リンク・ザ・スタート   作:ヤギザ

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結局去年中に投稿するのは無理でした。

年末年始はやっぱり忙しかったです。




RIDE 17 マスターメイサーへ

 

 

鍛冶師のリズベットは悩んでいた。

 

 

アインクラッド第30層の主街区。そこの一番広い場でシートを敷き、幾つかの手製の武器防具を並べて、販売と鍛錬による強化の商売をリズベットはしている。

 

時刻は真昼時なこともあり、通るプレイヤーの殆どは食事絡みであることは容易に想像がつく。

だから客はまず来ない。

 

普段だったらこの隙をついてストレージに入っている携帯食で昼食を済ますところだが、ある悩みについて考えることに時間を費やしている。

 

 

 

リズベットはソードアート・オンラインに閉じ込められてから、行動を開始したのは遅くはなかった方だった。

 

ゲームの攻略が進んでいると聞いた時には、自分も何か出ることをしたいと思うようになった。

 

しかし、攻略組に参加して強いモンスターと戦うのは怖い。

そこでリズベットは自分の興味と貢献と安全の丁度良いプレイヤー鍛冶師を目指すことにした。

 

それからというもの、がむしゃらに鍛治スキルを上げた。

おかげで今ではプレイヤー鍛冶師の中でトップクラスのスキル値である。

 

高いスキル値は安定した結果を出し、今のところお客との大きなトラブルはない。

自分が若い女の子ということもあり、自身もやや問題のある接客でもお客は一定数来てくれる為、収入は安定している方だ。

 

だがリズベットとしては昔から商売自体に興味があったので、このソードアート・オンラインでも目標はもっと高く、自分の店を持ちたいと思っている。

 

その為には店となる物件を購入したいところだが、良さげな物件がまだ見つかっていない。

未購入の物件の値段を適当に何件か確認したら、それらの物件でも今の収入ではいつになるかわからない金額だった。

 

しかし、今悩んでいるのはお金のことではない。

 

それは自分のレベルとスキル値のことだ。

 

レベルの他のスキル値というのは、『メイス』のことだ。

 

ここ最近鍛治スキルばかり上げていて、メイン武器であるメイスのスキル値を上げるのとレベルを上げるのを疎かにしていた。

 

ギルドに入っていないリズベットは最初の内はソードアート・オンラインで知り合いになったプレイヤーやパーティメンバー同行募集をしているプレイヤーについて行ったり、時には自分でも報酬を出してパーティメンバーの募集をしてレベル上げしていた。

だがゲームクリアに近づくにつれ、知り合いのプレイヤーとのレベル差が開き、クエストに同行するのは厳しくなった。レベル上げの同行を頼むのも一度や二度ならいいが、何回もお願いするのは向こうとしても迷惑だろう。

パーティ募集の方はそれ自体最近めっきり少なくなっていったので、現状無理と言っていい。募集が少なくなった理由はPK、プレイヤーキルつまり人殺しをするプレイヤーが横行するようになって、見ず知らずの他人とパーティを組む可能性の高いパーティ募集は危険ということになった。実際パーティ募集を装ったPKはあった。

 

なので、ここしばらくレベル上げをしてこなかったのでハッキリ言ってリズベットのレベルと取得数の少ない戦闘系スキル値は低い。

 

別に攻略の最前線に出るつもりはないので問題は無いように思えるが、そういうわけにもいかなかった。

 

リズベットの目標は自分の店を持つ事だ。その為にはお金がいる。

今リズベットがお金を手に入れる為には、自分の作った武器防具で儲けるしかない。

そして儲ける為には性能の良い物を作るしかない。

性能の良い物を作る為には良い素材が必要だ。

良い素材を手に入れる為には自分で取りに行くか、素材を手に入れたプレイヤーから買うしかない。

プレイヤーから素材を買う場合、相場や交渉で値段は変わってくるが、やはり高くついてしまう。

素材購入はこれから絶対にしていかなくてはならない。それはある程度で頻繁ではないにしても自分の安全の為にレベルとスキル値は欲しかった。

少なからず今の路上販売では、店を購入する為の頭金を貯めることもままならないだろう。

 

攻略組ほどでなくていい、中堅層クラスでいいのだ。

 

とりあえずメイスのスキル値をコンプリートするまでレベルを上げたいと思っている。

 

だが一人でレベル上げをするのは効率が悪い、何より怖い。仮に一人でレベル上げをしている間に鍛治商売のライバルたちに遅れを取ってしまう。それも避けたいところだ。

 

安全がある程度保証された上で効率良くレベルを上げたい、しかし見知らぬ他人や知り合い、フレンドには頼めない。となると方法は一つ。ギルドやパーティに入って仲間をつくるしかない。

が、ギルドにはつもりはない。

何故なら…

 

「!? 」

 

そこまで考えてリズベットは頭を振った。

 

とにかくリズベットは強くてそれなりに長くなるであろうい自分のレベル上げにギルドなどに所属しなくても最後まで付き合ってくれて効率の良いレベル上げのスポットを知っている気が合う信じられる数人の仲間を自分で探すのは大変なので目の前に現れてほしいのだ。

 

「………はぁ」

 

我ながら都合が良過ぎる願望、いや妄想にリズベットはため息が出る。

 

ふと、周りを見ると通りを行きかっているプレイヤーアイコンがある人たちに目がいく。

別にただプレイヤーだから目についたわけではない。

気になったのは纏っている空気だ。

 

甘ったるく幸せオーラを周囲に撒き散らすように雄と雌のホモサピエンス型のキャラクターが一匹ずつ組み合わせになって手を繋いだり、笑顔で声帯から発生させるという設定で意思疎通を行っているゲームの中なのにリアル充実略してリア充と呼べる連中がそこかしこに…

 

(てか! 今日はカップル多過ぎっ! )

 

目の前の現実から目を背ける為に色々グダグダと遠回りに考えたが、力尽き今の現状を端的に心の中で叫んだ。

 

一組二組程度なら過剰に反応することはないが、目の前には二桁近い男女の二人組がいる。

 

この階層やこの街が恋人たち、カップルと呼ばれるような人たちに人気がある場所ではないのだが、何故か今日はその手の人間たちが多い。

 

いや、もしかしたら自分の目にそう映っているだけで、そういう関係ではないのかもしれないと考える一方で…

 

(リア充爆発しろ! )

 

と、15年ほど生きていた人生の中ではじめて本気でそう思う気持ちもある。

 

都合がいい事とはいえ、自分が望んでいるような人間が現れず、代わりに見せつけられているように砂糖を吐いてしまうような光景が嫌みなぐらい眼前に表れれば、癇にも触る。

しかも今現在リズベットにはそういう相手はいない上に年頃の女の子である以上、興味も羨む気持ちもある程度出てしまう。

それでなくともゲームの中に閉じ込められてしまっているこの状況では人恋しくなるの同然だ。

 

だからリズベットがジト目になってしまっても仕方がない。

 

勿論それは客は来ていないが、店を開いている者としてはあるまじき顔。

だが、今のリズベットにそれを直すだけの心の広さはなかった。

 

(なんなのよ今日は! どいつもこいつも見つめ合ったり微笑み合ったり手を繋いだりして! そこ! 指を絡めるな恥ずかしい! 顔を近づけるなキスしちゃうじゃない! アインクラッドは発情期か!? あ~ああそこのベンチの二人は仲良くランチタイムか! )

 

リズベットの矛先は広場のベンチでランチボックスを開けている男女に向かった。

 

二人組の女の子の方はリズベットと同い年くらいの大人しいそうな子で、男の方は遠目から見てもイケメンだとわかる整った顔をしていた。

 

(地味目少女とイケメン男子って、何なのよ手垢が付くぐらいやり尽くされてきた昔の少女マンガのような組み合わせは!? )

 

リズベットは二人をさらに注視する。

女の子は方向性は逆だが地味なタイプということで何となく親近感が沸いた。

男の方は改めて本当にイケメンだ。

 

(くっそ~あたしだってイケメンとの縁くらいあるんだから! 去年のクリスマスに負けないくらいのイケメンと出会ってるんだから! )

 

リズベットは自分でもよくわからない対抗心を燃え上がらせながら、去年のクリスマスに出会った男のことを思い出した。

ベンチの男はその男によく似ているからだ。

 

(そうよ! 一度すれ違っただけの相手にクリスマスの夜に偶然なんてそれこそドラマやマンガみたいな感じで再開して一緒に初雪を見て何となくいい雰囲気っぽくなったような気がするような気がしないでもないと思わなくもない感じで…)

 

尻すぼみに空しくなっていくリズベットはこれ以上はやばいと思い、頭を大きく振り、邪念を振り払う。

 

 

「はぁ…」

 

 

溜息を吐き、改めてサンドウィッチを食べている男女、いや男を見る。

 

 

(本当にあの時の人にそっくりね…いや、ていうか…)

 

 

 

「ああーーー!! 」

 

 

 

リズベットは大声を上げてベンチの男を指す。

リズベットの声に周囲のプレイヤー達は注目する。

その状況にリズベットはすぐに男に伸ばした指と腕は曲がり、羞恥によりバツの悪い顔となった。

 

ベンチの二人もリズベットは見ていた。

 

二人は最初は同じように不思議そうな顔をしていたが、男の方は何かに気付いたかのように反応した後、ベンチから立ち上がり、リズベットの方に歩いて来る。

 

「あっ…えっと」

 

近づいて来る男にリズベットは先ほどの大声の件が尾を引き、戸惑ってしまう。

 

「久しぶりだな」

 

リズベットの前に立った男は声を掛けてきた。

 

「え、いや、あの」

 

ただでさえ戸惑っている中でハッキリ言って意外といえる言葉を言ってくるのでリズベットは感情を整理できず、言い淀んでしまう。

 

「知り合い? 」

 

リズベットが答えられずにいると、男の後ろから男と一緒にいた女の子が顔を覗かせる。

 

「ああ」

 

男は平気な顔で答えるが、リズベットは謎の気まずさを感じていた。

 

この気まずさはイタズラや悪さがバレた時のあの感覚に似ているとリズベットは思った。

 

いや、恐らくこれは…

 

(彼女持ちの男との浮気が彼女にバレた時の気持ちってこんなんだろうな…)

 

「鍛冶屋を続けているんだな」

 

「え? あっはい」

 

自分でも無意味だと思う現実逃避をしていたリズベットは男の問いに素っ頓狂な声で答えてしまった。

 

「覘いてもいいか? 」

 

「ど、どうぞ」

 

ぎこちなくはあっても何とか笑顔を作るリズベットとは逆に自然体の男。その男の姿を見てリズベットは前に会った時と雰囲気がだいぶ違っていたことに内心驚いた。

 

クリスマスの時の男は自分だけで何かを背負い込んで塞ぎ込んでいたようだったが、今は幾分かスッキリしているように見える。

何より普通に話しかけてくることなど、あの時の男からは想像も出来なかった。だから今の男の姿がすべてを物語っているような気がする、リズベットは思った。

 

「あの」

 

「はいっ!? 」

 

男の連れの少女に不意に声をかけられて、上ずった声で条件反射でリズベットは反応する。それと同時にリズベットは自分の商品のステータスなどを確認していた男の顔をずっと見ていた自分に気付き、恥ずかしさが込み上げてくる。そして少女から釘を刺されるようなことを言われるのではないかと、身を強張らせる。

 

「…お昼ご飯食べました? 」

 

「…はい? 」

 

少女の予想だにしない質問にリズベットは疑問形の返事をしてしまった。

 

「折角ですからお話がしたいなって…ダメですか? 」

 

「えっいや、お昼はまだだし、別にいいけど…」

 

少女は自分の提案にリズベットがとりあえず了承してくれたことに顔を綻ぶ。

 

「よかった。櫂。この人とお昼一緒でもいい? 」

 

「ああ」

 

 

「えっ? えっ?? えっ??? 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ええっと…何この状況? )

 

リズベットは路上販売の為の商品やシートを片付け、先ほど男と少女が二人で座っていたベンチに今度は自分も含めて、三人で並んで座っている。リズベットが中央で。

 

(なんであたしを挟むかな? )

 

リズベットは自分で少女の提案に応じたはずなのだが、何故自分はカップルの食事に同席しているのか、という疑問が頭の中を駆け巡っている。

 

「あの…って、まだ自己紹介してませんでしたね。私サチっていいます」

 

「あっあたしはリズベットです」

 

少女、サチの自己紹介にリズベットも答える。

 

「えっと…それで、あなたは…? 」

 

リズベットは男の方を振り向き、おずおず尋ねる。

 

「えっ? 二人は知り合いじゃないの? 」

 

「知り合いというか何というか…前に縁があって一度話したことがあるだけで…」

 

「お互い名前は知らない」

 

サチの問いにリズベットと男は答える。

 

「そうなの? 随分と親しそうだったから…」

 

「そ、そう? 」

 

リズベットはサチの問いが自分たちの中に探りをいれているのか、と勘繰って平静を装うとしたが、声が上ずってしまった。

 

「俺が一方的に話しかけてただけだったがな。俺は櫂だ」

 

「あっはいリズベットです」

 

男、櫂の名乗りにリズベットは反応するように名乗り返す。

 

「それでリズベットさんはお昼ご飯? 」

 

「適当に買ってこようと思ってたんだけど…」

 

流されるままにベンチに座らされたリズベットはまだ昼食が手元に無いことを言いそびれていた。

 

「なら私のサンドウィッチを食べませんか? 」

 

「いや、それは流石に悪いような…」

 

サチの申し出にリズベットは遠慮してしまう。

 

「量はそこそこあるから気にするな」

 

サチの反対側から櫂も進めてくる。なのでリズベットは好意に甘えることにした。

 

「じゃあ、そういうことなら」

 

サチから差し出されたサンドウィッチの入ったバスケットにリズベットは手を伸ばす。手に取ったサンドウィッチをまじまじと見る。

自分の知る限りではこのアインクラッドで見たことのないサンドウィッチだったのでリズベットは、どこで売っているのだろう、と思いながら口に入れる。

 

「っ! 美味しい」

 

素直で率直な感想がリズベットの口から出る。

 

「ですよね」

 

サチはリズベットに笑顔で同意をする。

 

「どこで売ってるのこれ? 」

 

「それは売ってるものじゃなくて作ったものなんです」

 

リズベットの問いにサチが答える。

 

「じゃああなたが作ったのね。こんなに美味しいんだから、結構『料理』スキル上げてるでしょ? 上げてる人にはじめて会ったわ」

 

いつの間にか緊張感が取れていたリズベットはサチの言葉から料理スキルを上げていると察した。

正直料理スキルはゲーム攻略に役に立たないので趣味以上の意味は無かった。特にデスゲームとなったソードアート・オンラインには取得するのは考えられないレベルだ。

しかし、このアインクラッドで、少なくとも今現在では、美味しい物を味わうことが唯一の娯楽と言ってもいいので、バカには出来ない。

 

「いえ、それを作ったのは私じゃないんです」

 

「えっ? だったら一体誰が…」

 

ふとリズベットがサチを見ると、その視線はリズベットの背後、いや、反対側に向かっていた。

 

「まさか…」

 

リズベットはサチの視線ゆっくりを追うように首を動かしていく。

 

「………」

 

視線の行き着いた先は相変わらず無表情というか仏頂面というか、感情をあまり見せない顔でサンドウィッチを咀嚼している櫂に行き着いた。

 

「ウソ…」

 

「噓ではない」

 

つい零れてしまったリズベットの呟きに櫂は応える。

リズベット的に以外ではあるが、応えるあたり櫂はまったく話を聞いていなかったわけではないようだ。

いや、そんなことよりももっと意外だったのはこの櫂という男が料理スキルを取得し、あまつさえ上げてることにリズベットは驚きを隠せない。

 

「ホントに? 」

 

「ああ」

 

リズベットはつい聞き返してしまったが、返答の内容は変わらない。

 

「最初は私も驚いちゃった」

 

サチは少し笑いを堪えるように言う。

 

「そりゃ驚くわよ。だって、えっ? 」

 

「ふふふ」

 

リズベットの狼狽ぶりにサチはついに笑っていまった。

 

「全然そんな風には見え、って、あはははははは」

 

困惑していたはずのリズベットも笑いが込み上げてきた。

 

「何故笑う」

 

納得のいかないやや不貞腐れた櫂の隣でリズベットとサチはしばらく笑っていた。

 

 

 

それから三人で…いや、主にリズベットとサチがサンドウィッチを雑談をしながら食べた。その間にリズベットはすっかり二人と打ち解けた。

 

 

 

「ところでリズベットさん」

 

「もう”さん”付けはしなくていいから。ていうかリズでいいわよ。あと敬語じゃなくていいから」

 

「そう? じゃあそうさせてもらうねリズ。私もサチでいいから」

 

「わかったわサチ。で、何? 」

 

気軽な気持ちで聞きに行ったリズベットは次のサチの言葉に驚いた。

 

「リズは何か悩み事があるの? 」

 

「えっ!? なんでわかったの? 」

 

「実はここの広場に入ってから気になってたんだけど、路上販売していたリズが真剣な顔をしてて、溜息も吐いてたから、何か悩んでるんだろうなって思ったから」

 

「うわぁ…見られてたか」

 

リズベットは溜息を吐いていた記憶があり、確かに店を構えている自覚が薄くなっていたことも自覚して、もしかしたら他の人にも見られていたかもしれない、と思いいたり、羞恥から両手で顔を隠す。

 

「やっぱりそうなんだ」

 

「…うん。まあね」

 

「聞いてもいい? 」

 

「えっ? 」

 

「言いたくないならいいんだけど、もしかしたら私たちで力になれるかもしれないし。話すだけでスッキリするかもしれないよ。櫂もいいよね? 」

 

「…話をしても問題がなければな」

 

リズベットは少し悩む。

今会ったばかりの人に相談していいものか、と。

しかし確かにサチの話すだけでも少しはスッキリするかもしない。

それにリズベットはサチと櫂のことを信じられると思えたのである。

 

「じゃあお言葉に甘えようかな」

 

リズネットはサチと櫂に今の悩みを話した。

 

 

今自分のレベルと戦闘スキルを上げたいこと。

それも出来るだけ効率が良い方法行いたいこと。

目標値に達するまで恐らくそこそこ期間がかかりそうなこと。

でもギルドやパーティに入るのは遠慮したいこと。

簡易パーティの募集は怖い上にその為の報酬も正直だせないこと。

勿論そんな我がままに付き合ってくれる親しく気軽に頼める友人は流石にいないこと。

 

 

「と、いうわけ。自分で言ってて我がままで都合の良い願望抱いていると思うわ」

 

リズベットは話し終わり、自嘲気味に笑う。

 

「………」

 

「ん? どうしたの? 」

 

リズベットの話を聞いていたサチは真剣な顔をして黙って何やら考えている。

 

「ねえリズ。良ければ私たちと一緒にレベル上げしない? 」

 

「えっ? 」

 

サチの思いがけない提案にリズベットは驚く。

 

「今私たち…というか私のレベル上げをメインにやってるから、リズが一緒にいても問題ないよ。それに櫂は最前線の攻略組と遜色ない強さだから、よっぽど危険な狩場に行かなければ、危険は少ないと思う。報酬だっていらないし、勿論リズが満足出来るまで付き合うよ」

 

サチの話が本当ならリズベットとしては願ったり叶ったりだが、色々と気が引ける気持ちもある。

 

「それが本当なら助かるけど、今日初めて会った人にそこまで協力してもらうのは…」

 

「本当についでだから気にしないで。私も高レベルの人に付き添ってもらってるから人のこと言えないし」

 

「ならその高レベルの人の意見を聞かずに話を進めるのはまずいんじゃ…? 」

 

「あっ」

 

リズベットを誘うことに夢中になって櫂の意見を聞くことを忘れていたサチは、バツが悪そうに櫂を見るリズベットと同じように櫂に視線を向ける。

 

「ごめん櫂。リズも一緒でいいかな? 」

 

「…別に構わない」

 

控えめに聞いてくるサチに相変わらず不愛想に答える櫂だったが、どこか柔らかさを感じさせるものだった。

櫂の答えと態度にほっとするサチとリズベットだった。

 

「だが互いの都合がつく時に、が大前提だ。最近はレベル上げがメインというだけで、それしかしていないわけではない」

 

「それは勿論よ」

 

「リズベットのレベルはどの程度なんだ? それによって狩場が変わる」

 

「えっとね…」

 

櫂はリズベットのレベルを確認する。

 

「サチとそんなに変わらないな。ならいつもの狩場に行くか」

 

「今から? 」

 

櫂の急な提案にリズベットは聞いてしまう。

 

「都合が悪いなら無理しなくていい。ただ元々俺達はこれからレベル上げに行くつもりだったからな」

 

「とりあえず大丈夫だけど、ちょっとだけ準備する時間くれるかしら。やっぱり何だかんだで急だし」

 

「わかった」

 

「じゃあこの街の出入り口で待ってるね? 」

 

「OK。出来るだけ早くするから」

 

二人と一時別れたリズベットは場所取りの為に広げていたシートをストレージにしまい、物陰に隠れ、装備を整える。装備の選択等で十数分掛かったリズベットは主街区の出入り口に向かった。

出入り口に到着すると、待っていたサチと櫂と合流する。

 

「で、どこに向かうの? 」

 

「この先の森だ」

 

リズベットの問いに櫂は指差しながら答える。

リズベットは行ったことないが、街の見たフロア地図を頭の中に呼び起こす。

 

「わかったわ。行きましょ」

 

「ああ」

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人は主街区から徒歩で三十分くらいで森に辿り着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何か暗いわね」

 

森に入った入り口にあたる場所。

 

高い木々によって光が遮られた森は些か雰囲気を醸し出いしていた。

 

「そういうフィールド…いやダンジョンか」

 

「えっ? ここダンジョンのカテゴリーなの? 」

 

「いや、わからん」

 

「わかんないの? 」

 

「もしかしてリズ怖いの? 」

 

「そういうわけじゃないけど」

 

「無理はするな」

 

「いやホントに大丈夫だから」

 

「…私は怖いかな」

 

「怖いのはアンタか! 」

 

などとワイワイ話していると、森の雰囲気はだいぶ和らいだが、それはすぐに消えることとなった。

 

 

「どうしたの? 」

 

様子のおかしいサチと櫂にリズベットは尋ねる。

 

「こんな時に…」

 

「えっ? 」

 

呟く櫂の様子にリズベットは不思議に思う。

櫂とサチは同じ方向を向いている。つまり同じものを見ているということだ。

なのでリズベットは二人の視線を追った。

 

するとそこには小動物のようなモンスターが一匹いた。

味方によっては可愛く見えなくもない。

 

「あのモンスターがどうかしたの? 」

 

リズベットは二人に訊くが反応はしない。

 

「あっ」

 

「えっ」

 

「くそっ」

 

何か切っ掛けがあった訳ではない。

小動物モンスターが森の奥に走り出してしまった。

 

それを見た櫂が飛び出すように小動物を追いかけていった。

 

「ちょ、ちょっと!? 」

 

リズベットの声に櫂は完全に無反応だ。

 

「待っ…! 」

 

櫂を追いかけようとしたリズベットはサチに腕を掴まれて、止められた。

 

「サチ? 」

 

「ご、ごめん。実はさっきのモンスター、レアモンスターなの。ずっと探してて、ようやく見つけたから躍起になっちゃったみたい。許してあげて」

 

「あっ…うん」

 

とりあえず頷くリズベットだったが、正直半分ほどサチの話を信じていなかった。

 

確かにサチの話は納得できるものだったが、サチと櫂の態度が待望のとてもレアモンスターを見つけた反応にしては鬼気迫るものがあった。

 

「ここで待ってれば、櫂も戻ってくると思うからじっとしてよ」

 

「そ、そうね」

 

森に入ってすぐの所。

入ってきた入口から作り物の日の光が差し込んでくる。

しかし、多くの木々に囲まれている森の中は入り口付近でもかなり暗い。

櫂と小動物モンスターが消えていった森の奥は先が見えない程真っ暗だ。

ホラー物の映画やマンガ、小説などに出てきそうな森の中は先ほどのサチと櫂の態度が何やら不穏な予感をさせてしまったのでリズベットは思いの外、不気味に感じていた。

 

今にでも森の魔女でも出てきそうな…

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢さんたち」

 

 

 

 

 

 

 

不意に聞こえた声にリズベットは振り向く。

 

 

そこには黒いフードを被り、フードと同じ色をしたローブを着た何者かが立っていた。

顔はフードを被って見えないが、声と体形からして恐らく女が立っていた。

 

自分の顔が強張っていることを自覚しながら、リズベットは声を上げなかったことが不思議なくらい驚いた気持ちを必死に落ち着かせようとする。

その為、女の言葉に声で反応できないでいる。

隣にいるサチもリズベットと同じようで女を見ているだけだった。

 

 

「こんなところで何してるのかしら? 」

 

 

リズベットとサチの様子を気にしないかのように女は二人に話しかけてくる。

 

 

「「………」」

 

 

「返事をしてくれないのは寂しいわ」

 

 

大げさに手振りをして女はお道化る。

 

「…あ、あなたは? 」

 

震える声でリズベットはやっとの思いで言葉を出す。

 

 

「質問をしているのはこちらなのだけど? 」

 

 

リズベットの様子を見て、クスクスと女は笑う。

 

「…あなたどこから現れたんですか? 」

 

何処か穏やかな女の態度が逆に不気味に感じて臆しているリズベットの隣からサチが警戒心を隠さずに女に問う。

 

 

「…そんなことどうだっていいじゃない」

 

 

サチの問いに穏やかな雰囲気が消える。

 

リズベットとサチは警戒心を強める。

 

 

「…少し世間話をしたかったけど、そちらにそのつもりがないならしょうがないわね」

 

 

そう言うと女は手を差し出す、サチに向けて。

 

 

「水色の貴方…貴方の持っている物が欲しいのだけど…」

 

 

「っ! 」

 

女にそう言われたサチは槍を構える。

 

「ち、ちょっと」

 

サチの槍をリズベットは手で押さえる。

目の前の女はいかにも怪しくはあるが、カーソルの色は普通のプレイヤーだ。

槍を向けるには少しばかり早計だとリズベットは思った。

 

「リズ。その人たぶん普通のプレイヤーじゃない」

 

「えっ!? でもいきなり武器を向けるなんて」

 

 

 

 

 

「ホント怖いわ」

 

 

 

 

 

「ひっ!? 」

 

リズベットは耳元でした女の声に小さな悲鳴を上げた。

振り向くリズベットの背後に自分よりも背の高い黒いローブを被った女が立っていた。

 

 

「あら、二人とも素朴な感じだけど可愛いのね」

 

 

リズベットの顔を覗き込むようにして二人の顔を交互に女は見る。

 

顔を覗き込まれたリズベットが見た女の顔は不思議と見えなかった。何か特殊なスキルを使っているのか、闇が覆い隠している。

 

なので、唯一見えた長めの緑色の前髪がとても印象に残った。

 

「リズから離れて! 」

 

尻餅をつくのを必死で堪えているリズベット顔の横を槍の刃がが通る。

サチが女の顔面目掛けて槍を突いたのだ。

 

 

「でも、あたしそっちの趣味は無いからちょっとね」

 

 

しかし、女は軽口を言いながら後方に飛び、難なくサチの槍を避ける。

 

 

「でも、甚振るのは好きよ」

 

 

女は懐に手を入れ…

 

 

 

 

「誰が相手だろうとねっ!! 」

 

 

 

 

金切り声と共に懐の手を振りぬく。

 

 

ヒュっという風切り音がしたと瞬間、バチンというはたく事がした。

 

 

「きゃっ! 」

 

悲鳴を上げてサチはよろめいた。

 

女の手から伸びる得物がサチをはたいたのだ。そして、それは鞭だった。

 

「シャッア! 」

 

女は巧みに手首と腕を動かし、舞っている鞭を再びサチに襲わせる。

しかし、今度ははたくのでは無く、鞭の先端部がサチの首に巻かれる。

 

「くぅっ」

 

「ハァッ! 」

 

巻かれた鞭を掴むサチだったが、女は鞭がサチに巻かれていることなど関係なく振るう。

すると、サチごと鞭は振るう。つまりサチも空中に舞った。

 

「サチッ! 」

 

リズベットは叫ぶ。が、それを嘲笑うかのように女はサチを地面に叩きつける。

 

「く、ふっ! 」

 

ここは痛覚の無いゲームの中だ。首を絞められて苦しいということはない。

しかし、地面に叩きつけられた衝撃と感覚、そして倒れたペナルティとして機能するゲームのルールにより鈍くなる動作にサチの口から苦し気な声が出る。

 

「フフ、大人しく渡せば、放してあげますわよ」

 

「だ、誰が…! 」

 

女の言葉にサチは抵抗の言葉と視線で答える。

 

「そうそれは良かった…」

 

顔が見えない女の表情は歪んだ気がした。

 

 

 

「もう少し甚振りたいからねっ!! 」

 

 

そう叫ぶ女は再び鞭を振るおうとする。

 

思わず目を瞑るサチ。

 

しかし、サチが振り回されるようなことはなかった。

 

暗い森の奥から赤い光が煌めいた。

 

 

「サチッ!! 」

 

 

声と共に現れた櫂がその大剣から放った突進系のソードスキルで鞭を切断する。

 

 

「サチッ大丈夫か!? 」

 

 

サチと女の間に入り、大剣を構える櫂が顔を向けずにサチに訊ねる。

 

「う、うん。大丈夫、ありがとう」

 

首に手を触れながら、立ち上がろうとするサチは答える。

 

「………」

 

女は斬られた鞭に何の反応もせずに顔を櫂に向けている。いや、反応しないどころか微動だにしない。

その姿は今までの女から発していたものたちとは別の不気味さだった。

櫂は未知の相手に対しての警戒とその不気味さから無防備に見える女に対して動けずにいた。

 

しかし、

 

 

「やあああああっ!! 」

 

 

暫く膠着状態なるかと思った櫂だったが、その予想は横から女のメイスのソードスキルで叩くリズベットの声と一撃で搔き消された。

 

不意打ちだったのか、リズベットの一撃を受けた女は少し吹っ飛び地面を引きずりながら倒れた。

 

「はあ…はあ…」

 

女をメイスで叩いたリズベットは叩き終わった状態のままだった。

息は荒く、メイスを持っている手は震える。

 

サチが傷つくのを見て、リズベットは何かしなくては、と思っていても急な出来事にどうすればいいかわからず、動けずにいた。

そしてやっとの思いで動いた。

 

だが、それはリズベットにとって辛いものとなった。

 

正当防衛なのはわかっている。何もせずにいたら後悔していただろう。しかし、なんにせよリズベットは初めてプレイヤーを攻撃したのだ。

いや現実世界だって鈍器で人を殴ったことはない。

ソードアート・オンラインに閉じ込められ、リアルな仮想空間でモンスターなどのプログラムなどとは戦わなくてはいけないので物で何かを傷つけ、いや壊すことには慣れた。

しかし、同じ仮想データでもプレイヤーを攻撃するのは本当に死んでしまうデスゲームだと思うと恐ろしかった。

そしてどうしても想像してしまう。

 

 

このリアルな仮想世界いや、仮想現実では人を殴った感触も現実と一緒なのか、と。

 

 

リズベットが胸中で様々な思いを巡らしていく中、女は倒れたまま動かない。

櫂もリズベットの突然の行動に驚いて、すぐには動けない。

サチも立ち上がるのを忘れて、唖然としてしまう。

 

少しの静寂…

 

 

ガバッ

 

 

「「「っ!? 」」」

 

 

倒れていた女は急に勢いよく上半身を起こす。

何の前触れもなく起きた女にリズベット達三人は驚き、声も出ずに動けなかった。

 

「………」

 

女は黙ったまま、無機質な何かの様に立ち上がる。

 

「………」

 

立ち上がった女は無言のまま、櫂の方を向く。

 

無言の中、リズベットと櫂と、そして立ち上がったサチの緊張が高まる。

 

 

「あ~あ、ローブが汚れちゃったわ」

 

 

突然、女はしゃべり出す。

その女の口調は最初に現れた時の様に穏やかだった。

だが急に無機質なものから、人間味のある雰囲気を纏った女に緊張を解くことは三人には出来なかった。

 

 

「もうこのローブはいらないわね」

 

女はそんなことをいいながら、埃を払っていたローブを脱ぎ捨てる。

 

「? 」

 

その下の服装にリズベットは違和感を感じた。

 

一言で言うと黒いコートなのだが、何というかこのアインクラッドには合わない物だった。

古代西洋の剣と魔法の幻想世界というよりも近代的な印象を受ける感じだ。

 

「この格好すきじゃないのよね」

 

そして女はこちらの空気を気にせずに話を続ける。

それがまた不気味だった。

 

「別れたところで弱い方を狙えば、うまくいくと思ったのに失敗しちゃったわね。素直にあっちを追いかければよかった」

 

リズベットには何を言っているのかわからない。

 

「間違いなく怒られるわね」

 

やれやれ、という動きを女はする。

 

「でも…」

 

 

リズベットが背筋が凍る思いをした。

 

 

 

「…見つけた」

 

 

 

女の表情がまた歪んだ気がした。

 

 

 

「私の…私だけの楽しみ…」

 

 

 

「あなた…」

 

 

 

先ほどサチにやったように、女は櫂に手を差し出す。

 

 

「…でも今はダメ…」

 

 

女がそういうとその隣に黒い闇が現れる。

 

 

「また会いましょう」

 

 

女、いや黒いコートの魔女は闇の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日はゴメンね」

 

「えっ? 」

 

森から主街区への帰り道。

サチからの突然の謝罪の言葉にリズベットは変な声を出す。

 

「あんなことになっちゃって」

 

「いや別にサチのせいじゃないでしょ」

 

手を振りながらリズベットは笑う。

 

「でも…」

 

「全部悪いのはあの女よ。変態チックな前科…はないかはわからないけどプレイヤーを襲う。レッドプレイヤーね。レッドじゃなかったけど」

 

出来る限り明るくリズベットは話す。そうでもしないと今日の出来事を引きずってしまいそうだった。

 

「それにしてもなんだったのかしたあいつ…変な転移の仕方してたっぽいし。しかも鞭って何よ。そんな武器ここには無いでしょ。エクストラスキルかな? 」

 

「…そう、だね」

 

サチは歯切れ悪く返事を返してくる。その姿にリズベットは何かあの女のついて知っているが自分には隠しているのだろうな、と直感した。

 

聞き出したかったが、黙っているのには何か理由があるのだろうという考えが半分、あの女について知るのが怖かったのが半分の思いで聞かなかった。

 

「とにかく今日のレベル上げは中止だ」

 

「あっ、うん。仕方ないね」

 

あんな出来事があった後ではレベル上げをする気が起きなかった。

 

「ならフレンド登録をして都合のつく時に連絡をよこしてくれ」

 

「へっ? 」

 

櫂の思わぬ提案にリズベットはまたもや変な声が出た。

 

「お前が満足いくまでレベル上げの手伝いをすると言っただろう」

 

「そうだけど…」

 

確かに約束はしたのだが、やはり森の出来事のせいで有耶無耶になったのだとリズベットは思っていた。

 

「約束したし…私も手伝いたいな」

 

サチも小さく微笑みながら櫂に賛同する。

 

「そういってくれるならお言葉に甘えるようかな」

 

二人に好意をリズベットは受け入れ、フレンド登録をする。

 

「じゃあ早速で悪いんだけど、明後日の朝からでいい? 」

 

「早速と言っている割に明後日なんだな? 」

 

「ん? まあね」

 

「じゃあ、またお弁当作ってくるね。櫂が」

 

「ええ、期待してるわよ。櫂」

 

「……わかった」

 

肩を軽く竦める櫂とその様子を見てリズベットとサチは笑った。

 

 

その後、リズベットはレベルとスキル上げの後も櫂とサチと交流を持つようになる。

 

そしてリズベットのスキル欄にクランスキルスロットという項目が増えていることに気が付くのももう少し後のことであった。

 

 

 

 




ソードアート・オンライン‐オーディナル・スケール公開おめでとうございます。
やったね! でも、自分は観に行くのは三月になりそうです。

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