リンク・ザ・スタート   作:ヤギザ

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初評価やっほぉぉぉぉぉぉぉっ!!


マジ嬉しいです。






RIDE 14 希望の探索者

 

 

 

「サチッ!! 」

 

黒い少年が水色の少女の名前を呼びながら、必死の表情で手を差し伸べる。

 

少女も少年に手を伸ばす。

 

しかし、電子で出来た怪物の一撃が無情にも少女に振り下ろされ、その手が届くことはなかった。

 

それを見た時、少年の目には絶望が…

 

怪物の重い一撃により、見ることのできる自分の命の量が消えていく少女の目には信頼が…

 

 

死ぬ自分より恐怖する少年が…

 

自分より遥かに強い少年が…

 

親からはぐれた子供の様に泣きそうで弱々しく…

 

守ってあげたい…傍にいてあげたい…

 

でも、もうそれは叶わない…

 

だから…せめて…

 

伝えたかったことを…

 

ありがとう。

さよなら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは…? 」

 

サチが目を覚ますと、そこは見知らぬ場所だった。だがここは知らないだけの場所ではなかった。今さっきまで生きていた世界とはあまりにもかけ離れた世界観で作られた空間。

 

サチは仲間達と共にいつもよりも上の階層でコル稼ぎをしていたら、トラップに引っかかってしまい、大量にpopしたモンスターによって次々に仲間達が殺されていき、ついには自分自身も殺されてしまった。

 

自分の体が砕け散った瞬間の感覚と目の前が暗転したのは、ほぼ同時だったと思う。

そして僅かだが、気を失ったのも理解できた。

 

この八か月の間、想像するだけで気が狂いそうになるほど恐怖していたはずの死の瞬間はどこか他人事のように、死んだらどうなるんだろう、と頭の片隅で考える程度で、自分でも不思議なくらい冷静だった。死の覚悟はしっかりできていたのだろう…

だからきっと拍子抜けしてしまったのだ。

 

自分が何故かまだ生きていて、死んでいないことに…

 

殊更サチは混乱する。

死を受け入れたのに理由も解らずに生きていて、しかもわけのわからない場所にいる。

 

転移をした? 何故?

HPが0になったら誰もがここにくるの? デスゲームでわざわざ?

もしかしてここは死後の世界?

 

混乱する頭で考えうる可能性を考えたが、サチ自身ここがまだデスゲーム、ソードアート・オンラインの中であることを直感として理解していた。

 

自分はまだプレイヤーのサチであること…独特の視界感覚…そして何より今いる場所が電子的なものがたぶんに含まれているからだ。

 

頭上に空は無く周りには数字の滝、その中心で浮いてるであろう自然な土や草木で出来た陸、とまるでソードアート・オンラインの作りかけのような場所だった。

 

現実世界は当然として、死後の世界だったとしてもここまで機械的な所とは思えない。

 

だからサチは痛みもなくソードアート・オンラインの中にいる感覚のままであることから、自分はまだゲームの中で、転移しただけと理解した。

 

次の問題はここはどこなのかということ。

 

まだ整理しきれていない状態の頭で、少しでも情報を得る為にサチは周囲を見渡した。

 

「あっ…」

 

陸の端にいたサチは四人のプレイヤーが中央にいることに気が付いた。

 

内三人は体格身長はバラバラだがフードを深く被り、同じコートを着ていた。

 

そして最後の一人は…

 

「あの人…」

 

サチはそのプレイヤーを見たことがある。

一度命を救ってくれた男性プレイヤー。

 

しかし、一度しかあったことがないが忘れることの出来なかったあの力強い印象はまるで無かった。

 

その男性プレイヤーは膝をつき、項垂れている。

 

だがサチが一番気になったのはその眼だった。

 

 

「ねぇもういいでしょ? さっさとそいつの持ってるクランを奪っちゃいなさいよ」

 

 

黒コートの中で一番小柄な者が女性の声で話すのが聞こえた。

 

 

「わかってるよ。もう十分に楽しんだしな」

 

 

小柄な者の言葉に膝をついた男性プレイヤーの前に立っていた鎖鎌を持った黒コートが応える。

鎖鎌の黒コートはその鎌を持った手を高々と上げる。

 

 

「じゃっいただこうかね  」

 

 

サチはその瞬間、鎖鎌の黒コートが何をしようとしているのか理解した。

 

「やめてっ!! 」

 

倒れていたサチは上半身を起き上がらせ、大きな声で言う。

 

黒コートの四人が全員こちらを見る。

膝をついた男性プレイヤーだけは落とした視線のまま、何の反応もしない。

 

「…こりゃあ驚いた。割とすぐに気が付くんだな。知らなかったわ」

 

「そりゃはじめての事なんだから、誰も知らないに決まってるでしょ。てゆうかアンタがうるさかったから起きちゃったんじゃないの? 」

 

「うへぇ、否定できねえわそれ…」

 

サチは鎌を下ろさせることが出来たが、黒コート達の友達同士の軽い掛け合いに薄ら寒い恐怖を感じた。

鎖鎌の黒コートが明らかに膝をついた男性プレイヤーを殺そうとしていた。

ここはゲームの中だが、そのプレイヤーキャラクターの死は現実世界の本当の人間の死となるのだ。

つまりここでのプレイヤー殺しは本当の人殺しに等しい。

そんな事をしようとしているさ中で、まるで学生が駄弁っているように話す。

 

その神経にサチは恐怖を感じた。

 

もしかしたら黒コート達は風の噂で聞いたプレイヤーを殺すプレイヤー『レッドプレイヤー』なのかもしれない。

 

「あなたは自分が何をしようとしているのかわかってるの!? 」

 

サチは必死に、自分も殺されるかもしれない、という気持ちを抑えて鎖鎌の黒コートに問いかける。

 

「?、オレのこと? 何ってそりゃあ……あーあーそういうことかっ」

 

鎖鎌の黒コートは最初サチの問いが自分に向けられていることに気付かずに自分で指して確認を取るふざけた反応をするが、すぐにサチの問いの意図を理解し、合点がいく。

その鎖鎌の黒コートの反応が何なのか解らないサチは言葉をつづけた。

 

「ここでプレイヤーを殺したら「現実でも本当に死んでしまう、だろ? 」

 

が、鎖鎌の黒コートはサチの疑問と出所となる思考を理解していた。

 

「わかってるさ、そのぐらい。でもオレは殺そうとしていたわけじゃない」

 

「…どういうこと? あなたはその鎌で…」

 

わけの解らないサチは当然の指摘をするが、鎖鎌の黒コートはその見えない顔が笑っているのだとわかるような声音で話をする。

 

「確かにな。でもオレがやろうとしたのは人殺しじゃない、プレイヤー殺しだ」

 

 

相も変わらずサチには容量の得ない勿体つけた言い方を鎖鎌の黒コートはする。

 

「同じ意味じゃない! 」

 

「いや大違いだ! コイツに対してはな! 」

 

サチの指摘に空かさず反論する鎖鎌の黒コートはサチに近づいていく。

近づいて来る鎖鎌の黒コートの緊張と恐怖を感じ、サチは身を強張せる。

 

「お嬢さん、良いことを教えてやるよ」

 

地面に座っているサチに目線を合わせるようにしゃがみ込んだ鎖鎌の黒コートは敵意は無くとも悪意ある言葉で囁く。

 

「あそこに無様に膝をついている男は、アンタたちとは違ってここで死んでも現実では死なないんだ」

 

「えっ…」

 

鎖鎌の黒コートの言葉にサチは自然と声が漏れた。

 

「あいつはアンタたちとは別の世界からこのゲームにログインしてるんだよ。しかもあいつはお仲間の手を借りて仮にゲームの中で死んでも現実では死なないようにプログラムに介入している…それがどういうことか解るかい、お嬢さん? 」

 

サチは鎖鎌の黒コートの言葉を聞きながら、膝をついたままの男性プレイヤーを見る。

 

「つまりあいつにとってこの世界は『ゲームであり、遊びでもある』んだよっ!! ウヒャヒャヒャヒャヒャッ!!! 」

 

鎖鎌の黒コートは立ち上がり、何が可笑しいのか見えないその口で大笑いをする。

 

わけの解らないことが幾つかあったが、サチはある一点ことに頭がいっぱいだった。

 

ゲームで死んでも現実では死なない…?

それは安全な場所にいるってこと…?

なんで一人だけ大丈夫なの…?

あの時私を助けてくれたのは気まぐれ…?

ヒーローごっこ…?

もしかして茅場晶彦の関係者…?

共犯…?

どういうこと…? 

なんで…?

どうして…?

わからない…

なんでどうしてどういうことなんでどうしてどういうことなんでどうしてどういうことなんでどうしてどういうことわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからないわからない

 

 

 

 

「あっ」

 

 

 

疑念や不信の中で膝をついた男性プレイヤーを見たサチはあることに気付いた。

 

 

「こいつがどんな風にこのゲームをプレイしてきたかは知らないが、所詮命を懸けてないお遊び、だから…」

 

鎖鎌の黒コートはそう言いながら、膝をついた男性プレイヤーの元に戻っていく。

 

「殺したって平気なの」

 

再び鎌を振り上げる。

 

「でも安心して。せっかく助かった命なんだから君は殺さないであげる、いいよねリーダー? 」

 

「…構わん。我々の目的に支障はない」

 

鎖鎌の黒コートに了承を求められた黒コート達の中で一番大柄な者は低い男性の声で了承した。

 

「だって、よかったね。じゃあそろそろ…」

 

鎌を握った手を強くなる。

 

「死ねや」

 

鎌が振り下ろされるのとサチが鎖鎌の黒コートに体当たりをしたのは同時だった。

 

「うわ! 」

 

サチに背を向けていた鎖鎌の黒コートは背中の死角から突如体当たりをされ、完全な不意打ちにより体の体制を崩されるが、倒れないようにバランスを取るが、大きな衝撃を与えられたことでその場からは移動した。

 

「おいおい何するんだよ? 」

 

鎖鎌の黒コートは振り返り、膝をついた男性プレイヤーを庇う様に低くなったその頭を抱くサチに訊く。

 

「…貴方の話が本当である証拠はないわ」

 

何故こんなことをしたのか自分にもわからなかった…

 

「本当かどうかわからない以上、プレイヤーを殺すところを見過ごすわけにはいかない」

 

臆病な自分が人を平然と殺す事のできる人に立ち向かうなんて絶対にできないと思っていた…

 

「それに…」

 

でも…そんな自分を突き動かしたのは…

 

「…この人を…」

 

ついさっき見た…黒い少年と同じ…

 

「守りたい! 」

 

守りたくなるような目をしているから!

 

 

 

「ん~」

 

鎖鎌の黒コートは被ったフードの上から頭を掻き、困ったようにうねり声を出す。

 

「アンタが死のうが生きようがこっちとしてはどっちでもいいんだけど…邪魔されるとなると、殺さなくちゃならないしな~」

 

面倒くさそうにそう言う鎖鎌の黒コートの態度はやはり一種の恐怖を感じるが、サチは臆することはなかった。

 

今のサチの胸には不思議とこのゲームに閉じ込められてから感じ続けていた恐怖や不安は一切なかった…

湧き上がってくるのは…

 

「まっしょうがない。恨むなよ? 」

 

鎖鎌の黒コートは鎌を持った手を素早く振るう。

その速さはのらりくらりしていた今までとは比べものにならないぐらい速い。

 

サチは反射的に目を瞑ってしまった。

 

しかし…

 

「………? 」

 

やられる、と思ったサチの顔に迫った凶刃が数秒しても訪れない。

 

「へぇ…」

 

その疑問に答えるように鎖鎌の黒コートが声を漏らす。

 

恐る恐るサチが目を開けると…

 

「…生ける屍のわりには面白いことをしてくれんじゃん」

 

目の前に鎌の刃が刺さった手が在った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は…

 

俺は…あの頃と…何も変わっていないのか…

 

 

一度、力に溺れた友を救う為に、本物の強さを探して、強い者とのファイトに明け暮れた。

 

だがそれはただの逃げだった。だから答えなんて見つかるはずがなかった。

 

でも、そんな目の前に救いたい友と同じ境遇になった『あいつ』が、現れた。

 

だから気付けた。逃げていた自分に…

 

だから立ち向かえた。今度は逃げないと…

 

そして『あいつ』に気付かせることが出来た…

 

相手を倒すだけではない、勝つだけではない強さがあることを…

 

いや、違う。『あいつ』だからこそ踏みとどまることが出来たのだろう…

 

だから『あいつ』が友を救ってくれた…

 

俺は何も出来なかった…

 

 

本当の強さを謳いながら…俺はそれを証明することが出来なかった…

 

 

それで結局は俺よりも先をゆくあの二人に嫉妬して…

 

『最強』などという陳腐なものを求め…受け入れた…

 

しかも解っていながら、その『最強』を他者に向け、振りかざし…

 

多くの人々を傷つけ、その心を意思を踏みにじって、変えていった…

 

でも、勝つことが楽しかった…倒すことが面白かった…

 

心の奥底で自分を侮蔑しながも…やめられなかった…

 

だから決めたんだ…

 

誰とも関わらずに生きていこうと…

 

だが結局また『あいつ』に救われた…

 

俺を受け入れてくれた…

 

 

しかし、肝心の俺はあの頃と何も変わっていない…

 

ただ自分に言い訳をして逃げて、耳を塞ぎ、自分勝手に動いて、周りを傷つける…

 

その世界に来て、命を懸けている者達のことを心のどこかで軽んじて、そのことを自覚したら自己嫌悪に陥り…

 

失っていく者達の傍らで、自分の安全は保障されていることの罪悪感から逃れる為、自分の為に他者を助け…

 

それでもクランを探すことを優先して…

 

中途半端に行動する…

 

 

 

 

 

 

「人でなし」

 

 

ディアベルは言う…

 

 

「臆病者」

 

 

赤フードの女はは言う…

 

 

「卑怯者」

 

 

黒い剣士は言う…

 

 

他にも鼠やエギルなど多くのプレイヤーが次々に現れ、俺を蔑む。

 

 

人でなし臆病者卑怯者人でなし臆病者卑怯者人でなし臆病者卑怯者人でなし臆病者卑怯者人でなし臆病者卑怯者人でなし臆病者卑怯者人でなし臆病者卑怯者人でなし臆病者卑怯者人でなし臆病者卑怯者人でなし臆病者卑怯者人でなし臆病者卑怯者人でなし臆病者卑怯者人でなし臆病者卑怯者人でなし臆病者卑怯者人でなし臆病者卑怯者

 

 

 

 

 

 

俺は……卑怯者だ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

温もりを感じた…

 

誰かに抱きしめられている…

 

そんな感じだ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…貴方の話が本当である証拠はないわ」

 

耳元で声がする。女の声だ…

 

「本当かどうかわからない以上、プレイヤーを殺すところを見過ごすわけにはいかない」

 

俺の頭を包む腕は僅かに震えている…

 

「それに…」

 

顔を見上げると…

 

「…この人を…」

 

女の顔は…

 

「守りたい! 」

 

『あいつ』と重なった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『櫂くん…イメージして』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ…」

 

突き出した手に櫂は違和感を感じる…いや、何でそう感じるかはわかっていた。

 

手に鎌の刃が刺さっている。自分でそうなるようにしたのだから当然だ。

 

「…生ける屍のわりには面白いことをしてくれんじゃん」

 

鎖鎌の黒コートは少女共々、櫂を切り裂こうとしたのを止められたが、それは意外であっても気に入らないことではなかった。

いや、気にするほどの事ではなかった。

だから笑っているような口調になる。

 

だが櫂にそんな事は気にはならなかった。

 

刃が突き刺さった手から赤いドットが少しづつ宙へ上がり、消えていく。

レッドゾーンの残り僅かなHPも徐々に減っていく。

 

だが櫂にそんな事は気にはならなかった。

 

手にに力が入る。

 

(何がヴァンガードが世界から消えた、だ…)

 

『…オレらが櫂の思いに賭けたんだよ』

 

(何がすべての人々からヴァンガードの記憶が消えてしまった、だ…)

 

『ドンドン巻き込め…』

 

(忘れていたのは俺の方だろ…)

 

『まさか、あたし達を置いて行ったりしないよね? 』

 

(忘却の絶望の中で戦った『あいつ』の姿を…)

 

『ちょっと悔しいけど、認めてやるよ…』

 

(忘却の絶望の中で、一人で背負い込もうとした俺を支えてくれた仲間達を…)

 

『…今にお前に必要なことはそれだ』

 

(そして、その中で俺自身が見つけた答えを…! )

 

『…君の、君の傍には僕がいる…! 』

 

 

 

 

 

アイチ…!

 

 

 

 

 

 

 

「…っ! 」

 

「うおっと! 」

 

櫂は鎖鎌の黒コートを蹴る。

 

しかし、それを嫌がった鎖鎌の黒コートは後方へ飛ぶ。

 

鎖鎌の黒コートが距離を開けている間に櫂は手に刺さった鎌を抜くと、繋がった鎖を思いっきり引っ張る。

 

「いぃっ!? 」

 

空中で急に前方に引っ張られた鎖鎌の黒コートは体勢を崩し、地面に叩きつけられた。

 

「~~っの馬鹿力めぇ」

 

倒れた鎖鎌の黒コートは気の抜けた声で恨み言を言う。

 

立ち上がるのに時間のかかるであろう鎖鎌の黒コートを横目に櫂は掴んでいた鎖鎌を捨て、近くにいる少女を見る。

 

少女は唖然とした顔で櫂のことを見ていた。

 

その時櫂は思い出した。以前櫂はこの少女を助けたことがあった事を。

 

まさかこんな偶然があるとは、と思うと同時にまた助けられたことを櫂は安堵した。

そして今またこの少女を守らなくてならない、と。

 

「あ~あ、チンタラやってるから…」

 

小柄な者の声で櫂は黒コート達に向き直る。

 

鎖鎌の黒コートはゆっくりと立ち上がろうとしているが、まだ時間がかかりようだ。

 

他の三人は先ほどから動いていない。

 

この隙を逃がすわけにはいかなかった。

 

「えっ…」

 

櫂は少女の手を取り、先ほど鎖鎌の黒コートに投げつけた自分の両手剣を拾うべく走り出す。

 

「…ラー。お前がやれ」

 

大柄の者のそんな声が聞こえた櫂は黒コート達を見ると、槍使いのラーが動き始めるところだった。

 

それから刹那ほどの間に櫂は思考する。

 

黒コート達の目的は自分が持っているクラン、つまり狙いは櫂。

 

少女に危害を加える解らないから、とりあえず自分の傍に居させる為に引っ張ってきたが、ラーは間違いなく櫂を狙ってくる。

 

なら…

 

「きゃっ! 」

 

櫂は手を引いていた少女を今度は突き飛ばし、自分から離した。

 

少女を引っ張る必要がなくなった分、櫂の走るスピードが上がった。

 

そして櫂は自分の両手剣まで辿り着き、拾う。

 

両手剣を構え、ラーが迫ってきているであろう方に向く。

 

ヒュッ

 

向くと同時に既に眼前まで来ていたラーの槍の突きが櫂に繰り出される。

 

櫂はそれを両手剣で弾くように捌く。

 

しかし、直ぐにラーは槍の突きを繰り出す。

 

それを紙一重で櫂は両手剣で捌く。

 

もう櫂の残りのHPは僅か、直撃は勿論掠ることも許されない状況でラーの高速の槍を凌ぐ。

 

 

 

 

「最初からラーにやらせておけばよかったじゃん」

 

「耳が痛てぇや」

 

大柄な者に言った小柄な者の言葉に、ようやく立ち上がり傍観している残りの二人の黒コートに近づきながら、鎖鎌の黒コートが悪びれているのかそうじゃないのかわからない口調で言う。

 

「ラーちゃんなら確実にやってくれるでしょ」

 

「アンタが言うな」

 

「へへっ…って、あれ? 」

 

「どうしたの……えっ? 」

 

鎖鎌の黒コートと小柄の者が余裕で会話しながら、櫂とラーの戦いを見てあることに気付いた。

 

「あいつの動き…」

 

「さっきより良くなってる…」

 

そうもう何合目かになる櫂とラーの剣と槍の打ち合い。

 

ラーは苛立っていた。

自分の攻撃は本当にギリギリのところで当たらないでいる。

 

先ほど以上に櫂の動きは鮮麗なっている。いや、今もなり続けている。

 

その焦りがラーの苛立ちを呼ぶ。

何より…

 

「…しろ……しろ……しろ……しろ…」

 

そう櫂が先ほどからブツブツと何かを呟いていることに不気味さを感じ、感情を揺さぶられる。

 

「くっ…! 」

 

ラーも意図的に突きの速さと鋭さを増す。

 

それでも櫂は捌き続ける。

 

しかし、目に見えて櫂は捌くことが難しくなっているのが解る。

 

「ハッ! 」

 

僅かに出来た櫂の隙を衝き、ラーは櫂の胸に蹴りを入れる。

 

櫂は僅かに動揺するが直ぐに体のバランスを取り、倒れずに踏み止まる。

 

自分のHPが僅かでも減っていないことから櫂はラーは体術スキルのようなものは無いと判断する。

 

だがラーは櫂のそんな隙を見逃すほど甘い相手ではなかった。

 

よろけた櫂に向かって最高速の突きをラーは繰り出す。

 

ラーは櫂が避けることも捌くことも出来ないと確信があった。

櫂も弾くことも守ることも出来なかった。

 

 

ドシュッ!

 

 

槍が電子の体を貫く嫌な音がした。

 

しかし、槍は櫂には届いていない。

 

ラーの槍が貫いたのは…

 

泣き黒子の少女だった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

櫂がラーの蹴りをくらった時、少女は嫌な予感がすると同時に走り出していた。

 

予感は櫂がラーの槍の突きを受けてしまう事、そしてもし自分が二人の間に入ることが出来たとしたら貫かれるのは自分だという事。

 

今まで死ぬのが怖くて怖くてしょうがなかったが、この場所に来て、黒い少年のあの顔を見てから、今までの自分なら絶対に怖くて出来ないようなことが不思議と恐怖が無くやれてしまっていた。

いや、恐怖ならある、でも恐怖以外の別のものが少女の胸の内に湧き上がっていた。

一度死を本気で覚悟したからだと最初は思った。でも、違った。

 

自分より遥かにレベルが高い黒い少年の絶望で泣きそうな目。

自分を助けてくれたことのある男性の憔悴しきった目。

 

違うものの様になのに、何故か同じ目をしていると感じた。

 

守ってあげたい…

 

守ってくれた分、今度は自分が守ってあげたい…

 

その思いから来る『何か』が少女に恐れや不安を打ち勝たせていた。

 

少女は体のすべての力を振り絞って走る。

 

ラーの槍が櫂に迫る。

 

少女は走る。

 

間に合って…

 

間に合って…

 

少女は走る。

 

間に合って…

 

間に合って…

 

少女は走り切った。

 

間に合った…

 

少女が自分の体を槍が貫いた時に思ったことはそれだった。

 

 

 

 

 

槍に貫かれた少女を見て、櫂はショックと絶望が襲った。

 

(まだ間に合う…! )

 

しかし、それに屈することはなかった。

 

ここはゲームのバーチャル世界で今貫かれているのは本物の少女の体ではない。

 

極端な話、データとしてHPが0になったと認識されなければ、どんなに酷い危害を加えられても死ぬことはない。

 

ラーの槍の攻撃力と少女の防御力がどうなっているかはわからない。

 

だが、櫂はまだ間に合うと信じる。

 

信じる…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、槍が刺さった少女の傷口から眩いまでの光が放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光は衝撃を伴っていたのか、ラーの体は吹き飛ばされる。

 

「なんだっ!? 」

 

「なにこれっ!? 」

 

「これは…」

 

ラー以外の黒コートの三人はそれぞれ驚きの声を出す。

 

そして櫂は…

 

「あ…」

 

この眩い光が何なのか、わかっていた。

 

いや、理解したのではない。感じたのだ。

 

このクランの光。しかし、感じたのはクランであることではない…

 

何のクランであるか、という事…

 

 

櫂はゆっくりとその光の中心に手を差し出していく。

 

 

一方、槍に貫かれた自分の体の傷から光が激しく放出されていく事に戸惑う少女。

 

しかし、不思議と恐怖はなかった。

 

この光が恐ろしいものではないことが少女には感じ取れたからだ。

 

少女は自然と後ろを振り向く。

 

自分の傷口から放たれ続ける光から少女は自分に差し出される手が櫂から伸びてくるのを見た。

 

考えてのことではない、思ってのことでもない…

 

無意識の内に少女も櫂に手を伸ばす。

 

光の中で互いに伸ばされた二つの手が求める様に近づいていき…

 

 

掴んだ。

 

 

その瞬間、爆発したように光が強くなった。

 

しかし、段々と光は弱まっていき、握り合った二人の手に収束していく。

 

やがて光は完全に完全に収まった。

 

「「………」」

 

手を握り合った二人はお互いの顔を見合う。

 

二人の間に言葉はなかった。

 

相手のことを理解しているわけでもわかるわけでもなかった。

 

ただ相手の手の温もりを感じていただけだった。

 

「!? っ! 」

 

「え、きゃ! 」

 

だがその時間はすぐ終わりを迎えた。

 

櫂が少女の思いっきり自身の方へ引っ張ったからだ。

 

櫂が何故そのようなことをしたかというと、ラーが少女を貫いた槍を構え、飛び掛かってきたからだ。

 

少女と入れ替わるようにラーの前に出た櫂は、空中から突き出される槍を両手剣で弾く。

 

弾かれた反動で後方の返されるがラーは華麗に着地をする。

 

「さがっていろ」

 

「…はい」

 

振り向かずにそう言う櫂に、少女は数歩後ろにさがる。

 

足の音で少女が自分から離れたことを確認した櫂は、目を閉じる。

そして右手を振り、メニューウィンドウを出現させる。

 

目を瞑ったまま、操作していく。

 

櫂の操作には淀みがなく、その動きは櫂の今の心の内を表しているようだった。

 

ラーは櫂のそんな姿に異様な迫力を感じたのか、櫂の操作を黙って見ていた。

 

そして櫂はメニューウィンドウ閉じるのと、入れ替わりに両の眼を開く。

 

距離は少し離れているが対峙している櫂とラーは合わせる様に剣と槍を構える。

 

「…イメージしろ」

 

櫂に刃を向けた構えでラーは突進を開始する。

 

「俺は今…」

 

ラーが迫っていても微動だにしない櫂、その姿を見ていた少女には…

 

「鉄の城、アインクラッドに現れた…」

 

その背が…

 

「名も無き剣士だっ…! 」

 

白銀の剣士が重なって見えていた。

 

 

 

 

ギィィィンッ!

 

 

 

衝突を知らせる金属音が響く。

 

櫂の剣とラーの槍が派手に自己主張をするが、両者の間には明確に勝敗が決まっていた。

 

勝ったのは剣。

 

横に大きく振りぬいた櫂の大きな剣は突き出されたラーの槍を弾き、そのラーをも吹き飛ばす。

 

もう何度目かになる防がれた自身の突き。認めたくはないだろうが無様に体ごと吹き飛ばされたのもこの戦闘で何度かある。

しかし、今回の一撃にラーは驚愕を感じているようだった。

今までとは明らかに異なる一撃に…

 

「…なんかヤバそうだな…」

 

少女が光り輝きだしてから、驚きながらも様子を見ていた鎖鎌の黒コートはラーと同じように櫂の今の一撃に脅威を感じたようだ。

 

当のラーは直ぐにを整え、再び櫂に向かっていく。

 

櫂に高速で近づくと、先ほどような突進の一撃ではなく、足を止め、櫂の両手剣が自分に届かない位置からの突きの連撃を放つ。

 

櫂はその連撃を一撃一撃捌いていく。

 

それは今までのようにお粗末なものではない。

 

完全に全ての攻撃を防いでいた。

 

ラーは段々と自分の攻撃が通らなくなっていくことに焦りと脅威を感じているのか、徐々に繰り出される攻撃が雑になっていく。

 

そして、それが隙となった時、櫂は槍を大きく弾く。

 

「くっ…! 」

 

体制を崩れたラーの懐に向かって櫂は足を踏み出し、両手で握っている大剣を振った。

 

「うおおおっ! 」

 

櫂の斬撃はラーの体を斬りつけ、赤いドットが宙を舞う。

 

櫂の攻撃がラーに初めてのクリーンヒットした一撃だ。

 

「あぶないっ!! 」

 

「っ!? 」

 

ギンッ!

 

ラーを追撃しようとした櫂は後ろにいる少女の声と視界の端に入った自分に迫ってくる物を両手剣で叩き落した。

 

ちゃんと確認したわけではないが、櫂はそれが何なのか解っていた。

 

櫂は地面に視線を落とし、叩き落した物を確認する。

 

案の定、鎌だった。

 

「邪魔をするなっ」

 

櫂に斬られたところを手で押さえながら、ラーは怒気を含んだ声で鎌を投げた張本人の黒コートに言う。

 

「悪いなラー。流石に今のこいつを甘く見ない方がいい。だから勝手に加勢させてもらう」

 

今までで一番真剣な声で鎖鎌の黒コートはそう言うと鎌を引き戻し、櫂に敵意を向ける。

 

心なしか機嫌が悪くなった空気を発するラーは改めて、槍を構える。

 

状況は二対一、その上櫂のHPはレッドゾーン、状況は圧倒的に不利だ。

 

だが櫂に動揺も焦りもなかった。

 

寧ろ臆していたのは黒コート達の方だった。

 

「はっ! 」

 

ラーは櫂に渾身の突きを放つ。

 

ギンッ!!

 

しかし、その突きは櫂に難なく弾かれる。

 

先ほどもそうだが、櫂の筋力値はラーのそれよりも大幅に超えているのか、大剣で弾かれたラーの槍は使い手の体勢を崩すほど大きく弾かれた。

 

「シャアッ!! 」

 

櫂がラーの槍を弾いた隙を衝き、鎖鎌の黒コートは鎖鎌を投げる。

 

ギンッ! 

 

だが櫂はラーの槍と同じように簡単に迫った鎌を弾く。

先ほどまでなら確実に鎌は櫂にヒットしていただろう。

 

明らかに変わった櫂に二人の黒コートが脅威を感じていることがわかった。

 

鎌を弾いた後、今度は櫂がラーに迫り、両手剣を振るう。

 

「くっ…」

 

ラーは櫂の一振りを槍の柄部分で受け止め、鍔迫り合いになる。

 

「ぐ、ぐぐぐっ」

 

苦しい声を上げるのはラーだった。

見るからに櫂の方がラーを押し込んでいた。

 

「シャッ! 」

 

「はっ! 」

 

離れた所から鎖鎌の黒コートの声を聞いた櫂は、その一瞬の後、ラーを押し飛ばす。

 

ギンッ!

 

櫂は周囲を見ると、眼前に鎌が迫っていたが、それを両手剣で弾く。

そして鎖鎌の黒コートに猛然とダッシュする。

 

鎖鎌の黒コートは急いで鎌を手元に戻す。

 

櫂がそのレベルにしては低い敏捷値で間合いを詰めるのと鎖鎌の黒コートが鎌を手にするのはほぼ同時だった。

 

重い両手剣と短剣と変わらないであろう鎌が同時に振るわれる。

 

普通に考えたら鎌の方が先に当たるが、結果は逆だった。

 

櫂の両手剣は鎖鎌の黒コートを一閃。

その体に赤い線と同じ色をしたドットが少し舞う。

 

「ぐあっ! 」

 

櫂の剣撃の衝撃で鎖鎌の黒コートは鎌を最後まで振れなかった。

勿論、櫂に当たらない。

 

「はっ! はっ! 」

 

その隙を逃すまいと、櫂は二撃、三撃と追撃をする。

 

「はあああッ!! 」

 

四撃目の時は両手剣が真っ赤な光を放つソードスキル。

 

「がはっ! 」

 

櫂の放ったソードスキルは単発だが吹き飛ばし効果の強いもので、鎖鎌の黒コートを大きく吹き飛ばした。

 

その威力は明らかに通常のそれより強力だった。

 

しかし、櫂はソードスキル使用後の硬直時間により動けない。

 

「はああっ! 」

 

その隙を狙い、ラーがその槍から紫の光を発しながら櫂に攻撃する。

ソードスキルなどで発生した硬直を狙うのはセオリーだ。

 

高速の動きに高速の突き、そして速度重視のソードスキル。

ラーは今度こそ当てられると思っただろう。

 

しかし、それは叶わなかった。

 

櫂が予想よりも早く硬直時間を抜け出し、ラーの方を向く。

ここまでならラーの槍のソードスキルは間違いなく当たっていただろう。

 

櫂は重い両手剣を上段に構え、刀身から赤い光を発し、振り下ろす。

 

その動作が速かったのだ。

異常に。

 

「はあっ! 」

 

ソードスキルを発動させたラーの槍が櫂に当たる直前で振り下ろされた櫂のソードスキルはラーの槍にヒット。

 

櫂が放ったソードスキル、カスケードにより槍の刃の部分は斬り潰された。

 

そこでラーのソードスキルは強制的に終了し、体制の崩れた状態でソードスキル発動の硬直時間により動けない。

 

櫂も硬直時間になっていたが体制が崩れているラー、さらにいうならソードスキル発動の硬直時間が短い櫂はラーよりも速く動けるようになり、再び両手剣から赤い光を発生させる。

 

「はああああっ!! 」

 

鎖鎌の黒コートに放ったのと同じソードスキルで櫂はラーを吹き飛ばした。

その時フードに切れ込みをつけた。

 

「がはっ! 」

 

吹き飛ばされたラーは離れた所で仰向けで倒れた。手に持っていた槍は光のドットとして霧散した。

 

「くっそ…! 」

 

別の所でよろめきながら鎖鎌の黒コートは立ち上がっていた。

ラーも立ち上がろうと体を動かしている。

 

しかし、誰の目にも明らかだった。

 

櫂が勝利したことは。

 

離れてみていた少女は自然と笑みになる。

堂々と立つ櫂の姿は、前に自分を助けてくれたあの姿そのままだったことに、不思議な高揚感を感じたからだ。

 

 

「もういい、下がれお前達…」

 

 

今まで見学していた大柄の黒コートがラーと鎖鎌の黒コートにそう言う。

 

大柄の者に櫂は警戒心と共に体を向ける。

 

「ここは引くぞ」

 

「…いや、さすがにこのままじゃ…悔しすぎるんだけど…」

 

軽い口調だが、戦意を顕わに意を唱える鎖鎌の黒コート。

 

「………」

 

無言で得物すら失ったラーも大柄の者を無視するように切れ込みによって僅かに見え始めたフードの奥の眼光が櫂を見据える。

 

「お前達二人がかりでも勝てないのならこちらに勝算は無い。引くぞ」

 

「違いないわね」

 

大柄の者の言葉に小柄な者が、うんうん、と頷きながら同意する。

 

「そりゃあんたらがまだ()()()()から悪いんじゃない? 目的の物が目の前にあるのにみすみす見逃すのも…てか、オレたちの存在知られちゃったし、警戒されんじゃん」

 

「こちから奪えない以上、仕方がない。それに別の問題も発生した」

 

鎖鎌の黒コートの抗議に起伏なく答える大柄の者は少女にその顔を向ける。

僅かに緊張するサチとそのサチをいつでも守れるように警戒する櫂。

 

「まさかクランがプレイヤーに宿るとはな…他の者にもこのことを伝えなくてはならん」

 

大柄な者がそう言うのと同時に黒い霧、いや闇がその隣に現れた。

 

「え~…」

 

渋る鎖鎌の黒コート。

 

「無闇にプレイヤーを死なせるわけにはいかなくなった」

 

「でもなぁ…」

 

それでも渋る鎖鎌の黒コート。

 

「これは『命令』だ」

 

「! 」

 

今までになかった圧力が籠った大柄の者の言葉に鎖鎌の黒コートは黙る。

 

「…わかったよ。それを言われちゃあしょうがねぇ」

 

鎖鎌の黒コートの隣にも黒い闇が現れる。

 

「そうそう。どうせこのままみっともなく負けちゃんだから、言い訳して逃げた方がいいわよ~」

 

そう言う小柄な者の隣にも闇が…

 

「それは戦えないお前らが悪いんだろ! 四人がかりなら勝てたんだろうし! 」

 

「それは言いっこなしでしょ? まっアンタとしたらプレイヤーを殺せなくなるのはつまんないだろうけどさ」

 

「それはオレじゃねぇカミューラだ。プレイヤーを殺すことにはそこまで興味ねぇよ」

 

「どの口が言うんだか…」

 

小柄な者は鎖鎌の黒コートとそうやり取りをした後、立ち上がって隣に現れた闇の中に消えていく。

 

ザッ

 

「…っ! 」

 

明らかにこの場の撤退を始めていた黒コート達に警戒をしていた櫂は一人こちらに一歩足を踏み出した者に警戒心を高める。

 

「ラー…『命令』だぞ。この場は引け」

 

大柄の者の言葉に薄っすらとだが見えるラーの口元が悔しそうに食いしばっているのが見えた。

手も強く握られ、僅かに震えている。

 

「気持ちはわかるけど、ここは引こうぜラーちゃん」

 

そう言いながら鎖鎌の黒コートは闇に近づいていく。

 

「次会った時はちゃんとクランを奪わせてもらうから、よろしくぅっ」

 

櫂に指を差しながら闇に消える鎖鎌の黒コート。

 

 

「おい…」

 

 

櫂は声をかけてきたラーに体を向け、対峙する。

 

 

 

「貴様の名は…? 」

 

 

「……櫂トシキ」

 

 

 

普通ネットゲームひいてはソードアート・オンラインの中では名前を訊かれたら、プレイヤーネームを答えるものだが、ラーのフードから見える目は本名を求められている気が櫂にはした。

そして何故か自然と櫂は口に出してしまっていた。

 

 

「櫂、トシキ…」

 

 

櫂の名前を呟いたラーの隣に闇が現れたのと自分のフードを外すのは同時だった。

 

 

「「っ!? 」」

 

 

櫂と少女はラーの素顔を見て驚いた。

 

橙色の髪はオールバック、顔には紋様が刻まれていた。

驚いたのは肌の色と耳の形だった。

肌は紫、耳の先は人並み外れて尖がっていた。

その外見はソードアート・オンラインの中でいうとダークエルフと似たものだった。

しかし、ラーはアイコンはプレイヤーだ。

プレイヤーがダークエルフと同じ外見をしている。

つまり現実の世界でもダークエルフの姿に近いということになる。

 

やや混乱する櫂と少女を余所にラーはその口を開いた。

 

 

 

「…俺の名はラーハルト……次は俺が勝つ」

 

 

 

そう言ったラー、いやラーハルトは闇の中に消えていった。

 

 

 

「………」

 

「待てっ」

 

 

最後に残った大柄の者が闇の中に入ろうとした時、櫂はそれを止める。

 

櫂の言葉に大柄の者は足を止める。

 

 

「…お前達は何者だ? 」

 

「…何度も言えないと言ったはずだが? 」

 

 

櫂は返ってくる答えがわかっている問いたのはやはり湧き上がる疑問によるものだ。

櫂の世界で起こった異変の真実を知りたいという思いはそうそう衰えるものではない。

 

 

「…ところで、お前が今手に入れたクランは『ロイヤルパラディン』か? 」

 

 

「…答える義理は無い」

 

 

「フッ…よく言う…」

 

 

 

 

大柄の者の問いに櫂はせめて一矢報いる為の答えに初めて感情が表すように笑った。

 

 

 

「………『探索者(シーカー)』めが…」

 

 

 

そう言い残し、大柄の者が闇に消えた瞬間、ここに来た時と同じように頭を掻きまわされたような感覚が襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付くと、27層の迷宮前にいた。

 

日の光が無いことから今は夜だ。

 

櫂が周囲を確認すると、

 

 

「「あっ…」」

 

 

近くにあの右の泣き黒子特徴の少女がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ようやっとウジウジ櫂くん脱却です。
今までのこの作品の櫂くんは知っている人達が見たら「誰だコイツ」状態だったんですが、これからはYKSな感じや櫂くん語をドンドン出して行きますんでよろしくお願いします。
たぶん、恐らく…メイビー……

あと黒コート集団の外見のイメージは王国心の13人で構成されているあの人たちです。


と、このように粋がりましたが、リアルがかなり忙しくなりそうで次の更新はどんなに速くても九月になると思います。
来月はいちよ一周年なので何か書ければと思っていたのですが、本当に無理そうなので申し訳ありません。

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