IS【繰り返される世界から】   作:駄菓子

19 / 19
17話

「タッグマッチトーナメント?なんだそりゃ」

 

ラウラちゃん砲のデータ取りを手伝った日からしばらう朝の時間。

ラウラを膝の上に乗せて、お菓子で餌付けされ幸せそうな顔を眺めているそんな時の事。

 

「あれ、織斑君知らないの?今月末に開かれる1年生だけのトーナメントの事だよ?」

 

「いや、それは知ってんだけどさ。タッグマッチだったっけそれ?」

 

素直に疑問に思った事を口にする。

確かに年間予定表じゃ個人戦だった気がするのだけど。

 

「んとね、先月色々あったから急遽変更になったみたいなんだよね」

 

「...............こら」

 

「え?あっ!ご、ごめんね織斑君」

 

「いいっていいって。そんな気にしてないし謝る必要もないから」

 

このクラス、というか学年全体で先月2度にわたって襲撃してきた白いISの話題はタブーなのが暗黙の了解となっている。

その原因らしいのは俺の左目の事らしい。いくらIS乗りを目指している彼女たちとはいえ、つい数ヶ月前まではただの一介の学生となんら変わりなかったせいで、こういう事は少々刺激が強いらしい。

ごく少数ではあるものの、俺が左目に被弾した瞬間をら目撃したっていうくらいだし、こうなるのも仕方ないとは思う。

が、本当に気遣ってくれるならそういう事を気にしないでくれるのが一番ありがたいのだけど。

まぁ、それを言うのは野暮というもんだろう。

 

「んでだ。色々訳があってタッグになったみたいだけど、今日話してくれたのはなんで?...............まさか、最終締め切り過ぎてたとか」

 

「いえ、それはないわ。告知自体は前々からされていたの。あくまで今日から3日間が受付というだけよ」

 

「あぁ〜そういう事ね。マジで焦ったわ〜それだったらどうしようかと」

 

「そんな事になる前に織斑先生に注意受けそうだよね」

 

「まぁ、織斑教官は期限だけはきびしいからな。もし破ったなら、...............すまない思い出したくなくなった」

 

「あれか...............」

 

「あぁ、あれだ...............」

 

「「あはははははははははは...............」」

 

いっしゅんぶるっと震えるラウラ。

ちっちゃい頃から時間と年上の人に礼儀はしっかりしろと教えられてきた身としては、なんとなく千冬姉がどんなる事したかわかる気がする。

うん、あれはさすがにまずい。

 

「ふう。とこんでだ、タッグっていうくらいだからパートナーは決めたのか?」

 

「うん。私たちで組むのは前から決めていたし。むしろ織斑君の方が心配かな」

 

「何故?」

 

「だってあなた忘れていたでしょう?このトーナメントはあくまで自主的に登録に行く事になっているから、最終締め切り1時間前まで先生たちは何も言ってもらえないのだけど」

 

「確かにな...............」

 

「とういう訳でどうするの?」

 

「どうするのって言われてもなぁ。全員参加型っていうし、俺たち専用機持ち同士が組むのは控えようとしか今のところは思いつかないんだよな」

 

「え、どうして?」

 

「セシリアと鈴がコンビ組んだとして勝てると思うか?」

 

「無理無理無理無理無理無理!」

 

「何せオルコットは代表候補生とはいうものの、国家代表と見ても遜色ない実力者だ。いかなる状況下でも確実に狙撃する様は素晴らしいとしか言いようがないな」

 

「2組の凰さんは追い込めば追い込むほど強くなる。まるで少年漫画の主人公並みに厄介な相手。タッグを組んだとしても2人を倒せる人材はIS学園には殆どいないでしょうね」

 

セシリアと鈴のスゲェ言われようだけど、裏を返せばここまで認められるだけの実力はあるだけはあるという事だ。

 

「あの2人に組まれたら優勝は確実だろうな」

 

「なかなかのコンビネーションを誇るからな。優勝を狙うなら確実に引き剥がしたい。と言いたいところだが、今回ばかりは父様の意見に賛成だ。専用機持ちが固まれば最悪終盤は専用機持ちの独擅場になりかねないからな。かと言って慢心するわけではないが、訓練時間から何まで異なるのにそれは酷だろう」

 

「とある人は容赦なく優勝を取ったけれどね」

 

「...............い、一応クラス代表として優勝を目指すという目的があったから仕方ないと思って諦めるべき、だと思う」

 

「そう。なら致し方ないわね」

 

少しだけ残念そうに言うのを見て罪悪感をちょっぴり覚えた。

ごめんな。無理やりにでも起きてやるべきだったよな。

てか、俺ってクラス代表になったんだっけ?確か負けたはずだからそんな事はないと思いたいが、どうなんだっけ。

もちろん俺がやるよりセシリアの方がいいのは変わりないが。

 

「でもさ!織斑君の本命は私知ってるんだよ?」

 

「な、なんだよ」

 

「...............超高画質ビデオカメラを篠ノ之さんと買いに行ってたもんね。愛娘のラウラちゃんをバッチリ撮影するつもりでしょ?」

 

「ーーーーッッッッッッッッッッ!?!??!??!!!?」

 

耳元で俺にしか聞こえない声でつぶやかれたその言葉。

それは俺を動揺させるのには十分過ぎた、ってなんでこいつ知ってんの!?

 

「篠ノ之さんが教えてくれたよ?」

 

「ッ!」

 

バッと何勝手に言ってんのてめーと軽く恨みをこめて箒を睨むものの素知らぬ顔で口笛を吹き始める。

憎い事にその口笛がやけに上手かった。

え?お前ばかり羨ましいから?

...............なんのこっちゃ。

俺にはさっぱり見当もつかないが。

 

「ホームルームを始めるぞ。今すぐ席につけ」

 

「あ、やっべ」

 

いつの間にやら教壇の前には千冬姉が居た。

各々に談笑していたみんなもクモの子を散らすかのように席についていく。

 

「あー次の実習だが急遽私が担当することとなった。なお内容に変更はない」

 

「葵先生はどうしたんですか?」

 

誰かが口にした疑問。

誰もが思っていることをさらりというところはすごいと思う。

にしても職務放棄とは無縁の葵になにがあったというのか。

 

「...............どうもこうもない。朝職員室に行ってみればこのような置手紙があった」

 

千冬姉が明らかにイラついてるという雰囲気を醸し出していてすごく居心地が悪いが、とにかく葵の行方の方が重要だ。

 

「探さないでください?」

 

「「「...............はい?」」」

 

差し出された紙にはやけに達筆な字でそう書かれていた。

 

「一見ふざけているようにしか見えないが裏もある。フランスで学園のスポンサーを見つけてくる、と書かれていてな。...............一番憎たらしいのは学園長公認の印が押されていることだ」

 

いくら学園長公認のことだとは言え、一切の話もされずにこうなったのが許せないのだろう。

連れ返そうにも葵のことだから今頃はフランス行きの飛行機の中だろうし、流石の千冬姉でもそれをどうにかすることはできないから歯がゆいのかもしれない。

...............本当に葵は人をおちょくるのが上手いよなぁ。

逃げ道はしっかり確保するあたり、徹底しすぎで逆に怖い。

 

「ふ、ふふふふふふふ。散々人をおちょくるだけおちょくりやがって、今回は絶対に許さん。帰ってきたら覚えていろよ...............!」

 

「...............織斑先生、素が出てる。素が」

 

「あの野郎、ぶっ殺してやる..............!」

 

だめだこりゃ。

 

 

 

 

 

時は昨晩の夜に戻る。

 

「何処へ行くつもりですか、デュノア様」

 

今の時間帯に寮の廊下を歩く生徒はいない。

大浴場にほとんどの生徒が向かっているのと、食堂に向かった生徒が大半だからだ。

そんな中シャルロットは本来であればここにいるはずのない葵に呼び止められた。

いつも通り屈託のない物腰柔らかな笑顔の裏に、明らかな疑念と敵意をわずかながらも感じ取る。一般生徒なら気づかないだろうが、生憎人の感情に敏感なシャルロットはきっちりと気づいた。

円谷葵。

その名前すらも本名か怪しいと言われた過去の経歴が殆どない、この世に存在しない者。

そしてIS学園において織斑千冬以上に気をつけなければならない存在。

そんな人物にはっきりとマークされたことに内心で舌打ちをした。

 

「...............十夏とお話しにいくだけだよ?丁度いいお茶菓子も手に入ったことだし。ちょっと聞きたいこともあるし」

 

ポーカフェイスに自信のあるシャルロットはあくまで内心を悟られないよう笑顔を取り繕う。

ほらと言って見せるのはクッキー。

綺麗にラッピングされたそれは、美味しそうと思わせるには十分だろう。

 

「ほぅ色とりどりで見た目も抜群。とてもおいしそうですね?“中々良い出来ですよ”シャルロット様?」

 

「...............何言ってるの?前には買ったものだよ?僕みたいなのがここまで作れるわけないって」

 

 

相変わらず笑顔を取り繕うものの、内心では混乱して危うい。

バレだ。

ただ、それだけがシャルロットの思考を満たす。

一度疑念を抱かせてしまえば、疑りぶかくなるのが人間という生き物。

それを一番されてはいけない人物にいだかせた。もしかしたらずっと前から気づいていたという考えはない。

とにかくシャルロットはありとあらゆるパターンを思い浮かべ、この危機的状況を乗り越えようと考える。

が、全てたどり着く答えはNO。

無慈悲なまでに現実を突きつけられる。

 

「全く、ポーカフェイスはなかなかのお点前でしょう。ですが、嘘をつくのはあまり得意ではなさそうですね」

 

「...............べつに嘘なんかついていないよ」

 

もしここで捕まったらどうなる?

病に倒れた母を助けるのはだれ?

捕まれば確実に候補生の階級を剥奪され一生を牢屋で過ごすことになるのは考えるまでもない。

そうなればもちろん毎月の収入は無く、母の入院費を払えなくなる。

それが意味するのはだれよりも大好きで大切な母の死。

どうやってでもそれだけは回避しなければならない。

 

「そういう時点で肯定してるようなものです。まぁ、粗方ハニートラップでも仕掛けるつもりだったのでしょう?限りなく市販品に近づけるよう作りそのなかには、おそらく即効性の媚薬でも仕込んだ。殆どの生徒は寮におらず、同室の篠ノ之様とボーデヴィッヒ様もいない。たったわずかな時間だとしても、既成事実さえ作ってしまえば貴方のものですからね」

 

「...............」

 

「誰の命令だ。フランス政府か?それともデュノア社からか?」

 

一転して冷たく底冷えするかのような冷酷無比な声。

それはまさしく、狩るもの側の人間であり、それでいて過去最強の傭兵と名を馳せていた者の再来を表していた。

 

「...............だったら。そうだったらどうするっていうんだよっ!?僕の邪魔をしないでよ!」

 

気がつけばシャルロットは叫んでいた。

葵自信では無く、無力で何もできない自分自身に対して。

 

「そうだな。身柄確保ののち、拷問にかけ情報を吐かせるとしよう。そのあとは本国に強制送還デモさせるさ。無論その後の人生など知ったこっちゃないがな」

 

「くっ...............!」

 

思わずシャルロットは恐怖に震えた。

15の娘には酷すぎる残酷な未来を突きつけられたのだから、それは必然と言えた。

が、逃げることはできなかった。

シャルロットの命の手綱を握っているのは葵なのだから。

 

「だが、俺も傭兵稼業からしばらく身を引いていたからな。多少の慈悲はある。せめて理由くらい聞いてやる」

 

「...............優しくないんだね」

 

「ふん。優しさで食っていけるほど生ぬるい世界じゃないからな傭兵稼業っていうのはな。そんなことをしていたら背後からパーンだ。命がいくらあっても足りやしない」

 

「大っ嫌いだ。末代まで恨んでやる」

 

「よくいう。一生監獄にぶち込まれるやつに子供などできるはずもないだろうが」

 

限りなく正論に近いそれにシャルロットは何もいい返すことは出来なかった。

本国に戻ればハニートラップを仕掛け損なったフランスの汚点というレッテルを貼られる。

そんな女がまともな恋愛をできるはずもない。

だったらいっそのこと全部心のなかを全部ぶちまけてしまった方が良い。

 

「...............僕だって、僕だって好きでハニートラップなんか仕掛けてるわけじゃない!」

 

「だろうな。好きでやっていたらただのクソビッチに成り下がるだけだ」

 

「十夏のことは確かに好きだよ。初めてできたって言って良いくらい僕からすれば最高の友達だよ。鈴だって箒だってセシリアだってラウラだって。みんな僕にはもったいないくらい優しくしてくれた!それを裏切るようなことを本当はしなくない...............!」

 

「...............」

 

「でも!僕にはそうするしかないんだっ!こうしないとお金を払わないって脅されたんだよ!僕は従うしか方法がないんだっ!蔑まれても一人になっても良い!お母さんを助けられればそれで良いんだ!だから僕の邪魔をしないでよ!お母さんに死んでほしくないんだ..............!助けてよ!どうして僕ばかり辛い思いをしなきゃいけないんだよ!」

 

「...............ちょっと待てデュノア。お前、今母親を助けられれば良いと言ったな?シルヴィがどうかしたのか?」

 

余命いくばもないたった一人の母を思い出し泣きじゃくるシャルロット。

母を救うために神経をすり減らし何事にも耐えてきた。

だが結局はどうしようもない。

所詮15の娘が稼げる額などたかがしれておりただ延命治療を施すしか手がなかった。

デュノア社は一銭も出してはくれず、母もシャルロットの出生のいざこざで頼れる親戚もいない。

手詰まりでどうしようもなくて、本当なら最後の時間までそばにいてあげたかった。

しかしそれもかなわない夢。

その現実があまりにも辛く、涙が溢れるが、それを止めたのは皮肉にも葵の一言だった。

 

「え?ど、どうして僕のお母さんの名前を...............?」

 

「そんなことはこの際どうでも良い。シルヴィの身に何があった?」

 

「え、あ、えっと、末期の大腸ガンだって。今のところは平気だけどいつ転移してもおかしくないみたい。でも手術をすれば助かるって言ってるんだけどお金がないんだ...............」

 

「くそッ。4年もしないうちにこんなことになるのかッ。おい、シャルロット。金がないと言ったが、いくらあれば良い?」

 

「会社に殆どお金を吸われて少ないお金で払っていたから、入院費の未払い分もないとできないって」

 

「そんなことはどうでも良い!いくらだ」

 

「...............日本円で2000万円。そんな大金用意できっこないよ」

 

「いや、出来ないことはない」

 

「...............えっ?」

 

葵のその一言は真っ暗な闇に差し込んだ一筋の光に思えた。

心なしかシャルロットを見る葵の目は疑念のない純粋な優しさを感じる。

 

「だがな、シャルロット。そのためにはお前の一言と約束が必要なんだ。それはわかるな?」

 

「借用書でも書けばいいの?」

 

「違う。そんなものはいらん。今言った2つがあれば良い。どうして欲しいのか。そして俺との約束を守ってくれれば良い」

 

「それだけで、いいの?」

 

「あぁ、問題ない」

 

正直なことを言ってしまえばこんなに簡単なことでいいのかと思ってしまう。

2000万円というのは決して少なくはない額、国家予算と比べれば流石に少ないが、一般人からすれば大金。

そんなものを口約束程度で了承していいのか。

だが、少しでも助かる方法があるのなら、藁にしがみつく思いだった。

 

「...............お願い。お母さんを助けて。もっとお母さんと一緒にいたい。死んでほしくない!」

 

「分かった。今この時間より、シャルロットデュノアをクライアントとし依頼を受注することをここに宣言する」

 

「お母さんが助かるなら僕はどうなってもいいから」

 

「さぁな、それは俺が決める。じゃあ、俺との約束を一つ。今回この場でのやり取りの口外をしないこと。いいな?」

 

シャルロットは返事の代わりに首を縦に振った。

やはり葵が何故母のことを知っているのかは気になる。

だが、それは全てが終わってからでもいいのかもしれないという考えが、問いただすことをやめた。

首を縦に振ったシャルロットに返された返事は、辛くあたってすまなかったという言葉と、大きくそれでいて暖かい手で頭を撫でられた。

それがとてもいい嬉しく思えたのは何故だろうか。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。