リンク・ザ・スタート   作:ヤギザ

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未定というと割と書くのが速くなる不思議…
前話でアスナに戸〇節を使わせてみたんですけど、この時期だとキャラ崩壊ですかね?




RIDE 10 水のクラン

櫂がキリトたちと別れてから二日が経った。

 

櫂はあれから安全圏外のフィールドの探索をおこなった。

結果だけいうと、収穫なし。クランは見つからなかった。

成果があるとすれば、戦闘やクリアしたクエストで手に入ったアイテムと経験値によって上がったレベル。そしてその戦闘によって向上した船上、水上技術だ。

戦闘は陸上と勝手が違う上にソロプレイヤーの為、船を動かす事と戦闘を同時にすることはできないので、モンスターと遭遇したら船を停泊させてモンスターが近づいて来たら攻撃するという何ともやり難い方法を強いられることになった。恐らく、四層で一番戦闘で苦労しているのは櫂だろう。

だが逆に両手剣が船上から水中の敵に対しての武器として効果的な物の部類に入ることが、櫂にとって幸運なことだっだ。一撃の攻撃力が高く、攻撃範囲、距離共に広いので効果的だった。

苦労したが今では雑魚モンスター相手なら難なく倒せるぐらいにまで櫂は船の上からの戦闘に慣れることができた。

そんな戦闘を繰り返しながら、これといってダンジョンのような場所は無く、探索も思いの苦労はせずに進んでいったが、それは四層の半分までだった。

四層の中央くらいの位置に湖水があり、そこはフィールドボスのいる場所でそこのボスを倒さなくては先に進むことはできない。

櫂は普段なら倒すまではいけなくとも、ボスの攻撃パターンが変わるくらいまで戦闘をしてボスやその戦闘エリアにクランがないか探す為にボスと戦闘をするのだが、今回は陸上じゃない上に、一人なのが何よりも不利な水中に対する船上戦だ。

流石の櫂もそんな危険で無謀な事はせずに、攻略組のボス討伐に参加することにした。

 

 

そして今15時。

 

四層フィールドボスのいる湖水、カルデラ湖の入り口に櫂は質素な自分の船と共にいる。

主だった攻略組のメンバーも各々自分の船を造り、ここに集まっている。

ドラゴンナイツ・ブリケードはやはり青をメインカラーにした船を三艘。最大級のが一艘、中軽級が二艘。

アインクラッド開放隊は緑をメインカラーの船が同じく三艘。三艘すべて同じサイズだ。

スキンヘッドの黒人エギルがリーダーのパーティも茶色の船で参加している。

そしてキリトとアスナの一度見たことのある白い船の姿もあった。

 

ボス戦前の独特の緊張感の中、エギルのパーティとキリトとアスナは雑談をしている。

他のメンバーは合図があるのを静かに待っている。因みに櫂はこっちだ。

普段なら櫂も会話に無理矢理引っ張り込まれる(主にアスナが)のだが、今回はそういうことはなかった。それどころか雑談をしているメンバーたちとは櫂は距離が離れている。

その理由は一、二時間前の第四層フィールドボス攻略会議に遡る。

 

ボス戦に参加する以上、ボス攻略会議にも参加しなくてはならない。櫂はあの第一層フロアボス攻略会議以来の参加だったが、エギルに挨拶と冗談めかしに一層フロアボス戦の時のことを詰られるぐらいで、他の周りからの問題もなく参加することができた。

問題が起こったのはパーティ編成の時だった。

櫂が完全にソロで船も一人で乗っていることを知った攻略リーダーのリンドとキバオウは初めての大規模水上戦で流石にそれは危険であり、足手まといになると考え、キリトとアスナのパーティに入り、一人分空きのあるその船に乗せてもらうことを提案した。

そのリーダー二人の意見にキリトとアスナは快く承諾した。寧ろそうするべきだと同意した。

この時、どこか確執のあった三組が初めてといっていいほど裏も表もなく意見が一つになった。

最前線でここまで穏やかな雰囲気になったのはディアベルが指揮していた時以来だ。もしかしたらそれ以上かもしれない。その場いたほとんどの者が最高といっていいモチベーションでボスに挑めると思った。

しかしそれは叶わなかった。

櫂の手によって…

 

間違いなく櫂は意見を受け入れてくれるだろうと、思っていた周囲を櫂は完全に裏切った返答をした。

断る、と

 

その後リンドとキバオウは櫂を説得しようとしたが、頑なにそれを拒否。

途中で怒りを顕わにしたアスナが二人に加勢し、説得とという怒鳴り声を発するがそれにも櫂は首を縦に振らず、最終的に「この会議に参加を許した以上、俺のボス戦参加を許さないとは、言うまいな」という言葉を残し、櫂が会議場を後にするというのが解散の合図となった。

それが切っ掛けで、最前線は微妙な空気になり、櫂には誰も近づこうとはしないでいる。

 

櫂がパーティの参加を受け入れなかったのは、やはりSAOに囚われてしまった全プレイヤーへの後ろめたさが原因だった。

共に戦うことですら烏滸がましいのにパーティなど組む資格がない。だがクランを探し出すためには参加しないわけにはいかなかった。

板挟みの精神の中、櫂は苦しみ続けていた。

 

 

ジャ~ン! ジャ~ン!

 

櫂が暗い精神の中から浮上したのは銅鑼の音が大きくなり始めた時だった。

ドラゴンナイツ・ブリケードの一番大きな船から銅鑼がなる。それが戦闘開始の合図だ。

櫂は船を動かし、カルデラ湖に入っていく船団の最後尾につく。

 

キリトとアスナが偵察戦をして得た情報からカルデラ湖のフィールドボスは二つの首を持つ巨大な亀だということはわかっていた。

攻撃パターンは単純で二つの頭の口からの噛みつき、ヒレで叩いてくる攻撃、そして突進だけらしい。

噛みつきとヒレ叩きは船の基本能力であるダメージ吸収で何とかなるが、突進は吸収しきれない可能性が高いらしい。要は突進攻撃に注意すればいい話だ。その突進は前モーションがあり、二つの顔が同じ方向を向くというものだ。それさえ見逃さずに対応すればいい。少なからずHPゲージがレッドになるまでは。

 

櫂を含む攻略組は順調にボスのHPを削っていった。

ドラゴンナイツ・ブリケードとアインクラッド開放隊がボスの正面の左右と尻尾のダメージが通りやすそうな所に陣取り、エギルのパーティとキリト、アスナコンビ、そして櫂は甲羅の部分を担当している。櫂に至っては他のプレイヤーの邪魔にならないように忙しなく船を動かし、一人で運転と攻撃を交互に行っているため、ダメージは与えられていないのと一緒の状態だ。

ダメージが一番通らないところへの非効率過ぎる攻撃…もはや櫂がここにいる意味はないに等しい。だが櫂は無心に与えられた役目をこなす。そこに意味がなくても。

 

 

「―――キリト君! ゲージ、もうすぐ赤になるよ! 」

 

アスナの声で櫂の意識がハッキリ戻る。それと同時に自分の目的を思い出した。

何故自分が命懸けで戦っている者たちの邪魔をしてまでここにいるのかを…

 

今までの戦闘でボスにクランが宿っていないことはわかった。

櫂は周囲を見る。円状になっている湖は見渡しも良く、数か所船を動かすだけでクランはどこにもないことがわかった。

 

今回もないか…

 

そう思った瞬間、湖の端で水が跳ねたのを櫂は見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やばい、回転するぞ!! 」

 

キリトはHPゲージが一本になり赤になったら、攻撃モーションが変わる可能性があることを十分に知っているはずの攻略組の二ギルドが何故か攻撃するのを止めずにそれどころか、猛攻を増しているのがわからなかった。

だから明らかに今までとは違うボスの動きから、次に何が起こるかを予想して、叫んだ。

 

しかし、二ギルドのメンバーは一切攻撃を止めて下がろうとしない。

アスナやエギルも下がるように声を上げるが、聞く耳を持たない。

ボスのHPは残りわずか、しかしこのままではギルドパーティすべて回転の餌食になるのは明白だった。

 

「キリト君、このままじゃリンドさんたちが! 」

 

このアスナの声でキリトは決心をする。キリトたちの船、ティルネル号のレア物の衝角がオプションパーツとして装備されており、船を体当たりさせることで攻撃ができる。それをキリトはやるつもりだった。

 

しかし、ここでキリトはあるものに気を取られてしまった。

ボスから離れていく櫂の姿だ。

何やってるんだあいつ?

そう思うだけで済んだのなら、そのまま突っ込むことができただろう。

しかし、キリトはまた別のものにも注意がいってしまった。

 

櫂の船が進む先にサメの背ビレのようなものが見えた。

それはキリトとアスナが四層で最初に遭遇したサメの背ビレを持つオタマジャクシのようなモンスターだ。

 

なぜこんなところに?

偵察戦の時はボス以外モンスターは出現しないはずだ…

ゲージが赤になったから取り巻きがpopしたのか?

 

「キリト君!! 」

 

アスナの声でキリトは我に返った。

ボスの方を見るとボスは回転し、両ギルドの船は全て吹き飛ばされ、転覆してしまっていた。

 

「しまった…! 」

 

プレイヤーが造った船には耐久値があり、攻撃を受けるとそれが減少し、0になると破壊されるのではなく転覆状態になってしまう。そうなったら当然乗船していたプレイヤーは水に落ちてしまう。落ちたプレイヤーは基本的に転覆した船にしがみ付いていることしかできない。

キリトの目の前で現実そうなっていた。

そのことを調べてた報告したリンドも現在進行形で実体験している。

 

転覆した船が元通りになるまでリンドの話だと約30秒らしい。

このまま攻撃を受けたらひとたまりもない。

ボスのライフは残りほんの僅か。

キリトはボスに近づこうと船を操作するが、ボスは厄介なモーションに入っていた。

二つの顔を同じ方向に向けている…突進攻撃だ。

 

「ちっ」

 

タイミングが悪いことにキリトは舌打ちをする。それと同時にボスの攻撃範囲にプレイヤーがいないか気になった。

リンドは? キバオウは?

ボスの凶悪な視線の先、そこには…櫂がいた。

 

櫂はボスに背を向く状態で船を停泊させている。

市販の両手剣を振るい、ソードスキル特有のライトエフェクトが発生していた。

 

まさかあいつ…雑魚モンスターを倒しているのか…?

取り巻き潰しか?

 

キリトがそんな疑問を抱いた時、アスナの叫び声が湖に響いた。

 

「危ない! 避けてぇぇっ!! 」

 

アスナの叫びの直後にボスは櫂に向かってもう突進していった。

 

「っ…!? 」

 

激しい波に揺られながらキリトは櫂の船がボスの突進の直撃を受けた衝撃音を聞いた。

キリトはとにかく櫂の行動がとにかく疑問だった。

アスナの叫びを聞いても見向きもせずに船の操縦をしようともしなかった。

キリトの見間違いでないのなら、櫂はメニューウィンドウを開いていた。

とにかく櫂の行動はキリトにはわからなかった。

同じ疑問を以前にも持ったことがあるとキリトは思い出した。

一層の時のフロアボス戦の時だ…

 

「ウソ…」

 

キリトが思考に入ろうとしたが、そんなものはすぐに消し飛んだ。

唖然となるキリトと思わず言葉を漏らしたアスナの見たものは信じられないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

櫂はボスが赤ゲージになった後、周囲やボスを確認してクランは見当たらなかった…かに思えた。

湖の端の方に櫂が何度も戦い倒したモンスターが水面を跳ねるのを見た。

しかし、その個体は他のものとは明らかに違うところがあった。

何度も見たオタマジャクシのような外見は同じだったが、纏っている空気、いや…

 

纏っていた、光を…

 

櫂は同じような光を以前にも見たことがあった。

それは一層のフロアボスの日本刀が纏っていた光と同じものであると櫂はわかった。

 

クランの光だ。

 

櫂はそれを見た瞬間、オタマジャクシモンスターに向かって船を動かした。

船をモンスターが跳ねたあたりに停泊させ、両手剣を構える。

櫂が四層で幾度となく使ってきた突き系のソードスキルを水中に発動させる。

 

何度も体験した手応え…光を纏ったオタマジャクシモンスターはポリゴンとなって消えた。

 

櫂は目の前に現れたリザルト画面を見て、心の中でガッツポーズをした。

 

「危ない! 避けてぇぇっ!! 」

 

アスナの叫びを聞いた櫂は声がした方を見る。

櫂の目に入ったのは自分に猛然と向かってくるボスモンスターだった。

今から船を動かそうとしてもボスの突進は避けられない。

 

だから櫂は賭けに出ることにした。

 

メニュー画面を開き、パネルを操作する。

ボスが櫂の船に激突するのと櫂の操作が終わるのはほぼ同時だった。

 

船から放り出される櫂。

櫂の体は空を舞、水面に叩きつけられる…

 

…はずだった。

 

櫂が感じたのは足にかかる確かな踏ん張り…

船上より安定感があり、陸地よりも何となく心もとない不思議な感覚…

 

一瞬、櫂自身何が起きているかわからなく呆けた顔になったが、直ぐに状況を理解し、笑みに変わる。

 

「なるほど、そういうことか…」

 

櫂は足を踏みしめ、やや前かがみだった体を起こし、ボスに向かい、両手剣を中段に構える。

 

その時、櫂は足元に何かが跳ねた気がした。

それは何なのか櫂にはわかった。

魚や水中モンスターの類ではない。

それは

 

 

きっと…『人魚』だったのだと

 

 

水面の上にしっかりと立っている櫂のステータス、

 

クランスキルスロットには『バミューダ△』がセットされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリトとアスナが信じられない光景を目の当たりにしていた。

 

それは櫂が水面の上に立っている姿。

 

櫂の乗っている船がボスの突進の直撃を受けて、船は転覆。

櫂自身もリンドやキバオウたちと同じように水の中に放り込まれると思ったが、櫂は体勢を崩しながらも水面の上に着地し、水面の上を走り、ボスに立ち向かっている。

 

βテスターであるキリトでも水の上を歩いたり、走ったりするスキルなんて聞いたことも見たこともない。

もしかしたら正式仕様では実装されたスキルかもしれないが、正直キリト的にはソードアート・オンライン、アインクラッドの世界観から逸脱しているスキルなような気がした。

まるで魔法のようだ…

 

「キリト君! 」

 

アスナの声でキリトは我に返った。

そうだ今はボス戦中なのだ。

考えるのは後だ。

キリトは首を左右に激しく振り、頭の中を切り替える。

 

櫂が何故水面の上を何の制約もないように走り回ったり、戦えるのかは知らないが、とにかくそれができている櫂は今ボスと一人で戦っている。

ボスの動きや攻撃は相変わらず単純だがゲージが赤だからなのか、攻撃はかなり激しくなっている。

その攻撃に櫂は綺麗に対応して、さばいている。船上の独特且つやり難さから解放された櫂はまったく危なさを感じさせずにいる。

だがボスの攻撃の激しさゆえに決め手の一撃を入れられないようだ。

あとボスのHPは数ドット、ダメージの通る箇所にソードスキルでなくてもいいから一撃をいれればいいだけだが、それは難しそうだった。

 

そこまで考えが辿り着いたキリトは直ぐにどうすればいいか思い立った。

 

「アスナ、行くぞ」

 

キリトの言葉に相棒のアスナは強く頷くのを見て、キリトは最大船速でボスの正面に向かって船を走らせる。

 

 

「スイッチィッ!! 」

 

向かい合って戦っている櫂が後ろからするキリトの大声に、少しだけ振り向き、迫ってくるティルネル号を確認するとまた正面に向き直る。

 

おいっ! と櫂に言いようになったキリトはそれを飲み込んだ。

何故ならキリトは気づいたからだ。

櫂が攻撃の隙を見つけようとしていたさっきまでと違って、完全に防御に徹していることを…

 

「キリト君彼とぶつかっちゃう! 」

 

アスナの当然の叫びをキリトは無視して最大船速のまま突き進む。

 

櫂の背中にどんどん近づいていくティルネル号。

しかし、櫂はその場から動かない。

 

櫂とティルネル号の距離が10mくらいになった時、ボスがモーションの大きい攻撃を櫂に仕掛けた。

その攻撃を櫂は弾き返し、間髪入れずに横に飛びのいた。

 

櫂と入れ替わるようにティルネル号がボスの懐に突っ込み、自慢のレアアイテムがセットしてあるオプションの衝角で攻撃する。

クリーンヒットした攻撃によってボスは爆散した。

 

 

キリト、アスナ、エギルとそのパーティ、ボスが倒された時に転覆から戻った船に乗り込んでいくドラゴンナイツ・ブリケードとアインクラッド開放隊の面々、そして櫂の前にリザルト画面が表示され、勝利のファンファーレが鳴り響いた。

 

キリトはリザルト画面を簡単に確認した後、櫂の姿を確認するために周囲を見渡した。

自身も詮索されることが嫌いだから、他人の詮索をしない様にしているキリトだったが櫂の水上歩行スキルは気に生りすぎた為、無意識に櫂を探した。

しかし、櫂の姿が見当たらなかった。転覆していた櫂の船もない。

キリトが更に目を凝らして周囲を見渡すと、湖からかなりのスピードで船を動かし入ってきた所から出ていく櫂の姿が僅かに見えた。

 

キリトは数秒、櫂が消えていった湖の入り口を見た後、ティルネル号を動かし、先の村を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

完全に見られたな…

 

櫂は四層のフィールドボス戦を終え、一目散にロービアに戻ってきた櫂はボス戦を振り返って、当て所なく歩きながら仕方のないことに後悔を感じていた。

 

ボス戦中は必死だったし、あの状況ではベストの判断と行動だったと思うが、クランスキルの能力をハッキリと見られたのは迂闊と言えざるおえないと櫂は結論づけた。

 

櫂自身クランスキルは通常のスキルとは全くの別種ものであることはわかっていた。

他のプレイヤーと距離を置くためにも、クランスキルは見られないようにしていたのだが、今回大勢のプレイヤーに見られた可能性が高い。

少なからずキリトとアスナには確実に見られた。

あの二人やエギルなどは大丈夫だと思うが、他のギルドのメンバーに見られたら何を言われるかわからない。

そうなったらと思うと櫂は億劫になる。

 

しかし、櫂の暗い気持ちの大部分を占めるものは面倒くさいや鬱陶しいではなく、隠していた罪を暴かれる恐怖と罪悪感だった。

今まで心の内にだけあった葛藤が、現実のものになるかもしれない恐怖は櫂を思考の海に叩き落とすことに十分だった。

正直、人の多い最前線の主街区ではなく、もっと人気のない村に行こうかと思ったが、そんな逃げ出すみたいなことは櫂の意地や良心が許さなかった。

 

裁判を待つ被告人の恐怖と自己嫌悪に櫂は立ち止まり、ぐちゃぐちゃな心に沈んでいく。

 

 

 

「あっ!! 」

 

 

急に大きな声に櫂は驚き、ビクついた顔で声がした方の見る。

 

 

「あっ…えと」

 

見た先には見覚えのある少女が看板らしき物を持って立っていた。しかし、櫂にはどこで見た顔なのかわからなかった。

 

「…ここで、ぶつかったことありますよね…? 」

 

と少女が言うと、櫂は州を見渡すとロービアの転移門広場にいたことに櫂は今気づいた。

しかし、転移門広場は櫂の知っている雰囲気と様相がだいぶ違っていた。

様々な飾りつけや露店のようなものの準備を始めているプレイヤーでいっぱいである。

それを確認して改めて少女を見る。その時の櫂の顔は何が何だかわからない者の顔をしていた。

 

「え~っと…あなたもクリスマス壮行会に参加するんですか? 」

 

「クリスマス壮行会? 」

 

聞きなれない言葉に櫂は少女に聞き返す。

 

「ええ、今からここで前線の攻略ギルドの二組が合同でクリスマスパーティを開くんです」

 

そうだったのか。

何も知らなった櫂は少女の説明で冷静さを取り戻し、現状を理解した。

とりあえずこの少女はクリスマス壮行会とやらの参加者なだけで、攻略組とは関係がなさそうだと判断した。

声をかけられた時は攻略組のメンバーがクランスキルのことを問い詰めに来たのかと思ったが、違ったことに不覚にも櫂は安堵する。

 

次に目の前の少女のことを考える。櫂は少女に見覚えがあるし、少女も櫂を知っているようだ。

櫂が記憶の糸を辿っている間、少女は周りのプレイヤーと同じように露店のようなものを開く準備を始める。

そこで一番に目についたのは『武器修理』と書かれた看板だった。

その後、少女の腰にぶら下がっている鍛治用のハンマーが目に入った。

その瞬間、ショートヘアの髪とソバカスなど連鎖的に思い出していき少女の正体に気が付いた。

 

「…三日前にここでぶつかった…」

 

「今頃気づいたんですか? 」

 

少女は呆れてはいるようだが、嫌みを感じさせない声と笑顔で櫂を見る。

 

「…すまん」

 

その少女に対して櫂は必要以上に重々しく謝罪してしまった。

少女は苦笑いをしながら、店の準備に戻る。

 

何となく櫂はここから離れ辛く、準備をしている少女を見ていることになった。

正確にはまた負の思考に集中しはじめてしまったので、虚ろ気味の目が少女を無意味に捉えているだけなのだが。

 

「よしっ」

 

数分後、店の準備が終わった少女は両手についた誇りを落とすようにパンパン打ち付ける。

 

「あー……」

 

櫂と少女は改めて向き合うことになり、気まずくなる。

明らかに困っている少女に対して櫂は見るからに気落ちしている様子だった。

少女は櫂の様子を見て百面相の後、意を決して声をかけた。

 

「何かあったんですか? 」

 

少女の言葉に櫂の意識が少女に向く。

 

「何かあったのなら吐き出しちゃった方がいいですよ」

 

「…俺には吐き出す資格はない」

 

少女の悩みを聞こうか? という申し入れを櫂は断る。

 

「う~ん…難しく考え過ぎなんじゃないですか? 」

 

「っ…!? 」

 

少女の言葉が櫂の櫂の心の中に入ってきた。

いつか親友が苦しくとも決意の道を選んだ時、どうすればいいか思い悩んだことがあった。

その時ある双子の姉妹の妹が櫂に言った、

考え過ぎると馬鹿になる、と

 

「馬鹿になれたら、楽だろうな…」

 

「えっ…? 」

 

(今も馬鹿にならずにいられるだろうか? )

 

見上げる薄赤さが皆無になった空を見上げる櫂。

 

(大切なのは自分の意志、なら今の俺の意志は? )

 

ふと、櫂の頬に冷たいものが触れる。

 

「雪…」

 

少女の言葉通り、雪がゆっくりと揺り始めた。

周りのプレイヤーも感嘆の声を上げる。

 

それからすぐに飾りつけのライトが光だす。

 

「うわぁ…綺麗」

 

夜闇の中、深々と降る雪と、点滅、点灯するライトがクリスマスらしい幻想的な光景を作り出す。

思いがけない雪のサプライズの盛り上がりの中でリンドとキバオウが転移門広場の中央に現れ、クリスマス壮行会の開催を宣言する。

 

櫂は少女と一緒に暫し、あまりにもクリスマス的な光景を眺めていた。

 

「感謝する…」

 

「えっ…? 」

 

「少し大切なことを思い出した…」

 

櫂の突然の感謝に少女は少し困惑するが、すぐにいい笑顔で櫂に応えてくれた。

勝手に自己完結した手前、何か礼をしたいと思い、少し思案する。

答えは直ぐに出た。

櫂は背中の両手剣を抜く。

フィールドボス戦でかなり無理をさせてしまったので、耐久値がかなり減少している。

 

「この剣の修理を頼む」

 

と、少女に言うと、少女は満面の笑顔で

 

「毎度ありっ」

 

「毎度ではないがな」

 

櫂の言葉に笑った後、少女は櫂の剣の修理を始める。

 

 

櫂の中の迷いはまだ晴れない。

だが、大切なことを少し思い出した今日は…

 

 

間違いなく少し答えに近づいたのは確かだった。

 

 

 

 

 

 




次話も近々更新したいんですけど、アクシデントの連発で未定です。

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