それではどうぞ。
スキマに入った後に、紫は真っ白の札のようなものを十数枚ほど俺に渡してきた。
「それは、『スペルカード』という、いわゆる技の元となる紙よ。スペルカードの作り方は…直感で作りなさい」
「お前、それただ説明が面倒くさいだけだろ」
紫はそっぽを向き、鼻歌を歌いだした。
「マンガみたいな話の逸らし方すな。ガキか……」
「うるさいわねぇ……さぁ、幻想郷に行くわよ。といっても、ほんの1秒だけど」
そう言うと、紫はスキマのある部分を手でそっとなぞった。すると、その部分がグアッと開き、日の光がスキマの中に入ってくる。その日の光で一瞬視界がぼやけるが、だんだんと、外の風景が見えてきた。
「…………これは……」
驚愕した。同じような表現をつい先刻使ったような気がするが、気にしない。いや、気にできない。今の日本のあらゆる絶景スポットを集めたとしても、ここまでの絶景にはならないだろう。辺りを見渡すと、自然、自然。自然しか目に入ってこない。
「いつまでそうしてるのかしら?もう五分も立ち呆けているけど……大丈夫?
」
紫の言葉でハッとした。五分も立ち呆けていたのか……。
俺はゆっくりと、スキマから幻想郷へ足を踏み入れた。まさに別世界。
「おお…………。すげぇ!ここまで綺麗なところ向こうには無かったぜ!!」
まさに無邪気な子供のようにはしゃいだ。そうしないと、この感動を伝えきれない。
「はいはい、ふざけるのはそこまでにして」
冷めた様子で紫は話し始める。
「来たのはいいけど、貴方これからどこに住むか考えてるの?自分で家でも建てるのかしら?」
……いきなり現実的な問題に直撃した……。取り敢えず、幻想郷のことしか考えて無かったわけだから、住む場所なんて到底考えているはずがない。
「え……そちらで用意してるわけではないのか?」
「当り前じゃない。そんなことする暇があったら、もっとやりがいのある事をしてるわよ」
本当に住む場所は用意してないらしい。ここでホームレスになるのかな、俺。
そんなことをリアルに考え始める俺を見た紫が仕方ないと言うように、おれに選択肢を投げかけてきた。
「仕方ないわね……3つのうち、どれか選びなさい。1つ、平和ボケしているこの世界の結界を管理する巫女の家。2つ、私の古い友人のいる冥界のお屋敷にお世話になるか。三つ目は、最近霧の湖のほとりに引っ越してきた、吸血鬼ご一行の館にお邪魔するか。さ、3つの中から選んでね。」
この選択肢を聞いてある一つの結論に至る。ましなのが無い!一つ目は巫女さんの家に居候?神社だから収入少なくてきついだろうに。二つ目、冥界。地獄近いじゃねーか!殺す気なのか?そして、三つ目。吸血鬼?ただただ血を吸われて死ぬんですね本当にありがとうございました。
「……他の選択肢は?」
「野宿か、ホームレスか。こっちの方を選ぶ?」
「結構です」
逃げ場なんて無かった。俺は、もう半分やけくそになり、一つの結論に至った。
「吸血鬼ご一行のところへお邪魔する、でお願いします。」
「あら、案外デンジャラスな選択ね。まあ、いいんじゃないかしら?」
紫はくすくすと笑いながら、西の方向に扇子を向けた。
「あちらに数里進むと湖が見えてくるはずです。その向こうはじに、大きな紅い屋敷がありますわ。そこが吸血鬼たちの館、紅魔館ですわ。」
紅魔館。いかにもな名前だ。
「ありがとうな、紫。それじゃあ、俺は行くよ」
「ええ、気を付けてね。あ、そうそう。念のため、スペルカードは1枚は作っておきなさい。身の安全のためにね」
紫はそう言い残し、スキマの中へと消えていった。
「……さて、行きますか」
俺は、これから始まる奇想天外、波乱万丈の幻想郷暮らしの一歩を踏み出した。
後書きは今回書かない……疲れたでござる