IS【繰り返される世界から】   作:駄菓子

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第10話

「どんだけ広いのよ、この病院は...............!」

 

走ってはいけないと叫ぶ看護師や医者の忠告を完璧に無視して十夏の病室へと急ぐ。

普通に歩いてもそんなにかからないはずなのにこうも長く感じるのは気が焦っている所為なのか。

十夏が目を覚ましたという一大ニュースを聞いて顔を見たくなったっていうのもある。

でも、それ以上に久々に日本に帰ってきた、今十夏の見舞いに来ている葵さんに確かめたいことがあった。

セシリアを通せば帰ってくるのを待たなくても確かめられたかもしれないけど、どうしてもアタシ自身から葵さん本人に聞きたかった。

ようやくたどり着いた、織斑十夏と名前の書かれた病室。

アタシは中にいるであろう2人の事を考えもせず、ただ思いっきりドアを開けた。

 

「聞いたとおりここにいたのね。葵さん」

 

「あぁ、凰様。お久しぶりですね。何か私にご用ですか?」

 

「り、鈴?なんでお前が。中国に帰ったんじゃないのかよ?」

 

相変わらず穏やかに微笑む葵さんと、予想していたとおり驚きに固まる十夏の姿。

左半分を包帯で巻かれた顔は痛々しいとは思うけれど、今は気にしていられない。

 

「久しぶりねねぼすけ十夏。悪いけど今はアンタにかまってらんないの。葵さんに用がある」

 

つかつかとベットに半身を起こす十夏を尻目に葵さんの目の前に立つ。

身長差があるせいでアタシからは見上げ、葵さんからは見下げる少々間抜けな構図。

 

「アンタ、亡国企業の人間だったってホントな訳?」

 

穏やかなその目は驚愕に見開かれ、そして細められた。

眉間にシワができていて、ついさっきまでの雰囲気はどこにもない。

まるで、何故それを知っているのかと、何故ばれたのかと思考を凝らしているようにも見えた。

 

「...............何故貴方がそのことを知っているのです?」

 

「そう聞くってことは、肯定ってことでいいのね?」

 

アタシの聞き出し方は少しまずかったかもしれないなんて思うけれど、言ってしまった以上仕方ない。

が、葵さんはそれを機にする様子もなく、深くため息をつくと首を縦に振った。

 

「またあのISがIS学園に来たことくらいは知ってるでしょ?その時に篠ノ之博士が言ったの。本当は口外禁止なんだけど、十夏には知る権利があるから」

 

「束様が?...............なんてことをしてくれたんだあの人は」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!鈴はさっきから亡国企業だの知る権利があるだのって何言ってんだよ?訳わかんねぇって」

 

「ん?あぁ、全く説明してなかったわ、ゴメンゴメン」

 

「...............鈴らしいけどさぁ」

 

本当はあともう一つだけ確かめたいことがあった。

でも、これは十夏もしっかりと現状を理解した上でないと混乱するばかりなのは目に見えてわかる。

だから、出来るだけ簡潔に省けるところはとことん省いて寝ている間に起きていたことを話す。

勿論まだ亡国企業殲滅作戦の真実の部分は話さずに。

 

「そんなことがあったのかよ?束さんが裏切って、とんでもなく強いIS操縦者が千冬姉を倒した?短い間にイベント多すぎたっての」

 

「全く、アタシも同意見よ。まぁ、その事件以降は何事もない平穏が続いてる分まだマシね」

 

「ははっ。寝てた俺が言える立場じゃないけどお疲れさんって言っとく。どうせこれだけ言うだけに来たんじゃないんだろ?俺に構わず続けてくれ」

 

「言われなくても。葵さん、遠慮なく聞かせてもらうわ。アンタは間違いなく亡国企業の人間だったのね?今はともかく」

 

「はい。その通りです」

 

「んじゃ、それを踏まえて問うわ。アンタ、織斑一夏って人に心当たりない?」

 

「っ!?ちょい待て鈴。なんでここで一夏兄の名前が出てくんだよ?5年前に墜落事故で死んだんじゃ」

 

それはホントのことじゃないみたいなのよ。

そう、アタシが言う前にその疑問に対して葵さんが口を開いた。

 

「そのことに関しましては私の方から話させていただきます。実際に同じ組織にいた者からの方が説明しやすいと思いますので」

 

「...............そうね。葵さんがあたし達の中では一番最近の一夏さんのこと知ってるもんね。良いわよね十夏?」

 

「おう」

 

釈然としないのか十夏はいつもより落ち着きがないように見える。

だけれど葵さんの話を聞くのが、ずっと背中を追いかけ続けた誰よりも敬愛する兄の真実を知ることが出来ると、心の奥底では理解しているのか大人しくしていた。

本当にブラコンなんだから。

 

「そうですね、まず話しておかなければいけないことは、5年前の飛行機墜落事故で一夏氏は亡くなっていないということですね。どういう理由で亡国企業に所属したのかは私も知りません。ただ、一夏氏が亡国企業のメンバーだったのは事実です」

 

「一夏さんって相当しぶとい人だったから、まぁ納得ね」

 

「医者にゴキブリ並だって言われてたな」

 

「確かに。てかゴキブリ並なのはあんたもでしょ」

 

「うっせ」

 

「実際に一夏氏は組織の中でもそう言われてましたよ。どんな任務でもボロボロになって瀕死になっても死ぬことだけはない奴だと。誰が言い出したのかゴキブリ並みにしぶとい野郎と言われていました。今思うと懐かしいものですね」

 

「やっぱりね。裏組織ってくらいだから危ないこともしているとは思ったけど、そこでも相変わらずか」

 

危ないっていうのはちょつしたミスが死につながりかねない戦場をかける兵士だったり、暗殺だったりっていう奴。

何平然としてるんだよとか言われそうだけど、一度本気で死ぬのを覚悟した身だからね。

まぁ、十夏は実際に何言ってんだよこいつという目で見てくるんだけどどうでも良い。

あとで説明してやれば問題ないし。

 

「相変わらずと言われてもよくわかりませんが、少なくとも誰からも好かれる優しい人でした。半年ほど仕事の都合でパートナーを組んでいましたが、あそこまで背中を任せられる人はいないと思います。何度も命を救われたこともあります。私の思い込みかもしれませんが、彼とは親友と呼べる仲でした。本当にそっくりですよ十夏様。貴方と話していると一夏氏を思い出します」

 

「そ、そうか?」

 

照れ臭そうにはにかむ十夏は葵さんが言うように一夏さんにそっくり。

でも、本当の十夏を知らない葵さんとは対照的に、内面をアタシは知っている。

それを知っている上でこの場面を見ていると素直に喜べそうにはない。

こいつは一夏さんの真似事をしているに過ぎないから。

でも、こんな時に言うのも野暮というし、アタシの心の中にとどめておく。

 

「あの時期は決して裕福でも安全とも言えない毎日でした。明日登る太陽を拝むことができるか分からない、それくらい不安定で常に死の危険にさらされている生活。それでもでも、一夏氏やかけがえのない仲間に囲まれた生活はとても幸せでした。これ以上に何も望まないからこの幸せが続くようにと願うほどに。ですか、あの日全てが終わりを告げました」

 

「亡国企業殲滅作戦、でしょ?」

 

「えぇ。当時の私はイギリス支部へと配属されていました。ですが、仕事の都合で日本の、一夏氏の支部へと訪れた時に巻き込まれました。その時ですら一夏氏は自らを省みず仲間を優先的に、私をも避難させていましたよ。最後の最後まで、彼の生涯のパートナーと共に」

 

「...............な、なぁ葵。一夏兄はどうなったんだよ?無事に脱出して今も生きてるのか?」

 

一夏さんは死んではいなかった。

その事実に目を輝かせていた十夏だけど、薄々感づいたことに不安を隠せず問いただしたというのが的確かもしれない。

何かを必死に堪えるような、そんな顔を十夏はしていた。

 

「...............残念ながら」

 

 

 

 

 

 

一夏兄は死んではいなかった。

ずっと5年間その後ろ姿を追いかけ続けた俺にとって、その事実はすごく嬉しかった。

亡国企業に所属していたとかそんなことはどうでもよくてただ生きていてくれただけで嬉しかったのに。

でも、葵の話を聞いているうちに不安ばかりが俺の心に巣くった。

そこでも相変わらずだったみたいだけど、最後の最後までという言葉。

それは目を背けていた最悪な結末を嫌でも思い出させ、気がつけば俺は問いただしてしまった。

生きているのかと。

組織が壊滅してただ単に連絡が取れなくなっただけだって僅かな希望を。

分からない。そう言って欲しかった。

でも、それは叶わぬ願いだった。

 

「...............残念ながら」

 

あぁ、やっぱりかなんて思う。

葵は嘘をつかない、嘘を吐くのが下手なのは短いけれどそれくらい分かる。

申し訳なさそうにしているのを見ると、葵は悪くないと言ってあげたいのにどうしても言葉が出てこない。

 

「十夏」

 

「...............俺は大丈夫。結局は一夏兄は死んでるんだ。俺らにとっての5年前か、葵の3年前って違いだろ?何も変わらないって」

 

「何無理してんの。辛いんだったら辛いって素直に言いなさいよね?」

 

「俺は平気だって言ってるだろ?」

 

「なら、なんで泣きそうになってるわけ?」

 

「...............え?」

 

泣きそうになっている。

鈴に言われ目元に触れてみると指先に涙が付いていた。

 

「アタシのことそんなに信用ならない?」

 

「そんな訳ない、鈴のことは信用してるに決まってる。だけど、なんで泣いてんのか分かんねぇんだよ」

 

「ったく、そんなとこまで似てんじゃないわよ。ほんとソックリ。辛いって素直に言わないとことか、無意識に我慢するとことか。血が繋がってないくせに、そういうところは似てんのよね」

 

「確かに一夏氏はそんなことも言われていましたね。絶対に己の弱い部分は見せない人と」

 

「そっか」

 

なんで泣いているのかなんていうのは、どれだけ考えても結局結論が出なかった。

一夏兄が死んで悲しいのかもと思ったが、それで泣いたのは5年も前。

今になって泣くなんて考えられなかった。

だけど、それ以上に一夏兄と似ていると言われて嬉しく感じる俺も居た。

ずっと追いかけた意味が少しはあったのかなんて思えたから。

 

「辛いことだと思います。ですがはっきり言ってしまうと生きている可能性はゼロです」

 

バッサリと言い切られる。

でも、もしかしたらと言われない分ケジメをつけられる気がする。

 

「ですが、貴方方の心の中で一夏氏は生きてるのは分かって頂きたい。ただ、私はまだ一夏氏との日々を思い出にする訳にはいかないんです。彼の遺言を果たさなければなりませんから」

 

「遺言?一夏さんが?」

 

「えぇ、家族を支えてやってくれ、とね。家族。最初はなんのことだか全くわかりませんでした。ですが、IS学園に来て貴方方と出会いその意味を理解できたんです。私のような薄汚れた人間ではなく、真っ直ぐに道を外さないよう、勝手ながら支えさせていただきます」

 

「...............一夏さんって人は。どこまで心配性なんだか。んじゃ、アタシからもいわせて。とことんたよりにさせてもらうわ。改めてよろしくね葵さん」

 

「そうだな。俺からもよろしく頼むよ葵。俺って馬鹿だから道を踏み外すかもしれないけどさ、そんな時は手を貸して欲しい」

 

「もちろん全身全霊をかけて支えさせていただきます。あぁ、あくまで私はお嬢様の執事なので、そこはよろしくお願いしますね?」

 

笑い合いながら、俺は窓の外を見た。

朝日に照らされた海が見える。

心なしかいつもより、寮の部屋から見るよりも綺麗だと素直に思える。

なんだかそれが嬉しかった。

 

 

今日で一夏兄の後ろ姿を追いかけるのは終わり。

惨めに過去にとらわれ、真似事をする必要などないと分かったから。

あくまで俺が追いかけていたのは5年前までの一夏兄の姿。

でも、実際は俺の知らないところで一夏兄は存在していた。

なら、俺の知っているその姿は過去のものだ。

過去にとらわれすぎるなと教えてくれた意味がやっとわかった気がする。

ズルズルと引きずりすぎて磨り減って、何がなくなったかわからないけど。

それできっといいんだって思う。

左目を失ったけどオルコットさんを助けられたからの安い買い物。

磨り減すぎた、でも見方を変えれば軽くなったということだから。

きっと今までとは違って、しっかりと前を向いて歩いて行けるはず。

俺なりに、織斑十夏として生きて行けるはずだから。

 

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