IS【繰り返される世界から】   作:駄菓子

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第3話

結局、クラス代表を決める方法は有耶無耶になったまま放課後となってしまった。

俺としてはできるだけ早いうちに決めたかったのだが、まぁあんなこともあったし仕方ないことなのかもしれないが。

 

「もう12時を回ったぞ。まだ眠れないのか?」

 

「まぁ、な」

 

ベランダで夜風を浴びていると不意に箒が後ろから声をかけてきた。

学園の寮で同室になったのは箒だった。

最初は自宅通学だの何だのと言われていたのに、急に変更され部屋も用意できないまま1人のところへぶち込まれた結果がこれだ。

とは言っても箒とは知らない仲ではなく、むしろ旧知の仲であるので知らない奴と過ごすよりもよっぽどよかったと思っている。

 

「飲むか?」

 

「あぁ、サンキュー」

 

箒は俺にコップを手渡すと隣に腰掛けた。

コップには緑茶が注がれていて、箒らしい選択だと素直に思う。

こういうところは昔から何一つも変わっていない。

 

「クラスメイトとのやりとりといい、口調といい、まだ続けていたんだな」

 

長い、しかし決して苦痛ではなかった沈黙が続いたあと不意にそう問われた。

 

「もうあの日から5年だ。振り返ってみればあっという間だったが、その間ずっとそうしていたとでもいうのか?」

 

「...............別に続けていたなんて意識はなかったよ。ただ単にそうしていたらいつの間にか年月だけが経っちまっただけだ」

 

「年月だけが、か。お前はそれでよかったのか?自分を押し殺してまでする必要はないと私は思うのだが」

 

「そうでもしないと俺が耐えられなかったからそうしただけだし、それ以外には方法がなかった。そういう箒だってしばらくの間はにたようなもんじゃないか。誰も近づかせようとしないでさ」

 

「ま、まぁ私もあの時はどうにかしていたと思う。これじゃあ十夏のことを言えないな」

 

決して忘れることのないあの時期のことを思い出し笑いあう。

お互いに幼かったが、幼かった故に他人への反抗は酷いものだったと今でも思う。

大人の言うことには全て憎まれ口を叩き、いうことなんて一切聞かなかず、ちょっとしたことで暴れ、気にいらない奴がいれば気がすむまで暴力をふるった。

小学生がやるようなことではない、嫌いで仕方なかった大人のような陰湿なことなど当たり前でしかなかった。

もはや、武道をやっているものとして恥ずべきことだったが、気にしたこともない。

今となっては何をやっていたんだと後悔の念すら抱いているが、裏を返せばそれだけ一夏兄の存在が大きかったのかもしれない。

高校生になった今ではさすがにそこまではいかないが。

 

「なぁ、十夏。最後に一つだけ聞かせてくれ。お前は今でも大人のことは嫌いか?」

 

「あぁ」

 

「...............クラスメイトと付き合いはしないつもりか?」

 

「どうだろう?ずっと1人ってわけにもいかないだろうから表面上だけならするかも、な」

 

「そうか。済まないことを聞いてしまったな」

 

「別に気にすんな。知らない仲じゃないんだ。こういう時くらい心の内見せたっていいじゃないか」

 

「...............そうだな」

 

そうして夜は静かに更けていった。

 

 

 

十夏は人見知りが激しく、なかなか心を開こうとはしない。

そういう傾向はずっと前から、初めて出会った頃からあったが、やはりそうなのだとはっきりと確信したのは今日数年ぶりに十夏の姿を見た時だった。

クラスメイトと休み時間などに談笑する姿は今日初めて出会ったとは思えないほど親密に見える。

もはやずっと前から知り合いだったかのような印象を受けたが、幼い頃からの仲だった私からすればそれは嘘なのだと一瞬でわかった。

顔は笑っていても心は笑っていないのだ。

付け加えるなら、楽しそうにしていながらもどこか距離を置いているとでもいうのだろう。

別に私がどうこう言える立場ではないし、仲良くしろというつもりもない。

ただ単にそれが疲れないのかと、なんとなく思うだけだ。

薄情だと言われるかもしれない。

だが、これが、この十夏との親密でありながら一歩離れた微妙な距離が一番楽であり、お互いに納得した上での事だ。

十夏に特別な感情、例に言うなら恋愛感情などというものは持っていない。

ただ、お互いに辛い思いをした者同士として私からすれば惨めに傷を舐めあっているだけ。

幼い時からそうであったように、少なくとも同じような関係を今は続けていくつもりだ。

友達以上親友かどうかはわからないが、恋人未満の間のどこかに位置する。

それが私たちのいびつな関係だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「...............専用機?俺に?」

 

次の日。

朝の教室に入ってきた千冬姉は俺を呼び、そういった。

 

「あぁ、そうだ。世界でたった一人ISを動かした男の実戦データ収集が目的だがな」

 

「本当に良いんですかね、俺みたいな奴が専用機なんて貰っても」

 

「何が言いたい?」

 

「専用機っていうのは国家代表か候補生でも特に優秀な人にしか与えられないじゃないですか。いくらデータ収集のためとは言え俺みたいなズブの素人で大して努力もしない奴が貰っても良いのかなーなんて思いまして」

 

やっぱりそういったところが一番気掛かりだった。

ISの核となるコアは決して多くはなく、そのコアも開発者であるの篠ノ之束博士しか制作できず、まだ束博士ももうISのコアを作らないと言って3年前に起きた某国企業殲滅作戦を機に行方不明となった。

そのためISには絶対数という制限があり、だからこそ専用機はごく限られた実力者しか所持する事ができない。

ここの生徒も操縦者を目指している以上、専用機を欲しがるのも必然なわけであり、何の苦もなく手に入れてしまう事になるのにどうしても引け目を感じてしまう。

 

「ふっ。急に言い出すと思えばそれか。確かにお前の言う事にも一理ある。だが、辺りを見てみろ」

 

「...............辺りを見てみろって言われても」

 

「馬鹿正直にみろというわけじゃない。今ここにはお前が専用機を持つ事を賞賛する者はいても批判する者は居ないと言いたかったんだがな?」

 

改めて見回すと「おめでとう」そう言ってくれているかのようにクラスメイトたちは笑ってくれていた。

もしかしたら、悔しいと思う気持ちを隠しているかもしれないというのにも関わらず。

 

「とにかく、だ。お前がそういった引け目を感じているならやる事は一つだ。それくらい言わなくても分かるだろう?」

 

「...............専用機持ちとして誇れるくらいの実力をつける」

 

「その通りだ。それにお前は武道をやっている以上素人ではない。何度も実戦を経験し、全国大会5連覇もしているんだからな」

 

「確かにそうですけど、そこまで影響あるもんですかね?そうは思えないのですが」

 

「ふん。ただがむしゃらにやっていたら試合に勝てないのと同じだ。試合に勝つためには力以前にどれだけ冷静になって状況判断できるかというのが大切なのは分かるだろう?ISも同じで適当に弾をばらまいても、適当に刀を振っても当たらんのと同じだ。数撃てば当たるとは言うが、そんなものが信用ならないというのは十分理解しているはずだ」

 

俺は無言で肯定する。

千冬姉の言う事はどれもが正論だ。

空手でもダメージにもならないへなちょこパンチを大量に打つよりも、一発重いものを打った方がダメージも、審判に対する印象も劇的に変わる。

正確にその重い一撃を打つために相手のガードの一瞬の隙を逃さないために激しく、しかし頭は常に冷静になることが重要だ。

こういう風に慣れ親しんでいるもので例えられるととてもわかりやすい。

本当にこの人は教育者としての資質があると思う。

 

「分かりました。やる以上結果を出します」

 

「ふん。お前らしい答え方だな。その姿勢は嫌いじゃない」

 

「どうも」

 

俺らしい。

そう千冬姉は言うものの、実際のところ一夏兄が俺に教えてくれたことの一つだ。

皆が口々に言う「努力はした」と言う言葉は意味がない。

結果が出ないのであればそれは、努力しなかったのと同定義であると。

「努力した」と言う言葉は結果を出した者のみ口にしていい言葉だと教わった。

厳しいかもしれないが、よくよく考えてみればいい訳をついて逃げないための戒めでもあるし、俺はこの言葉がそれなりに気に入っている。

テストと同じで、いくら勉強しても点が取れなければ成績が良くならないのと同じだ。

だからこそ結果を出すために、練習を始めようと思う。

 

「あぁ、そうだ織斑先生。専用機の武器とかなんですが...............」

 

「そういうことは心配しなくていい。先に私がそう言いつけておいた。織斑十夏は刀を用いる近接格闘より射撃の方が才能があるとな。お前は昔から剣道の才能だけは無かったからな」

 

「...............わかってますよそれくらい」

 

何故か俺は千冬姉が言う通り昔から剣道の才能、強いて言うならバットやラケットといった道具を使うスポーツ全般だけはどうしてもダメだった。

いくらやってもコツなんて掴めないし、楽しいとも感じない。

逆に空手や柔道といった道具を使わないか、使っても体に身につけるようなスポーツであれば問題はない。

昔から首をよくかしげたが今でも何故かは理由がわからないのだが。

しかしそう考えてみると何故か、体に身につけるものではないはずなのに、弓道や射的といった射撃を行うものであれば普通にできるという摩訶不思議体質だった。

まぁ、楽しいと感じないので、やりたいと思わなかったから気にすらしなかったが。

 

「懐かしいものだ。一夏と2人で祭りという祭りの射的屋を泣かせていたな。最終的には禁止令をだされたらしいじゃないか」

 

「...............ちょっとばかりふざけすぎたと思ってますよ」

 

「今更何を言うか。まぁ、それはいいとして、射撃に関すればそれだけの素質があるということだ。無論玩具と実銃では全く異なるが、決して無駄ではないだろう。それでいて武道の達人と来た。私からすればお前は可能性の化け物というべき存在だよ」

 

「そんな。流石に買いかぶりすぎですよ。そんな俺を主人公みたいに言って。俺は主人公になれるような奴じゃないですよ。良くて主人公の仲間その一がせいぜいです」

 

「ふむ。しかしそういったことは置いておくとしても、結果を出すといったんだ。楽しみにしている」

 

「まぁ、あまり期待しすぎないで下さいよ?物覚は悪い方ですし」

 

「そうか?なら目標をあたえてやるとしよう」

 

そう閃いたように千冬姉は言うと、何故かクラスメイトと談笑していたオルコットさんを呼んだ。

 

「織斑先生、わたくしに何か?」

 

「そんなところだ。オルコット、おまえと織斑でISの試合をしてみたらどうだ?」

 

「「...............はい?」」

 

「何そこまで驚いている?I聞けばおまえたちはクラス代表にどちらがなるか決めていないそうじゃないか。ならISで決めたとしても何も問題ないと思うが?何せここはIS学園なのだからな」

 

「「...............」」

 

オルコットさんと無言で顔をあわせる。

いや、この人実力で候補生に上り詰めた努力家だぞ?

強い奴に挑むのは武道をやってきたために抵抗はないが、この場合は流石に差がありすぎると思う。

白帯の素人が黒帯の達人に勝てっていうようなものだ。

 

「一週間後に織斑のISが届く予定だ。試合はその日でいいだろう。放課後、アリーナと訓練機の使用権を確保しておいてやるから練習に励むといい」

 

「...............え"?ぶっつけ本番で勝手もわからない機体で戦えと?」

 

「フォーマットくらいはさせてやるさ。それに勝手もわからないも何も今日届いたところですぐに乗りこなせるわけもないだろう?代表候補生と試合をするんだ。どうだ、良い目標になるだろう?」

 

俺に両の手を上げる以外の選択肢などなかった。

本当にこういうスパルタなところも教育者に向いてると思うよコンチクショウが。

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