みんなが知っているようなことをgdgdと、すいません。
冷たい雨が降る中、櫂の前に突如現れた伊吹コウジは「ついてこい」と言ったきり、何も話さないまま、櫂の前を歩いていく。
櫂は半ば無理矢理持たされた傘を差し、伊吹についていく。
『伊吹コウジ』
櫂の小学生の時のクラスメイトである。だが櫂にとってクラスメイト以上に櫂とヴァンガードを巡り合わせてくれた先導者といった方がいいだろう。
今は口数の少なく、近寄りずらい雰囲気のある櫂だが、小学生の頃は活発でゲームが人生の一番の楽しみという、どこにでもいる少年だった。
あらゆるゲームというゲームを遊び尽くしてきた櫂少年だったが、悩みどころとしてどれも直ぐにクリア出来てしまい、飽きることが多かったことである。
何か面白いゲームがないものか、と思っていた櫂少年の前に現れたのが、ヴァンガードを広めようしていた伊吹少年だった。伊吹にヴァンガードを教えてもらった櫂は瞬く間にヴァンガードの虜になっていった。ヴァンガードで一緒に遊ぶようになった二人だが、家庭の事情で櫂が転校してから交流がなくなってしまった。
しかし、この夏、メサイアスクランブルというヴァンガードの大会で再開をしたのだ。だが櫂も人のことは言えないが、再開した伊吹は小学生の頃とくらべてかなり変わってしまっていた。しかも伊吹はヴァンガードを憎んでいて、ヴァンガードを消滅させると宣言し、実際にヴァンガード消滅と世界滅亡の危機に追いやった。その時はアイチと櫂の二人で何とか解決し、伊吹と和解するのとができた。
その後、櫂の前から姿を消した伊吹だったが、今世界の異変に何か事情を知っている様子で櫂の前に現れた。
「………」
櫂は一瞬だが、また伊吹が事を起こしたのか、と疑ったがすぐにそれはないと確信した。
今の伊吹からは悪意らしきものは感じられない。何より和解した時の伊吹に嘘はなかった。
だから伊吹がヴァンガードを消滅させたなんてことは絶対にない。
伊吹についてきた櫂は見覚えのある所についた。
そこはビルの中に隠れるようにある秘密のカードショップ、名前は『PSY』。
櫂は一度だけ訪れたことがあるその店に入ると、中はかなり寂れていた。
電灯は点いていない。だが店内を見ることできた。
何故なら
店の奥には不思議な光源があったからだ。
それは流れていくように昇っていく光が開いた門のように存在していた。
櫂はその光を見たことがあった。それは異世界にワープできる光だ。
事実、櫂は同じ光で異世界に行ったことがある。
だから櫂はその光が何なのか理解できた。
光の手前には枕だけ置いてあるベッドと起動してあるパソコンが置いてある机に椅子がある。
「これは異世界に続く光…」
「そうだ」
自然と出た櫂の言葉に伊吹が答える。
「伊吹、今世界に何が起こっている!? 何故世界からヴァンガードが消えた!? 」
「説明してやる。だがその前に…」
今までの不安をぶちまけるようの事情を聞いてくる櫂に伊吹は
「体を拭け」
タオルを差し出した。
「ことのはじまりは昨夜…」
櫂は上半身裸になり、ベッドに座ってタオルで体を拭きながら伊吹の話を聴く。
「何者かが惑星クレイに全土に戦争を仕掛けた」
「クレイ全土に戦争をだと!? 」
全土に、ということはすべての国家とクランを敵にしたのだ。
「しかもその何者かは一晩のうちにクレイを滅ぼした」
「そんなバカな…」
今までの櫂がイメージし、感じ続けたクレイが滅んだ。櫂は信じられなかった。いや、信じたくはなかった。
だが櫂は信じるしかなかった。何故なら…
「俺たちの世界からヴァンガードが消滅した…何よりの証拠だ」
そう世界からヴァンガードの存在が消えた。それが惑星クレイが滅んだという証だった。
「…その何者かというのは赤いフードを被った奴か? 」
櫂は昨夜見た夢を思い出しながら、伊吹に尋ねた。
「知っているのか? 」
「夢で見た… 赤いフードを被った奴に『ドラゴニック・オーバーロード』が敗れた…」
櫂は自分の分身が倒れる姿を思いだし、手で目を覆った。
『ドラゴニック・オーバーロード』
ヴァンガードのクラン、かげろうの強力なユニットにして櫂が自分自身の本当の姿や自分の分身というほど大切なユニット。昨夜の夢に出てきた赤い竜の正体だ。
だからドラゴニック・オーバーロードの傷つき姿を思い出した櫂はショックを隠せないでいる。
「『ブラスター・ブレード』と奴が激突し「ブラスター・ブレードも敗れた」
自分の言葉を遮った伊吹の言葉に櫂は更なるショックを受けた。
『ブラスター・ブレード』
それはヴァンガードの激レアカード。クランはロイヤルパラディン。アイチの分身であり、櫂がアイチに託したユニットである。アイチはブラスター・ブレードと共に道を切り開いてきた。
そして櫂にとってもブラスター・ブレードは思い入れのあるカードだ。
櫂がヴァンガードで伊吹との、ひいてはヴァンガードではじめて勝ったファイトでキーカードとなったのが、ブラスター・ブレードだ。
今まで幾度となく櫂たちに力を貸してくれたあの強い剣士が負けた。
「事実、なんだな? 」
「ああ」
「ヴァンガードのことを覚えているのは俺とお前だけなのか? 」
櫂は動揺を必死に抑え、伊吹に尋ねる。
「ああ。少なからずお前の近しい者は皆、記憶を失っている」
今日になってからまだ会っていない仲間たちのことを思い、櫂は落胆した。
「逆を聞くが、何故俺たち二人だけが記憶を失っていない…? 」
「櫂、お前についてはわからないが、俺はたぶんこいつのおかげだろう」
伊吹は懐から一枚のカードを取り出した。
それは櫂にとってたった半日しか見ていないだけなのに、変に懐かしい…ヴァンガードのカードだった。
「『ネオンメサイア』。こいつは23あるクランの枠には収まらないものだからか、赤フードの手には及ばなかったのだろう」
『ネオンメサイア』
伊吹がヴァンガードを消滅させようとした事件で解決の決め手となったカードが姿を変えたカードだ。伊吹との和解を伊吹が持つことになった。
確かにネオンメサイアは他のカードやクランの枠には収まらないのかもしれない。
そこで櫂はあることに思い至った。
「そのカードの力で失った記憶を取り戻せるんじゃないのか? 」
伊吹の記憶を消えないようにできるのであれば、他の者もそうなのではないかと。
「いや、俺も試してみたが無理だった」
伊吹の否定の言葉に櫂は項垂れる。
「だがヴァンガードを取り戻す方法ならある」
「本当か!? 」
伊吹の言葉に櫂は顔をあげる。
「何のために俺がお前をここに連れてきたと思っている? 」
不敵な笑みをした後、伊吹は説明を続ける。
「俺も昨夜の夢を見た。櫂、お前が見た夢の続きだ」
伊吹は机の前の椅子に座り、話を続ける。
「ブラスター・ブレードが赤フードに敗れた後、赤フードは持っている剣を振るい、空を裂き、大地を割った。そのままクレイが滅びるかと思われた時、クレイの世界すべてが輝き、23個の光が現れ、その光はどこかに消えてしまった。俺は声を聞いた」
「声…? 」
「おそらく惑星クレイの声だ。クレイは滅ぼされる寸前にクレイを形作っている23のクランを23個の光にして別の世界に隠したらしい。そしてその声を信じるなら、その世界ですべてのクランを集めれば、惑星クレイは甦るらしい」
「なら、この光の先が…」
櫂はすぐに思い至った。
目の前にある光の先にクランを隠した世界に通じているのだと。
「いや。この光は確かに異世界に繋がっているが、そこはクランを隠した世界ではない」
「ならどこに繋がっている? 」
「クランを隠した世界を作った世界だ」
「どういうことだ? 」
櫂には伊吹の容量を得ない説明に混乱する。
「クランを隠した世界というのは、ゲームの中だ」
「ゲームの中? 」
櫂の疑問に伊吹は説明を続ける。
「この光の先の異世界はフルダイブシステムという技術が発達している。簡単に言うとコンピューターに意識だけ入り、予め作った電子世界をリアルに体験できるものだ」
それを聞いた櫂はモーションフィギュアシステムを連想した。
「その技術は娯楽…つまりテレビゲームやネットゲームに応用発展されていて、クランが隠されている世界はフルダイブシステムを使ったゲームの中の世界ということだ。そのゲームのタイトルはソードアート・オンラインという」
「ソードアート・オンライン…」
何となく引き込まれるようなタイトルに櫂は無意識に口にしていた。
「茅場晶彦という人物がフルダイブシステムを作り、その茅場晶彦が作ったゲーム、ソードアート・オンライン…だから世界中のゲーマーのみならず、様々な人たちの注目を集めていた。しかし、茅場晶彦には最悪の企みがあった」
櫂は黙って伊吹の話に耳を傾ける。
「それはソードアート・オンラインにログインした一万人のプレイヤーをログアウトできなくし、ゲームの中に閉じ込め、そのゲーム内でHPが0になると現在でも死んでしまうデスゲームにすること」
「何だと!? 」
櫂には理解できなかった。自分の作った世界に他者を閉じ込め、しかもゲーム内の死が現実の死にするなど、正気の沙汰ではない、と。
「どうしてそんなことをしたのかは、茅場晶彦本人しかわからない。しかし、現実としてこの光の先の世界はそうであり、俺たちにとっての現実は23のクランがそのソードアート・オンラインの世界に隠されていて、そのゲームの中に入り、クランを集めなければヴァンガードのある世界は取り戻せないということだ」
「隠されている23のクランを見つけ出…か。本当にゲームだな」
「ああ。だがそのゲームのクリア如何で俺たちの世界の在り方が変わる…ゲームであっても遊びじゃない」
櫂の皮肉に伊吹が皮肉で返す。
「どうすればそのゲーム…ソードアート・オンラインの世界に入れる? 」
「行ってくれるのか? 」
「そのために俺をここに連れてきたんだろ? 」
櫂はニヤリと笑う。
話を聞く限り途方もない話だが、櫂にとってはありがたかった。
さっきまでどうすればいいかわかりもしなかったが、伊吹のおかげで道が見えた。
なら、櫂が止まったままな理由はなかった。
「先ずこの説明書を読め。フルダイブとソードアート・オンラインについてのものだ」
「わかった。それと一つ聞いていいか? 」
「何だ? 」
「何のために次元の扉は開いている? 」
櫂は光の門を見ながら伊吹に訊く。
「ソードアート・オンラインは文字通りオンラインゲームだ。だから向こうのネットワークに繋げる必要がある。そのためだ」
ネットを繋げるために異世界の扉をあける。櫂にはそれが何となく笑えた。
「他に質問がないなら、早く説明書を読んでくれ。少し時間が押している」
「何かあるのか? 」
「最悪ゲームの中に入れなくなる」
伊吹の言葉に櫂は慌てて説明書を読み始める。頭に叩き込む。
「櫂、言っておくことがある」
「なんだ? 」
説明書に視線を落としたまま、櫂は改まって話してくる伊吹の言葉に耳を傾ける。
「ゲームの中に入るのはお前一人になる。俺をこっちでやらなくてはならないことがある。そしてそれができるのは…」
「お前だけか」
「ああ」
「気にするな」
何となく櫂は伊吹の声から自分に対して申し訳なさと思っていることがわかった。
小学生の頃、臆病だが相手を気遣いすぎてしまう優しい一面が残っていたのが見えた気がして、櫂は嬉しいと感じた。
「読み終わったか? 」
少しして伊吹が櫂に声をかけた。
「ああ」
短時間で説明書を読み終えた櫂は少なからず文字の上ではフルダイブとソードアート・オンラインについて理解した。
「ならはじめるぞ。先ずこのナーヴギアというヘルメットを被れ」
伊吹は机の下から本当にヘルメットみたいな物を取りだし、櫂に渡す。
櫂は伊吹の指示と説明書に書かれていたことに従い、ヘルメット…ナーヴギアを装着し、体のあちこちを触った後、ベッドに横になった。
「最後に言っておくことがある」
「なんだ? 」
「ゲーム中お互い連絡は取れない」
「わかった」
「それと気休めにしかならないが、たとえお前がゲームの中で死んでも本当に死にはしない。俺がさせない。だが二度とソードアート・オンラインの中に入ることはできなくなるだろう。つまりヴァンガードを取り戻すことが永久に失われるということだ」
「そうか、少し安心した。だが…」
櫂は笑う。
「俺はゲームの中で死ぬつもりはない。必ずヴァンガードを取り戻してみせる! 」
「そうか…頼んだぞ櫂」
「ああ! 」
そして強い決意を胸に、櫂の口から発せられるはあの言葉…
「リンク・ザ・スタート! 」
「プレイヤーの諸君。私の世界へようこそ」
目を瞑っていた櫂の耳に最初に入ったにはその言葉だった。
目を開けると目の前に見知らぬ誰かの背中があった。
それは一人だけでなく、何人もいた。
印象に感じたのは体格、身長、性別差はあれど誰もがほぼ同じような服装をしていたことだ。
今度は周りを見渡す。
どうやら広場のような場所に何百、何千人規模で集められているようだ。
少し上を見上げるとWARINGと書かれた赤いパネルが何個も空中に浮き、広場をドームに囲っている。
そして櫂は正面の上の方を見上げる。
そこには櫂が予想しえない者がいた。
「私の名前は茅場晶彦。今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ」
巨大な人がいた。
しかも櫂を含む広場の人間すべてを見下ろしている。
だが櫂が驚いたのはそんなことではなかった。
巨大な人のその姿
そう…
赤いローブの者…
忘れもしない夢で見たあの姿…
惑星クレイを滅ぼした憎き敵…
茅場晶彦
赤いローブはそう名乗り、言葉を続けている。
周りの感情が忙しなく変わっていくのを感じる。
戸惑い、怒り、不安、疑問、そしてついには姿まで変わっていく。
最終には阿鼻叫喚の混乱と恐怖に辿り着いた広場の中で
櫂は静かにこの世界を作った赤いローブ、茅場晶彦が消えるまで睨み続けた。
かくして、櫂トシキは剣の世界、ソードアート・オンラインに一万一人目のプレイヤーとして降り立った…
次回からは櫂くんのソードアート・オンラインでの冒険がはじまります。
書き方も今まで以上に自由になってしまうと思います。
何より会話が…