IS【繰り返される世界から】   作:駄菓子

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第4話

あっ!と言う間に一週間が過ぎた。

可能な限り放課後ギリギリまで射撃訓練をしたものの、射撃演習の成績は良くて6割程度といったところしかない。

うまくFCSを利用するというのがなかなか早くかといってマニュアルでやろうものなら、エアガンと違い圧倒的に弾速が早いためエアガンで培った感覚で撃ってしまうと移動先を通過したり、逆に後を通過したりというざま。

静止目標に対する命中率は中々ではあるものの、実践となればまず相手は動いているわけであり、その悩みのせいで頭がいたい始末だ。

そしてもう一つ、より頭痛を重くさせる要因が。

 

「やぁやぁ、とーくんに箒ちゃーん!久しぶりだねぇ元気してた!?再会のハグをしようじゃないかカモーン‼︎」

 

「いえ、姉さんとは遠慮します」

 

「うわーん!箒ちゃんが反抗期になったー!」

 

篠ノ之束博士である。

なんで行方不明の人がここにいるのかというと、この人が俺の専用機を作ったらしいのだ。

つまり、世界でぶっちぎりのISを理解している人の世界でたった一つのオーダメイドというわけ。

頭が痛くならないはずがないのだ。

てっきりどっかの企業が作ったとばかり思っていた身としては。

 

「束、時間がないんだ。手短に済ませろ」

 

「ちぇーっ、相手なんか1年でも100年でも待たせてれば良いのに。っと、これ以上いうとちーちゃんが起こりそうなので真面目にやっちゃうよーん。かもーん!とーくんの専用機!開けゴマ!」

 

アリーナピットに搬入されたそのコンテナが開き、中にあるISがお披露目となる。

白を基調とした無駄のないスラリとしたフォルムは、無駄なことが嫌いな束さんらしいデザインだった。

 

「第4.5世代試作戦闘特化機「嵐式」だよん」

 

「...............第4.5世代?」

 

「束。やりすぎるなと言ったはずだ。各国が第3世代機すらやっと開発したというのに4.5世代だと?何を考えている」

 

「べっつにー?おバカさん達と違って束は天才なのでーす。第3世代機なんか束さんにとってはじだいおくれもいいところだよ。今は第4世代、そしてその上の第5世代の時代だからねん」

 

あまりの凄さと言うべきか驚きと言うべきか。

とにかくインパクトが強すぎたせいか、一回りして逆に落ち着けるほどだった。

一緒にいる箒も、驚きのあまり言葉を失っている。

装備の換装なしで全局面に即時対応可能とされている未だ机上の空論である第4世代と、そしてその上をいく第5世代の試作機がこの嵐式だという。

やはりこの人は只者じゃない。

そう思いながら、俺は俺の専用機となる嵐式へと乗り込んだ。

 

「んじゃー調整やっちゃうよーん。束さんの本気、両手両足高速タイピング!」

 

一瞬にして広がっていく世界とクリアになる視界。

フォーマットが開始され、俺と一つになっていくような感覚が全身を掴む。

量産機「ラファール・リヴァイヴ」とは明らかに異なるこの感覚は、これが専用機なんだと体に染み渡っていく。

 

「じゃあ、とーくん。フォーマットの途中だけど武装一覧を見てみてね?そこにアサルトライフルとショットガンそれにスナイパーライフル。ロケットランチャーにミサイルランチャーが入ってると思うんだけど大丈夫?」

 

「はい。大丈夫です」

 

「おっけーぃ。じゃあそれの説明させてもらうよ。と言っても詳しいことはISが教えてくれるから基本的なことだけね?全部実弾だけどマガジンを変えるなんてめんどくさいことはしなくて済むように設計しておいたから。分かりやすく言うと、弾を打ち切った後に自動で特殊機構の働きでエネルギーを実弾に変換してリロードしてくれるシステムを積んでおいたからね。これで面倒くさいことしなくて済むねやったね!だから、やろうと思えば両手に武器を持って撃つこともできるけどそこはお好みで。あ、わかっていると思うけどリロードできる量にはかぎりがあるからね」

 

頭の中に流れ込む武器のスペックデータはどれもがラファールのものとは一線を越した性能を誇っていた。

どれを取っても世代差を感じさせるほどの素晴らしいとしか言いようのない。

そしてこの機体自身の性能もまた折紙付だ。

これを活かすか殺すかは俺次第。

こういうのは嫌いじゃない。

 

「はいフォーマット終わりー」

 

束さんの一声。

それと同時に世界が変わる。

嵐式と完全に混ざりあって一つになったかのような圧倒的な一体感。

この瞬間からこいつは俺の専用機となったのだと確信する。

 

「...............終わったようだな。束の馬鹿がやりすぎたようだが、時間がない。やることはわかっているな?」

 

「あぁ」

 

ピットから飛び出す直前、箒に行ってくると短く言い残し、アリーナへと飛び出した。

返事を待たないまま。

 

 

 

 

 

「それが織斑さんのISですか。今まで見てきたどのISよりも美しいと思える機体ですわね」

 

「そりゃどーも。お褒めにあずかり嬉しいよ。そっちだってなかなかブルーティアーズ、青い雫。いい名前じゃないか」

 

オルコットがまとっているのはブルーティアーズ、第3世代試作機。

名前の通り青い機体。

その手に持っている大型のライフルから嵐式と同じ射撃型のようだ。

そうなるならばどれだけ己の射撃の腕がいいか、どれだけ有利なポジションを取れるかにかかっている。

正直自身はないに等しい。

だが、自身がないからといって諦めたりなんてしたい。

自ら行動を起こさない限り結果は決して出てこないのだから。

 

「織斑さんは口がお上手なようですわねしかし」

 

「話している暇は無い。そうだろう?」

 

「えぇ。もちろんですわ」

 

いくら試合だと言っても俺たちにとっては全力をかけた死闘だ。

最初から手を抜いていては勝てる試合も勝てなくなってしまう。

AF−99ライフルとバッファローGSSショットガンをそれぞれの手に拡張領域から呼び出す。

両手での射撃は経験したことはないがいずれやらなければいけないことだ。

それならその技術は実戦で学べばいい。

 

「それでは行かせていきますわよ」

 

「望むところだ」

 

試合のブザーが鳴り響く。

オルコットの大型ライフルかは放たれたエネルギー弾をほぼカンに等しいそれ真横にスラスターを透かし避け、お返しにライフル弾を数発お見舞いする。

が、距離があるあるせいかたやすく避けられてしまった。

そんな簡単に行くとは思っていなかったものの、最大射程の半分もない距離ですら避けられてしまうとなると少々厳しい。

 

「どうなされました?小難しい顔をなされているようですが」

 

「いや、俺の腕のなさに絶望してたところだ」

 

「そんなことないですわ。たった一週間でここまで実力をつけたのだから誇っていいと思われます」

 

「ひねくれ者で悪いな。なんだか嫌味にしか聞こえないんだ。んじゃ、こっからはお互いおしゃべりなしの本気ということで!」

 

「望むところですわ!」

 

一気にスラスターを吹かし付け焼き刃で覚えたサテライト軌道を取る。

だが、出来るだけ直線的にならないようジグザグに動きながら狙いをつけていく。

対するオルコットも候補生の名は伊達ではなく、決して俺の思い通りには運ばせず、逆に己の流れに持ち込もうとすらしている。

こういった試合ではいかに自分の得意な流れに持っていけるかで勝敗が決まってしまうために、絶対に相手にはまらないよう細心の注意を払う。

サテライト軌道を取るのに精一杯な所為でろくに照準の定まらない俺とは打って変わり、確実に狙いを絞ってくるオルコットは驚異以外のなんでもなかった。

一向に減らないオルコットのシールドエネルギーとは対照に俺のエネルギーは確実に削り取られていく。

 

(...............クソ。このままじゃまずい)

 

ジリ便でしかないこの状況をどうにかするためにミサイルランチャーME4エメロードをばらまいた。

自分以外の一番近い目標に自動で飛んでいく追尾システムはみかたがいる場合は厄介極まりないが、今のようなワンマンであれば敵は一人なため、欠点を意識する必要もない。

 

「...............嘘だろ」

 

だが、追尾していたミサイルはすべて直撃する前に打ち落とされた。

オルコットの周囲に展開する4つの自立兵器によって。

これでダメなら手数だと、ME4エメロードの代わりにもう一つのミサイルランチャーであるFORK−X20を展開した。

ME4エメロードよりもずっと威力は落ちるもののマイクロミサイルを20発を連続発射する。

この数ならどうにか、自立兵器を一つでも落とせれば良かったが、常に良い結果が出るとは限らないのが試合だった。

 

(...............悪い冗談だと思いたいぜ)

 

なんとオルコットはこの数のミサイルすら防ぎきった。

すべてのミサイルを避けたのではなく、すべてのミサイルを撃ち抜くという方法で。

 

(はは、こりゃ負けたわ)

 

ありとあらゆる対策を考えたつもりだったがそれをことごとく防がれた今、残りの方法も確実に通用しないと言い切れる自信があった。

そしてオルコットは俺の隙を決して見逃さず、一瞬のうちにしてAF−99ライフル、バッファローGSSショットガン。

そしてFORK−X20ミサイルランチャーを撃ち抜いた。

 

「チェックメイト、ですわ」

 

いつの間にか俺の首元には4基の自立兵器が今にも首を刈り取らんと殺到していた。

オルコットは確実に俺が間に合わない距離から狙いを定めたままで。

確実に削り取られたのとミサイルランチャーの爆発によって俺のエネルギーはイエローゾーンに食い込もうとしており、対するブルーティアーズのエネルギーは未だ7割近く残っていた。

しかし俺が与えたダメージではなく、軌道をとったために消費した分だろう。

与えたダメージは1割にも満たないはずだ。

他者を凌駕する実力と、千冬姉をうならせるほどの観察眼の強さ。

そして機動戦を行っていてなお、会話をするほどの余裕を持ち合わせている。

 

「...............俺の負けだ」

 

この状態では、少なくとも俺ごときが突破できるほどの逆転は不可能。

降参のポーズをとるほかなかった。

機体性能と世代差という大きなハンデがあるのにもかかわらず俺は負けた。

それが悔しくて仕方なかったが、オルコットになら負けても良いという不思議な気持ちも心に生まれていた。

 

「完敗だよ。すごいなオルコットさんは」

 

「いえ、そんなことないですわ。織斑さんも素晴らしい実力でしたわ。宣言通り本気で行かせてもらいましたが、織斑さんが一番長く闘えましたわ。ほかの誰よりもずっと長く」

 

「...............サンキュー」

 

羨ましくないといえば嘘になる。

本当だったらこの場所では勝者でいたかった。

悔しい。

そう思ったのはあの日以来初めて。

次こそは絶対勝ちたい。

この嵐式を使いこなしたい。

そんな思いが俺を刺激していく。

それは久しく忘れていた懐かしい感情だった。

だからこそ、賞賛の意を込めて「ありがとう」そういう直前。

 

「っ!?」

 

アリーナを突如として大爆発が襲った。

 

ーーアリーナ中央に熱源反応あり。所属不明。敵性反応と断定。

 

「オルコットさん!アリーナ中央に何かいる!気をつけろ!」

 

「言われなくても!」

 

オルコットさんは同じくエネルギーライフル、俺はスナイパーライフルMMF−200を構えた。

アサルトライフル、ショットガン共に使えない状況下だったからだが、この距離だとその二種だと効果が薄いため、結局はこれを選んでいたかもしれない。

多目的照準器のサーマルモードを使って煙の中にいる敵をレティクルの中央に合わせる。

 

“織斑!オルコット!何があった!?電波妨害の所為でそちらを確認できない!”

 

「千冬姉、所属不明のISがおそらく1機。こいつはやばいぞ。できるだけ早く観客席の生徒を避難させてくれ。今はオルコットさんが出来るだけ引き伸ばしてくれているから早く」

 

“お前たちはどうする?”

 

「いきなり乱入してきたんだ。素直に返してくれるとも思えない」

 

“...............分かった。だが、無茶はするな”

 

「IS、のようですわね」

 

煙が晴れた時そこには1機のISが立っていた。

嵐式と同じく真っ白なカラーに、どこか見覚えのあるフォルムをしたほぼ全身を覆う装甲。

ヘッドギアが目元まで覆うタイプのため表情を読み取ることはできなかった。

 

「今すぐ武装解除し投降しなさい!今なら手荒な真似はしないと約束しますわ!」

 

本能が嫌な予感がすると警告を放つ。

武道をやってきたからこそわかる、俺たちと明らかに格が違う雰囲気。

 

「もう一度警告しますわ!今すぐ武装解除解除し投降しなさい!最終警告ですわよ!言うことを聞かないなら攻撃をかいしますわよ!」

 

そいつはただひたすらに俺たちの方へ顔を向けるだけでビクともしない。

ただ、顔を向けられているだけなのに蛇に睨まれたカエルのように体が竦む。

 

「返答は無しですか。警告は通達しました!ここにきたことを後悔しなさい!」

 

スコープに映るそいつの口元が微かに歪むのが何故かはっきりと見えた。

 

「やめろセシリア!!」

 

叫んだ時にはもう手遅れだった。

彼我の距離を一瞬で詰めたそいつの手には超大型のショットガンが展開されていた。

 

「なっ!?」

 

「逃げろッ!!」

 

すべてがスローモーションのように、何千倍にも引き伸ばされたかのようにひどくゆっくりとみえた。

そいつが引き金を引くのも。

100を超える散弾がセシリアを捉えるのも。

7割近くあったエネルギーが一瞬で刈り取られたのも。

絶対防御を発動し意識が飛んだセシリアが落ちていくのも全部。

 

「...............何なんだよテメェは!」

 

勝てる見込みなんてなかった。

こいつには絶対勝てない、逃げろと本能が命令してもこうしないと気が済まなかった。

ずっと続くスローモーションの世界。

その中でそいつは口元をあざ笑うかのように歪めていた。

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