リンク・ザ・スタート   作:ヤギザ

17 / 18

とりあえず宣言で通り、更新できました。





RIDE 16 風林火山

 

 

 

「うおりゃああああっ!! 」

 

 

 

振られる刀が光を発しながら空に弧を描く。

 

その光の刀がモンスターを一閃。

 

モンスターはポリゴンとなり、消滅する。

 

 

「よっしゃあっ!! 」

 

 

ギルド《風林火山》のリーダー、クラインは大げさにガッツポーズをする。

 

 

「………」

 

 

まるで偉大な事を成し遂げたかのように叫ぶ声が森に響き渡る…が、クラインを称える声は一切ない。

 

 

「おいっそっちに行ったぞ! 」

 

「回り込め! 」

 

「俺に任せろ! 」

 

 

声だけはある。

クラインとは関係無い声が…

 

 

「……はあ」

 

 

クラインは溜息を吐き、肩を落としながら刀を鞘に納める。

 

「じゃあもうすぐ時間だから俺は抜けるわ! 」

 

「「「おうっ! 」」」

 

大きな声でまだ戦っているギルドの仲間たちに声を掛けた後、クラインは少し離れた場所に座る。

 

仲間たちの戦いをボーっと眺めながらクラインは物思いにふけった。

 

クラインが、というかソードアート・オンラインをプレイした者たちがこのゲームから出られなくなって約10か月。生き残るために、そしてゲームクリアのために必死で戦っている。

 

去年の今頃はこんなことになるなんて夢にも思ってなかった。

 

ヴァーチャル技術が大いに発展してきた昨今、クラインとしては個人的にそこまでヴァーチャルゲームには特別興味があった方ではなかった。

ゲーマーだと自負しているし、社会人になっても自分の時間の多くがゲームである以上、娯楽に応用を利かせているヴァーチャル技術の情報は良く入ってきたから、何となく頭に入れてきたが、気に留める程度だった。

クラインの学生時代はゲームといったらテレビか携帯できるハード、何よりパソコンとネットだった。

 

ネットの特にオンラインゲームはクラインの性に合っていた。

元来、人との付き合いは上手いクラインは知らない人間との文字上だけの交流も面白く感じ、今までも大きなトラブルもなくやってこれた。

それどころか、その人の好さと決して下手ではないゲームテクから慕われるギルドリーダーを務めることが多かった。

オフ会をする機会もあった。

 

オンラインゲームの多くは特に大好きなファンタジーRPGを基本的にプレイしていた。

 

そんなクラインに衝撃的な情報が入ってきたのは数年前。

 

ソードアート・オンラインの発売だ。

 

ゲームの中にフルダイブするなんてことは数十年先のことだと思っていたクラインは現代に生きる普通の人間として驚いた。何より世界初のフルダイブゲームが自分の好きなオンラインゲームであり、ファンタジーRPGであることがクラインには一番の衝撃であり、知った瞬間プレイしたくなった。

すぐさま、ソードアート・オンラインがプレイできる環境を整え、ハードや機器を購入した。

 

一番の問題は肝心のソードアート・オンラインのソフトの初回生産が一万本限定だという事だった。

最初は今の時代少なすぎるだろと、思ったがすぐに次の生産を待てばいいと思い至った。

勿論、早くプレイしたいので購入のために最善は尽くすと心に誓ったが、気持ちの上では買えたらめっけもんぐらいの感覚だった。

買うまでの行程も楽しもう、そういうスタンスだった。

 

そして発売日の前後の数日。

有休を取り、一緒にプレイをしようと決めた。店頭に3日前から並び仲間たちと一緒に購入することが出来た。

苦労して買えた時は自分はかなり幸運だと思ったものだ。

 

実際には逆だったわけだが、しかし、初めてのフルダイブとソードアート・オンラインの世界のリアリティに入った時はそれはもう感動した。

 

しかも偶然にもβテスターを見かけ、ダメ元でプレイのコツを教えてもらえ、このゲームをしばらくは満喫するつもりだったが、状況は一変。

 

ゲームから出れなくなり、しかもデスゲームなった。

最初はやはり信じられなかったし、信じたくはなかった。

一人だったら冷静でいられたかはわからない。

だが知り合ったβテスターが傍に居てくれて、そのテスターは先を見据えていた。

テスターの話ではすぐに手頃な雑魚モンスターは狩り尽くされてしまうから、急いだ方が良いとのことだった。しかも自分と一緒に行こうといってくれた。

それは出会って少し共にプレイした僅かな義理だったのかもしれない。

それでもクラインは嬉しかったし、このテスターが良いヤツだとわかった。

おかげで自分も先の事を考えられた。

 

そしてクラインの選んだ道は、一緒にソフトを買った仲間たちと共に行くことだった。

 

知り合ったテスターとはそこで別れたが、そいつなら生き抜いていくだろうと信じていたし、今も実際攻略最前線で生き抜いている。

 

逆にクラインは仲間の安全を最優先に危険が少ないようにレベル上げをしてきた。

クラインは仲間たちと相談して、攻略に参加することを目標にした。言い出したのはクラインだが、仲間たちはクラインの攻略参加の意志を理解してくれた。

 

それからギルド《風林火山》を立ち上げ、少しづつ少しづつレベル上げていき、仲間の誰一人死なずにようやっと最前線の迷宮区やボス攻略に挑める目処が立ち始めた。

 

もうすぐ攻略組に加わることが出来る。

そう思うとクラインは妙な高揚感を感じる。

 

だが、今はそんな気持ちには中々なれなかった。

 

何故なら今ここで行っているモンスター狩りに不満があったからだ。

 

今、ギルドの仲間とモンスターを狩っているのは一重にレベル上げの為、しかし、クラインは気が乗らない。

理由は今いる森の狩場は最前線から大分下の階層にあり、クラインたちのレベルではあまり多くの経験値が得られないからだ。

クラインとしては自分たちに合った狩場でレベル上げをしたいのだが、今は昼間で一番プレイヤーたちが活動する時間帯で人気の狩場は人で溢れている。

プレイヤー間で狩場の待ちが発生した場合、狩場の使用時間は一時間という協定が決まっており、今の時間帯だと数時間待ちは当たり前だった。

明日1日はギルドメンバーで休日にすることに決めた。なので今日はしっかりレベル上げをしようと、効率が悪く人気があまりない今のいる森ですることになった。

森の開けた円状の場所が狩場なのだが、出てくるモンスターはクラインたちにしてみれば危険の少ないモノばかりでどうしても気が抜けてしまう。

それではいけないとさっきモンスターを倒した時、無駄にテンションを上げてみたが空しくなるだけだった。

 

ここの狩場が効率が良くないのはクラインたちレベルの話であり、レベルの低いプレイヤーたちとってはそうではない。今もクラインたちの時間が終わるのを待っているパーティが一組いる。

 

そんな人前なのに意味もなく大声を上げるのはかなり恥ずかしいことだったとクラインは少し後悔した。

 

(折角もうすぐ攻略組に入れそうだってのに…こんなんじゃ…ん? )

 

仲間たちがあと数匹のモンスターと戦っている別方向から戦闘らしき音しているのにクラインは気付いた。

 

(なんだ? )

 

クラインが音のする方に行ってみると少し離れた所に男女のプレイヤー二人がモンスターと戦っていた。

 

男の方はかなり大きい両手剣を持っていて、剣を盾代わりにして女の子を守るように立ち回っている。

 

女の子の方は長槍を持って後ろの方から隙を伺って、離れた所からモンスターを突いている。

 

二人の様子からレベル上げというより、連携の確認をしているようにクラインには見えた。

 

女の子はややぎこちないが、一生懸命に動こうとしているのがわかった。

 

逆に男の方はかなりスマートで、スキルの高さだけではなく男自身の上手さがよくわかった。

 

二人の戦いぶりから危険は無さそうなことを確信してから、クラインの興味は別の所に移った。

 

(あの女の子結構かわいいな…)

 

青い髪の女の子を見て、そんな感想をいだくクライン。

女の子に興味はあるが縁がないクラインは現在彼女募集中ではあるがロリコンではないので、明らかに十代半ば以下の少女に手を出すつもりはないが、どうしても顔の良し悪しを見てしまう。

 

(男の方は…げっイケメン)

 

男の顔を見て、クラインは顔を歪ませる。

別に顔の良い男に嫌な思い出があるわけではないし、妬ましく思う人間ではないが目の前の男女が年の近しいカップルに見えなくもないことからの妬みだった。

 

(あれ? あいつ…)

 

クラインは男の顔に見覚えがあった。

 

(間違いない。どっかで見たことがある)

 

しかし、もう少しというところで思い出せない。

クラインがう~んう~んと唸っている間に女の子が長槍を発光させてソードスキルを放つ。

そのソードスキルがモンスターに当たった瞬間と同時にクラインは思い出した。

 

 

「あ「うわあああああああああああっ!! 」

 

「「っ!? 」」

 

 

クラインが、あの時の! 、と叫ぼうとした瞬間、クラインの後方から叫び声が聞こえた。

 

クラインが後ろを振り返る間に両手剣を持った男はクラインの横を走り抜けていく。

 

クラインと長槍の女の子も男の後を追う。

 

声の方向と男を追った先はあの森の狩場だった。

 

「な、なんだコイツっ! 」

 

そこでクラインが見たものは、体調5メートル以上はある虎のようなモンスターだった。

 

こんなモンスターはこの狩場には出てこないはずだった。

 

虎モンスターのカーソルの色の濃さからクラインにとってはそこまで危険なモンスターではないが、ここに出てくるモンスターの平均レベルをかなり上回っていて、来ていた別のプレイヤーたちにとってはそうではないようだった。

 

「ひいぃっ」

 

虎モンスターの前には尻持ちをついているプレイヤーが恐怖に顔を歪ませている。

モンスターの大きな前は足の下敷きになっているプレイヤーもいる。

 

パーティメンバーと思しきプレイヤーたちとクラインの仲間である《風林火山》メンバーが虎モンスターの側面から攻撃している。

だが、致命的なダメージを与えられずにいた。

 

他もプレイヤーたちはともかく《風林火山》のメンバーたちにとってはそこまで強い相手ではないのだが、出てくることを知らなかったモンスターが現れた驚きと恐怖による動揺は思いの外、《風林火山》の仲間たちを尻込みさせていた。

 

「何やってんだっ!! そこまでそいつは強くねぇだろ! しっかりしろっ!」

 

クラインは仲間たちに 咤するが、虎モンスターが目の前にいるプレイヤーに襲い掛かろうとしていた。

これでは間に合わない。

 

「くそっ! 」

 

クラインは虎モンスターに向かって鞘から刀を抜きながら、走り出す。

 

(間に合えっ! )

 

心の中でそう唱えるクラインはソードスキルを発動させるべく、モーションに入る。

このソードスキル一発で倒せるのは難しそうだが、大きいダメージを与えることが出来るはずだ。そうすれば怯ますことぐらいは出来るはずだと考え、うまくすればモンスターの攻撃を止めることが出来るかもしれない。

 

クラインはソードスキルの間合いまで虎モンスターに近づき、光る刀身の刀を振り上げる。

 

「うおおおおおおおっ!! 」

 

 

一閃。

 

 

クラインはソードスキルを虎モンスターがプレイヤーを襲う前に叩き込むことが出来た。

 

そこでクラインは奇妙なことに気付く。

 

クラインが発動したのは出の早い斜め斬りの単発ソードスキルだ。

 

だからモンスターに発生する斬撃のライトエフェクトは斜め一本のみのはずだ。

 

しかし、斬撃のエフェクトは✖印を描いていた。

 

そしてソードスキルが直撃した虎モンスターのHPゲージはクラインが予想していたよりも速いスピードで削れていき、そのスピードを落とすことなく0となった。

 

虎モンスターがポリゴンとなり砕け散っていく中で、クラインが隣を見ると、虎モンスターのいた位置を中心に丁度自分の反対ぐらいの場所に先に走っていった両手剣の男が立っていた。

 

すぐにクラインはこの男が自分と同じタイミングでソードスキルを発動させたことに思い至った。

 

それと同時に近くで見た男の顔を見てクラインは完全に両手剣の男のことを思い出した。

 

このゲームに閉じ込められた初日の夕方、あの茅場晶彦の宣言から仲間たちと合流した後、男のプレイヤーと女のプレイヤーがトラブルを起こしていたのを見つけた。クラインたちが割って入ったが止めたれずところを突然やってきて、その場を収めててくれたあのプレイヤーだ。

 

「あっ、ありがとうございます! 」

 

尻餅をついていたプレイヤーはゆっくりと立ち上がり、クラインと他の《風林火山》のメンバー、そして両手剣の男に礼を言う。

 

「本当にありがとうございました」

 

「助かりました」

 

虎モンスターに下敷きになっていたプレイヤーを立ち上がらせながら、他のプレイヤーたちも礼を言ってくる。

 

「気にすんなって。あんなモンスターが出るなんて情報なかったしな。しょうがねえよ」

 

クラインが笑ってそう言うと、プレイヤーたちも安堵した表情をする。

 

「そう言ってくれると助かりますが、何かお礼を…」

 

「いいっていいって、こういうのはお互い様だろ。みんなもいいよな? 」

 

クラインは《風林火山》の仲間たちにそう聞くと、全員迷いなく頷き返してきた。

 

「アンタもいいよな? 」

 

クラインは馴れ馴れしく両手剣の男にそう聞くと、男は僅かに首を傾げるがすぐに目を瞑って頷く。

 

「だってよ。だからホントに気にすんな」

 

クラインの言葉に助けたプレイヤーたちは全員頭を下げてきた。

 

「本当にありがとうございます。では我々はこれで」

 

「ああ、気をつけて帰れよ」

 

プレイヤーたちは会釈をしながら、その場から去っていった。

 

クラインはプレイヤーたちを見送った後、両手剣の男の方を向く…

 

「へへっ久しぶ…ってあれ? 」

 

が、両手剣の男はそこには居なかった。

すぐに周囲をキョロキョロと見渡すと、離れた場所にいる長槍の女の子の方へ歩いていく男を見つけた。

 

「おいっちょっと待てって! ああ、お前らオレあいつと少し話あるから街に戻っとけ! 」

 

クラインは《風林火山》の仲間たちにそういうと慌ただしく男の後を追う。仲間たちが苦笑いをしながら顔に、相変わらずだな、といった表情をしていたのは見なかったことにした。

 

 

 

 

「大丈夫だった? 」

 

「ああ。あの程度なら問題はない」

 

「お~い待ってくれよ~」

 

クラインは話している男と女の子に近づき声を掛けると、二人は振り向く。

 

「はぁはぁ…、よっ久しぶりだな」

 

息が切れることなどありえないのだが、無駄に息を切らすアクションを入れた後、クラインは無駄な決め顔で男に向かってそう言う。

 

「………」

 

クラインの言葉に女の子は男の様子を伺う様にチラチラと見るが、肝心の男の方は仏頂面のまま無反応だ。

 

「…誰だお前は? 」

 

「って、覚えてねえのかよ! 」

 

数秒後の間からの男の言葉にクラインは盛大にツッコむ。

青髪の女の子は苦笑いをしている。

 

「まあしょうがねえか十か月も前だしな」

 

しょうがねえな、という様な態度を取るクラインだったが、すぐには思い出せなかったのは自分も同じで人のことは言えない。

 

「この世界に閉じ込められた初日だよ。はじまりの街で会っただろ? 」

 

「はじまりの街…」

 

男は記憶の糸を辿る。

 

「…男と女がトラブルを起こしていた…」

 

「おう! そうだ! 」

 

思い出した男にクラインは頷く。

 

「あの時の助言は助かった。感謝する」

 

「いいってことよ」

 

男からの感謝の言葉にクラインは笑顔で応える。

 

「あの時ソロで行くって言ってたお前が生きていてくれて嬉しいぜ。しかもまさか女の子と一緒だとはな」

 

女の子を見ながら、からかうような笑顔になるクライン。

 

「…まあな」

 

「………」

 

「? 」

 

少々下世話な勘繰りをしていたクラインだったが、男と女の子の表情が照れたりするようなものではないことに気付き、一緒にいるのは訳ありなのだというのがわかった。

 

「まあいいか、俺はクライン。よろしくな」

 

「…カイ、櫂だ。こいつはサチだ」

 

「サチです。よろしくお願いします。クラインさん」

 

両手剣の男、櫂と青髪の少女サチはクラインに名乗り、サチの方は頭を下げてくる。

 

「ここで会ったのも何かの縁だし。一緒に飯でも食うか? 」

 

半ば勢いで言ったクラインの提案に櫂は迷う。

 

「いいん…じゃないかな」

 

そんな櫂にサチは控えめに意見を言う。

そんなサチを見て櫂は…

 

「……そうだな。わかった」

 

「よし! 決まりだな。さっさと街に行こうぜ」

 

三人はこの階層の主街区に向かった。

 

 

道中雑談をしながら主街区に辿り着き、レストランに入り、それぞれNPCの店員に注文をして食事を取る。

 

 

「まさかお前さんがあの噂の大剣戦士(バスタード・ファイター)だったとはな」

 

頼んだ物を完食し、ワインを飲みながら櫂を見てクラインは言う。

 

まだ最前線に参加したことのないクラインは攻略組の顔をほとんど知らない。

しかし、最前線の攻略組の噂は中堅層や街から出ないプレイヤーにも入ってくる。

トップギルドと名高い《血盟騎士団》や一番古い攻略組のギルド《聖竜連合》などの噂はよく聞かれるが、特に印象に残るのは最前線にソロで挑む二人のプレイヤーだった。

その二人とは黒の剣士と呼ばれる少年と、もう一人が櫂だ。

 

クラインは黒の剣士とはフレンド登録をしており、何度かあった事があるが、もう一人の大剣戦士(バスタード・ファイター)と呼ばれている櫂とはソードアート・オンラインの初日に会って以来、今日まで見かけたことがなかったので知らなかった。

クラインもまさか攻略組でたった二人のソロプレイヤー両方と初日に出会っていて、縁があるとは思っても見なかった。

 

 

(これが綺麗な女の子とかなら大歓迎なんだけどな)

 

そんなことを考えながらクラインは視線を櫂からサチに移した。

 

となるとこの少女は、とクラインは疑問に思った。

 

大剣戦士(バスタード・ファイター)に連れがいるとは聞いたことはない。

仮にいたとしてもとてもではないがサチが攻略組のプレイヤ―とは思えなかった。

装備は良い物ではあると思うが、櫂や攻略組のメンバーにしては心もとない。寧ろ、クラインや《風林火山》の仲間たちの方が良い装備をしているくらいだ。

それにレベルは正直断定はできないが、戦いにはそこまで慣れているようには見えなかった。やはり少なからずクラインたちより慣れていることはないだろうと、言えた。

 

「サチちゃん…攻略組じゃあねえよな? どうして孤高の大剣戦士(バスタード・ファイター)なんて呼ばれてるるような奴と一緒にいるんだ? 」

 

クラインは深く考えずに思ったことを口にした。

 

「………」

 

「それは…」

 

その言葉に櫂は目を瞑って黙っている。

サチはやや俯き、視線を左右に動かしている。言い訳を考えているのがモロバレだった。

二人が全く別の表情になるが、困っているのは共通していることわかり、答えられないというのも同時にクラインは理解した。

 

クラインも聞き出したいわけではないので、空気を悪くなるのも忍びないので話題を変えることにした。

 

「…そういやさっきの虎。あんなとこに出てこないモンスターだったよな? 」

 

「……そう…なんですか? 」

 

サチはよくわからないといった顔をして聞き返す。

 

「…ああ、あの森で虎型のモンスターが出てくることはなかった。今まではな。出てくるようなったのは最近だ」

 

「そうなんだ」

 

「よく知ってんな。前線だとやっぱりよく情報が入ってくんのか? でもここ最前線からかなり下の層だよな? 」

 

「別に前線に出ていることとは関係はない…攻略組は突破した層の変化よりもクリアを優先している。前線から離れない者にはこういった情報は入ってこない」

 

「じゃあ何でだ? 」

 

「…俺は…よく前線から離れるからな…特に最近はこの層に入り浸っている」

 

クラインの質問に答える櫂。ギルドリーダーとしての癖からか場の雰囲気や人の表情を読むことに長けているからなのか、よく前線を離れる、と言った櫂の表情が僅かに曇ったのがクラインにはわかった。

 

だからクラインは何故この層に入り浸っているのか、とは聞けなかった。

 

しかし、意外なところからこの話は広がった。

 

「…もしかしてあのボスが関係してるの? 」

 

サチが少し首を傾げながら櫂に尋ねる。

 

「…ああ」

 

「あのボスって? 」

 

サチと櫂の表情から影が残っていないのを確認できたのでクラインは聞いてみた。

 

「ここ最近…になるのかな? あの森を抜けた小さな岩場にさっきの虎モンスターの大型ボスが現れるんですよ」

 

「へ~」

 

攻略が進むにつれてクエストが増えたりダンジョンに変化が起こることは確認されているので、それ自体は驚きはない。

だがクラインはある結論に辿り着き、ある疑問が浮かんだ。

 

「そのボスとこの層に入り浸っているのと関係があるのか? 」

 

「えっと…」

 

サチがまた困った表情になったのを見て、ヤベッと思ったクラインだったが、またもや意外なところから話が進むこととなった。

 

「そうだ。そのボスを倒すつもりだ」

 

クラインの質問に答えたのは櫂だった。

 

「そうなんです。でも、私のレベルが低くて挑むには厳しいから…あの森でレベル上げをしていたんです」

 

「なるほどな…あれ? てか、最前線にソロに挑んでる奴がいても勝てないのか? 」

 

新しい層が解放されることで増える下層のクエストやイベントの難易度はその層の平均難易度を上回っていることが殆どだが、この層は結構下層だ。最前線の、それもソロで生き抜いている奴がいて勝てないようなモンスターが出るなんてとてもじゃないが、おちおち外に出れない。つまりゲームバランスとしてキツ過ぎるとクラインは思った。

 

「いや、相手のレベル的には俺一人でも問題は無いのだが、ボスを倒すためにはある仕掛けがある。それは二人以上のプレイヤーが必要な仕掛けだ」

 

「そういうことか…」

 

クラインは合点がいった。

時折、ボス戦にはフィールドなり、部屋なりのギミックが設定されて場合がある。

それは使わないとクリアするのは難しかったり、クリアすらできないことがある。

 

「そのボスのレベルはいくつぐらいなんだ? 」

 

「35だ」

 

「え? 35? 」

 

櫂が応えたボスのレベルにクラインは驚く。

驚いた理由は思ったより高かったからではない。逆に低かったことに驚いた。

 

そのレベルならクラインたち《風林火山》でも十分勝てるレベルだった。

 

「35ならオレでも戦力になるぜ」

 

「すみません。私まだレベル40にもなっていないから…」

 

「あっいや…悪ぃ」

 

「いえ、大丈夫です」

 

クラインの反射的に口走ってしまった言葉にサチが落ち込んでしまった。

クラインはすぐに謝ったが、自分の失言で女の子であるサチを傷つけてしまったことに罪悪感を感じた。

サチが笑って大丈夫だと言ったことが余計にクラインの罪悪感が増すことになった。

 

「~~~~~~~っし! わかった!! 」

 

「えっ? 」

 

「? 」

 

クラインはいきなり立ち上がり、大声を出す。

 

そのクラインの様子を見て、櫂とサチは驚く。

 

「オレもそのボス戦手伝うぜっ!! 」

 

「えっ? 」

 

「何? 」

 

クラインの宣言に櫂とサチは疑問の表情を浮かべる。

 

「お前らの話通りならオレが加われば十分倒れるだろ? 危険だって減るしな! 」

 

「えっでも…」

 

「気にすんなよ! こうして一緒に飯を食ったのも何かの縁だ! いいだろ? 」

 

そう言ったクラインは櫂とサチを見る。

 

サチは困ったように櫂を見る。

 

そして櫂は目を瞑っている。

 

 

「「………」」

 

 

クラインとサチが櫂に注目して数秒。

 

「…わかった。協力を頼む」

 

「よしっ! 」

 

櫂はクラインの提案を受け入れ、クラインは歯を見せて笑う。

そんな二人を見てサチは微笑む。

 

「で、いつボス討伐に行くんだ? 明日なら一日空いてんだけど? 」

 

「なら明日にしよう。サチもそれでいいか? 」

 

「うん。櫂がいいなら私は大丈夫だよ」

 

「わぁった。待ち合わせはどうする? 」

 

「ここでいいだろう。時間は午前10時でいいか? 」

 

「おう! 」

 

「わかった」

 

櫂の提案にクラインとサチは頷く。

 

 

 

 

 

三人がレストランを出た時、空は暗くなっていた。

 

「それじゃまた明日な! 」

 

「はい」

 

「ああ」

 

クラインは櫂とサチと別れ、二人とは反対方向に歩いていく。

 

ふと、振り返ると櫂とサチは並んで歩いている。

 

 

「……………まさか一緒に暮らしてるわけじゃないよな? 」

 

 

二人の雰囲気から恋人同士ではないように見えたが、どうしても変な勘繰りをしてしまうクラインだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、午前10時

 

クラインは待ち合わせのレストランに青空の元、向かっていた。あと数十秒で到着する。

 

「おっ」

 

遠目から櫂とサチが揃っているのが見えた。

 

(本当に一緒に暮らしてないよな…)

 

相変わらず下世話な勘繰りが先行してしまうクラインは本当はもっと早く来るつもりだったが、少しだけ寝坊してしまい、約束の時間丁度になってしまった。

 

「悪ぃ悪ぃ、待たせたなっ」

 

「いえ」

 

「時間にはほぼ間に合っている。気にするな」

 

合流した三人はさっそくボスのいる昨日の森の先にあるという岩場に向かった。

 

「で、虎のボスってどんな奴なんだ? 」

 

歩きながらクラインは二人にボスの事を訊ねた。

これからボスに挑む為には情報は不可欠だ。

 

「基本的に昨日の虎型モンスターが巨大になったモノだ。体長は10mぐらい。攻撃手段は上空からの踏みつけと飛びかかりの後、押さえつけてからの数回の噛みつき」

 

「は? 虎なのに上空から? 」

 

クラインの頭に疑問符が現れる。

 

「ボスと戦うフィールドは主に石の柱が何本も立っている平地なのだが、ボスは石の柱の上を飛び移って移動と攻撃を繰り返す。とてもじゃないが通常の手段ではこちらからの攻撃手段はない」

 

「投擲とか使えってことか? 」

 

「確かに投擲スキルならダメージを与えられそうだが、効果的ではないだろう。結構素早いからな。当てるのも難しいだろう」

 

「そっか。じゃあボス戦の仕掛けってのが鍵か…」

 

クラインは昨日の話を思い出しながら言う。

 

「ああ。フィールドの平地は低め断崖の下にあり、平地から坂を上って断崖の上に上がれる。そこからギミックとなっている岩をボスに当たるように断崖から落とすと、ボスが柱から落ち、そこを攻撃するようになっている」

 

「なるほど。だから最低二人は必要なわけか」

 

クラインは合点がいき、笑う。

 

「そういうことだ。だから役割としては俺達二人がボスの注意を引くのと攻撃を担当。サチには岩を落としてもらおうと思う。それでいいか? 」

 

「おう」

 

 

連携の確認をした一行は何回かのモンスターと遭遇しながら森を抜け、岩場に辿り着いた。

 

そんなに急いでなかったので、到着した時刻は10時35分だった。

 

岩の間や上を通りながら数分も進むとクラインは先ほど櫂から話を聞いた平地らしき場所が見えた。

少ない砂利の平地の中にある程度の間隔で高さ数mの石の柱が立ち並んでいる。

 

 

「おっあそこか? 」

 

「ああ。あそこに侵入するとすぐにボスが現れる。ボスが落ちてくるまでは避けるかガードに徹しろ」

 

「ああ」

 

「サチはすぐに坂を上り、丸びを帯びた岩が在るはずだ。その岩を押して、あそこの崖から岩を落としてくれ」

 

櫂が平地の上のあからさまな20mぐらいの崖を指す。

 

「うん、わかった」

 

やや緊張した顔でサチは頷く。

 

「っと、そういや肝心なことするの忘れてたな」

 

「えっ? 」

 

「なんだ? 」

 

突然のクラインの言葉に櫂は尋ねる。

 

「オレたちまだパーティ組んでなかったじゃねえか」

 

「「あっ」」

 

クラインの当然のいえば当然の意見に櫂とサチはハモる。

 

「なんだよ考えもしてなかったのかよ」

 

「………」

 

「あはは…」

 

呆れるクラインに何も言えない櫂と申し訳なさそうに笑うサチ。

 

「お前らは組んでんだろ? そっちから申請してくれや」

 

「わかった…」

 

クラインの言葉に櫂はメニューウインドウを出し、操作する。

 

「よしっ! これで準備オッケー! 」

 

櫂からのパーティ申請に応じたクラインはパーティが組まれたことを確認し、気合の入った声を出す。

 

「では、行くぞ! 」

 

櫂も心なしか力強さのある声で号令をかける。

 

「おう! 」「はい! 」

 

三人は同時に柱のある平地に入る。

 

入って数秒――

 

 

 

ガアアアアアアアアアアアアアァッ!!

 

 

 

獣の雄叫びが聞こえてきた。

 

「上だ! 」

 

雄叫びに少なからず気圧されたクラインとサチは櫂の言葉で上を見ると、例の崖から大型の虎モンスターが現れ、こちらに飛び降りてくる。

 

「おおっ!? 」

 

自分たちに襲い掛かれると思ったクラインは驚きの声を上げるが、それはとりあえず杞憂に終わる。

何故なら飛び降りてきた大型の虎は石の柱の上に器用に乗っかっただけだったからだ。

 

 

「ガアアァッ! 」

 

 

それからまた虎が吠えた後、その顔の横にHPバーが出現する。

 

いよいよボス戦の開始だ。

 

櫂は両手剣を盾にするように構え、クラインは刀を抜刀、そしてサチは崖に向かうために坂に向かう。

 

「最初は相手の攻撃のタイミングを見切れ! 少なからず最初は飛びかかる以外には何もやってこない! 難しくはない! 」

 

「了解! 」

 

「ガアッ! 」

 

クラインに対して櫂の言葉に応えるやいなや、ボスはクラインに飛びかかってきた。

 

「うおっ!」 

 

クラインはそれを間一髪で避ける。

 

攻撃を外したボスは跳ねるボールの様に先ほどとは別の石の柱に飛び移った。

 

「あっぶねぇ~」

 

冷汗をかく思いのクラインだったが体勢はそこまで崩さずにすんだ。

 

「ガアッ! 」

 

ボスは今度は櫂に飛びかかってくる。

 

「っ! 」

 

飛びかかってきたボスを巧く両手剣でガードし、僅かのダメージで済ます櫂。

 

「どりゃああ! 」

 

クラインは櫂に攻撃を仕掛けたタイミングでボスに攻撃を試みるが…

 

「って、おっとっと」

 

振り上げた刀は空振りし、バランスを崩しかける。

 

「やっぱ、今攻撃するのは無理だな」

 

「ああ、だからサチが岩を落としてくれるまで耐えるぞ! 」

 

「おお! 」

 

それからボスは何度も櫂とクラインに飛びかかってきた。

 

櫂は両手剣でのガードを主して防ぎ、クラインは危なっかしくも避けていく。

何度目かのボスの飛びかかり攻撃。

今のところ直撃は一度もない。

 

一方ボス戦が始まってすぐに坂を上り始めたサチは崖に辿り着いた。

崖の下では櫂とクラインが戦っている声と音が聞こえてくる。

 

「いわ……岩は…? 」

 

櫂から事前に教えてもらっていたそれらしい岩を探す。

サチが周囲を見渡すと、乱雑に存在してる岩とは異なった妙に丸い岩がいくつも在った。

 

「これかな? 」

 

サチはその岩を押してみる。

レベルは40弱のサチだが、筋力と敏捷の値は平均的に上げているので非力ではないはずだ。

 

「う~~~~~~ん」

 

ゴトッ

 

「動いたっ」

 

サチは自分の力でも動かせることを確認し、ゴロゴロと岩を転がし崖の端まで寄せ、一旦止める。

そして崖の下を覗く。

 

「二人とも! 今から岩を落とすね! 」

 

「わかった! 」

 

「待ってました! 」

 

櫂とボスの攻撃に慣れてきたクラインの返事を聞き、サチは岩を押す。

 

「うんっしょっと」

 

ゴトッ

 

サチの最後の一押しで丸い岩は崖から落下していく。

 

ガアアアンッ!!

 

「ギャアアアアァンッ!! 」

 

落下した丸い岩はボスの頭に直撃し、粉々に破壊されてながらポリゴンとなって消えていく。

そして岩の直撃を受けたボスは痛々しい鳴き声を発しながら石の柱から地面に落ちる。

ボスは平地に倒れ込み、動かなくなる。

 

「よっしゃあっ! 今だ! 」

 

クラインは声と共に今使えるソードスキルの中で一番ダメージを稼げるスキルを発動させる。

 

櫂もクラインに続き、ソードスキルを発動させる。

 

二人のソードスキルがヒットするとボスのHPバーが削られていく。

ボスのステータスに対して大幅に強い櫂とクラインのソードスキルは大ダメージを与えた。

 

「でりゃ! おりゃ! せいやっ! 」

 

倒れているボスに出来る限りダメージを与える為に攻撃を続ける櫂とクライン。

 

「動き出すぞ! 下がれ! 」

 

頭部周辺を攻撃していた櫂はボスが頭を振りながら、動き始めるのを見てクラインに伝える。それを聞いたクラインはボスから離れる。

 

「ガアアアアアアアアアアアッ!! 」

 

「くぅっ…! 」

 

起き上がったボスは吠えると、それは衝撃を伴って櫂とクラインを襲った。

苦し気な声を漏らすクラインは自分たちのHPゲージを見てダメージはないことと、特別なアイコンが発生していないことから、デバフ効果がないただプレイヤーを怯ますだけの雄叫びだとわかった。

 

その後ボスはすぐに石の柱の上に戻り、攻撃を再開する。

 

「サチ! その調子で岩を落として行ってくれ! 」

 

「わかった! 」

 

崖下からの櫂の声に応じ、サチはまた丸い岩を押して崖から落とす。

 

すると先ほどと同じようにボスの頭に当たり、地面に落ちる。

 

すかさず櫂とクラインは攻撃する。

 

ボスが起き上がり、吠えて石の柱の上に戻る。

 

それから数回それを繰り返した。

 

三人にミスはなく、順調にボスのHPを削っていく。

 

しかし、三人は油断することはなかった。

 

恐らく准将レベルを大きく上回っているプレイヤーが二人いるとしても、相手は仮にもボスだ。

このままでは終わるはずがない。

HPバーが半分をきっても僅かに攻撃パターンが増えただけでしかないボスに不気味さを感じながら、ボスのHPが減ることに反比例して、緊張感が増してく。

 

しかし、油断をしていなかったはずの三人にとって思っても見ない事態が発生した。

 

 

「ガアアアアアアアアアアッ!! 」

 

 

ボスのHPの残りが三分の一になった時、今までとは違うタイミングで雄叫びを上げると、石の柱に戻らずに地面の姿勢を低くして、櫂とクラインを威嚇してくる。

 

「おっパターンが変わったか!? 」

 

「最初は防御に徹して攻撃を見極「きゃああああああああああっ!! 」サチッ!? 」

 

櫂とクラインがボスの行動の変化に身構えると、上からサチの叫び声。

 

「えっ!? 上で何かあったのか!? 」

 

複数の事態の変化にクラインは動揺する。

その動揺はクラインの動きを止め、注意を拡散させてしまった。

 

その隙を見逃さんとボスはクラインに飛びかかる。

 

「しまっ、!」

 

ボスの鋭い牙が避けきれないクラインの襲い掛かる。

 

 

ギィッン

 

 

が、牙はクラインに届くことはなかった。

 

「お前っ! 」

 

クラインとボスの間に入った櫂が両手剣でボスの口を抑え込んだからだ。

ボスは櫂の両手剣に噛みつき、櫂と押し合いとなっている。

 

「お前は、急いで、サチのところに! 」

 

櫂はボスと押し合い、言葉が切れながらクラインにそう伝える。

 

「でもお前は「急げっ!! 」っ! 」

 

櫂の怒鳴り声にクラインは全力疾走で走った。

 

「無茶すんんじゃねぇぞっ!! 」

 

クラインは振り返りながら、ボスと押し合っている櫂に向かって叫んだ。

 

クラインは走る。

坂に入り、速度は落ちるがそれでも足は止めない。

スキルでスピードを上げるものを取っていないが、ステータスと装備はどちらかといえばスピードよりにしているクラインは崖の上に到着するのに一本ぐらいしかかからなかった。

 

「おいっ! 大丈夫か、ってなんだこいつはっ!? 」

 

崖の上に到着したクラインが見たものは、もう一体の大型の虎のボスモンスターと必死に戦っているサチの姿だった。

今、クラインとサチの目の前にいるボスモンスターは崖下の今まで戦っていたボスモンスターと見た目が僅かに違っていた。

下のと比べ、やや小さく細い。HPバーも一本少ない。そして何より名前が少し違った。

ここから導かれる答え、それは…

 

「おいおい! 番いってヤツかよっ! 」

 

下のが雄で、上のは雌ということだ。

 

「きゃああああ! 」

 

雌のボスと戦っていたサチは回転による尻尾の攻撃で吹き飛ばされた。

 

「やべぇっ! 」

 

クラインは倒れたサチに爪で襲い掛かろうとしている雌ボスに向かって走る。

クラインはデジャヴを感じた。

今の状況は昨日虎モンスターに襲われているパーティを助けたと同じだ。

クラインは昨日のことを思い出しながら昨日と同じソードスキルを発動させる。

スムーズに体と刀が動く。

 

 

「でりゃああああああっ!! 」

 

 

クラインのソードスキルはボスの爪に当たり、弾き返す。

クリーンヒットしたので雌ボスの攻撃をキャンセルすることができたのだ。

 

「大丈夫か!? 」

 

「あっ、はい! 」

 

サチは雌ボスが怯んでいる間に立ち上がる。

 

「こりゃアクシデントとしてはかなりマズいぞっ。一旦引くか? 」

 

クラインはサチに逃げることを提案する。

それは当然の選択だった。

命が最優先のこのゲームにおいて、不測の事態が起きたら一旦撤退するのがセオリーとなっていた。

 

「いえ、このまま戦いましょう」

 

クラインも当然賛成してくれるものだと思っていたが、サチはこのまま戦うという。

 

「おいおい正気か!? 下ではまだあいつが戦ってるんだぞ! 今は引いて対策を練ってまた挑戦すりゃあいいじゃねえか! 」

 

「それじゃあダメなんです! 」

 

「うっ!? 」

 

大人しいサチが声を荒げた声にクラインは気圧されたが、クラインは気持ちを冷静にして言う。

 

「どんな事情があるか知らないが、命に代えられねえことじゃねえだろ!? しかもそんなに震えてるんなら猶更引けねえよ! 」

 

「それは…」

 

「おっと! 」

 

先ほどから体が震えているサチにそのことを指摘した時、雌ボスはクラインを狙い、突進してくるがクラインはそれを避ける。

 

「だからオレは譲る気はねぇ! 」

 

「でも私は力になるって決めたんです! 」

 

頑なに拒むサチ。

クラインは雌ボスに注意を払いながらどうするかを考える。

 

「クラインさん…私が隙を作ります。合図したら攻撃してください…」

 

「まだそんなことが言ってんのか!? ここは逃げて「次の突進が来たら避けてください! 」人の話聞けって! 」

 

まさかサチにここまで強く言われるとは思わなかったクラインはガリガリと頭を掻く。

そしてもう考えるの面倒になっていき…

 

「だあああああっ!! もうわかった! 好きにしろ! 」

 

クラインは腹を括ることにした。刀を構えながら雌ボスの動きに集中する。

 

「ガアアアアッ!! 」

 

雌ボスの突進。

 

「おりゃ! 」

 

クラインはそれを避ける。そしてサチが何をするのか見ると…

 

サチは雌ボスに人差し指を向けている。

 

クラインには何をするのかまったくわからない。

 

「ふう…」

 

サチは深呼吸をしてボスを見据える。

 

そして…

 

 

 

 

呪縛(ロック)! 」

 

 

 

 

そうサチが唱えた瞬間、雌ボスは黒い球体に変化してしまった。

 

「あれは…」

 

それを見てクラインはある噂を思い出した。

アインクラッドに魔法が存在するかもしれないという。

危険になったプレイヤーたちを助けるように呪文ともにモンスターの動きを止めることのできるスキルを持ったプレイヤーがいることを…

 

 

「クラインさん今です! あの球体に向かって攻撃してください! 」

 

「えっ! お、おう! 」

 

クラインは黒い球体に向かって走り、ソードスキルを発動させる。

 

そしてタイミング良く、黒い球体は雌ボスに戻った。

 

「え? お、おおっ! 」

 

その現象にクラインは驚いたがそのままソードスキル叩き込む。

 

「ギャアアアアアッ! 」

 

ソードスキルの直撃をくらった雌ボスは痛々しく吠えながらHPバーが削られていく。

 

「またボスの攻撃を避け続けてください! 隙を見て私が動きを止めます! 」

 

「おっしゃあ! わかったぜ! 」

 

まさかこんな裏技的なものをサチが隠し持っていたとは、勝てる手段があるのなら話は別だとクラインは雌ボスの攻撃を避けていく。

そしてサチが黒い球体にしたら、クラインはソードスキルの発動の準備をする。サチの合図で雌ボスにソードスキルを叩き込む。

 

その繰り返しで雌ボスのHPバーを六割まで削った。

このままならイケる。

そうクラインが思った時、クラインとサチの目の前にリザルト画面が表示される。

金と経験値、そして取得アイテムが表示される。

 

一瞬それに気を取られたところでボスがクラインに突進を仕掛けていく。

 

「やべっ」

 

何とかクラインはその突進攻撃を避けることが出来た。

 

呪縛(ロック)! 」

 

そして再びサチが呪文を唱え、雌ボスは黒い球体に変わ…

 

「えっ!? 」

 

…らなかった。その予想外の出来事にサチは動揺する。

 

「あれ? 呪縛(ロック)呪縛(ロック)! 」

 

「おいどうした!? 」

 

動揺して呪文を何度も唱えるサチの様子にクラインは声を掛ける。

 

「ガアアアアッ! 」

 

雌ボスの声にクラインはそっちを見ると、雌ボスはクラインではなくサチに飛びかかろうとするモーションに入っていた。

 

「おいボスがそっちに行くぞ! 」

 

呪縛(ロック)! どうして!? 呪縛(ロック)っ! 」

 

雌ボスのことを教える為に叫ぶが、サチの耳には入っていなかった。

 

「ちくしょう! させるかよっ! 」

 

クラインはサチと雌ボスの間に向かって走り出す。

距離とタイミングからソードスキルなどで防ぐことが出来ないとクラインは判断した。

となるとやれることは一つ…

 

「ぐはぁっ! 」

 

「クラインさんっ! 」

 

飛びかかってくる雌ボスとサチの間に入り、自分が代わりに攻撃を受けることだった。

 

地面に仰向けにさせられてたクラインは雌ボスの両前足に体を押さえつけられる。

 

「くそっ! 」

 

そして雌ボスはその口の尖った何本の歯でクラインに噛みついてくる。

 

「ぐああああああああああああああっ!! 」

 

「クラインさんっ! 」

 

ここはゲームの中、痛みはない。だから痛みで声を上げることはない。だが現実ではありえない巨大な獣に噛みつかれる恐怖は絶叫を上げる理由には十分だった。しかも数回噛みついてくる。

そして最後に噛まれたままクラインは放り投げられる。

 

「おふっ! 」

 

地面に叩きつけられたクラインは恐怖と解放された安堵でごちゃ混ぜになりながらも自分のHPを確認する。

HPがMAXの状態から四割ほど削られた。

派手な連続攻撃だったが、やはりこの虎型のボスたちは自分よりも確実に下のランクのボスであることがわかった。

 

だが油断はできないあと二回同じ攻撃を受けたら終わりだ。

 

クラインはゲームのシステムに邪魔されながらゆっくり立ち上がろうとする。

 

(早くポーションを)

 

そう思うながらクラインはメニュー画面を開く動作と起き上がることと周囲を見ることを同時に行った。

 

周囲を見ると、サチはこちらに駆け寄ってくる。そして雌ボスは…

 

「っ! こっちにくるなっ!! 」

 

雌ボスはクラインに追い打ちをかけるべく、突進のモーションに入っていた。

 

サチの動きと雌ボスの突進の速度を考えるとサチが突進の巻き添えになってしまう。

 

クラインはメニュー画面を閉じ、刀を持ち、走り出す。

さっきと同じように、いやさっきとは違い、ソードスキルで迎え撃つ。

正直、上手く攻撃をキャンセルできるかはわからない。

むしろ難しいだろう。

さっき上手くいったのは偶然だ。

武器の耐久値も特別高くない。

だが…

 

「ここで引いたら男じゃないぜええええええっ!! 」

 

クラインは雌ボスに向かって突進。

同じく雌ボスも突進による攻撃が発動。

サチが巻き添えを喰う前にクラインと接触するタイミングだ。

 

 

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!! 」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!! 」

 

 

クラインと雌ボスが激突。

 

重い。見た目通りの重量による突進はクラインの体を吹き飛ばさんと押し込んでくる。

だがクラインとて負けてはいない。刀の突進系のソードスキルで抑え込む。

 

結局クラインはボスの攻撃のキャンセルは出来なかったが、まだ希望は残っていた。

ここを何とか凌ぎ切れば、今度こそサチと逃げる。

そうすれば命は助かるし、助けられる。

 

(何とか、ここを! )

 

しかし、そんなクラインの絶望をする出来事が起こった。

 

 

ピシッ

 

 

クラインの刀にヒビが入った。

 

(くそっ! )

 

雌ボスの突進が弱まる気配はない。

このままではクラインの刀が先に壊れてしまう。

 

(これまでか…)

 

クラインの気持ちを反映させるようにクラインのソードスキルの光が弱まっていく。

 

 

 

 

 

「はああああっ!! 」

 

 

 

 

 

諦めかけたクラインの横から真っ赤な光が割り込んできた。

 

その赤い光は豪快だが目に見えないスピードでクラインの目の前で動く。

 

急に押し迫っていたものが軽くなったクラインは、力が抜けてふらふらと体がよろめいた。

 

 

「はああっ!! 」

 

 

赤い光の軌跡はまだ続いており、左右に動いた後、最後に下から上に光の線を引いた。

 

その時初めてわかった。

 

櫂だ。

 

櫂がソードスキルで雌ボスの頭をかち上げている。

 

「サチ! スイッチだ! 」

 

「やあああああああっ!! 」

 

櫂の声と入れ替わるようにサチの声とソードスキルのライトエフェクトを伴って長槍が雌ボスの正面を突く。

 

長槍のソードスキルは四回突く。

雌ボスは怯んではいるがHPバーはまだ三割以上残っている。

 

 

 

 

「クラインっ!! 」

 

 

 

 

「ハッ!? 」

 

櫂が自分の名を呼ぶ声にクラインはどこか他人事のようにボーっと見ていた状態から我に返った。

 

「ぅおおおおおおおおおっ!! 」

 

クラインは力が抜けきっていた体に力を入れ、地面を踏ん張り、雌ボスの横を走り抜ける。

その時に雌ボスの体を斬りつける。

 

その後、櫂は両手剣を赤く光らせ、左右に往復するソードスキルを発動させ、雌ボスの頭部を斬りつける。

 

次はサチが長槍で肩を突く。

 

その次はクラインが雌ボスの後ろからソードスキルを発動させ、連撃を決める。

 

続けて櫂が…と三人は代わる代わる攻撃を加えていく。

 

そして雌ボスのHPが残り5%ほどになった時、三人の攻撃が同時にヒット。

 

 

「ぅおりゃあああああああああああっ!!! 」

 

 

クラインの声と共に雌ボスのHPバーは0になった。

 

「ギャアアァァァァァァァ…」

 

断末魔を上げながら消えていく雌の虎型モンスター。

 

最後ははじけ飛ぶように消えた。

 

「おっ! 」

 

その様子を黙って見ていた三人の目の前にリザルト画面が表示される。

 

「よっしゃああああああああっ!! 」

 

それを見たクラインは大きく両手でガッツポーズをする。

 

「よし」

 

「ふぅ」

 

僅かに口角を上げる櫂と安心して表情をするサチ。

 

それぞれ反応は違うが、ボスを倒した達成感と安心感を同じだった。

 

「お疲れっ! 」

 

「お疲れ様です」

 

「ああ」

 

クラインはサチと櫂に近寄り、労いの言葉を掛ける。

 

「途中はどうなるかと思ったが、何とかなったな」

 

「はい」

 

「でも、今回は何とかなったけどあの状況で戦い続けるのはやっぱり危険だぜ。今度からは引く時は引いた方がいいぞ」

 

クラインはサチが頑なに戦闘を続けようとしたことは事情はどうあれ、止めるべきだったとサチを戒める。

 

「すみません…それに何度も助けてもらいました」

 

「あ~それはいいって。女の子を守るのは男の務めだからなっ」

 

クラインは茶化しながら、そういうとサチは笑ってくれた。

何となくだが、サチは普通に気にするなといったところで、凄く気にしそうだと感じたクラインはワザと冗談めいたことを言った。

 

「まあ何はともあれ目的は達成だな…ってそういえば何であのボス倒したかったんだ? 」

 

と今更ながらの疑問を櫂とサチに訊ねるクライン。

 

「それは…」

 

口ごもる二人を見て、クラインは、訳ありの部分に触れてしまった、と思った。

 

「そんなことどうだっていいか、それじゃあ祝勝会として何か食いに行くか…って言いてぇとこだけど、オレは無理だわ」

 

クラインは話題を変える為にオーバーリアクションでころころと話題を変えていく。

 

「えっ、やっぱり今日は何か予定は入ってたんですか? 」

 

「いやいやホントに今日はフリーなんだけど、ほらこの通りオレのメインウェポン耐久値がガクッと下がっちまったからよ。明日もレベリングとかあるし、せめて今日中に鍛冶屋に直してもらいてぇんだよ」

 

「…代金は俺が払おう」

 

「えっ!? …あっいや、いいよ。そもそもこのボス攻略に参加したのはオレが勝手に言い出したことだしよ」

 

櫂のいきなりの会話の参加と申し出にクラインは驚くが、すぐに元の調子に戻し、断る。

 

「しかし…」

 

「ホントいいって。オレもレアなアイテムや素材をいくつか手に入ったわけだしよ。まったく無償ってわけじゃねぇよ」

 

「わかった…」

 

「ありがとうございます。クラインさん」

 

「あ~それと今更なんだけどよ。サチちゃん敬語やめてくんねぇ? まあ明らかオレの方が年上だけどよ。タメ口の方が仲良い気になれるからよ」

 

クラインの申し出にサチはキョトンとした顔したがすぐに笑顔になり、

 

「わかりま、いえ、わかったよクライン。私も呼び捨てで大丈夫だよ」

 

と、承諾した。

 

「おう。そうさせてもらうわサチ。で、お前は…」

 

サチに笑顔で返した後、クラインは櫂を見る。

 

「フレンド登録しようぜ。あの時は出来なかったしな。勿論嫌なら無理にとは言わねぇ」

 

クラインはソードアート・オンライン初日を思い出しながらフレンド申請を櫂にする。

 

「………」

 

櫂は自分の前に現れたフレンド申請画面を見つめる。

色々と思うことはあったが、櫂の出した答えは…

 

ポーンッ

 

「よろしく頼む」

 

YESだった。

 

「おう! 」

 

櫂の答えにクラインは親指を立てて応える。

 

「あっサチともフレンドになりたいんだけど? 」

 

櫂の様子を見ていて微笑んでいたサチを見てクラインは尋ねる。

 

「うん」

 

 

「それじゃあオレは先に行くわ。早く刀を修復しなくちゃならねぇからな」

 

サチとフレンド登録を終えてから、クラインはパーティから抜けた。

 

「本当に今日はありがとうクライン」

 

「いや、こっちも楽しかったぜサチ」

 

「クライン」

 

クラインとサチが挨拶をした後、櫂が前に出る。

 

「んっ? 」

 

「…ありがとう」

 

「へっ、何かあったら連絡しろよ! 櫂! 」

 

普段は仏頂面の男から素直にお礼を言われ、変に照れたそれを隠すためにクラインは駆け出す。

 

走っていくクラインを櫂とサチを見えなくなるまで見送る。

そしてその場には二人だけになる。

 

「…クラインって良い人だね」

 

「ああ…」

 

「……クラン手に入ったよね? 」

 

「ああ」

 

櫂は取り戻したクランの輝きを感じながら強く頷く。

 

「ノヴァグラップラー…あと14個…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう」

 

街に戻ったクラインは転移門を使い、知っている鍛冶屋の中で一番信頼と安さを兼ねそろえている鍛冶屋に刀の修復を頼んだ。

 

「明日には修復が出来るってのは不幸中の幸いだな。明日はサブの刀で頑張るか」

 

とりあえず肩の荷が下りたクラインは明日のことを考える。

 

「…でも久しぶりに曲刀を使うってのも、っとそういえば今日のボス戦の戦利品をちゃんと確認してなかったな」

 

クラインはメニュー画面を開き、アイテム欄を見ようとするが…

 

「んっ? なんだこれ? 」

 

クラインは別の気になった項目を開く…

 

 

「クランスキルスロット? なんだこれ? 」

 

 

 

 

 

 





予想以上に長くなってしましました。

分割してよかったと思いますが、そうなると分量のバランスが…

年末年始は何だかんだで忙しいですね。

出来るかどうかはわかりませんが、今年中にもう一話更新を目標にします。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。