恥ずかしいことこの上ないです。
あとある伏線が前回あったんですが削除しました。それがあると致命的なまでにストーリーが瓦解してしまうので、いろいろとすみません。
しゃがみ込んでいる櫂は頭の中で今の状況を必死に整理している。
今は夜、視界は光源はないがゲームのシステムのおかげなのか、自分の周りが少し見える程度。
今いる場所ははじまりの街から離れており、方向はわかるがすぐには戻れない。
周囲に他のプレイヤーやモンスターのアイコンは無く、いわゆる他の気配はない。
いや、正確には櫂と櫂のめの前にいるモンスター以外いない。
そして目の前の首の無い鎧のモンスターは明らかに自分をターゲットとしている。
そのモンスターを言い表すなら『デュラハン』
RPGでよくモンスターとして使われる西洋の悪霊だ。
ここはゲームの中、汗をかくことはないが現実であったならば櫂は冷汗をかいていたことだろう。
デュラハンの手にしている剣は櫂が先ほどまでいた所の地面に突き刺さっていた。
つまりもしあの場所にいたままなら…
恐ろしい考えを振り払いながら、櫂は立ち上がり剣を構える。
それ同時にデュラハンも剣を地面から抜く。
たった一秒ほどだが櫂とデュラハンは対峙する。
先に動いたのはデュラハン。
両手で持った剣を振り上げながら櫂に近づき、降り下ろしてくる。
櫂はデュラハンの攻撃を横に移動し避ける。
デュラハンの剣は先ほどのように地面に突き刺さることはなく、空を切る。
豪快に空を切った時の音が櫂の耳の入ってくる。
デュラハンは降られた剣を構え直し、櫂に再度剣を振るってくる。
今度は横なぎに振るってくる。
櫂はそれも避ける。
またも攻撃を避けられたデュラハンは剣を構え直す。
ここで櫂はある仮説を立てた。
このデュラハンは攻撃後、或いは攻撃を避けられたら一度構え直すモーションを起こすのではないのか。
もしそうならそこが攻撃のチャンスだ。
デュラハンは今度は右からの袈裟斬りをしてきた。
櫂はそこまで速くないデュラハンの動きとやや大振りな剣の動きを見切り、その攻撃を避ける。
案の定、デュラハンは空振りをした後、構え直すモーションに入った。
櫂は空かさず踏み込み、デュラハンをスモールソードで斬りつけた。
僅かだがデュラハンのHPゲージが減った。
コツを掴んだ櫂は、デュラハンの攻撃を避け、構え直している間に攻撃し、距離を取る、という行動を繰り返した。
ここまでモンスターを倒してきたが、種類にしてみればたったの二種類だけ。
猪と狼のモンスター。それらは動きや見た目はリアルだったが、決められた行動しかしないところがあった。
攻撃も実はそんなにパターンは多くなかった。
今、櫂が戦っているデュラハンも基本的には変わらないのだ。
確かに猪や狼と比べたら、明らかにステータスは強力なのだろう。
櫂の攻撃で与えるダメージは僅かだ。
しかし、動くは遅く、剣の振りも速くはない。攻撃パターンも単純で、隙に至っては狼モンスターの方がわかりずらかったくらいだ。
櫂が十何回目かの攻撃を当てた時、デュラハンのダメージゲージがイエローゾーンに入った。
デュラハンが今までと変わらず剣を振るってくる。櫂は殆ど解ったデュラハンの攻撃パターンを読み、余裕を持って避ける。
剣が振り終わる前に櫂は踏み込む。しかし、櫂にとって思わぬことが起こった。
空振りしたデュラハンの剣は空かさず櫂に振るわれた。
横なぎの刃が櫂に襲いかかる。
櫂はギリギリで反応し、後ろに跳ぶ。
だが僅かに剣の方が速く、櫂の顔面に迫ってくる。
櫂は上体を反す。
刃は櫂の胸をかする。
櫂は斬られたのに痛みを伴わない奇妙な感覚に少し気持ち悪くなったが、そんなことを気にしている余裕は無かった。
体を反らし過ぎて櫂は仰向けに倒れる。
倒れている櫂にデュラハンの剣が降り下ろされる。
櫂は転がり、とにかくデュラハンから離れる。
櫂は急いで立ち上がりス、構える。
デュラハンは今までと変わらない様子で迫ってくる。
しかし、櫂の頭の中は今までとはまるで違った。
今まで単発でしか攻撃してこなかったデュラハンが連続で攻撃をしてきた。
さっきまでデュラハンへの攻撃が作業とかし、はっきりいって楽観的になっていたが、突如攻撃パターンが変わり、櫂の頭は軽いパニック状態だ。
それでも櫂はデュラハンの攻撃をかわす。
それが出来たのは体が覚えていたことと自分の世界にヴァンガードを取り戻すという使命感だった。
その二つが頭の動揺を必死に押さえる。
幸運なことにデュラハンの行動パターンが変わったのは攻撃だけだった。
動きのスピードや剣速はまったく変わっていない。
剣を振るって1~3回連続で攻撃をランダムしてくる。
避けるだけなら問題はない、だが動揺している今の櫂ではかすることが多くなっていた。
デュラハンの攻撃をかわしながら櫂は自分のHPバーを確認する。六割まで減っていた。
ポーションを飲みたかったが、そんな隙はなかった。
このままでは完全にジリ貧だ、櫂は決意し、また攻撃を再開した。
三回攻撃の時のみを狙って櫂は踏み込み剣を振った。
先ほどまでと比べものにならないほど、時間と集中力を使ったが、何とかデュラハンのHPバーをレッドゾーンにまで削った。
この間に櫂のHPバーは五割まで減っていた。
デュラハンはまた攻撃のパターンを変えてきた。しかし、変わりかたが先ほどとは違った。
今までにない構えする。するとデュラハンの剣は光だした。
ソードスキルだ。櫂はすぐに気づいた。
このことで櫂に動揺はない。
攻撃パターンの変化は予想していたからだ。
問題はこの攻撃を避けられるかということだ。
デュラハンは光っている剣を構え、静止する。
櫂は油断なく身構える。
そしてデュラハンがソードスキルを発動させる。
今までよりも圧倒的に速い攻撃、迫りくる光の筋。
完全に避けるのは無理だ。櫂は瞬時にそれを理解し、とにかく直撃を避けることが頭を過る。
回り込むように横に避ける。剣先が櫂に触れるが無理矢理に体を動かす。
しかし、ほんの少しだけかすっただけなのに、衝撃が櫂を襲い、吹き飛ばされる。
「ぐぅっ! 」
地面に叩きつけられた櫂は唸り声を出る。
櫂は立ち上がるが、体が重くなったような気がした。
櫂が自分のHPバーを見るともうあと数ドットしかない。
たった少しかすっただけで自分のHPの半分が削られてしまった。
もし直撃なら、櫂は絶望的な恐怖を感じた。
そして恐怖とともに今までの疲労は一気に襲ってきた。
勿論ここはゲームの中なので肉体的な疲労はないが、精神的な疲労はある。
モンスターと戦いはじめてから休憩を一切取っていない上に、デュラハンと戦いかなり時間が経っている。
今までの疲労がデュラハンのソードスキルの恐怖で吹き出したのだ。
そんなに重くなかったはずのスモールソードがやけに重く感じた。
手で普通に持っているのは辛いので、スモールソードを背負う形で持つ。
そんな櫂に構わずデュラハンは迫ってくる。
避けんくては、と思うのだが、体が重い。
デュラハンを見ながら櫂が思うのは櫂の世界のこと。
ヴァンガードのこと、友のこと、仲間のこと、そして一番大切な親友のこと。
櫂の中でいろんな思いが渦巻く。
「こんなところで負けるわけにはいかないっ! 」
櫂が叫ぶと同時にスモールソードが光出した。
そうソードスキルだ。
櫂はソードスキルの発動をはじめて感じた。
しかし、剣が光出したことより奇妙な感覚の方が驚いた。
まるで何か促されるような感覚。
櫂はその感覚に逆らわず、流れるように剣を振るった。
櫂の剣撃は綺麗にデュラハンにヒットした。
クリティカルという表示が出るなかで櫂は理解した。
「…そういうことか」
ソードスキルが発動したのは偶然だった。
櫂はもう一度剣を背負う形で構えた。
数回見たソードスキルを思いだし、
デュラハンの残りはHPは少ない。
ソードスキルに必要なものは、
櫂がソードスキルで与えたダメージは丁度今のデュラハンの残りHP分ぐらいだ。
決められた構えをとり、
つまりソードスキルをクリティカルで当てられれば
少しためると剣が光出し、
次の一撃で倒せる。
システムに促され、そのまま剣を振るとソードスキルが出る。
デュラハンも先ほどと同じソードスキルを使おうとしている。
櫂のソードスキルが先に当たるかデュラハンのソードスキルが当たるか
スピードの勝負だ。
櫂は疲労を振り切り、集中力を絞り出し、一気に剣を振るった。
櫂とデュラハンのソードスキルの発動は同時だった。
櫂は少しでも速くと、一瞬でも速くと、システムに引っ張られるではなく、自分で剣を振る。
先ほどより速くなった櫂のソードスキルはデュラハンより速く決まった。
それと同時に櫂のスモールソードが折れ、クリティカルという表示が出た。
その後、デュラハンは光を伴ってポリゴンにとなり消えた。
櫂の目の前にリザルト画面が出現し、経験値やお金、取得アイテムなどが表示される。
「ふぅ…」
櫂は自分の勝利を確認した後、息を吐き、座り込んでしまった。
今までの緊張と疲労で立っていられなくなった。
座り込んだと同時に聞き覚えのある陳腐なファンファーレが鳴っていた。
櫂はデュラハンと戦う前にレベルが上がったばかりのはずだが、と不思議に思いながら表示されている画面を見ると一気にレベルが4に上がっていた。
しかももう少しで5に上がれそうなほどである。
櫂は何となくあのデュラハンがレアモンスターなのだと理解した。出会って幸運だったかはわからないが。
取り敢えず上がったレベル分のステータスの振り分けは筋力に振った。
次にポーションを飲んだ。今の櫂のHPは数ドットしかない。正直少し焦りながら一気に飲んだ。
ポーションで回復して落ち着いた後、櫂はアイテムストレージを確認する。
デュラハンから獲得したアイテムに武器らしき物があった。
初期武器のスモールソードしか持っていなかった櫂は今、丸腰なのだ。
今モンスターに襲われたら、抵抗する術がない。
ストレージには案の定、持っていなかった武器らしき物の名前が入っていた。
『バスターソード・ファントム』
詳細を確認してみると、分類が両手剣だった。
基本的に装備できる武器は自分のスキルスロットにセットされているスキルの種類しか装備できない。スロットのスキルの入れ換えは自由だが、一度スロットからはずしてしまうと、スキルの熟練度が0になってしまうので、鍛え上げたスキルの入れ換えは慎重に行わなくてはならない。
今櫂が今まで使っていた剣は片手直剣だ。
つまり今の櫂のスキルスロットには片手直剣がセットされている。
バスターソード・ファントムを装備するためにはスロットを両手剣に変えなくてはならない。
現実として今丸腰のままではじまりの街に戻れるかどうか。
方向も道もわかるが、距離は結構ある。
HPはある程度回復したが、疲労している今の状態でモンスターと出会っても逃げ切れるか。
櫂は安全を重視してスロットを片手直剣から両手剣に変え、バスターソード・ファントムを装備してみる。
櫂の手に出現した剣はデュラハンが持っていた両刃の剣だった。
スモールソード比べて長く大きく、何より重かった。
何にしても戦える手段を得た櫂はとりあえず安心した。
バスターソード・ファントムのステータスを改めて確認すると、櫂はこれがレアな武器なんだろうと思った。
スモールソードとは比べものにならないほど攻撃力は高い。だがこの剣の一番の特徴は異常に高い耐久値だった。
武器にはそれぞれの耐久値というものが設定されている。
使い続けた武器は痛んでしまう、ということだろう。耐久値が0になると武器が壊れたことになり、消えてしまう。
どんなに攻撃力が高い武器があっても耐久値が低いと使い続けられない、使いづらい武器と判断される。
櫂が持っていたスモールソードが消えたのはそういう理由だ。
しかし、バスターソード・ファントムは異常にその耐久値が高い。つまり長い間戦い続けられる頼もしい武器だ。
大きな収穫を得た櫂。安心感と達成感はあったが、疲労がとにかく溜まっていたので今日ははじまりの街に戻ることにした。
時刻は22:50
櫂は無事にはじまりの街に戻ってきた。
道中、幸運にもモンスターには一度も出会うことはなかった。
今日はもう休むつもりでいる櫂だが、向かう足は宿屋ではなく、街の開けた所にあるベンチだった。
普通だったら宿屋を探し、泊まるところだが、今の櫂は疲労でとにかくもうどこでもいいから休みたい状態だった。
では何故ベンチなのかというと、櫂は自分の世界ではよく公園のベンチでよく昼寝をしていたのだ。だから外で寝るなど櫂にとっては朝飯前なのだ。今は夜だが…
ベンチに倒れ込む。
そしてそのまま速攻で夢の世界にフルダイブした。
次の日、櫂は一日かけてはじまりの街を探索した。
クランは勿論見つからなかったし、これといって怪しいところや変わっているところはなかった。
その次の日に櫂ははじまりの街を出た。
それからクランを一つも見つけることが出来ず、一ヶ月が過ぎた。
今回櫂くん誰とも話してない。
でも、次回はいろんな人と話します。
たぶん…