IS【繰り返される世界から】   作:駄菓子

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第9話

いつまでたっても衝撃という衝撃が来ない。

一瞬で死んだから痛みもなかったのかな、なんて思ったけどそれにしては全く変わらない感覚に違和感を覚える。

 

「...............?」

 

恐る恐る目を開いてみると目の前には巨大な盾を構えた白銀のISが視界いっぱいに映る。

そのISは千冬さんから聞かされていた、当初の襲撃してくるかもしれないと言われたIS。

でも、その姿は襲撃してきたというより、アタシを守ってくれているかのようで。

 

“んふふ。君って強いねぇ。束さん気に入っちゃったよー”

 

「篠ノ之、束博士...............?」

 

予備エネルギーまで使ったせいで回線を開くこともできないはずなのに、何故か何事もなく回線が開いていた。

回線を開いてきたのは、あの篠ノ之博士。

 

“らぶりー束さんだよん!無人機を1機落とした貴方に束さんからのプレゼント!そこまでの実力を持ってるのにここで死ぬのはもったいない!というわけで助けてあげる。ただしそこから動かないでね?流れ弾に当たるかもしれないから”

 

「分かり、ました...............?」

 

“ぶー!そんな敬語なんてそんなくだらない。フレンドリーに話してくれないと束さんぷんぷんだお!ま、取り敢えず無人機邪魔だからさっさと壊しちゃって”

 

機械特有のパターンさえ読んでしまえばなんてことはないけど、1機ですら十分脅威な無人機を邪魔だからという理由でなんてありえないと思ったけれど。

目の前の白銀のISはまさしくゴミを払うかのように撃破してしまった。

たった2発のスナイパーライフルを使って、しかも一歩も動くことなく。

 

“さて、邪魔者も消えたことだし、なんて言いたいとこだけどまた余計なのが来たのか。全くこれじゃゆっくりとお話もできやしない”

 

「今すぐISの展開を止めて投降してください!幾ら貴方でもこの数を相手にするのは厳しいはずです!」

 

ようやく到着した増援の教員部隊。

単騎のISには過剰戦力差とも言える数だけど、何故かアタシの本能が告げる。

この数でも白銀のISの操縦者は圧倒するって。

寧ろ前回のは半分の力も出していなかったのかもしれない。

それを思わせるほどに目の前のISは途方もない、圧倒的な違和感と悪寒を覚える。

 

“全く学習してもらいたいんだけどなぁ。この程度の数でも無理だし襲撃してきたわけじゃないっていうのにね?君ならわかるでしょ?”

 

こくりとアタシはうなづく。

 

“うんうん。もの分かりの良い子は束さんは好きだよ?ねぇ、本当は無理だってわかってるんじゃないの。管制室にいる織斑千冬?”

 

“束、何しに来た...............!”

 

地獄から響いてきたかのような千冬さんの声。

今まで聞いたことがないくらい、それほどまでに怒気を含んだそれはアタシを震え上がらせる。

 

“んーべっつにー?ここで死ぬには惜しい人材を助けただけだし。束さんが来なかったらこの子死んでたんだから感謝して欲しいんだけど”

 

“誰が貴様に感謝などするものか。前回のあの時散々荒し回っておいて何を偉そうに”

 

“はぁ、やっぱりそう来るか。お前は何がしたい訳?生徒の一人も守れないで何が教師だよ?”

 

“分かってるさ。私は教師失格だってことはな。だがな、今の私はやるべきことをするだけ。一度しか言わない、そのIS操縦者は何者で目的は何だ”

 

“えっらそうに上から目線?人に者を頼む時は下から出ろって言わ教わんなかった?”

 

“貴様に下手に出る必要などない”

 

“あっそ。お前がそう出るなら答えてやらない。...............そう言いたいけど、今日は気分がいいから特別に教えてあげる”

 

嫌な予感が身体中を駆け巡った。

 

“亡国企業殲滅作戦。3年前に起きたあの作戦にお前も参加していたよね?その時、生身でお前に立ちふさがった高校生ほどの少女。の後ろに両腕を引っ張られながら、叫んでいた男のこと覚えてる?いや、忘れたとは言わせない”

 

“...............忘れる訳がないだろうが。幾ら犯罪者とはいえ殺した人間の顔を忘れるほど落ちぶれてなどいない”

 

“んふ。良かった良かった。忘れていたなんて言ったらIS学園を更地にしてやろうと思ってたけど、杞憂だったみたいだね。じゃあ改めて聞くね?”

 

ニヤリと邪悪に博士の顔が歪む。

 

“その男さ?何だか"織斑一夏"に似てたと思わない?”

 

“ッ!?”

 

驚愕に染まる千冬さんの顔。

アタシも唐突に出された一夏さんの名前に驚きを隠せない。

一夏さんは墜落事故で死んではいなくて、亡国企業に所属していた?

 

“でさ、立ちふさがった少女に向けてさ、叫んでいたよね?マドカ!マドカって。どういうことだか分かる?分からないだろうから親切に教えてあげよ。お前は自分の大切な義弟の恋人を目の前で殺したんだよ。その少女のお腹の中には小さな命だって宿っていたのにね”

 

“ーーーーー!!!??”

 

もはや声ですらない千冬さんの悲鳴が回線越しに聞こえた。

もう、頭がおかしくなりそうなくらい、次々と突きつけられた事実に処理が追いつかない。

一夏さんにはマドカという恋人がいた。

でもその人は3年の作戦で目の前で殺された?

お腹には命が、赤ちゃんが宿っていたのに?

 

“でさ、その時は考えもしなかったろうけど、目の前で愛おしい人を殺されて呆然となるいっくんに向けてさ、容赦なくライフルを撃ちこんだよね?崖に落ちていくのを見届けてたの見てたんだから。今でも思い出せるよ、ゴミでも見ているかのような目で眺めてたもんね”

 

一拍おいて続けられるその言葉は。

 

“ねぇ?人殺し。恩を仇で返したんだよお前は”

 

トドメを刺すのには十分すぎた。

 

 

 

 

 

 

「やぁ、久しぶりだね。箒ちゃん」

 

「...............姉さん!?どうしてここに!」

 

十夏は未だ目を覚まさないために、静かな自室で待機を命ぜられていた。

十夏が意識不明になった時と同じような、爆発が起こり、まるでそれを予測していたかのような避難誘導に疑問を抱くものの、私のような一般生徒には言われるままに動くしかない。

ただ、思うのは前回の事件に姉さんが関わっていると言う噂が本当なのかどうか。

もしそうだとするならば十夏をセシリアに大怪我を負わせたのは...............。

そう考えていた時に突然現れた姉さん。

驚かないわけがなかった。

 

「ぶー。久しぶりに会いたくなったからって理由はダメなの?いけずー」

 

鍵は閉めていたはずとは言わない。

この人はセキュリティなんて関係なく突破してしまうのだから。

 

「いえ、ダメってわけではないてすけど...............」

 

「もー!なんでそこまで他人行儀なのさ。血の繋がった家族なんだからフレンドリーにいこーよ。おねーちゃんって呼んでくれても構わないZ!」

 

「...............」

 

ぐっと親指を立てる姉さん。

決して嫌いというわけじゃないけれど、この独特の掴みづらい雰囲気がどうも苦手だ。

同じ親から生まれ育ったというのに、どうしてここまで違うのだろう?

 

「ほらほら!おねーちゃんって!なんだったらたばねちゃーんでもオッケー!」

 

両手を広げて待っている姉さんに、わたしは抱きつくのではなく言葉を突きつけた。

 

「...............姉さん。十夏が意識不明になったあの事件に、関わっていたというのは本当なのか?」

 

「箒ちゃんも知っていたんだね」

 

すうっと細められる姉さんの目をこれほどまでに強いと感じたことはない。

まるで蛇に睨まれたカエルのように体がすくみ、金縛りにあったように動くことができない。

怖い。

たったそれだけの感情が私を包み込んでいく。

 

「全部本当の事。束さんが織斑十夏をあそこまでしたのも、あのIS操縦者に襲撃させたのも私の所為」

 

「どうしてそんな事をする必要があったんだ。どうして、十夏が傷つく必要があったんだ...............?」

 

「本当なら教える必要ないって言いたいけど、箒ちゃんには教えてあげる。あのIS操縦者の願望を達成するため、全部必要な事なの。世界を壊すという意思を受け継いだあの人のね」

 

「世界を壊す?」

 

「そう。かつて救いのないこの世界に絶望しながらも、小さな幸せを手に入れる事が出来た男がいた。決して裕福ではなかったけれど、愛おしい人が隣で笑ってくれるだけで満足していたの。そしてその人のお腹には小さな命が宿った時、男に欲しいものなんてもうなかった。ささやかな祝福の中赤ん坊が生まれてくる。はずだった」

 

「はずだったって、まさか」

 

「うん。そのまさか。彼女は殺されたの。男の目の前でね。何もかもに絶望し、世界を壊すしてやるって。でも、それすらも叶わなかった。彼女を殺した奴に殺されたから。彼女もその男も、束さんにとってとても大切な人だった。だからこそ、その男の意思を受け継いだあの人と共に行動するの。だけどねあと一つだけ足りないものがある」

 

私の理解の範疇を超えた話にあっけにとられている隙に、姉さんはすうっと手を伸ばしてきた。

私の首元へ、と。

抵抗をする事も出来ず何かをつけられる。

 

「だから、箒ちゃんの助けがほしいんだ。協力してくれるよね?」

 

「いきなり協力しろって言われても!それに一体これは!?」

 

「ただの箒ちゃんの専用機「紅椿」だよ。」

 

「は!?ただのってそういうレベルじゃないでしょう!?」

 

「別にいいじゃないの。特別な事をしろっていうわけじゃなくて、普通に使ってくれればいい。つまり稼働データを集めてくれれば大丈夫。だけど、一つだけ忠告。それを無理やり外そうとすると、半径20メートル四方が吹き飛ぶから」

 

「ッ!?」

 

吹き飛ぶ。

その言葉は余りにも衝撃的で、恐怖に体が震える。

コレを外したら私は死ぬ?

現実感のない突きつけられた事実を信じたくなかった。

 

「お風呂の時とかを考えて防水だし、外そうとしない限りは爆発しないから。ごめんね箒ちゃん。こうまでしないと受け取ってくれないの束さんが一番知っていたから。本当にごめんね」

 

泣きそうな声で優しく私を抱きしめる姉さん。

それが何故か恐ろしく思ってしまった。

 

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