リンク・ザ・スタート   作:ヤギザ

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ま、間に合った…

ユウキ…誕生日…おめでとう…

ガ、ガクリッ





RIDE 13 敵

6月12日

 

アインクラッド第五層をクリアした大晦日から、約半年が経過した。

 

その間にいろいろなことが変わった…

 

 

今現在、ソードアート・オンラインに閉じ込められたプレイヤー達は第30層までクリアし、そこを最前線としている。

 

そう年が明けてから、約一週間に一層のペースでアインクラッドを攻略していっている事になる。

 

第一層に比べれば四倍速く、第二層から第五層に比べれば遅いペースだ。

だが様々な理由で攻略速度に波があった昨年と違って、今年は計算上だけでなく安定したペースで攻略していっている。

今のペースで攻略していくことが出来たとしてもあと一年以上かかる計算だが、危なげな不安定よりは良い傾向だと言える。

それにこのゲームをクリアすべく最前線に出てくるプレイヤーは今年に入って徐々に増えていき、去年とは比べものにならないくらい増えた。その数は今も増え続けており、覚えるのも大変なくらいのギルドやパーティが攻略に参加している。

今以上に攻略速度が上がるのは夢ではないだろう。

 

しかし、去年より全てが良い方向へと変わったわけではなかった。

 

攻略組の二大ギルドの片割れだったキバオウ率いるアインクラッド解放隊は第25層のフロアボス戦で主力メンバーが多くやられてしまい、前線から手を引くことを余儀なくされた。噂では今第一層のはじまりの街で他のギルドと合併し、《アインクラッド解放軍》というギルドに変わり、再起の為、力を蓄えているらしい。

 

もう一つの片割れドラゴンナイツ・ブリケードは《聖竜連合》と改名し、ギルドの規模を拡大していき、最前線を今も走り続ける。

されど組織が大きくなるにつれ、人も増えれば、その人数分だけの違った考えが生まれてくる。

聖竜連合にはそれだけの人数の人間を統率出来る人間はいなかった。

そのせいかレアアイテムや効率の良い経験値稼ぎのポイントなど独占し、その為なら犯罪ギリギリの事までしてしまうらしい。

それでも『ゲームクリア』という目標だけは違うものがいないだけマシなのだろう。

 

攻略に必須と思われていた二大ギルドのバランスが崩れてしまった事になるが、今では多くのギルドが攻略前線に加わっている。

 

その中の一つに《血盟騎士団》というギルドがある。

 

このギルドはアインクラッド解放隊の代わりではないが、いつの頃からか《ヒースクリフ》という名のプレイヤーが立ち上げ、瞬く間に先の二大ギルドと肩を並べるまでに急成長し、今では攻略組を引っ張っていっている。

だがその血盟騎士団とて完璧ではない。

効率的な戦闘や危険を限りなく0にする為の統率、結果だけ見れば、最善だ。

しかしながらそこには聖竜連合と変わらない『命を出来る限り危険に晒さない上での最大限のクリア効率』の為ならば、いかなる事もするといった空気が表立ってはないが感じさせている。

 

その二つのギルドの空気が現在の攻略組全体を覆ってしまっていて、攻略組の中で他のギルドやパーティとの交流は全く無くなっている。

ハッキリ言って今の攻略組の空気はギスギスしているのだ。

それが後続の実力をつけたプレイヤー達を尻込みさせている部分になっているし、もう少し情報交換をしていれば、失わずにすんだ命もあっただろう。

 

そんな空気を作ってしまっているギルドの片方である血盟騎士団の副団長は驚くべきことにあの赤フードの女細剣使いアスナだった。

アスナは血盟騎士のゲームクリア効率最優先の姿勢には反対どころか、自ら率先して行っているようだった。

 

アスナの相棒であったキリトは血盟騎士団には入っていない。どうやらアスナが血盟騎士団加入時に袂を分かったようだ。

そのキリトだが四月に入ったぐらいから最前線に顔を出さなくなった。

死んだわけではないようだが、攻略組で心配する者やLA、ラストアタックボーナスが独占されないからこれからも出てきてほしくない、などという者がいるが良くも悪くも多くのプレイヤーに気にかれられている。

 

 

そんな事が重なり、ここ二か月ほどは攻略のペースが落ちてしまっている現状であった。

 

 

 

 

 

 

 

『『『『おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!』』』』

 

 

 

 

 

 

だが、人の生きようとする意志は、生存本能は決して弱くはない。

 

それを称えるかの如く、勝利のファンファーレが鳴り響く。

 

今も生きようとする者達の手で30層のエリアボスが撃破された。

 

 

 

 

その中には、この世界の異端者…

 

櫂トシキの姿もあった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エリアボスを倒した攻略組はそれぞれ軽い挨拶を交わした後、各々ギルドなりパーティなりで集まったり、一度街に戻ることになる。

ボスを倒した後は、何の感慨もなく自然解散。

それが今の攻略組だある。

 

「おう。お疲れさん」

 

中には例外もいるが…

 

「………ああ」

 

黒い巨体のスキンヘッド、エギルが用が済んだのでさっさと次の目的地に移動しようとした櫂に声を掛けてきた。

エギルは相変わらずギルドに入ることも作ることもせずに気の合う(実力の伴った)メンバーとパーティを組み、最前線に出てきている。

最近では前線に出てくるのはボス戦のみで、どうやら戦闘以外の事に力を入れ始めているという噂があるが、詳細は櫂にはわからない。

 

「正直キリトが姿を見せなくなって、アインクラッド解放隊も前線から引いちまって、どうなることかと思ったが何とかなるもんだな」

 

「………あいつがいないのは戦力として大きな痛手だが、すべてあいつだけの力で戦ってきたわけではない…」

 

「おお~っ、大きく出たな。まっアンタの実力だからこそ言えるんだろうな。キリトのいない今、頼りにしてるぜ。孤高の《大剣戦士(バスタード・ファイター)》さんよっ」

 

 

 

 

実力のあるプレイヤーや有名なプレイヤーにはプレイヤー名以外でその特徴を表す呼び名がつけられることがある。

それはゲームが開始された直後から始まっており、その最初の人物は情報屋《鼠》だろう。

鼠はプレイヤー名ではなく通称である。

キリトなどは《ビーター》《黒ずくめ(ブラッキー)》《黒の剣士》などと名誉不名誉関係なく複数の名で呼ばれているし、血盟騎士団の団長ヒースクリフも《聖騎士》などと囁かれ始めている。

アスナもそのソードスキルのあまりの速さから《閃光》と讃えられているが、本人は主に由来が原因で呼ばれたくない、と言っているようだ。

 

そして櫂もプレイヤー名以外の呼び名で呼ばれるようになった。

 

大剣戦士(バスタード・ファイター)

 

はじまりの街を出ているプレイヤーでソロでいる者は少なくても全くいないわけではない。

情報屋の鼠も実質ソロプレイヤーだ。

だが最前線の攻略に参加しているプレイヤーでソロなのは極少数だ。

その少数の代表格がキリトと櫂である。

キリトは実力は勿論だが有名にしたのはインパクトのあるエピソードだ。

事実、ビーターなどがそれに当たる。

 

櫂も実力の他に他者にインパクトを与える特徴がある。

 

それこそが大剣である。

 

櫂は去年までは市販の両手剣を使っていたが、この半年前線を戦い抜いてきた中でレア物の両手剣を手に入れる機会が何度かあり、それらを使っている。

その中で櫂が自分に合っている感じたのが、両手剣の中でも大きく重量があり、攻撃力と耐久力に優れたタイプの物だった。

ゲーム開始当日に初めて手に入った両手剣《バスターソード・ファントム》もこのタイプであり、思い入れがあるからというのも理由ではあるが、櫂にとって使いやすいと感じたので身の丈ほどのある両手剣を好んで使うようになった。

ここで注目すべきはデスゲームにおいて使う者が少ない隙が大きく使い辛い大型の武器を選択したこともそうだが、特筆すべきは櫂がソロプレイヤーであることだ。

ソードアート・オンラインのソロプレイヤーの殆どが中量級~軽量級の武器や防具にしている。

というか重量級の武器防具でソロは櫂を除いて一人もいない。

ソロは説明までもないが、一人で行動して一人で全ての事柄にに対処しなければならない。

つまり戦闘もだ。

先ほどもいったように大型武器は攻撃速度が遅く、隙が大きい。

ギルドに所属しているなり、パーティを組んでいるなりしていれば、その中の役割として大ダメージや相手のモンスターにあったデバフ効果を狙っての選択やただのゲームだったならありかもしれないが、命が掛かったデスゲームでは死に行くようなもので、ありえないと言ってよい。

 

だが事実として櫂は攻略組として戦ってこれている。

 

それは勿論実力があってのことである。

半年以上最前線で共に戦っていれば、わかる櫂のアバターの動かす技術の高さ。

それはキリトやアスナをも凌駕しているのは明らかであった。

そしてソードスキルの完成度の高さ。

普通に剣を振るのはやはり遅い櫂であったが、ソードスキルの攻撃速度はキリトですら切っ先が見えないあのアスナのソードスキルに匹敵するほどの速さだ。

ソードスキルは発動するとシステムにより体が自動で動き、攻撃するモーションをする。

この時システムに完全に身を任すのではなく、自分でもそのモーションを後押しするように体を動かすと、ソードスキル中の動きが速くなり、威力も増す。

この技術は慣れと練習な上、ある程度までしか上がらないのだが、アスナの様にセンスのある者は低レベルでも高階層でも通用する速度になるが、あくまでそれは軽量級の細剣での話だ。

櫂は重量級の両手剣でアスナの細剣に匹敵するほどの速度のソードスキルを放つ。

もしかしたら櫂はアスナ以上にこの技術が上手いのではないかと囁かれている。

このことが元でアスナは「私が閃光なら彼はどうなるのよ」と自分につけられた呼び名に納得していなかった。

 

その巧みな動きと高い完成度のソードスキルで重量武器を使い、ここまで戦ってきた櫂はそのインパクトから櫂は大剣戦士(バスタード・ファイター)呼ばれるようになった。

 

 

 

「……過ぎたことを言った…すまん…」

 

「あっ、いや、そういう意味でいったんじゃねえんだけど…」

 

エギルに謝り、そのままその場を後にする櫂。

 

エギルは予想しえなかった櫂の反応にそのまま見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

この半年間で櫂は本来の目的であるクラン探しは四つ見つけることが出来た。

去年で見つけたものを含めると計七つである。

その七つは

《リンクジョーカー》

《バミューダ△》

《グランブルー》

《グレートネイチャー》

《たちかぜ》

《むらくも》

《スパイクブラザーズ》

である。

 

23クラン中、おそよ三分の一ほど集めることが出来た。

今現在、アインクラッド攻略は100層中30層であるから順調だと言えた。

 

しかし、櫂はクランを見つけることに素直に喜べなくなっていた。

 

この半年がむしゃらにクランの捜索を続け、その為にアインクラッドの攻略も進める為に戦った。

だが櫂の心には常に拭いきれない後ろめたさがあった。

 

命を懸けていない自分の罪悪感。

その感情に何度も深い思考と葛藤に落とされた。

 

だからといって櫂は進む足を止めるわけにはいかなかった。

ゆえに櫂はまだ探索が済んでいない下の階層に向かった。

 

 

現在最前線の第30層を除いた下層の探索率は約八割ほど完了していた。

去年までのペースで攻略を進められていたら、各階層の探索が満足に出来なくなっていただろう。

しかし、今はだいたい一階層を突破するのに一週間は掛かる。

その間にその階層とまだ探索しきれていない下の階層の探索まである程度出来る。

正直クランを探す為には今ぐらいのペースが丁度良いのだ。

 

だが櫂はそう感じる度、思う度に自己嫌悪の繰り返すのだった。

 

 

 

 

 

 

30層のエリアボスを倒した後、櫂は主街区で小休止をして27層に向かった。30層の迷宮区やフロアボスを攻略するのにどんなに速くとも三日はかかる。睡眠と櫂自身での迷宮区探索を考えても一日は余裕があると考えられた。

ここ最近は10代の層の探索を完璧にするために動いていたので、今回からは20代の探索を開始した。

27層は街やダンジョンが軒並み洞窟の中であった為、最前線だった時に二つ前に増えたスキルスロットにセットした『暗視』スキルの熟練度が低かったので探索が十分には出来なかったが、今ならあの時よりは熟練度が上がっているので、もう一度探索することにした。

しかし、櫂は自分の考えが甘かったことを思い知らされた。

27層の主街区のロンバールに転移して直ぐにまだ探索に不安がある一番近くの洞窟ダンジョンに入ったのだが、入ってすぐに気付いた。

 

(まだ『暗視』の熟練度が低いな…)

 

以前よりは明らかに洞窟の中は明確に見えるが、それでも薄暗さはかなり残っていた。

今の櫂の『暗視』の熟練度ではこのダンジョンひいてはこの階層のダンジョンではあまり通用しないようだ。

クラン自体を発見するのに『暗視』スキルは必要でないが、それまでの隠されている道や部屋を発見することに支障が出てしまう。

このままここで無理に探索を行っても、非効率である。

しかし、このまま別の階層に向かうのも時間の無駄な気がした。おかしな話、すぐには別の階層の探索をするという切り替えが出来なかった。

 

そこで櫂の中で出た妥協案は、27層の迷宮区に行くことだった。

 

27層の迷宮区は他の27層のダンジョンと違って天然の洞窟のようなダンジョンではなく、正方形の整ったブロックなどで構成されていて、隙間やギミックには不思議な光などがエフェクトで発生していることから、魔法科学的な印象を受ける場所だ。だからなのか照明のような物はないのに視界は良好である。そういうこともあり27層が最前線だった時に一番しっかり探索した場所ではあったが、もう一度しっかりと探索をすることにした。27層の迷宮区は今まで経験した他の迷宮区よりもトラップが多く、その中には隠し部屋や通路があった。しかし、その数全てを櫂は把握できているか不安だからという理由もあった。

 

案の定、いくつかの隠し部屋と通路を見つけた。だが、それらの場所でクランを見つけることは無かった。

 

引き続き櫂が通常の通路を歩いていると、不自然に光っている壁を発見した。それは隠し扉であることは一目瞭然だった。

トラップかもしれないが、そのトラップ中にクランが宿っている何かが現れるかも知れない。

 

櫂がその壁に手を触れようとした時、視界の隅で見覚えのある光が見えた。

 

すぐさま視線を光のある方へ向けると、十数メートル先の床に光を放つ何かが落ちていた。

 

その光を櫂が間違えるはずがない。

 

 

クランの光だ。

 

櫂は光っている壁に近づけていた手を離し、クランの方へと歩み寄っていく。

 

しかし、そのクランには違和感があった。

 

今まで櫂が手に入れたクランはアイテムなり武器なりモンスターなりに宿っていたのだが、今目の前にあるクランは光がそのまま床に落ちているそんな感じだ。

しかもついさっきまであんな所にクランが落ちていただろうか?

クランの光は決して小さいものではない。

かなり明るい場所でもハッキリと見えるし、感覚でそれを察知できる。

 

にもかかわらず櫂は気付かなかった。

 

しかし、目の前にあるクランを前にしてはそんな疑問は些細な事だった。

 

自然と速足になる櫂はクランに近づいていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~本当に俺達以外にこの光が見える奴がいたんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

クランまであと十mぐらいのところでその声は聞こえた。

思わず足を止める櫂。

床に落ちているクランは相変わらず光っている。

だが…

 

 

そのすぐ傍には、黒い人影が立っていた。

 

 

櫂と相対するように立っている人影。

床のクランの時もそうだが、いつの間にはそこに存在していた。

 

そこに現れた人物は全身黒い革のコートで身を包んでおり、コートに付いているフードを深く被り、フードの中は不自然なほどその顔や輪郭すら見えない。

 

しかし、櫂には突如現れた人物の不気味さなど気にしていない。

 

櫂が気になったのは目の前の人物から発せられたであろう…その言葉…

 

 

(こいつは今、光と言ったか? )

 

 

この場において光を表すものは一つしかない。

クランだ。

 

黒コートの人物は櫂の疑問に答えるように、足元にあるクランを拾い上げた。

 

 

「ていうか、お前はこれを探してるんだよな? 」

 

 

拾い上げたクランを見せびらかしながら、櫂に問いてくる。

 

目の前の人物が何者かは櫂には全く分からない。だから櫂は油断が一切できない。

警戒したまま、櫂は口を開く。

 

 

「そうだと言ったら…? 」

 

 

フードの奥にある見えない顔が笑った気がした。

 

 

「なら、一緒に来てもらおう」

 

 

黒コートはクランを持っていない手を顔の横まで持っていく…

 

 

「オレたちの領域に」

 

 

パチンッ

 

 

鳴らされた指の音と同時に櫂は頭を掻きまわされたような感覚が襲われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬の立ちくらみ、数秒だが目を閉じてしまった。

その時感じたの僅かな気持ち悪さと、この世界で何度も味わっている転移の感覚だった。

 

 

 

櫂が目を開けると、そこは27層の迷宮区ではなくなっていた。

 

 

そこは円柱になっている広い空間。

 

壁には一桁の数字がいくつも不規則に上から下へ水が流れるように落ちていく。

 

電子的な雰囲気を醸し出している。

 

しかし、中央の一ヶ所だけ周りとくらべて異質だった。

 

宙に浮いているかのような陸が存在してる。

 

そこには土の地面の上に岩や原っぱ、少ないが木々も存在している。

 

デジタルとリアルがアンバランスに結合している異様な空間…

 

 

櫂はデジタルの円柱の中央にある陸に立っていた。

 

 

そして櫂の十m先には先ほどの人物がいる。

 

しかし、いたのはクランを持った黒フードだけではなかった。

 

それは黒フードと全く同じ服装をした、もう三人の人物…

 

 

クランを持った黒フードの少し後方にほぼ同じ体格の者。

成人男性ほどの体格である両者の違いはその手に持っている物だ。

後ろの者は刃が三角形のシンプルな槍を刃の根元近くを片手で握り、持っている。

 

先の二人の更に後方には歪な形をして地上に出ている大きな木の根に、明らかに小柄な者が座っている。

 

その隣には明らかに大柄で、目測でも180後半はある身長に、革のコートの上からでも解るかなりの筋肉質な体格の者が立っている。

 

そして全員の頭の上にあるのはプレイヤーを示すアイコンだった。

 

 

「言われた通りに連れてきたけど、これからどうするんだよ? 」

 

 

最初に現れた男が後ろを振り向ながら他の三人…というより大柄な黒フードに訊ねた。

その質問に答えるように黒フードの大柄の男は数歩前に出る。

 

 

「…お前はこの世界の住人ではないな…? 」

 

 

低く重々しい男の声で発せられる声。

間違いなく櫂に向けられてものだ。

 

 

「……お前達こそ何者だ…? 」

 

 

今自分に起こっている状況が解らない櫂は相手の問いに答えるよりも自分の疑問をぶつけた。

 

 

「…我々はクランを集める者…」

 

「何だとっ!? 」

 

 

大柄の男の意外な言葉に櫂は驚いた。

 

 

「お前たちは何を知っている!? 何の為にクランを集めている!? 」

 

「おいおい、質問を質問で返した上に質問の嵐かよ」

 

櫂の感情を顕わにした声での問いをクランを持った黒フードがやや軽薄な口調で茶化してくる。

 

 

「…その問いに答える必要はない…」

 

「何…!? 」

 

クランを持った黒フードの言葉など無かったように、大柄の男は櫂の質問を一蹴する。

 

 

「…重要なのはお前がこの世界の住人なのか…クランを持っているのか…それだけだ…」

 

 

「………」

 

 

櫂は大柄の男に抵抗するように沈黙する。

向こうが話す気がないのなら、わざわざこちらのことを話す義理は無い。

それに櫂には予感があった。

 

目の前の集団が何者達なのかはわからないが、ほぼ間違いなく…

 

敵だ。

 

 

「訊く必要なんてないっしょ。こいつがどっからログインしてるか辿ってもうわかってるんだからさ。正体はほぼ確でわかりきってじゃん」

 

「なっ…!? 」

 

茶々を入れるクランを持った黒フードの言葉に櫂はつい反応してしまう。

その言葉から連想して予想が櫂の頭の中を駆け巡る。

こいつらは何らかの方法でこのソードアート・オンラインというゲームに対してシステム的な介入が出来て、櫂がログインしている場所、つまりこことは違う別の世界のことを知っている可能性。

デスゲームと化し、現実からの介入が出来ないこのソードアート・オンラインに対してシステム的な介入が可能であるこいつらは、唯一干渉できる茅場晶彦に付いている可能性。

今いる空間もそのシステム干渉に因るものである可能性。

 

そして、ゲームの枠の中でしか動けない櫂自身はこいつらのゲーム外からのシステム干渉には抵抗することができないという可能性。

 

櫂の中で冷たい何かを感じる。

もしここが通常の体なら、冷や汗をかいているだろう。

 

もしこいつらに強制ログアウトのようなことをされたら…

 

もう二度とこのゲームには戻れない!

 

 

 

緊張で自分のアバターが強張るような錯覚を感じた。

 

多くのことを逡巡した櫂にとっての長い数秒間だった。

 

 

「…確かに優先すべきはクランを手に入れること…」

 

 

櫂は大柄の男の言葉から何かを仕掛けようとしていることがわかった。

 

無意識の内に背負っている大型の両手剣の柄を握る。

 

相手が何をしてくるかわからない。抵抗できることなのかはわからない。しかし、何の準備も心構えもなく迎え撃つよりかはマシと考えるより先に感じた。

 

 

「その男からクランを奪え。ラー」

 

 

大柄の男の言葉に槍を持っている黒フードが前に出てくる。

 

槍を持った黒フード…ラーと呼ばれた者は数メートルの間を持って櫂と対峙する。

 

櫂はラーから静かだが敵意と殺気を感じた。

 

この敵意と殺気はVR世界の気のせいなどではないと、櫂は確信が持てた。

 

 

背中の両手剣の柄を握ったままの櫂。

右手で異様に槍を短く持っているラー。

 

二人の間の緊張が増していく。

 

傍から見たらお互い相手の出方を伺っているように見えるが、実際はそうではない。

 

櫂は完全に気負いしていた。

相手がどんな方法で自分のクランを奪いに来るかわからない。しかも敵を前にした緊張が今更になって連続して起きたこのゲームの枠から外れた出来事の数々。そして経験がほぼ無い初と言っていい対人戦が櫂を焦らせ、不安にする。

 

櫂の起こした行動は完全に焦りからくるものだった。

普通なら早計な事だった。

運が良かった。

偶々だった。

命拾いをしたのは…

 

 

櫂がとりあえず両手剣を上段に構えようとするのと、ラーが手に持った槍で突いてきたのは完全に同時だった。

 

 

櫂が構える動作の途中、櫂の目と鼻の先で両手剣の比較的根元部分の刃に櫂の顔面を狙ったラーの突きが当たった。

 

ギィィン!!

 

衝突する金属音が響くのと同時に櫂は後方に吹き飛ばされる。

 

これは櫂が反応して防いだわけでは無い。

偶然タイミングが合っただけだった。

 

急に伸びてきたラーの槍を運良く防ぐことが出来た櫂は瞬間、何が起こったのかわからなかった。

 

気付いた時には体に浮遊感を感じていた。

 

吹き飛ばされてはいるが、体制が酷く崩れているわけはなかったので、集中して倒れないように着地をする。

 

地面に着いた足を踏ん張り、体制を最低限整え、前を見る。

 

「くっ! 」

 

見た瞬間、櫂は両手剣を急いで構える。

何故ならラーが猛スピードで迫ってきていたからだ。

 

ラーの動きの速さは異常なほどだった。

間違いなくアスナやキリト以上だ。

 

ラーは勢いのまま槍を突き出してくる。

 

今度は意識して迫りくる槍を弾こうと剣を振る櫂。

しかし…

 

ギッ!

 

槍が櫂の頬を掠める。

赤い血のようなポリゴンが数ドット舞う。

 

ラーから繰り出される槍はそれこそ見たこともない速度で、櫂は僅かに剣を当てて軌道をそらすことしかできなかった。

 

ラーは突き出した槍を戻す。その動作も速い。

 

櫂は距離をとる為、バックステップをする。

 

その間にまた高スピードの突きが櫂の顔に迫った。

 

ヒョオッ!

 

風の切る音が耳元で鳴る。

櫂は首を曲げ、突きを避けるが、槍がまた櫂の頬を掠った。

 

距離を取った櫂は攻勢に出る為、両手で握った剣を振ろうとするが、すぐにラーの突きが繰り出される。

 

それを何とか弾くが、完全に防ぐことは出来ず、また掠める。

 

櫂は確認する余裕などないが、今櫂のHPバーは数ドット減っている。

 

ヒュッ!

 

「なっ!? 」

 

顔面狙いだったラーの槍は今度は腹部を狙ってきた。

意外だったわけではないが、急な変化に櫂は僅かに反応が遅れた。

 

それでも櫂は体を捻り、直撃を避ける。

 

頬を掠った時よりも大きいポリゴンが櫂の腹部から飛び出る。

 

櫂のHPがやや大きく削られる。

 

ハッキリとしたダメージを受けたが、代わりに完全にフリーになった剣をラーに振るう。

 

しかし、ラーの槍のスピードとは比べものにならない両手剣の鈍重な攻撃は易々と躱されてしまう。

 

「くそっ…! 」

 

櫂の剣を軽々と避けたラーは自身の身長に近い槍を横薙ぎに大きく振ってくる。

大振りな攻撃ではあったが、十分に速い一撃だった。

 

櫂はその横薙ぎを両手剣で受け止め、力任せに弾き返す。

 

僅かにだが、ラーの体制が崩れる。

その隙を突き、上段の振り下ろしを櫂は繰り出すのだが、やはり遅いその振りはラーに避けられてしまった。

 

ドンッ!

 

空振りした力の籠った一撃は地面に叩きつけられ、大きな衝撃音を発する。

 

櫂が振り下ろした剣を構え直すまでにラーは三連突きを放つ。

顔と腹部と右肩の三か所。

 

それを櫂は首を曲げ、体を捻り、反らすことで掠る僅かなダメージに抑える。

ラーの三連突きの後、僅かに出来た隙に櫂は大きく横に剣を振るったが、難なく避けられる。

 

 

 

突く掠る突く避ける振るう避ける突く避ける突く掠る振るう避ける突く避ける突く避ける振るう避ける突く避ける。

 

 

 

「へ~、ラー相手によくやるじゃない。彼」

 

 

歪で大きな木の根に座っていた小柄な者が幼さの残る少女の声で感嘆の言葉を口にする。

 

 

「動きがスゴくいいな。速さで圧倒的に不利なのにすぐに合わせてきやがった。でもすぐに…」

 

 

最初に現れた黒コートが手に持ったクランを遊びながら分析をした上で、嘲笑う。

 

 

「ぐっ! 」

 

 

暫く続いた櫂とラーの戦いに大きな変化が現れた。

 

櫂が膝をついてしまった。

 

そのHPバーはレッドゾーンに入っている。

 

一方のラーは今だにグリーンである。だがそれは当然だった。

何故なら櫂はラーに一太刀どころか掠らせることもできなかったからだ。

 

櫂は慣れない対人戦の上に動きも攻撃も速い槍使いのラー相手に、持ち前のアバターを動かすセンスと八か月の経験で速い段階で対応することが出来たが、やはりスピードの差は大きく、全ての攻撃を完全に避けることは不可能だった。

 

徐々にしかし確実に削られていったHPは当然大きなダメージとなる。

しかも慣れていないことで普段以上に集中力削られ、疲労が完全にここで表れてしまった。

 

もう自分にはまともにラーの攻撃を捌く力は無いことを悟った櫂は最後の切り札を出すしかなくなった。

 

呪縛(ロック)っ!! 」

 

櫂はラーを指して《リンクジョーカー》のクランスキルを発動させる。

だが…

 

「なっ!? 」

 

櫂の呪縛の声と同時に消えたと勘違いしてしまうほどの速さで移動し、呪縛(ロック)を避けたのだ。

櫂は信じられなかった。

はじめて呪縛(ロック)を避けられたのだ。

 

「それで終わりか? 」

 

櫂のすぐそばに移動していたラーは槍の刃を櫂の首元に突きつけ、若い男の声で訊いてくる。

ラーを見上げる櫂は苦しまぎれに睨むしか出来なかった。

 

「そんな姑息な手が最後の悪足掻きとはな」

 

「っ…! 」

 

ラーの抑揚の乏しい声の中の呆れの感情を感じ、言い返したくなったが、櫂は何も言えなかった。

 

 

 

「やったじゃんリーダー。あいつ《リンクジョーカー》持ってるぜ…と、おっ! 」

 

櫂とラーの勝負が完全に見えたと確信したクランを持った黒コートが大柄の男にそう話しかけると、すぐに何かに気付き、上を見上げた。

 

「へ~面白いこと思いついた…」

 

顔が見えないが、その口はいやらしく笑った気がした。

 

 

 

 

「…とどめだ」

 

「あっラーちゃんちょっと待って」

 

ラーが櫂に最後の一突きを入れようとした時、クランを持った黒コートが明るい早口でそれを静止した。

 

「オレにもちょっとは遊ばせろよ」

 

「断る。貴様を遊ばせる理由がない」

 

「そう言うなよ~オレたちのなかじゃんか~」

 

「断る」

 

「~ったく、リーダー!? オレがやってもいいよな? 」

 

ラーに全く申し出を受け入れる気のないことに業を煮やしをクランを持った黒コートは大柄の男に訊ねる。

 

ラーと小柄の者も大柄の男に注目する。

 

「…好きにしろ」

 

「やった」

 

大柄の男の言葉にクランを持った黒コートは小さくガッツポーズをし、小柄な者は溜息を吐き、ラーは黙って槍を引いて初めの時と同じように刃の根元を片手で持ち、櫂から離れる。

 

一連のやり取りを見ていた櫂は不快感を感じながらも隙を伺っていたが、ラーがこちらを完全にマークされていたので何も出来なかった。

 

「さて異世界人くん。オレに交代したわけなんだけど今の状況説明からね。ちょっと時間が押してるからサクサク行こう」

 

クランを持った最初の黒コートはテンションの高い声で櫂に何やら言ってくる。

 

「オレたちについては秘密だ。でも、ここがどこなのかってことは教えてやる。ここアインクラッドじゃない」

 

「何? 」

 

最初の黒コートの言葉に流石に反応してしまう櫂。

 

「ここはソードアート・オンラインのサーバーとナーブギアの間の一番手前の電脳空間。まあコードの間だと思ってくれ。オレたちはそこにこんな小さな島みたいなのを作って拠点にしてるってわけだ。周りの数字は信号。ナーブギアや現実世界のプレイヤー本人たちの脳にいろいろな情報を送ってる。ここはその信号をゲームの中の者たちの目に見える形になってる」

 

最初の黒コートは櫂に近づきながら、癇に障る声で話を続ける。

 

「説明するまでもなくプレイヤーが死んだ場合、その情報がナーブギアに送られて脳を破壊するわけなんだけど、この信号が可視化した空間では面白い見え方をするんだ。この数字の滝中をアバターの姿で落ちてくる。不思議だろ? さらに面白いことにその流れ落ちてきたアバターをこの島に引っ張り込むと…」

 

最初の黒コートはしゃがみ込み櫂の耳元で囁く。

 

「…そのキャラクターが生き返るんだよ…」

 

「なっ…」

 

櫂の驚いた顔を見た最初の黒コートは見えない顔が満足げな顔をしたような気がした。

 

「まあゲームの中のキャラクターが死んでもその情報がナーブギアに送られなければ、脳が破壊されることもない。単純な理屈なわけだが…ここからが本題だ…」

 

最初の黒コートは立ち上がり、櫂と距離を置く。

 

「…今から何人かこの滝から落ちてくる」

 

「何…だと…」

 

「そうなったらお前はどうする? 」

 

挑発するような最初の黒コートの問いに櫂は口には出さないが、それが本当なら助けてやりたいと思った。

 

「その眼での沈黙はYESだな。おっどうやら流れてきたぞ」

 

最初の黒コートが見上げたので、櫂もつられて顔を上げる。

すると帽子をかぶった全身を隠すマントを着た少年が数字に運ばれながら落ちてくる。

ここは重力が働いているわけではないのだろう。落ちてくるスピードは速くない。

 

「くっ…」

 

櫂は立ち上がり、少年を受け止めるべく走り出す。

 

黒コートの言うことが本当なのかはわからない。でも万が一本当なら…

 

櫂は陸の端、数字の滝に触れられる所まで走り、少年が落ちてくるのを待つ。

 

少年が近づいて来る。

 

(もう少し…もう少しだ…)

 

櫂の両手は少年を抱きかかえる為に延ばされた…

 

 

ドスッ

 

 

櫂は背中に何か刺さる衝撃を感じた。

 

 

「ゲームのルールしてなかったな」

 

 

後ろで黒コートが何かを言っている。

だがそんなことは櫂にはどうでもよかった。

 

背中の衝撃によってよろめいてしまった櫂は受け止められず

 

 

 

 

 

…少年は陸の下に流れて行ってしまった…

 

 

 

 

 

 

「あっ…」

 

手を差し出せば、救えたはずの命…

 

今櫂の目の前で人の命が消えた。

 

 

「貴様ぁっ!! 」

 

「ルールは単純! これから死んだプレイヤーが何人か落ちてくる! 異世界人くんは一体何人助けることが出来るでしょうか! もちろん! オレは邪魔するけどね! 」

 

櫂は激昂し、黒コートを睨む。そんな櫂を黒コートは嘲笑う。

 

「うおおおおおおっ!! 」

 

櫂は感情のままに剣を握り、黒コートに突進する。

 

「へっ! 」

 

見えない顔は笑いながら、腕を振るう。

 

その仕草から櫂は投擲と予測した。

案の定、黒コートから放たれた物が櫂に迫ってくる。

櫂はそれを勢いを落とすことなく弾く。

だが櫂は気にするべきだった。

黒コートの得物を投げる仕草が変わっていることに…

そして背中に刺さったはずの何かが背中から無くなっていることに…

 

ドス

 

「っ! 」

 

櫂が右肩甲骨に衝撃を感じたのと黒コートの投げた手から櫂の右後ろ方面に鎖が伸びているのが見えたのは同時だった。

 

黒コートが鎖を引っ張ると櫂の右肩甲骨が引っ張られ、体勢を崩しまい倒れ込んでしまった。

 

「この通りオレの武器は中距離型だから気をつけろよ」

 

黒コートは垂れ下がった鎖の先端を見せびらかすように揺らす。

 

鎖の先端に付いている鎌が宙で踊っていた。

 

そう黒コートの得物は鎖鎌だ。

 

しかし、櫂は不可解だった。

 

鎖鎌などソードアート・オンラインには無い武器種である。

 

それに先ほど戦ったラーも大型武器に分類される槍の攻撃速度ではなかった。

 

今更ながら相手は何でもありの相手なのかもしれない、と櫂は心中で動揺する。

 

「おっと、ゆっくり寝てる場合じゃないぜ。次が来るぞ」

 

黒コートの言葉に櫂は上を見る。

 

数字の滝からまたプレイヤーが落ちてくる。

 

先ほどの少年と比べるとかなり高身長の紫色の服と要所要所に軽金属の防具を装備をした男性プレイヤーだ。

 

「くそっ」

 

櫂はスタン状態からの遅い回復に苛立ちながら立ち上がり、落ちてくるプレイヤーに真下に向かう。

 

「とりあえずさせるかよ、っと」

 

黒コートが鎖鎌の鎌を櫂に投げてくる。

櫂とて相手の手の内が解っている以上、対処は出来る。

 

キィン

 

櫂は剣で鎖鎌を弾き、男性プレイヤーの真下に急ぐ。

 

「おっやるな。ならこれはどうっだ! 」

 

黒コートは鎌を再び櫂に投げる。しかし、今度は地を這うように低空の軌道だった。

 

ジャラ

 

「なっ…! 」

 

低空に投げられた鎖は櫂の足に巻き付き、櫂を転倒させる。

 

すぐに起き上がろうとしたが、倒れた櫂が顔を上げると男性プレイヤーが陸を過ぎ去っていく瞬間だった。

 

櫂の脳裏にディアベルが砕け散った姿が過る。

 

「くそっ! 」

 

櫂は地面を殴りつける。

 

「そんなことしてる暇はないぜ」

 

黒コートの憎たらしい声に櫂は上を確認する。

 

今度落ちてきたプレイヤーは先の二人の丁度中間の体格で男性にしては長くウェーブが掛かった髪で最初の少年とは別種の帽子をかぶり、緑の服に二人目の男性プレイヤ―とは別の個所に軽金属装備をしていた。

 

ヒュッ

 

今度こそはと立ち上がる櫂に鎌が襲ってくる。

 

「先手必勝ってことで」

 

「邪魔をするなっ」

 

何度も繰り返し襲ってくる鎖鎌に櫂は防がなくてならない為、思う様に移動することが出来ない。

 

三人目のプレイヤーが陸に近づいて来る。

 

しかし、黒コートの鎌攻撃は止むことはない。

 

「くっ」

 

しびれを切らした櫂は鎌の攻撃を気にせず、走り出す。

動くを封じてくるような攻撃のみを防ぎ避け、その他の攻撃は気にせず受け続けた。

 

「自分のHPあとどのくらいかわかってんのかよ! お前が死んじまうぜ! 」

 

レッドゾーンだった櫂のHPさらに減っていくが気にすることはない。

 

動きを封じられることは無いが、その手の攻撃を防いだり、普通にダメージを受ければ動きに遅れが出る。

 

間に合うかは微妙だ。

 

(間に合え…間に合え…間に合えっ! )

 

三人目のプレイヤーが陸に差し掛かるのと櫂が数字の滝に両手を突っ込んだのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

櫂の両手から空気を掴み感触しかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

数字の滝の底へ落ちていく三人目のプレイヤーを見ながら櫂は膝をついた。

 

「惜しかったな」

 

相変わらず楽し気な口調で黒コート喋ってくる。

 

「何故こんなことをする…? 」

 

この半年で櫂が何度か目撃した死んでいったプレイヤー達の最後の姿を思い出しながら櫂は黒コートに問う。

 

「ホント、こんなことして何が楽しいわけ? 」

 

今まで黙っていた黒コートの他のメンバーの内、小柄の者が櫂に同調するように鎖鎌の黒コートに訊う。

 

「だってSAOはゲームだろ? ゲームは楽しまなくっちゃな」

 

黒コートの答えに櫂は奥歯を強く噛んだ。

 

「まるでアイツらみたいね。えーっと、確か《棺桶は笑う》だっけ? 」

 

「ははっ違う違う。《笑う棺桶》だ」

 

人が今三人死んだというのに、くだらない会話をしている黒コート達。

 

その態度に櫂の怒りは限界を迎えつつあった。

 

「…ふざけるな」

 

「あっ? 」

 

「ふざけるなっ!! 」

 

櫂は立ち上がり黒コート達を睨む。

 

「これは遊びではないっ!! 」

 

櫂は叫ぶ。

だが黒コート達は櫂の言葉に何の動揺もなかった。

ただ鎖鎌の黒コートはまるで白けた様にテンションが下がった。

 

「遊びじゃない、ねえ」

 

鎖鎌の黒コートの変化に櫂も気付いたが、そんなことはもはや気にならない程、櫂は怒りを覚えていた。

 

「お前だけは許さない…! 」

 

櫂は両手剣を鎖鎌の黒コートに向ける。

 

怒りに感情を高ぶらせる櫂と対照的にさっきまでのハイテンションから冷たさを感じるほど落ち着いた鎖鎌の黒コート。

 

二人が対峙して今にも襲い掛かろうとする櫂より先に鎖鎌の黒コートの口が動いた。

 

「おい。もう一人来たぞ」

 

鎖鎌の黒コートは上をつまらなそうに指す。

 

櫂も構えたまま、見上げる。

 

 

今度落ちてきたのは少女だった。

 

水色の服と胸部にアーマーを装備した少女。

 

何故だろう…櫂にはその少女の涙が簡単に想像できた。

 

「今度は助けられるかな? 」

 

言葉は先ほどまでと変わらない選択をする鎖鎌の黒コート…しかし、その声色は比べられない程に低い。

 

今度は本気で仕掛けてくることが櫂にはわかった。

 

だが、それは櫂とて同じことだった。

 

たとえどんなことになろうとも必ず助ける。

 

命に代えたって…

 

少女が落ちてくる間、対峙した二人は動かない。

 

動かない間に少女は確実に落ちてくる。

 

先に動いたのは櫂だ。全力でダッシュする。

 

しかし、向かったのは少女の真下ではない。鎖鎌の黒コートへだ。

 

鎖鎌の黒コートは冷静に櫂に鎖鎌を投げる。櫂は剣で僅かに鎖鎌の軌道を逸らす。

 

 

ギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチッ

 

 

剣と鎖が擦れることが耳障りに鳴る。しかし、櫂は動きを鈍らすことはなかった。

 

鎖鎌の黒コートは鎖を引き、鎌を櫂の背中に刺そうとする。

 

ここで櫂は意外な行動をとった。

鎖と擦り合あっていた両手剣から鎖を弾くとその両手剣を鎖鎌の黒コートに投げつけた。

 

流石の鎖鎌の黒コートも驚いたが、体を大きくずらしと飛んできた両手剣を避ける。

だがここで一瞬、両手剣に気を取られてしまって視線が櫂から外れたのだ。

そして櫂の方を再び見ようとした瞬間、頬に衝撃が走る。

痛くはない。HPも削られない。

 

しかし、鎖鎌の黒コートが転倒するのは十分だった。

 

そう櫂は鎖鎌の黒コートを殴ったのだ。

 

 

 

「ダサッ」

 

倒れた鎖鎌の黒コートを見て小柄の者は呟いた。

 

櫂は殴った後、すぐに落ちてきている少女の真下に走った。

 

鎖鎌の黒コートは立ち上がろうとするが、どうしても時間がかかる。

他の黒コート達は櫂の邪魔も鎖鎌の黒コートを助けようともしない。

 

櫂は少女の真下の数字の滝まで辿り着き、落ちてきた少女を両の腕で受け止め、数字の滝から陸に引っ張り出した。

 

 

(やった…やったぞ! )

 

 

少女を助けられたことに櫂は心の中でとはいえ柄にもなく喜んだ。

 

しかし、すぐに状況が最悪な事を思い出す。

 

意識がない少女を櫂はとりあえずその場に横にして、黒コート達に向く。

 

鎖鎌の黒コートはすでに立ち上がっており、こちらに顔を向けていた。

 

他の三人も変わりはない。

 

それから数秒、沈黙が続いたが…

 

「くっ、くくっ」

 

鎖鎌の黒コートが手で口を押え、笑いを堪え始める。

 

「っぷ、くふふ、あはははははははははははははっ!!! あはははははははははははははははははっ!!! 」

 

抑えられなくなった鎖鎌の黒コートは大声で笑いだした。

 

「ホントに助けやがったよっ!! しかもマジんなって! 命懸けの覚悟! あはははあっはははははは!! 」

 

「何がおかしい? 」

 

狂ったように笑い出した鎖鎌の黒コートは明らかに自分に対して笑っていることに流石の櫂も不快と不審に感じた。

 

「いやなに。今までで一番滑稽だったからさ」

 

「何だと? 」

 

「だからラーちゃんにボコボコにされたり、落ちてきたプレイヤーを助けられなかった時なんて比べものにならないくらい今のアンタが滑稽だからさ」

 

櫂には言っている意味がわからなかった。

次の言葉を聞くまでは…

 

 

「だってデスゲームなのに命を懸けてない、しかもゲームをクリアする以外の目的の奴が人の命を助けるってそれが笑わずにはいられないだろっ? 」

 

櫂が一番恐れていたことが起こった。

 

「さっき命懸けって顔してたけど、命懸けてねぇ~からぁ! あっはっはっはっはっはっ!! 」

 

他人に知られたくない…

 

「どうしてって顔してるな? 最初に言ったろ? お前がどこからログインしてるかわかってるって。それと同時にお前が死んでもナーヴギアに脳を破壊する信号が送られないようになっているのもわかったんだよ」

 

他人に言われたくない…

 

「遊びじゃないって、お前にとっては遊びじゃねぇーかよっ! 」

 

「ッ! 違う!! 」

 

「違わねぇーさっ!! 」

 

櫂の必死の否定を笑いながら否定される。

 

「俺は…俺は…俺はっ「ヴァンガードを取り戻すため、ってか? 」

 

櫂の思考が停止する。

 

「やはり…お前達は、知っているのか…? 」

 

「ああもちろんだ。カードファイトヴァンガード、惑星クレイ、当然だろ? じゃなきゃソードアート・オンラインに隠れたクランなんて探さねぇよ」

 

やはりこの黒コートの集団は櫂の世界で起こったヴァンガード消失減少を知っている。

もしかしたら関わっているのかもしれない。

 

「お前達は何者だ? 」

 

「最初に言ったろ? それは答えられない。どうでもいいだろそんな話」

 

「いいわけがあるかっ!! 俺達の世界はっ! 」

 

「ああそうだなっ! このデスゲームに囚われた人間の命なんかよりも重要だよなっ!? 」

 

「っ…!? 」

 

鎖鎌の黒コートの言葉に櫂は言葉を詰まらせる。

別に言われた様なことを思っているわけではないが、反論するだけの答えを櫂は持っていなかった。

 

「へっ」

 

そんな櫂の姿に鎖鎌の黒コートは鼻で笑う。

そして鎖鎌を櫂に投げつけ、その鎖は櫂の腕に巻き付く。

鎖鎌を無造作に引く黒コートに櫂は自分でも信じられない程、無抵抗に引っ張られた。

 

鎖鎌の黒コートの前に倒される櫂。

 

「お前さっきさ。オレたちを許さないとか言ってたけど…」

 

櫂を見下ろし、フードの奥から見えない目で鎖鎌の黒コートは見下す。

 

「お前とオレたちは同じだ。このデスゲームで一番大切なことはクランを見つけて集めること。他のことはどうでもいい…とまでは言わないにしてもクランを見つけることに比べれば、他は小さいことだ。いや…」

 

フードの奥の目は櫂の心を見透かすように…

 

「クランを探す為なら他を犠牲にしてもいい」

 

「そんなことは思っていないっ!! 」

 

「それを証明することはできるのかっこの『卑怯者』っ!!! 」

 

「あ…」

 

俺は…違う…俺は…違う…クランを探す…俺は…ヴァンガード…違う…ディアベル…違う…俺だけが命の保証がある…違う…

ヴァンガード伊吹茅場晶彦ソードアート・オンラインデスゲームソードスキルディアベルリンクジョーカーキリトバミューダ△アスナグランブルー鼠死卑怯者エギル死卑怯者キバオウ死卑怯者リンド死卑怯者シヴァタ死卑怯者ハフナー死卑怯者オコタン死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死卑怯者死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死死卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯卑怯

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                     卑怯者めっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

電子の0と1の間に作られた庭で…

同じ目的を持った二つの意思があった…

 

一つは感情があるように振る舞うが何も感じず…笑う真似事をし…

 

一つは感情を殺して心を殺して…ついに耐え切れなくなり膝をついた…

 

 

 

そんな中で臆病な少女、サチは目を覚ました…

 

 

 

 




ギリギリではありますが、ユウキの誕生日に投稿することが出来ました。
ストーリーには一切関係ないんですけど…

時間が半年飛びました。
飛んでいる間のエピソードや情勢の変化は投稿時期の時点で発表されている公式情報をゴチャ混ぜにした感じです。
矛盾は極力無くしているようになっているはずです。

今回の不安点
SAOに鎖鎌ってなかったよね?
体術スキルを取ってなくても殴るという行為は出来るよね?(これが一番不安)

最後にハツラツと、ユウキお誕生日おめでとう!


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