いろいろと一段落したので投稿します。
「………」
「………」
アインクラッド27層迷宮区の最寄りの街の宿屋の一室。
櫂とサチはテーブルを挟んで椅子に座っている。
俯き気味ではあるが、櫂に体を向けているサチ。それに対し櫂は体と顔を横に向けていて片肘をテーブルの上に置いている。
二人の間には先ほどから沈黙が続いている。
どちらもどう話を切り出していいか、わからないでいたからだ。
櫂とサチが謎の空間での黒フードの集団との一戦から解放され、27層迷宮区の入り口に放り出されてから立ち尽くすことになった。
お互い急に起きた色々な出来事を脳内で処理できず、次の行動に移ることが出来なかった。
普段の櫂なら何も語らずにサチを放っておいて、すぐ何処かに行ってしまっただろう。だが、あれだけの事が起り、関わってしまった少女を放って置く訳には櫂とていかなかった。
何より、今の櫂には、サチから逃げるように離れることは憚ることだった。
しかし、考えをまとめることも出来ていなかったので、呆然としているしかなかった。
サチの方も自分は死んのだと思い、覚悟したのにも関わらず訳のわからない場所で目が覚め、あのような現場に遭遇し、勢いと気持ちのまま動いたが、一旦状況が落ち着いた瞬間、頭の整理がつかずにいた。
数分はその場に突っ立ったままの二人だったが、サチが気が付いたようにメニュー画面を開いたのがこの場での最初の動きだった。
サチは混乱する頭でようやく一番気になったのは自分と同じ場所で同じように死んで消えていった仲間達の事だった。
自分が生きているなら、他の仲間達も生きているかも、と。
メニューを操作し、フレンドリストを確認する。
フレンドリストに入っている仲間達の名前はログインしていないことを示す灰色で刻まれていた。
今仲間達はこのアインクラッドにはいない。
つまり死んでしまったということ…
更にサチにとってショックだったのは自分たちが死んでしまった場にいなかったはずのギルドリーダーの名前すら灰色だったことだ。
以前にもアインクラッドで知り合って友達になったプレイヤーが死んだ時もショックだったが、現実で学校の部活の仲間だった実際に知っている友人の死はそれ以上だった。
「あ…ああ…」
「っ! 」
サチはその場に崩れ落ちそうになったが、サチの変化に驚いた櫂が駆け寄って支えた。
「おい、大丈夫か? 」
「……は…い…」
櫂の問いかけに何とか答え、崩れた態勢を戻すサチだったが、表情と歯切れの悪い言葉からはとてもじゃないが平気とは思えない。
「……来い」
「あっ…」
サチの様子と今までの経緯による現状から櫂はとにかく休める場所に移ることが最優先と考え、サチの手を取り引っ張って一番近い街を目指した。
櫂とサチはモンスターを避けながら街に辿り着き、すぐさま宿屋に入り、部屋を取ってそこに入った。
とりあえず身の安全が保障される空間に辿り着いたが、連れてくること以外頭に無かった櫂は次にどうするか考える。出した答えは部屋の中央のテーブルと椅子が二つ有ったのでその一つにサチを座らせ、もう片方の椅子に自分が座るというものだった。
サチには特に何も言わず、いや言えずにただ椅子に座るだけだ。
自分で連れてきておいて声もかけずに黙っているのは失礼な以上に怪しいことは櫂もわかっているが、掛ける言葉が見当たらない。そう悩んでいる間に時間は確実に進んでいく。
一方のサチもどうしていいかわからずにいた。
仲間の死を知って体の力が抜け、辛い感情で思考が鈍くなった。しかし、櫂に連れられて今いる宿屋の到着するまでの間に少し落ち着くことが出来た。
やや強引に引っ張られていたがサチも自分自身で一人で歩くことは勿論、立っていることもかなり難しかったのはわかったので、助かったと思っていた。
何より櫂に掴まれた感触がハッキリとしていて暖かった。それはサチにとって、とても安心することだった。
ただ椅子に座らされた後、少しは頭の中の冷静さを取り戻したサチだったが、やはり仲間の死のショックはすぐには消えず、それが尾を引いて今目の前の櫂に切り出す言葉が、出てこなかった。
「…少しは良くなったか? 」
二人の間の沈黙を破ったのは櫂だった。
「えっ…はい。少し落ち着きました」
体を横に向け、自分の顔を見ずに聞いて来る櫂にサチは暗い感情を消せずとも、言った言葉通り落ち着いて応えた。
「そうか…」
サチの様子から先ほどの危うさがサチから消えていることを感じた櫂は安堵した。
「「……………」」
「あの…」
話が途切れ数秒の沈黙の後、今度はサチが櫂に声を掛けた。
「何が起こったんですか? 」
櫂は予想していた問いに首だけを動かし、サチに顔を向ける。
「私、27層の迷宮区でギルドの仲間たちとコル稼ぎをしてんです。そこで隠し部屋のトラップに引っかかってしまって、部屋から出れなくなってしまったんです。その部屋は転移結晶が使えない部屋で私たちは強力なモンスターに囲まれました。仲間たちが次々に…消えていって、最後の一人を残して…私のライフも0になりました。そして意識がなくなって気が付いたら、あの…場所、といいますか、あの空間にしました…」
サチの話を聞き、櫂は動揺した。サチの仲間とあの空間で自分が助けられなかったプレイヤー達が同一であることを連想したからだ。
「…さっきフレンドリストを見て確認したんですけど…仲間たちは…死んでいて…取り乱しました」
サチは仲間たちのことを話すと、悲しみが込み上げてきて、声は暗くなり、表情に影が差す。
そんなサチの姿を見て、櫂は耐えられなくなった。
「…すまない」
「えっ…? 」
「助けられなくて…すまない」
櫂が耐えられなくなったのは罪悪感。
そして耐えられなくなって出てきたの謝罪の言葉。
そのことを知らないサチは疑問の表情を浮かべる。
「何で謝るの? 助けられなかったってどういうこと? あの人たちな何なの? あの空間は何? あの人たちが言ってたことは本当なの? 」
サチは自分の中の疑問のすべてを吐き出すように口にする。
「あなたは何者なの? 教えて」
「ああ…話そう」
櫂はサチに向き直り、しっかりとサチの顔を見る。
櫂は目の前の少女には知る権利があり、自分には話す義務があると思った。
「奴らが言ったように俺は…」
そして、きっと…
「…お前達とは別の世界からロイグインしている人間だ」
櫂はサチに全てを話した。
自分の世界の事。
ヴァンガードの事。
ヴァンガードがただのカードゲームでは無い事。
惑星クレイの事。
自分が見た夢の事。
その夢を見た日から世界が変わってしまった事。
元の世界に戻すには異世界のゲームであるソードアート・オンラインに入らなくてはならなかった事。
仲間の助力で自分はアインクラッドで死んでも現実では無事である事を…
アインクラッドに来てから自分の世界を元に戻す為の手がかりを探し続けていた事。
あの黒いコートの集団に今日初めて会った事。
あの空間の事。
そして、サチの仲間達を助けられなかった事。
「………」
サチは色々なことをいっぺんに聞かされ、頭で処理できずに何も言えずにいた。
「…信じられないだろうが、これは事実だ…」
「でも、そんなことが…」
「なら、これだけは覚えておけ。俺は…」
言いかけて櫂は言葉が詰まった。
自分の罪を口にする事を傷つきたくないという無意識が止めたのだ。
だが櫂はすぐに言葉を続けた。
傷つくために…
「俺は命の保証がされているゲームクリアを目的としていない卑怯者だ」
その言葉にサチはビクッと体を震わせて、櫂を見る。
「黒コートの一人が言っていた通りだ。俺はこのゲームから脱出する為に命を懸けている者や死とゲームの中に閉じ込められた恐怖に苦しんでいる者達と違い、自分の目的の為だけに行動している部外者だ」
櫂は言葉にするだけで自分が嫌になっていった。
「やり直しが利かないとはいえ、命の保証はされ、生きる事ではなく別のものを見ている…お前達プレイヤー、いや被害者からしたら決して許せる存在ではないだろう」
櫂は昔の罪を思い出す。
力だけを求めて、欲望のままに力を振るっていたあの頃を…
サチは何も言わない。櫂はサチの心情を表情からは読み取れなかった。だが、しいて言うなら驚きつつも何かを考えているような顔をしていると櫂は感じた。
そんなサチを見て櫂は、やはりと決意をした。
(自分に関わらない方がいい。すぐに離れた方がいい)
(話すことは話した)
(最低限の義務と責任は果たしたはずだ)
(罵倒してくれる期待していたが、それが叶わないのが心残りだが…)
櫂は椅子から立ち上がり、部屋のドアに向かう。
「…折角拾った命だ。今度は街からあまり出ず、危険な場所には行かないようにした方がいい」
「待って! 」
サチの制止の声に出ていこうとドアノブに手を掛けた状態で櫂は動きを止める。
「あなたの話は信じられます。あの時、槍を突き刺された時の私から出たあの光…あの光があなたの世界を元に戻す為の手掛かりなんですよね? 」
サチはラーハルトに槍で突かれた時に纏った光の感覚を思い出し、櫂の話は嘘ではないと感じた。
「これからもあの光を探すんですか? 」
「ああ…」
「一人でですか? 」
「当たり前だ…」
「あの人たちがまたあなたを襲って来るかもしれませんよ? 」
「何とかする」
「…私が一緒じゃダメですか? 」
「はっ? 」
サチの意外な申し出に櫂は怪訝な表情でサチを振り返る。
「探しものなら一人よりも二人の方が見つけやすいですし…」
櫂にはサチが何を考えてこんなことを言っているのか、わからなかった。そしてこんなことをいう神経が理解できなかった。
だから…
「…足手まといは必要ない。生きる事だけを考えるんだな」
櫂は拒絶した。
しかし、櫂の中には今までにないほどある迷いが大きくなっていた。
(このままでいいのか?)
櫂は再びサチに背を向け、ノブを回す。
櫂が部屋から出ていこうする事にサチは焦った。
出て行こうとする男を止めなくてはと言葉を必死に選ぶがなかなか出てこない。
だが、そんな櫂の後ろ姿を見てサチはまた思い出した。
自分を守ってくれると言ってくれた黒い少年のことを…
「あなたは悪くないよ」
「えっ…? 」
サチの言葉に櫂の手を止まる
「私たちがこの世界に閉じ込められたのはあなたのせいじゃない。死んでしまった人たちも茅場って人のせいで…もし他に悪い人がいたとしたら、きっとその人自身だから…」
「それだけじゃないっ!! 」
櫂は振り向き、サチに叫んだ。
「俺のレベルも装備も全部自分がこの世界を回る為に得てきたものだ! ゲームをクリアする為ではなく、自分の目的の為にっ! もし俺の得た経験値や金が他の者達に渡っていたら助かっていた者達がいたかもしれないっ! クランを手にしたいが為に人の死を望んだこともあった! 許されることではないっ! 」
櫂は胸の奥にある罪の意識をぶちまける。
サチはその姿をただただ見ている。
「…だから、誰も巻き込んではいけないんだ…」
「でもあなたは私を助けてくれた」
「!? 」
取り乱して叫んでいた櫂は改めてサチを見た。その顔はとても優しく笑っていた。
「あなたは二度も私を助けてくれた。それって他のプレイヤーがどうなってもいいとは思ってないってことだよね? あなたがそんなに苦しんでいるのは誰かを助けたい気持ちがあるからだよね? 」
サチは呆然と立ち尽くす櫂に近づく。
「それでももし自分が許せないなら…私が許すよ。プレイヤーを代表してあなたを許します。もし他のプレイヤーが許さなくても私だけは許すから…その上で」
サチは優しい目で櫂の顔を見て、櫂に手を差し出した。
「あなたを助けたい」
サチは櫂の話を聞き、櫂の事を少なからず知って、改めて思っていた。
黒い少年もきっとこんな感じになってしまっているのだろう。
私が死んで、死んでしまったと思って今きっと苦しんでいる。
あの少年も今、目の前にいる男性の様な顔しているのかと思うと駆けつけて抱きしめてあげたい。
大丈夫だよ…と、言ってあげたい。
だから目の前の男性のことを放って置けない。
自分が助けたい。力になりたい。
そう思った。
サチに手を差し伸べられた櫂。
それを見て思い出した。
その手はかつて差し伸べられた手と同じであることを…
かつて自分が伸ばした手であることを…
そしてまた聞こえてくる…
「この世界で」
『櫂君…』
「あなたの傍には…」
『君の傍には…』
『「
「「………」」
「いいのだろうか…? 」
「うん? 」
「この世界でも…俺は仲間を…メイトを得ても…」
「…いいよ。きっとそれは私の為でもあるから。」
「頼む…」
櫂は差し出されたサチの手に恐る恐る自分の手を差し出し…
「俺と一緒に…戦ってくれ」
握った。
「うん」
「俺はカイ…櫂だ」
「私はサチ。よろしくね櫂」
ごめんねキリト
ギルドのみんなは死んじゃったけど…
フレンドリストで君が生きていることが確認できて…
君だけでも生きていてくれて…
本当に嬉しい…
今すぐ会いに行きたいけど…
今は無理…
今会っちゃたら…君に甘えちゃうから…
それじゃあいけないから…
あの光に感じた私自身の勇気…
それを自分のものにすることができたら…
君に会いに行きます…
その為にこの人を支えることが一番の近道だと思うから…
君と同じように苦しんでいるこの人を助けるようになることが…
だからちょっとだけ待ってて…
どんなに遅くなっても…
次のクリスマスまでには会いに行くから…
私の想いを録音じゃなくて自分の口で伝えるから…
そして…
私自身が知りたかった『意味』を言うから…
少しだけ待っててください…
リハビリ回の為短めになりました。
てゆうか前の話はここまで書く予定だったんですが、時間的に無理でした。
次回は一か月以内に投稿できるよう頑張ります。