「これから実戦で使用する各種装備の特性について説明する。と言いたいところだが、先にクラス代表を決めさせてもらう。立候補する者、推薦する者は挙手しろ」
朝のSHR、一時限目、休み時間と挟んだ二時限目。
教壇の前に立った千冬姉はクラス代表を決めると言い出した。
クラス代表。
なんだか堅苦しい物言いだが、小中高とあったクラス委員と、完全に憶測ではあるもののなんら変わりないと思う。
それであるならば生徒会の会議だったり委員会への出席、担任からの細々とした雑務が主な仕事内容だろう。
「はい。織斑くんが適任だと思いまーす!」
「意義なーし!」
「...............ふむ、候補者は織斑十夏1人か。このままでは織斑がクラス代表に成るが、他にはいないのか?自他推薦は問わないぞ」
織斑十夏というやつがもう1人いるのか、そいつ災難なやつだなーと一瞬思ったのだが、そんなことがあり得るはずもなかった。
何故なら織斑という苗字自体が割と珍しい、というより同名のやつを同じクラスにするのはあり得ない。
つうか織斑十夏という女がいてたまるか。
いや、とうかという名前の女はいるけども!
「...............えっと、俺が推薦された?」
「そうだ。ちなみに言っておくが織斑、お前が辞退する権利はないぞ」
「で、ですよねー」
畜生。
逃げる前に逃げ道ふさがれちまった。
ある意味千冬姉が担任なのは相当に俺にとってやばい状況かもしれない。
勘が凄まじくいいというだけで充分脅威だというのに、この人は姉だときた。
こんなもん手札全部見せながらババ抜きするようなもんだ。
...............あぁ、俺の(多分青春の)高校時代が夢の向こうへ飛んで行くー。
「...............さて、これ以上候補者が出る様子もないようだな。ではクラス代表はーー」
「待ってください織斑先生。やっぱりわたくしも立候補させていただいてもよろしいでしょうか?」
「オルコットか?立候補するのは構わない。このまま終わるのもつまらんしな」
つまらないとかあるのかーい。
「さてと、候補者が2人になったわけだがどうやって決める?私はお前達に任せるそ。お互いが納得した上での公平なものの範疇であれば何をしても構わんが?」
「...............自ら立候補した人がいるから俺は辞退ーー」
「いかなる理由があろうとも辞退は認めん。そう言った筈だろう?」
「じゃあ俺やりたくないからオルコットさんに譲りま「ふんっ!」ごぶっ!?」
脳天を正確無慈悲にぶち抜いた出席簿のダメージは凄まじく、時の涙を見た。
...............やべぇ、目の前が歪む。
それ絶対オーダーメイドの出席簿と言う名の凶器だろ。
俺は出席簿のそんな用途もそれであることも絶対認めてやるものか。
そうじゃない限り、ごがっ!という音なんてしない。
「全く少しくらいはやる気を出したらどうだ?」
「...............別にやるのは嫌じゃないですけど、やりたいって言う人がいるならそっちに任せた方がいいと思いますけど?」
「じゃあお前は推薦してくれた女子の気持ちを無下にするのか?...............一夏なら進んでやっていたと思うが、な」
「...............性格悪いな」
「お前ほど捻くれてるつもりはないがな」
これが俺に対するある意味切り札とも言えるものの一つ。
あの言葉、俺にしか聞こえないくらい小さい声で言った言葉は俺がそう言われれば断れないのを知っていて使っている。
千冬姉はいつだってそうだ。
逃げ道という逃げ道を塞いだ上で頼みごとをいう。
結果的にそれらすべては俺自身のためになっているのだが、流石にこういうことだけはやめて欲しかったが。
「だそうだオルコットさん。どうやってクラス代表決める?」
「いきなり言われましてもお互いに納得し、なおかつ公平な決め方ですか。いきなり言われてもすぐには思いつかないものですわね」
オルコットという女子生徒とやらは今時の腐った女至上主義の考え方ではないらしく、普通に男を毛嫌いする様子も見受けられなかった。
金髪で髪を言わゆる縦ロールという風に巻いたその姿は偏見でしかないものの、1番そういう考えをしているとばかり思っていたので、正直助かる。
中学の時はそれでかなり苦労したからな。
「だよなぁ。拳と拳なんて男じゃあるまいし出来るわけねーし」
「それは納得ですわね。わたくし程度などでは、単純に力押しで負けてしまいますし」
「えー?男が強いなんて昔の話だよ?オルコットさんは代表候補生だからそれくらいわかるでしょ?」
そう言いだした後ろの方に座る女子生徒は口調こそ穏やかではあったが、顔は、その目は明らかに笑っていなかった。
代わりに貼り付けられているのは明らかな男に対する憎悪と敵意。
勿論向けられているのは俺。
比較的ここの女子生徒はそういった女尊男卑の考えのやつが少なさそうに感じてはいたが、やっぱりと言うべきかいないわけではなかったらしい。
「何言っているのですか?代表候補生だからこそ、わたくしはそう思っていますわよ?」
「...............は?」
「...............はい?」
最初の間抜けな声はその女子生徒。
そして最後のは俺。
割と意外な言葉だったから一瞬オルコットが言ったというのを信じられなかった。
「まぁ、ISがあるので女が強いというのは分からなくはありませんが、それもあくまでISがある場合ですわよ?」
「...............言ってる事全くわからないんだけど」
「そうですか。なら、今すぐ織斑さんと殺し合いを始める事をおすすめしますわ」
「いやいやいや!いきなり殺し合いしろとか物騒すぎるだろ!」
いきなり殺し合いとか何この人。
頭の中どんな思考回路してんだよ?
何この子危なすぎるだろ。
「いえ、本気でやれとかではなく物の例えですので安心してくださって結構ですわ。では話を戻しますが、貴方は今すぐ織斑さんと殺し合いをして勝てるとでも?」
「...............私だってISがあればあんなやつ簡単に」
「では、今ここに貴方が使うISはおありで?」
「...............候補生じゃないもん、持ってるわけないでしょ?」
「全く貴方は何もわかっていませんわね?“今すぐここで殺し合いをした場合”勝てるのかと聞いているのですわよ?武器もないISもない。では取りに行く間律儀に待ってくれるとでも思いですか?ISがあれば勝てるのは当たり前ですわ。そんな事をわたくしは聞いているわけではありません」
オルコットの言う事は潔いまでに正論だった。
確かに殺し合いというのは物騒ではあるものの、そこにルールはないしどんな理由があろうとも生き残った方が勝者で死んだ方が敗者だ。
酷いようだがそれが殺し合いでしかない。
「...............」
「少なくともわたくし程度では天地がひっくり返ろうとも織斑さんには勝てるとは思えませんわ」
「あのオルコットさん?流石にいいすぎだと思うんだけど...............」
「いえ言い過ぎなどではありませんわよ?むしろクラス全員を相手にしても貴方1人に勝つ事はできないと踏んでおります。それほどまでに織斑さんとわたくしたちの力の差は圧倒的だと思われますが?」
「大袈裟すぎと思うぞ?流石にこの人数が一斉にかかってこられたら厳しいって」
「無理ではないのですわよね?織斑さんは一般の男性とは格が違うと一目見てわかりましたわ。一切のブレがない姿勢、揺らぎのない目線、しっかりとした体格、隙を決して見せない注意深さ、そして明らかに他者とは異なる雰囲気。これのどこが普通だと言うのです?武道を嗜んではおられるのではないのですか?それも一つではなく複数、そしてそのどれもが黒帯所持ではなくて?」
「...............凄いなオルコットさんは。確かに俺は武道をいくつもやってるし黒帯だってとったさ。だけど初対面でそこまで見抜かれたのは初めてだよ」
「まぁ、昔から観察眼だけは良かったものですわ。余計なことかもしれませんが武道の一つは空手では?」
「...............まぁ、空手もやってるけどなんで知ってんだ?」
「全日本空手道選手権大会中学生中量級の部において開始5秒の一本勝ち、史上初の五連覇達成。世界大会でも圧倒的な実力を見せ付け優勝、ですわよね?」
「完敗だ」
白旗を振る代わりに両の手をあげた。
何故そこまで知っているのかは分からないが、とにかく敵に回したくないくらい凄まじい観察眼の持ち主だというのは分かった。
末恐ろしい限りだと心底思う。
「凄まじい観察眼だろう?他者とは一線を越した何か、強みを持っていたからこそ代表候補生にまで上り詰めることができた。それでいて勤勉であり何事にも公平な目で見ることができる。だからこそオルコットは候補生としても生徒としても立派な見本となりうるのさ」
そして、俺が考えようとしなかった、
誰よりも先にお前の本性を見抜くかもな。
という言葉を俺にしか聞こえない声量で付け加えて。
「諸君!よく聞け。オルコットが代表候補生になりえたのは今織斑にいったように勤勉であり他人にはない強みがあったからだ。本気で代表候補生、願わくば国家代表になりたいのであれば、平凡で満足など決してするんじゃないぞ。ひたすらに死に物狂いで努力し、そして他人にはない自分だけの強みを前面に押し出すこどだ。そうでもしなければ国家代表などにはなれんぞ?IS学園入学など足元にも及ばんほど狭い関門が待ち受けているのだからな。我々教職員はその手助けをするためにいるのだから、遠慮なく手を貸してもらうといい。やる気のあるものには我々も全力で応えよう。ただし、努力もせんやつが文句を言うことだけは許さん。何もしないのにえらい口を叩く権利などないのだからな」
そういう千冬姉の顔は笑っていた。