結局十夏が目を覚ますことがないまま、時間だけが過ぎた。
もう5月の半ばあたり。
1ヶ月近く意識不明のままだけど、本当いつまで寝ているつもりなんだか。
まぁ、変わったことといえば臨時休業が終わり、学園が再開したことくらいかな。
十夏が未だクラスに来ないことをみんな心配はするけれど、臨時休業が長かった分遅れを取り戻さなきゃ行けず、あくまで心配するだけにとどまっているけど。
でもまぁ、心配してもらえるだけ十夏は幸せ者だろう。
無事、学園としての機能が復帰してきた今日、開催されるのはクラスマッチトーナメントと呼ばれる大会みたいなもの。
...............あんまり気乗りじゃないんだけどね。
それなのにアタシがさんかすることになってるのは。
「凰さん頑張ってね!デザート1ヶ月無料券期待して待ってるから!」
「そうそう!凰さんだったら大丈夫!」
そう、このクラスメイトたちが原因なのよねぇ...............
優勝賞品にデザート券?があるからってアタシにクラス代表を譲っていいものなの?
「大丈夫。ノープロブレムだもの」
「最終的に勝ちゃいいの。卑怯、ずるいなど所詮負け犬の戯言よ」
...............だそうだ。
いやだってアタシって負けず嫌いなとこあるけど、こういう大会っぽいのはコレっぽっちも興味ないのよね。
十夏は相変わらずだし、セシリアだって本調子じゃないから欠場。
4組の専用機持ちの子もISが完成していないから出ないとか言うし。
これってある意味アタシの一人勝ちじゃん!
いや、素人だからってバカにするわけじゃないけど。さすがにアタシは候補生な訳なので負けてらんないのである。
そこまで難しいことじゃないけどさ?
本気でやりあいたい人がいない今回はテンション5割減。
「そんな顔しちゃ可愛い顔が台無しよ?」
「うっさい余計なお世話よっ!」
「あーそれにしても綺麗な肌ねぇ。何かお手入れしてるの?」
「...............別にしてないけど?」
「羨ましいなぁ〜。わたしは毎日毎日お肌のお手入れを入念にしてこの程度っていうのに。わたしの肌と交換してっ!」
「あんた年幾つよ!?」
「永遠の16歳ですっ!てへっ」
もうだめだ。こいつらなんとかしないと。
このクラスは1組に負け劣らずキャラが濃い人が多い気がする。
誰よ、ぶっ飛んでるやつはみんな1組行きだから他のクラスにはまともなやつしかいないって言ったの。
明らかに2組も十分やばいじゃないのよ。
「1組行きだといったな?それは嘘だ」
「どうりゃぁぁぁぁぁ!!!」
全力のドロップキックをぶち込んでやるつもりだったのに、ひらりといともたやすく避けられてしまった。
...............何よこいつ!?アタシのドロップキックを避けられたのは今まででたった2人しかいないのよ!?
こいつ何者?
あ、ちなみにその2人とは、千冬さんと一夏さん。
あの人達は揃いも揃って人間辞めてるから当てられる自信がない。
外す自信ならたっぷりあるけどね。
「あ、凰さんそろそろ時間みたいだよ?頑張ってきてね」
「え?もうそんな時間!?はぁ、あんまり気乗りしないわねぇ」
「そんなあなたにらぁめん麵帝プレミアムゴールドメンバーズカード。凰さんの名前で入会済み」
「なん、だと...............!?」
ピラッと目の前に出された金色に輝く神々しいそのカードにアタシの目は釘付けに。
それは殆ど所持している人がいないと言われているカード!
世界中に展開する最強にして最高の、誰もが認めたラーメンを作り上げる専門店の!
そのカードの作り上げた伝説は数知れず。
一つ、どれだけ混んでいようと最優先され、待つ必要なし!
一つ、専用の裏メニューが解禁され、それは天にも登る味だという!
一つ、ドリンク、サイドメニュー、トッピングは全部タダで頼み放題!
一つ、お代わりに一玉200円のところやっぱりタダで何回でも自由!
一つ、お会計の際に税込価格から半額!
億は下らない額の株を投資していないと所持すら許されないカードがどうしてここに!?
「あのね、私のお父さん麵帝の創業者の弟なんだ。それでこのカード持ってるんだけど、私ってあんまりラーメンが好きじゃなくて。凰さんラーメン好きだからあげようかなって」
ゴクリと唾を飲み込む。
「...............い、いいの?」
無類のラーメン好きなアタシはもちろん麵帝に行ったことがある。
でも、あまりの行列の長さに売り切れなんてしょっちゅうで、一度たちとも食べることができた試しがない。
でも、その夢を叶えるカードが今目の前に!
「うん、あげるよ。さっきも言ったけどラーメンあんまり好きじゃないから。でも、その代わりに私たちに優勝賞品をプレゼントしてくれない?」
「うぉっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!もちろん優勝賞品もらってくるわよ!!たとえ火の中水の中草の中森の中土の中雪の中砂漠の中マグマの中!全力でやるわ!行くわよ凰鈴音!シェンロン、甲龍改め神龍!一世一代の大勝負!しまっていくわよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
ーーーー勝者凰鈴音!よって優勝は凰鈴音選手!
「あっはっはっは!どーよ!?これが私の実力ってもんよ!あーっはっはっは!」
「ヒューヒュー!りんちゃんサイコーっ!」
「いよっ!我らがりんちゃんそこに痺れる憧れるゥ!!」
「りんちゃん!りんちゃん!りんちゃん!りんちゃん!りんちゃん!りんちゃん!りんちゃーーんっ!!」
「りんちゃん!私よ結婚して!!」
「ふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
大歓声(殆ど2組のお馬鹿達)のなかアタシはプレミアムゴールドメンバーズカードを無事手に入れられたことに喜びを隠せない。
若干対戦相手の子が引いてるけど今のアタシの視界になんてまーったく入ってなんかない。
よっしゃ!これで念願のラーメンが食べられる!
「これでプレミアムゴールドメンバーズカードはアタシのもんよ!あっはっはっは!あーっはっはっは!ぶぅわっはっはっはぁ!」
「...............凰さん。完全に悪役の顔だよ、それ」
「うぉっと、いけないいけない。アタシとしたものが何醜態晒してるんだか」
「...............十分晒してると思うけどなぁ」
ベチンと緩みきった頬に喝を入れて、気を入れ直す。
全く、たかがゴールドメンバーズカードにつられるんだかね。
え?説得力なさすぎ?うん、アタシもそう思う。
でも、まぁ終わりよけりゃ全て良しって言うし、候補生のくせして容赦ないとか言われそうだけど、んなもん知ったこっちゃないもんね。
だってアタシはあくまで2組の代表として“デザート券のために”頑張ったに過ぎないもの。
「あぁ、そうだ凰さん。一つだけ聞きたいことがあるんだけど良いかな?」
「別に構わないけど?」
カードを求めてやまない欲望に逆らうことなくピットに戻ろうとした時、不意に対戦相手の子に呼び止められた。
まぁ、早くもらおうが遅くもらおうが、ラーメンたべれるのは今週の土日だからそこまで影響はなかったりする。
でも早く欲しくなるのはアタシの性ってもんよ。
「あのね。どうすれば私は凰さんみたいに強くなれるのかな?」
「...............アタシっていうほど強い?」
「うん。私達にすれば越えられない壁なような存在なんだ。だから、方法とか教えてもらえたらなって」
「そうねぇー。強くなる方法かぁ」
強くなる方法を教えて欲しいなんて軽く言われたけど、正直なことを言うとかなり答えるのが難しい。
確かに誰もが強くなりたいって思いがあるのは分かる。
だけどアタシは中国でやる事がなかったからISに没頭してたら候補生になったというだけで、あんまり強くなりたいって意識した事はなかった。
うざい先輩気取りの奴をぶちのめすために必死こいた事はあったけどもね。
「結果をだしたければ、とにかく努力してみれば?」
「努力?ISの訓練とか?」
「まぁ、ISならそれしかないわよね」
「それなら毎日やってるよ?もっと強くなれる方法とか聞きたい」
「...............あのねぇ、強くなれる方法があるんだったらとっくにみんな強くなってるわよ。人それぞれに合ったやり方ってもんがあるの。アンタ十夏の方法についていける?」
正直アタシじゃ説明のしようがなかったから、十夏を例えに引き出す。
ある意味アイツのは凄いからね。
「織斑君の?」
「アイツは、真夏になると必ずやるの。暑いのに窓は締め切って、暖房をガンガンつけて。居るだけで汗だくになるくらいの部屋で徹底的に体が動かないってくらいいじめ抜くのよ」
「本当に?そんなことしてたら熱中症とかになって危ないよ!」
「そりゃあそうよ。何度もぶっ倒れてるもの。医者にやめろって言われたこともあったらしいけど、それでもやめようとしなかった。なんでだかわかる?」
クビを横に振られる。
「アイツの兄貴がかつて立っていた場所に立ちたかったから、そうアタシは聞いた。世界大会の舞台、そこで優勝したっていう成し遂げた場所にってね。そしてアイツは成し遂げたのよ」
世界大会優勝とは敢えて言わない。
きっとこの子は気づいているはずだから。
「アンタは十夏みたいなことできる?」
やっぱり首を横に振られる。
「結局そういうことなのよ。楽に強くなる方法なんてないし、他人のやり方が自分に合うとも限らない。アタシ自身は違うけど、強い人はそれ相応の努力をしているの。少なくとも十夏はそう、兄貴の後ろ姿を今でも追いかけてる」
「織斑君のお兄さんの?」
「あ、いや忘れて。アタシが言っていいことじゃなかったわね。これ以上は私の口から言えない」
ーーー無理だと思うけど、聞きたければ千冬さんか十夏に聞いて。
そう口を開こうとした時、アリーナの中央で大爆発が起きた。
そう、十夏とセシリアの時と全く同じに。