意を決して、私は猫から手を離し、立ち上がる。
正面から、高橋くんを見つめ返した。
「始まりは、憧れだった。なんとなく面白そうだと思った。……本当だったら、それで終わりのはずだったんだと思う。だけど、私はそこから少しだけ前に進んで、カードのことについて調べてみた。そして――ここ、『ねこのみー』の存在をしったの」
……でも、
「だけどね、本当ならそれ以上は続かないはずだったんだ。興味も憧れも、きっとそのままでおしまい。何かに熱中するには、今ひとつ理由として弱いからね」
「それは……確かに、そうかもしれないな」
――例えば憧れは、“なんとかになりたい”という願いの原動力になる。だけれども、“何かを初めて見たい”という願いの燃料としては、いまいちな面がある。
だから、もう一つ、私には何かが必要だった。
「――それが、高橋くんだったんだよ」
その言葉に、少しだけ高橋くんは目を見開く。それから「そうか」と少しだけ嬉しげに目をそらし、頬をかく。うん、何だかその姿は高橋くんらしくないが、可愛らしい。
ともあれ、続ける。
「高橋くんが教えてくれたから。高橋くんが私を誘ってくれたから――だから、今の私がここにある」
思っても見れば、人生においてこんなにも楽しいと思うことは殆どなかった。
何もかもが、適当で済まされてしまうような人生だったから――心の何処かで、それを諦めてしまっていたから。
でも、それが今では、充実としか言えないほどに変化している。ああそうだ、私はそれが嬉しくて仕方がない。
そしてきっと――
――それが、私にとっての結論になる。
ゆっくりと口を開いて、それを、形にするのだ。
「……私は、恩返しがしたかったんだよ。素敵なことを教えてくれた、高橋くんに」
私は、今が楽しい。ありがとう、教えてくれてありがとう。
だからその御礼がしたい、今の私の姿を見て欲しい。それが私の結論で、だとすればきっと、私のなりたかった姿は、つまり。
「……お前は、俺を驚かせるプレイヤーに、なりたかったのか」
高橋くんが、そう答える。
否定はない、私は即座に頷いた。
「……そうか」
それに高橋くんも納得したようにして――
「なら、次は負けないよ。次は俺が、お前を驚かせてやる番だ」
「……ふふ、楽しみにしてる」
そうやって、私達は笑い合う。
それは、冬の空に笑い合う、私達の物語。
始まりはかくして終わりを告げて、空を見上げると、もう既に雪の影はなく、雲の切れ間に、晴れ晴れとした青の空が見え隠れしている――――