Convergence tower   作:久遠/kuon

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アヴァベルを実際にプレイしてみて「ああ、そう言えばここは〜があったとこなんだなー」とか「これがあの〜というモンスターか…」とか、そんな感じでアヴァベルを二重三重に楽しめる作品を作っていきたいなぁ、と思ってます!今回ちょっと長めですけど書いてて楽しかったんです!許してください!w


ある若者 ある少女 【4階】

『experimentum Demi lupus argentum』

私が生まれて初めて見た文字だ。言葉は知っている。話しかけられたら答えることだって出来る。でも…私は喋らない。あの文字の意味なんて知らない。どうせ『ガクメイ』とかいうやつだろう。

 

『おい!待て!!お前が外に出て何になるっていうんだ!戻ってこい!

……くそっ!獣め!所詮はその程度の知能ってことかよ!おい!応援を呼べ!捕まえるぞ!』

 

なぜあんなことを考えたのか分からない。あそこが酷いところだと分かったのも逃げ出して、外の世界を見て初めて気づいた。それくらい私は無知だった。ただ、ドアが半開きになっていた。そのドアの先に何かある気がしたから。

 

 

Love is short, but forgetting is long.

え?意味?知らないよそんなの。どうせ『エイゴ』ってやつだろ。読めないけど。ていうか今は僕に構わないでくれよ…。

な、なんだい!僕だって失恋くらいするよ!お前恋したことあんのな…って、そこからかよ!?あーもう!お前らと話してるとどんどん気分が落ち込むよ…。

 

『あなたは…うん、素敵…なのだけれど…私、他に好きな人居るんだー』

 

なぜあんなことを考えたのか分からない。一目見て…好きになった。焦りすぎた。フラれて、自分の行動を振り返って初めて知った。それくらい僕は無知だった。ただ、この一言を伝えたらその先に大恋愛が待ってるんじゃないか、って。そんな気がしたから。

 

 

 

 

私は食糧なんて無くてもある程度やっていける。でも今私は元いたところから人の街へと向かっている。方向はなんとなく人の匂いの濃い方へ向かえば良い。ここは…全面に濁った水に満たされてところどころに石とか木とかが生えている。全体的に暗くて人が立ち寄りそうにない。ここで休むとしよう。…そう言えばあいつら全然追ってこないな…。

 

「はあ?応援は寄越さない?何言ってんだあんた。大体あんたどこのどい…所長!?はぁ…1度外に出してみるのも良い…ですか。たまには、うんと羽を伸ばして貰おうじゃないか、って…化け物にそんな気遣い必要ですかねぇ…。あーはい、はい、分かりましたー。しばらく泳がせますよー」

 

 

 

僕は今、友人達とと街を歩いている。

「腹…減った…」

「おい見ろよ!失恋しても腹は減るらしいぜ!あー!おもしれー!」思いっきり大笑いしてる馬鹿2人。あれが友人だ。友人運が無かったとしか思えない。

「あーもう!うるさーい!!飯行くぞ飯ー!」ヤケクソ気味に叫ぶ。

「お?どこまで行く気だ?」

「遠出する元気は無いよ…ノクトアルで良いだろー」

「今日はナギト君の奢りでーす♪」

「もうそれで良いよ…」

「「Year♪」」

やたらとテンション高い…人が失恋してそんなに嬉しいかよ…。ちなみにこいつら。意外とモテる。妬ましい限りだ。

 

「いらっしゃいませー」

ノクトアルの2階部分は昼はテラス式のカフェのようになっていて、夜は酒場だ。とりあえず適当な軽食を頼む。今は昼だからサンドイッチが来るだろう。

「お前らさー、なんでそんなモテんのに誰とも付き合わないわけ?」

「そんなの簡単さ」

「愛しの」

「あの娘が」

「おれを」

「待っている」

「だから」

「おれは」

「告白されても」

「「なびかない」」

一応言っておくが双子ではない。名前もフレッドとかじゃないから。世の中ってほんと不公平だ…。

「あー…もう…付き合ってられないよ…」

「おいおい!待てよ!まあ話だけでも聞けって!」

「なんで慰められる側が聞く側に変わってるんだよ…」

「良いか、人ってのは夢とか目標があると輝く」

「そして女の子はそんな匂いを敏感に察知する」

「俺たちはそんな夢で溢れている」

「そう!運命の出会いってやつを夢見てる!」

聞くだけ無駄だった。

「目的と方法がゴチャゴチャじゃないか」

はぁ…とため息を吐きながら頭を抱える。そしてスクッと立った。

「お前らに奢ったせいで金無くなったしバイトでもしてくるよ…」

「ため息を吐くと」

「幸せが逃げるぜ」

はいはい、と生返事しつつ手を振って別れる。

 

 

 

ここは良い。夜になるととても綺麗な月が出る。月に罪は無い。この1週間、人と出会うことは無かった。私がここに居ついてることがバレるとどうなるか分からない。見た目が普通なだけにこんな場所に居ることは不自然だろう。

今宵も月が昇る。あと3週間…何も無ければ良いのだけれど。

 

 

 

「なんだよ……こんな仕事しか残ってないのか…ツイてないなぁ…」

《4階:湿原1の素材集め》

「よりによって湿原かよー…」

「ツイてないね♪怪我しないでよ〜?私が依頼したクエストで怪我人出たとかシャレにならないんだから」

「サラさん!?縁起でも無いこと言わないでくださいよー」

(普段こんなとこに来ない美容師のサラさんがわざわざ…!?これは…脈アリか!?)

「客に愛想振るのが仕事なんだからこれくらい普通、だ!」

痛ぁ!?

「な、背中叩かなくても良いだろう!?…ってお前らもう店出たのか?」

「お前に財布返しに来たの。それに、もうって言うけどここで相当悩んでたろ?1時間半経ってるぜ」

「ま、マジかよ…あ、財布さんきゅー、おぉ…見事に財政難だ…こりゃ受けるしか無いよなぁ…」

「頑張れ少年」

「女の子は」

「金が無いと」

「養えない」

「もうお前ら帰ってくれ!」

 

「はぁぁ…熟練のハンターはもっと上の階層だし初心者はちょっと下だし…。こんなとこ来る物好きは僕くらいのもんだよなぁ…」湿原特有のべちゃべちゃした土を踏みしめながら夜闇の中【揺れる草】【丸い小石】【湿った枯れ枝】を探す。

『溜息を吐くと幸せが』

『逃げる』

『嘘でも笑うと幸せが』

『やって来る』

友人2人の助言を思い出して、無理やり「にーっ!」と笑ってみる。すると、

バサバサッ、ダバンッ!

という何かが水の中に落ちる音がした。

 

 

 

最初から警戒はしていた。こんな人気の無いところに人が来たのだ。1人で、しかも夜に何かを探すように辺りを見回しながら。最初は追っ手かと思った。けどそれにしては顔が幼すぎた。一体こいつは何者なのか。見極めるために木の陰からこっそり様子を伺っていた。湿地の中程まで来ると、はぁ…と溜息を吐いたと思うと、キッ!と私の居る方を見た。いよいよ見つかったかと思うと急に自分の手で両ほほを「ぐにーっ」と引っ張って目を細めた。その面妖な顔に思わず気が抜けてしまった。隠れていた木の陰から水の中に落ちてしまったのだ。

 

 

 

 

「な、なんだ?」バシャバシャと音を立てて走り寄ると何か倒れていた。

「………女の子?」

その子は、必要最低限の…白色をした見たことのない感じの服を着ていた。どこか清潔そうなイメージのするその服は泥や土でドロドロだった。銀色の癖の強い髪もドロドロになっていた。

「あの…大丈夫?」

僕がよっぽど汚れていたのか、手を伸ばして助けようとすると、ビクッと体を強張らせた。

「あ、えーっと、何にもしないから、ね?」と、少しはにかみながら言うとようやくその子は僕の手を取ってくれた。手を貸しながら立たせてあげると意外にも自分と同じくらいの年齢の少女だった。そしてその可愛らしさと言うか美しさと言うかに驚いて思わず目を丸くした。

 

 

 

やっぱり怖がられた。私はそう思った。この人間は私を見ると目を丸くしたのだ。私はバケモノなのだから当然だ。私は街へ行こうとしながら躊躇っていたのも同じ理由だ。怖がられるのがイヤ。

 

 

 

「君…名前は何て言うの?」

僕が問いかけると少女は枝を拾って地面によく分からない字を書いた。

『experimentum Demi lupus argentum』

「…?なんて…読むの?」

「…エクスペリメンタム デミ ラプス アージェンタム」

初めて聞いた声はハスキーな素敵な声だった。

「エクス…デミ…?」

「エクスペリメンタム デミ ラプス アージェンタム」

「長いなぁ…ラプスで良い?僕の名前はレプスって言うんだー、僕が付けといてなんだけど何か似てるね!」

こくっと可愛らしくうなづいて

地面に書いた文字をジー…っと見ていた。

「よし、とりあえずその格好どうにかしよう!ラプス、家は?」

「家は…無い」

「そっか、一人暮らし始めたばっかりなんだな、ならとりあえず街の宿に泊まろう!おれの名義で借りるからさ!」

にかっ!っと笑って街の方を格好付けて親指で指した。

 

「あー、宿貸してください!…日程ですか…えーっと…出る時に払うかは…えーダメなの?どうしよう…じゃあとりあえず7日貸してよ!」

主人の了承を得て自分の名前を書類に書く。その間ラプスはずっと僕の手元を見ていた。

「よーし!宿は無事に借りれたし、そうだなー、美容室行こう!そのドロドロの服とかをどうにかしてもらおうぜ!」ビシッとラプスの服を指差す。

 

 

 

 

「僕は君の服を見繕ってくるからさ、のんびり待っといてよ!サラさんに任せておけば万事大丈夫さ!」

そう言ってレプスは病室(?)に連れて行ってくれた。

「いらっしゃーい、あら?レプスくん?」

「サラさんこんちわですー」

「レプスくん…その子は?すごくドロドロだけど…まさか誘拐…!?」

「ち、違いますよ!…いや違うことないかも?と、とりあえず色々と良さげにしてください!僕は服買ってくるので!」

「はいはい、サラさんに任せなさい」

じゃ!と言ってラプスは出て行ってしまった。

「ほら、まずはシャワー浴びてきな、奥にあるから」

シャワー?よく分からない顔をしているとサラさんが少し驚いた顔をした。……やっぱり嫌われたんだ。

「あー、ごめんごめん!シャワー知らない人なんて珍しくてさー、時々居るんだけどびっくりしちゃった。だからそんなに怖がらないで」

サラさんは困ったように苦笑いしながら頭をかいていた。なんだか…とてもサマになる画だった。

「ほら、手伝ってあげるから、おいで」

そう言われて私はサラさんに付いて行きました。なんか…雨の匂いがする…。

「はい、そこで服脱いで!」

発育が良いわね…。そう言ったサラさんもとても背が高い。不思議そうな顔をすると、無垢なのも罪なものよね、と言われてしまった。どういうことだろう…。

そして言われるままに服を脱ぐと籠を指差された。ここに入れろと言うこと…?

「うーん、シャワー初めてなら目閉じといた方が良いかもね」サラさんも服を脱いで奥の戸を開けるとモワッと白い煙が溢れてきた。

「あはは、そんなにびっくりしなくても大丈夫よ」

サラさんは笑いながら私を小さめの椅子に座らせた。目を閉じて、と言われるままに目を閉じる。

「じゃ、シャワーするわよー」

キュキュッと何かを捻る音がすると同時に何か暖かな……み…ず…?水…?

ッ!!?

 

 

 

 

「んっん〜♪どの服が良いかな〜」

るんるん気分でレプスが露店で女物の服を選んでいると後ろの方から

「おい、見ろよ」

「おう、見たぜ」

コソコソと

「どういう状況だ?」

「妄想上等じゃ…?」

二人組みが

「ついに頭がやられたか」

「ついに見方が変わったか」

話していた。

「失礼だな!さっきからぁ!」

「良かった」

「こっちの声は」

「届いてる」

「だ、だいたい!僕は妄想なんてしてないぞ!現実に実在してる…はず…だよね?」

出会いの時点で現実離れしていたために不安になってくる。

「俺らに聞かれても」

「困る」

「本当に居るのなら」

「ここに」

「連れて来て」

「みろ」

「今あいつはサラさんの美容室で…」

美容室のある方にチラと視線を向けると同時、ドバンッッッ!!というド派手な音と共に美容室の木製のドアが内側から吹き飛んだ。

「え…?」

そう言ったのは誰だろうか、その場の全員が唖然としていた。

ドアが吹き飛んだことにではない。

おそらくドアを吹き飛ばした張本人だろう、その真っ白の柔肌を見せつけるかのように全身何も着ずに少女が飛び出してきたのだ。

「ラプス…?」

呟いた声は幸か不幸かその少女まで届いた。思いっきり混乱した様子のラプスはその声の聞こえた方へ全力で跳んできた。

「うおおおおおおおっ!?」

さて、健全な年頃の男の子には様々な選択肢があっただろう。ここでレプスが取った行動は最もチキンで最も紳士的な行動だった。

ちょうど露店で見ていた服を広げて、跳んでくるラプスを受け止めた。

「おー、やるねぇ兄ちゃん!…ただその服はお買い上げだよね?」

露店の主が笑いながら言う。

「あ、あー…ツケで」

「まいどありーっ!」

くっ、結構高いぞ…っと思いながら美容室の方を見ると

「ごめんねー、まさかそんなにびっくりすると思わなくてさー」

サラさんが美容室の戸のない入り口からこっちを覗き込むようにして言った。ちなみに一緒に風呂に入っていたのか片手で体を纏うバスタオルを隠しながらだった。

「ほら、少年」

「バスタオル」

「俺らの好意」

「合わせて受け取れ」

2人がサラさんからバスタオルを貰って来てくれた。

「ああ、ありがとう」

完全に目を回しているレプスにかなり大きめのバスタオルを使って、くるっと巻いた後肩に担ぐ。周りにあの2人と他数人しか居なくて本当に良かった…。

 

 

 

「おーい、ラプス!おーい!……サラさん本当にシャワーしようとしただけ?」

「ほ、ほんとだってば〜!え?もしかしてラプスちゃんって水に触れると死んじゃうの?」

「いや…それは無いと思いますけど…少なくとも泥は大丈夫でした!」

何やら2人が話をしているのが聞こえる。私は…水をかけられてどうしたんだっけ。うっすらと目を開けるとまだ髪の濡れたサラさんとレプスが覗き込んでいた。

「そ、それは…どういう状況なのか…あ、起きた!」

思い出した。私は驚きのあまり病室の扉を思いっきり蹴り抜いて…。扉を見ると明らかに修繕の跡があった。つまり…外に出てから起きたことも現実なのであって…。

「大丈夫かい?ラプス…お、おお!?暴れないで!待って!また戸をぶち抜かれると今度は弁償になるからー!」

レプスが必死になだめる。するとサラさんが私の耳元に口を寄せて小さな声で

「レプス君に嫌われるぞ?」

ボッと顔が燃えるかと思った。なぜか分からないけどものすごく心臓が痛い。なんで…嫌われたくないんだろう…。

フシュゥ…と急に勢いを失った私を見てレプスが

「な、何を言ったんですか?」

と、聞く。ふふん、と軽くドヤ顔をしたサラさんが

「レプス君はまだ知らない方が良いと思うな〜。さ!男は出てった、出てった!」

な、なんなんだよ〜と言いながら外れそうになる扉を建てつけ直してレプスは外に出て行った。

 

横に3〜4個並んだ、前の壁に備え付けられた鏡とワンセット椅子の一つに座らされて大きな袖の無い白い服を着せられた。

「ラプスちゃん、その服、レプス君が買ってくれたんだよ」

また顔が赤くなるのを感じた。

「む、可愛らしい反応ね…全くレプス君はこんな可愛い子どこで拾って来たんだか…」

と、ぷにぷに後ろからほっぺたをつつかれる。

「レプス君狙ってたのになー」

髪、長いけど癖っ毛だから櫛だけ通すのもアリね、と小声で言ってサッサッと髪を梳いてもらう。

「はい、出来た!お代は要らないからレプス君に見せてきてあげな!」

扉の前でお辞儀をして顔を上げると、にかっと笑ったサラさんが手を振ってくれていた。もう一回お辞儀をして外に出るとレプスがキザな感じで手すりにもたれかかっていた。…格好つけようとしていたのか足がプルプルしている。

「や、やぁ!ラプス!随分と可愛くなったね!」

なんだか逆に格好のつかない感じだった。それに…小声で誰かと話してる?妙に思って耳を澄ましてみると。

 

 

 

ラプスが扉を開けて出てきた時、特に髪型を変えていなかったというのにとても綺麗だった。左右にぴょこぴょこ跳ねていた髪を丁寧に撫で下ろしてスッキリとした腰くらいまでのロングヘアーはとても似合っていた。

「や、やぁ!ラプス!随分と可愛くなったね!」

このセリフは手すりの向こう側に(無理やり)隠れている2人に言わされたものだ。

「あれが」

「君の妄想の…」

「妄想じゃないってば!」

3人は小声でやり取りをする。ラプスが妙な顔をしたため慌てて2人が身をさらに縮ませる。

「まさかラプスに」

「彼女が出来るとは」

「実はまだ告白してないんだけどね」

 

 

 

つまりはそういうことらしかった。あの後ろの男2人からの助言で言わされたらしい。普段の話し方の方が似合ってるのになぁ…。

「あーもう!お前らの言ってること分かんない!ラプス!晩ご飯食べに行こうよ!」

あ、戻った。やっぱり私はこっちの方が好きだ。

「お子様め」

「お子様め」

「う、うるさい!さ、行こう!ラプス!」

手を握られて向かった先はすぐそこの二階だった。

それから私とレプスは色々なことをした。この街を案内してもらったり、一緒にご飯を食べたり。レプスの話してくれることはどれも面白かった。どれも今まで経験したことのないことばかりだった。でも、バケモノの私は長居するべきではなかったのかもしれない。とても楽しい日々はたった半月ほどで終わってしまった。

 

レプスがモンスターに襲われた。

 

モンスターに襲われる程度、この街では特に珍しいことでは無いらしい。問題は場所だった。レプスがモンスターに襲われた場所は。ここ。モンスターが絶対に入ってこないはずの街だった。幸いレプスの怪我は大したことがなく、無事だった。なぜこんなところに。街の人々は疑問に思った。そしてその後モンスターが現れる気配もない。一体何が起きたのか。

でも、考えてみれば簡単なことだった。私というバケモノがすでに街に入っているのだ。理を覆してしまった私を追ってモンスターが入り込んでしまうのも当然かもしれない。

細かい理屈は分からないけど、これ以上レプスや街の人たちを危険に晒したくない。だから私は街を出た。誰も追ってこれないように誰にも言わずに。

 

私が昔潜んでいた湿原に辿り着いた頃、辺りはすでに暗くなっていた。

今日はここで寝よう。と前に雨風を凌いでいた場所に潜り込んで葉の間から覗き見える月を眺めた。もう月はかなり丸く太っていた。明日辺りが満月だろう。間に合って良かった。これで良かった。これが一番最良の選択肢のはずだ。私はバケモノ。レプス達や人間と関わってはいけない。

 

 

白衣を着た男は電話で指示を仰いでいた。

「そろそろ満月ですね、どうします?良い加減捕まえないと…」

「そうね、でもあなた達が行かなくても良いわ。これから起きることはただの狩りよ。自然の摂理。生態ピラミッドの中の話」

「は、はぁ…要するにこっちは受け入れ態勢だけ整えていれば良いんですね?」

「ええ、そうしてちょうだい。ところであなた、魂晶って便利だと思わない?」

「魂晶ですか…確か今回の個体もそれ使ってるんでしたっけ」

「魂晶はね、取り出すのが非常に難しいの。だから市場に出回ることはほとんど無い。けれどね、どの生物にだって魂晶はあるの。じゃあそれを体外から直接操作することが出来たら?魂晶というのは名前の通りその生物そのもの。ね?とっても面白そうじゃない?この世界はどこまでも素敵に出来ているわ」

「よく分からないですけど…計画通りってことで良いんですね?」

「ええ、そう思ってくれて良いわよ。私は計画通りって言葉、とても嫌いなのだけれど」

そう言って男は電話を切られた。最後まで何を言っているのか分からなかった。その声が示唆するものが同じ科学者としての概念に収まるのか、それすらも判断の付けようがない。男は携帯を白衣のポケットに入れ、空を仰ぎ月を見上げる。

 

 

朝、目が覚めて起き上がると朝露に濡れた葉が頭に当たった。まるで水を浴びたかのように全身が濡れてしまっていた。もう水は怖くない。レプス達と生活する内に慣れてしまった。特にすることもなく、ぽー…っと過ごしていると、以前ここにいた時とは比べものにならないくらい退屈なのに気がついた。

もしも私が…なんてくだらないことまで考えてしまう。これ以上考え事をしていると要らないことまで考えてしまいそうで起きたばかりだというのに寝てしまうことにした。

 

何かが聞こえた気がして目が覚めた。辺りはすっかり真っ暗で、どうやらぐっすり眠っていたらしい。疲れてたのかな…。一応辺りを見回すけど誰も居ない。モンスター達も夜はどこか大人しい。今宵は満月。誰も…来ないことを祈るしかない。

そんな私の祈りがカミサマに聞き届けられることは無かった。

 

 

 

 

朝、起きたらラプスが居なくなっていた。街のどこを探しても、誰に聞いても今日は見ていないらしい。もしかしたら街の外へ散歩に行っているのかもしれない、と自分に言い聞かせて1日を過ごした。けれど、結局ラプスは帰って来なかった。

次の日、僕は街の外へラプスを探しに行くことにした。友人達にはちょっと出かけてくると言ってある。

「まずは…草原から探そう。もしかしたらどこかで寝てるのかもしれない」

それは自分の願望かもしれなかった。昼寝していて、夜になってしまったからそのままそこで夜を過ごした。だから1日居なかった。そうであって欲しかった。

草原をくまなく探したがどこにもラプスの姿は無かった。妙な胸騒ぎがする。

「初めて会った湿原に行こう」

言霊というのはあまり信じてなかったけれど、もしかしたら奇跡が起こるかもしれない。そう思って口に出してみた。そして僕は草原を出て湿原へと歩き始めた。夕陽が落ち、反対側から月が昇り始める。今宵は満月だ。僕はラプスを呼び続けた。草原も湿原も非アクティブなモンスターであるため、大声を出しても大丈夫なはずだった。

なのに…湿原の中程で僕はモンスターに囲まれてしまった。

「カエル型は…『パウロウ』か、カメ型は『タルタルガ』だな…花型は…『ロータス』ってやつだ」

護身用に短剣は持ってきてある。なぜモンスターが急に普段とは違う行動を取っているのか分からなかったが、ここを切り抜けるには戦闘を始めるしか無かった。

だが異常は続く。

「ぐっ…ぅ…!」

モンスター達の攻撃は明らかに今まで観測された攻撃パターンに無い動きだった。何度目か分からない『ロータス』の体当たりを喰らい、思わず膝をつく。

(ああ…ラプスに会えなかったことだけが心残りだな…。)

声にならないその呟きが虚しく心の中に響いた時、幻覚が見えた。

(ラプスだ…良かった。無事だった。)

銀色の髪は初めて出会った時よりさらに跳ねていて、髪の中からはピョコンと耳が生えていた。そして今、背中を向けているラプスのスカートの下から髪と同じ美しい銀色の尻尾が伸びていた。

(綺麗な銀色狼だ…。)

幻覚は現実離れしすぎて実感が無かった。

モンスター達が集い、円になったその中心に自分を庇うように立ったラプス。

「ラプス…君は一体…?」

思わず…聞いてしまった。

 

 

 

レプスがモンスターに攻撃をされる度に飛び出したい衝動に駆られた。でも、自分がバケモノだと分かって、彼は私のことを嫌わないだろうか。私はバケモノだ。人間でも、モンスターでもないどっちつかずの『experimentum Demi lupus argentum』。

だけど、レプスがタックルを喰らい膝をついた時、自制するよりも早く、思わずレプスのそばまで高くジャンプしていた。

そしてレプスは私の姿を見て

「ラプス…君は一体…?」

と聞いた。

私は後ろを向いて顔を見せることなく突き放すように言った。

「私はラプスではない。私はバケモノ。だから、あなたと一緒には居られない。ここから逃げたら…もう、忘れて」

本当は泣きそうだった。もしかしたら泣いていたかもしれない。レプスは何かを言おうと息を吸ったが、声になる前に私はそれを断ち切るようにバケモノとして目の前のモンスターへと突進した。

私の半分は人間。もう半分は『フェルン』と呼ばれる銀色の体毛の狼。まぎれもないバケモノ。私は風を纏い、鋭い爪と牙を使って辺りに群れるモンスターを次々に屠っていった。数分もしない内に全て完了した。心というものが見えるのなら私の心はボロボロに見えるだろう。モンスターを引き裂き、噛みちぎる度に何かが剥がれ落ちていった。レプスはもう逃げ帰っただろう。私ももっと奥の人の来ないところまで行こう。そう思って一歩前へ足を踏み出そうとした時、

 

「君がバケモノなわけないじゃないか、だって君はこんなにも優しいんだから」

 

ツゥ…と頬を伝った涙を後ろから、そっと指で拭いながら彼は言った。

「ありがとう。助けてくれて。僕は君にまた会えたことがすごく嬉しい。僕は君がバケモノだなんて思わないよ。君はちょっとだけ特殊な僕たちと同じ人間さ。そしてごく普通の女の子だよ」

「だから、もうどこにも行かないで。僕はラプス、君のことが好きなんだ」

後ろからもたれかかるように腕を回して抱きつかれる。傷ついた心が満たされていくようなそんな想いがした。

「私も…レプスのことが好き」

後ろから回された手を握るように胸元に抱いて、私も言った。

「あはは、嬉しいな」

私の肩に顎を乗せたレプスの顔を見ると涙を流していた。

「ねぇ、ラプス。知ってるかい?嘘でも笑うと幸せがやってくるんだよ。僕にはこんな素敵な幸せがやってきたんだ」

ギュッ…と回した腕の力をちょっと強めてレプスは言った。




今回の話は自分の中で最上級に好きなんですよね…ただ…難点が一つ…。ラプスとレプスって名前似すぎだっつーの!これはある意味仕方ないんですけど、変えれば良かったかもなー、とちょっと後悔w ちなみにラプスとレプスはそれぞれラテン語で『lupus=狼』『lepus=野うさぎ』なんですよー、レプス変えりゃ良かったな…w
まあそれはともかく!ぜひ湿原に行って月を探してみてくださいね!ではでは次は湿原2のザリガニさんのお話で会いましょう〜
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