リンク・ザ・スタート   作:ヤギザ

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8月下旬までは一週間一投稿を目指していたんですが駄目でした。
だからというわけではありませんが今回は今までより長いです。

櫂くん結局喋ってない。
どうしてこうなった…



RIDE 5 第一層ボス攻略会議

櫂がソードアート・オンラインに入ってから一ヶ月が経った。

 

はじまりの街を離れてから櫂は第一層のフィールドや町、ダンジョンを隅々まで回った。

ゲーム内で発生するミッション、クエストも受けれるだけ受けた。

 

しかし、クランは見つからず、手がかりらしきものも見つからなかった。

 

櫂が一通り、一層を廻り尽くしたのはゲーム開始から三週間近くたった頃。その後の一週間位を使って一層をもう一度回った。

 

本当は第二層に行きたかったが、行くことは出来なかった。

何故なら二層に上がる為に倒さなくてはならないボスモンスターを誰も倒せていないからだ。

それどころか一層のボスがいるダンジョン―迷宮区の攻略さえ最近し終わったぐらいだ。

 

櫂は自らが動こうと思ったが、噂を聞く限り一人でどうこうできる相手ではないようだ。

実際に迷宮区だけは三週間時点では、櫂も探索が出来ていなかった。

その理由は迷宮区のモンスターが強いからだ。

一対一なら櫂も問題なく倒せるが出てくるモンスターは一匹でない。

二、三体を相手にするのはかなり骨が折れる。ただのモンスターですら数で攻められると危険なのにボスに一人で勝つなど夢のまた夢である。

パーティを組んでいるなら何とかなるのだろうが、櫂は自分の目的と思うところがあり誰ともパーティを組まないようにしている。つまり櫂はソロプレイヤーだ。

 

ソロの櫂だがここ数日、やっと迷宮区の探索を進めることが出来た。勿論危険を犯さないように多くのポーションを持ち、基本的にモンスターを避けながら少しづづ探索をしてきた。

そしてつい昨日、別のプレイヤーのパーティが迷宮区の完全なマップ情報を公開した。

すぐさま櫂はマップデータを手に入れ、迷宮区の探索をした。

 

プレイヤーが初めて訪れた場所のマップはプレイヤーの情報として自動的に更新される。この事、もしくはマップ情報の収集を意図的に行うことをマッピングという。

 

このマッピングデータがあるかないかでは安全性と移動効率に雲泥の差が出る。

櫂はマッピングデータを使い、迷宮区を隅々まで探索した。

しかし、クランらしきものはなかった。

 

今、櫂は迷宮区から出て、一番近い町『トールバーナ』に向かっているフィールドを歩いている。

 

櫂の今の装備は赤いシャツ上に鉄の胸当て、更にその上に薄い紺の上着。ジーンズのようなズボンにチャック付の革靴。

そして武器はトールバーナで買える両手剣。

ゲーム初日の夜にデュラハン型のモンスターから手に入れた両手剣『バスターソード・ファントム』は攻撃力が高いので数日間は使っていたのだが、他のプレイヤーに見られる度に見たことのない武器に対しての珍しさと羨望により「どこで手に入れた」としつこく聞いてきた。いや、付きまとわれたといっていい。

それにうんざりしたので、バスターソード・ファントムを使うのを止め、市販の両手剣を使うようにした。

正直、市販の両手剣でも無茶をしなければ戦闘は十分だった。

だから鬱陶しく付きまとわれないという利点がある以上、市販の方が良いと判断した。

 

櫂はトールバーナに到着し、町の門をくぐる。

現在の時刻は15:30。

櫂は迷いなく、ある所に向かっていた。そこは屋外の劇場広場。

そこで16時から第一層のボス攻略会議が開かれるのだ。

 

この会議を提案したのは迷宮区のマップデータを提供したパーティだ。

マップデータ提供と共にボス戦攻略の募集も行っていた。

参加要項はいくつかあったが、その中で一番重要だったのが推奨レベルだ。

募集をかけて多くのプレイヤーが参加しても一人一人が弱くては無駄に犠牲を出してしまうだけだ。

その為参加の条件にレベル制限を設けたのだ。

その最低値は10。

そして櫂のレベルは10ジャストだ。

マップデータを手に入れた時はまだレベル9でしかなかったが、幸運にもレベル10まであと少しだったので、迷宮区探索のついでに経験値を稼ぎ、ついさっきレベルが10に上がったのだ。

 

櫂が劇場に着くと、そこには数十人のプレイヤーが集まっていた。

櫂と同じくボス戦に挑むためには集まった、現時点でのソードアート・オンラインのトッププレイヤーたちだ。

プレイヤーたちは今や遅しと会議の開始を待っている。

劇場にいる似通った装備のしたプレイヤーたちを見渡していると、櫂の目に変わった装備をしたプレイヤーが目に止まった。

 

赤いフード付きのマント。フードをしっかり被って顔を隠し、マントで体の前まで覆っている一人のプレイヤー。

そのプレイヤーは背筋を真っ直ぐ伸ばし、観客席となっている石段の上に座っていた。

 

その姿はクランを滅ぼした赤ローブの人物、そしてその姿で現れた茅場晶彦と酷似していて、櫂は不快感を感じた。

 

櫂が物思いにふけりそうになった時、二回ほど手を叩く音と共に大きな声が聞こえてきた。

 

「は~い! それじゃあそろそろはじめさせてもらいま~す! 」

 

声の主は劇場の舞台の上に立っていた青い髪の男だった。

その男の声に劇場の話し声の数々は一気に無くなり、しんと静まりかえった。

劇場にいるすべてのプレイヤーは青い髪の男に注目している。

 

「今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう! 俺はディアベル。職業は気持ち的に《ナイト》やってます! 」

 

右拳で自分の胸を叩きながらそんなことを言って場を沸かせる青髪の男―ディアベル。

言葉を聞く限り、ボス攻略の為のプレイヤー募集をしたパーティの一員なのだろう。

装備は自分でナイトを名乗るだけあって盾に片手剣、両ショルダーのある軽鎧と、らしい外見の物だった。

 

「さて、こうして最前線活動しているみんなは言わばSAOのトッププレイヤーだ。そんなみんなに集まってもらった理由はもう言わずもながだよな。俺たちのパーティが第一層のボス部屋に到達した! ついに俺たちの力でボスを倒し、第二層への扉を開く時が来た。ここまで一ヶ月もかかったけど、このデスゲームそのものもいつかきっとクリアできるんだってことを、はじまりの街で待っているみんなに伝えるんだ。それが今、この場にいる俺たちトッププレイヤーの義務なんだ! そうだろみんな! 」

 

ディアベルの言葉に場は拍手に包まれた。彼の言葉と想いに皆、賛同している。

 

「ちょお待ってんか、ナイトはん」

 

そんな中、一人のプレイヤーが異を唱える。

 

「仲間ごっこをする前に、こいつだけは言わせてもらわんと気がすまん」

 

そのプレイヤーはいくつも角のように尖らせたユニークな髪型をしていた。そして舞台に上がり、ディアベルと向き合う。

 

「積極的な発言は大歓迎さ。でもまず名乗るのが先かな? 」

 

「フン。わいはキバオウってもんや」

 

ユニークな髪型の男は素っ気なく名乗ったあと息を大きく吸い、

 

「元『ベータテスター』の卑怯者ども! 出てこい!!! 」

 

劇場中に向かって叫んだ。

 

『ベータテスター』

櫂もこの言葉をよく耳にしていた。

VRMMOゲーム、ソードアート・オンラインのβテストのプレイヤーたちのことだ。

そのプレイヤーたちはたった千人しかない枠に選ばれし者たち。

しかもたった一万本しか出荷されないソードアート・オンラインのソフトを優先的に手に入れられるおまけ付きだ。

普通に考えれば一生分の運を使いきったんじゃないかと思うくらいの幸運だが、実際には誰よりも運の悪い者たちだったのかもしれない。

優先的にこのデスゲームに参加出来てしまったのだから。

そしてベータテスターたちはデスゲームがはじまってすぐに自分の安全を確保するために動いていたらしい。

βテストで経験値や金が効率的に稼げるクエストやモンスター、良いアイテムや武器を手に入れる方法や場所を知っていた彼らの多くはベータテスターではない所謂ビギナーやニュービーを省みず狩り尽くしたらしい。

その行動はビギナーたちにとって今も許せないことだった。

 

この事について櫂は純粋に難しい問題だと思っていた。

ベータテスターの立場で考えたら仕方なかったといえるし、ビギナーにしてみれば仕方なかったではすまないと思うだろう。

なので櫂はこの問題に対して関与しないことにしていた。

櫂にしてみればやはり…

と、櫂は深く考えそうになった頭を振り、会議集中した。

 

いきなり現れたキバオウの言い分は「この一ヶ月で死んだ二千人はベータテスターが面倒をみなかったり、いろんなものを独占していたせいだから、今この場で謝罪し、アイテムや金を差し出せ」というものだった。

 

「発言いいか? 」

 

それに対し、スキンヘッドのかなりガタいの良い黒人男性――エギルが現れ、冷静に反論した。

エギル曰く「いつも新しい町に着くと、道具屋に無料でガイドブックが置いてあった。そのガイドブックに載ってある情報はベータテスターたちが提供していたに違いない。情報は提供してくれていた以上必ずしもベータテスターが全てを独占したわけではない。そして二千人が死んでしまったのもベータテスターのせいとは限らない」

 

エギルの冷静な態度に櫂はとある友人を重ねていた。

巨体で肉体派なのに知的で、もう一人のいい加減で子供っぽい友人の面倒見ている男。

櫂は懐かしい気分に浸りながら、エギルのいうガイドブックを取り出した。

表紙にはネ○ミーのパチモンくさいマークがついている。

櫂もこのガイドブックにはかなり助けられていた。特にマップデータの部分は探索に非常に役にたった。

 

二人の意見に劇場は複雑な空気なった時、劇場外からディアベルを呼ぶ声がした。

それはNPCの露店で第一層のボス情報が載っているガイドブックの入荷を知らせるものだった。

内容を確認するディアベルたちのいる舞台に自然とプレイヤーたちは集まってくる。

 

櫂も一番離れるようにしているが舞台に近づく。

 

どうやらガイドブックに載っている情報では思っていたほど危険な相手ではないようだ。

しかし、そこでまたトラブルが生じた。

 

「あぁん!? ちょおまてまてまてぇ! これ見てみぃ」

 

発信原はやはりキバオウだ。

キバオウが指摘したのはガイドブックの注意書きの部分で、そこには「記載されているデータはベータテスト時のもので、正式サービスとは異なるかもしれません」と書かれていた。

 

「やっぱりや。あの情報屋、誰がベータテスターか知っとるんや。いや、あの『鼠』女自身がベータ上がりに違いないで」

 

『鼠』

それは例のガイドブックを作り、提供している情報屋の通称である。

櫂は会ったことがないが噂では今アインクラッドで一番の情報屋で女性プレイヤーらしい。

櫂も繋がりを持ちたいと思っているが、なかなか切っ掛けがない。

 

劇場は一気にベータテスターの情報は信じられない、ベータテスターに先陣に立たせ情報が正しいか証明させる、情報屋鼠を見つけ出して話を聞くなどと話がズレていった。

 

櫂は、さっきまで鼠がここにいた、という言葉に反応し周囲を見渡した。

今後少しでも鼠を見つけやすくするために姿を確認しておきたかったからだ。

 

「今は―――」

 

誰かの声が僅かに耳に入った。それと同時に多くのプレイヤーの声は止んだ。

今までの誰とも違った印象を受ける声。

櫂は鼠を探すのに集中していた為ちゃんと聞き取れなかったが、その声が何度目かのざわつきを鎮めたのは解った。

そして舞台にいる一人のプレイヤーに注目が集まる。

 

例の赤いマントのプレイヤーだった。

 

何を言ったのか気になる櫂とその場にいるプレイヤーの視線が赤マント向けられること数秒…

 

「その通りだ!!! 」

 

ディアベルの声が劇場に響く。

 

「敵はベータテスターじゃない! フロアボスだ。今はこの情報に感謝しよう! 」

 

その後のディアベルの、死人は俺が出さない発言で場の意思が一つになり、士気とディアベルへの信頼が高まったのは明らかだった。

 

「お誂え向きに、お姫様もいるようだしね」

 

ディアベルの場をまとめる力に感心して、最後の言葉の意味がわからなかった櫂が、どこか他人事でいられたのはここまでだった。

 

「じゃあ早速実務の話を始めよう。まずはレイド構成からだ。とりあえずみんな自由にパーティを組んでみてくれ」

 

櫂はディアベルのその言葉と自分自身に愕然とした。

 

劇場にいるプレイヤーはざっと見て数十人。

これだけの人数でボスに挑むのなら当然複数のパーティ同士でパーティを組む、レイドになる必要がある。

つまりボス攻略に加わるにはパーティに入らなければならない。

知識として十分わかっていたが、一ヶ月間ずっとソロだった櫂は今の今まで完全にそのことを失念していたのだ。

 

周りが滞りなくパーティを作っていく中、櫂はまったく動揺を出さない表情のまま焦っていた。

 

櫂は他人と関わることを積極的にするのは苦手だ。

今は以前よりはマシになったとはいえ、ここ一ヶ月ほぼ誰とも関わらずに生きてきた状態で見ず知らずの人間の集団の中に入っていくことなど櫂には出来なかった。

 

「あの…」

 

無駄にポーカーフェイスを崩さない櫂の耳に自分に向けられた声がはっきりと聞こえた。

 

「あんたもあぶれたのか? 」

 

櫂が声の方を向くと、片手剣を背負った黒い髪の剣士が立っていた。

その剣士は身長は高くなく、中性的な顔立ちをしていた。

 

「ああ」

 

櫂は嘘を言う理由がなかったので正直に応えた。

 

「なら俺たちとパーティを組まないか? 」

 

そう言う剣士の申し出に櫂は内心助かったと思った。

しかし、その直後複雑な気分になる羽目になった。

 

「俺たち」と言っている以上目の前の剣士以外にもパーティメンバーがいるはずだ。

剣士の後ろに立っているパーティメンバーとおぼしきプレイヤーを櫂は見る。

 

それはあの赤マントだった。

 

しかも他にそれらしいプレイヤーはいない。

パーティの誘いは嬉しいが、よりにもよってこの場で櫂の中で一番印象がよくない者と同じパーティとは。

だが櫂は我儘を言える立場でも状況でもない。

 

「ああ。よろしく頼む」

 

櫂は申し出を受ける。

櫂の言葉を聴いた剣士はメニュー画面を開き、操作。

すると櫂の前にパーティ申請の通達とその有無を選択する画面が現れる。

櫂は勿論YESのボタンを押す。

押した瞬間、櫂の視線の端にある自分のHPバーの下に二人分のHPバーと名前が表れた。

 

そこにはそれぞれKirito、Asunaと表示されていた。

 

キリトとアスナ

 

ここで櫂はふとした疑問が生まれた。

どっちがどっちの名前かが分からない。

 

名前の感じからしてキリトは男、アスナは女なのは分かった。

普通に考えれば黒い髪の剣士がキリトなんだろうが、いかんせん剣士は中性的な…というかはっきりいって女顔なので、もしかしたらとも考えられた。

しかも赤マントの方は全身が隠れていて、顔も見えない。判断をつけようもなかった。

 

「君たちは三人パーティか」

 

直接聞く勇気がなく、櫂が不毛な悩みに頭を抱えているとディアベルが近づいてきた。

 

「申し訳ないっ。取り巻きコボルト専門のサポートで納得していただけないだろうか…? 」

 

ディアベルは櫂たち三人に深々と頭を下げてそう言ってきた。

 

「フルレイドを組める人数は集まっていないんだ仕方ないさ」

 

と剣士はディアベルに言う。櫂としてもボス戦に参加できれば何でもいいと思っていたので、役割には拘りがないから問題はなかった。

 

剣士の言葉にほっとするディアベル。

 

「取り巻き潰しだっておざなりにできない重要な役目だしさ」

 

さらにフォローする剣士の言葉にディアベルは笑顔になる。そして剣士に近づき、

 

「そうか。でも――お姫様の護衛は騎士としては羨ましい限りだね。イケメンに負けるなよ? 」

 

と、隠す気がまるでない大きな声で耳打ちをする。

 

「あ、ああ頑張るよ…」

 

ディアベルの言葉で櫂は自分の悩みの答えを出した。

ディアベルが剣士に「お姫様の護衛」と言う以上は赤マントは女性であり、十中八九アスナである。

そして剣士はやっぱり男でキリトということになる。

悩みが解消された櫂は進行していく攻略会議に集中した。

 

それから会議は問題なく進んだ。

最終的に決まった予定はボス戦本番は明後日の午後。集合は朝の八時。明日は自由時間。

そしてA隊の練習に同行するものはこの後相談するという。参加は自由。だが自然と全ての隊が参加する空気になっている。

櫂も当然参加するものだと思い、ディアベルについていこうとしたが、ある目立つプレイヤーは正反対の方向に歩き出す。

 

赤マント――アスナだ。

 

黒い髪の剣士――キリトも気づいたようで櫂と目を合わせる。そうしている内にアスナはどんどん先に行ってしまう。

櫂とキリトは目を配らせて、二人でアスナを追いかける。

 

「合同練習に参加しないのか? 」

 

キリトが歩みを緩める気が全くないアスナに近づき、問う。

 

「…どこが重要な役目よ。取り巻き潰しのそれもサポートですって? 戦力外ならそう言いなさいよ」

 

キリトとアスナの少し後ろを歩いている櫂は素直に思った。何を拗ねているのか、と。

何気に初めてまともに聴いた、高くて綺麗な声の持ち主はプライドが高いようだった。

 

「仕方ないだろ。三人しかいないんだから。スイッチでPOTローテするにも心持たないし…ってうぉっ」

 

キリトが呆れながらアスナを説得していると、アスナが忙しなく動かしていた足を急に止める。櫂もほぼ同時に足を止める。

 

「スイッチ…? ぽっとろー…って…何? 」

 

神妙な面持ちでキリトに問うアスナ。そのアスナの問いが顕している現状を理解し顔が引きつるキリト。相変わらず表情を変えない櫂。

その間、約数秒。

はっと、キリトは勢いよく櫂を見る。キリトは一言も喋っていないが、目で聞いてきている。

まさかお前も? と。

櫂はキリトが何を訴えているのかを理解し、小さくため息を吐いた。

 

「用語の意味は解るが、ずっとソロだったからこのゲームでは一度もやったことはない」

 

「よし。じゃあ明日は三人でパーティ戦闘の練習をしよう。ちょうどいいクエストがあるんだけど朝限定なんだ。だから今日の内に一通り説明しておきたいからその辺の酒場で「嫌。一緒にいるの見られたくない」

 

簡潔に答えた櫂に少しだけホッとしたキリトはいろいろと提案するが、アスナが容赦なく切ると同時に足を動かすのを再開させる。

櫂とキリトはアスナを追いかける。

 

「いや、でも人目につかないところとなると…NPCのハウスは誰かが入ってくるかもだし…」

 

アスナを追いかけながらあれこれ考えるキリト。そんな二人を後ろから見ている櫂。

 

「! そうだ。三人の内の誰かの宿の部屋とかは? 鍵もかけられるし、音も絶対に漏れないし「絶対ごめんだわ! 二人して何するつもりよ、いやらしいっ」

 

名案とばかりに言ったキリトの提案は、手で身を守る素振りをしながらのアスナにまたもやバッサリ切られる。

そしては櫂は思った。二人して…って俺は完全に冤罪なのだが…と。

 

今まで粘ってきたキリトだが流石にもうネタがないらしく、その場に立ち止まってしまう。

アスナは勿論足を止めていないので離れていく。

櫂も立ち止まり、キリトの様子を見やる。

キリトは微妙な笑顔のまま首だけで櫂を見る。

 

「二人だけでやろっか? 」

 

微妙な笑顔のままキリトは櫂に聞く。

その姿に櫂はキリトが自分と同じでコミュニケーション力が低いことがわかった。

なのに少人数とはいえ女性を含んだパーティをまとめようと頑張った彼を誰が攻められようか。

櫂はキリトの提案に櫂は頷く。

 

「よ、よし、じゃあ俺の部屋に行こうか」

 

心なしかキリトは先程より気楽になっているように見えた。

否定的な女性より無口とはいえ肯定的な男性の方が話やすいのだろう。

その女性がいなければ尚更だ。

櫂とキリトは並んで歩き出す。

 

「俺の部屋結構良い所でさ。80コルで間取りも広い上に牛乳も飲み放題。でも風呂はあってもあまり使わな「なんですって!? 」うわぁっ!? 」

 

何かに解放されたかのごとく、隣で饒舌に話していたキリトが怒号のような声がしたと同時に櫂の視界から急に消えた。

否、キリトは後方に引っ張られたのだ。

櫂が振り返ると、キリトの胸ぐらを掴んでいる目立つ赤マントがいた。乱暴な行為とは裏腹に目には何かを期待しているような輝きがあった。

いきなりのことで混乱するキリトも気付いたようで、何を期待しているのか訊いていく。

 

「え? 何? 一部屋貸す? 」

 

「それじゃない! 」

 

「牛乳好きなの? 」

 

「それでもなくて! 」

 

「……………お風呂? 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今櫂はキリトの使っている宿にいる。

櫂がここにいる目的はキリトからパーティ戦闘の流れを教えて貰うためだ。

櫂とキリトはテーブルを挟んで向かい合って座っている。

今まさに話をしているかというとそうではない。

二人はここに来てから一言も言葉を交わしていない。

何故かというと。

 

「ふああああああああああっ」

 

現在鍵がついていないドアの向こうで美少女アスナが入浴しているからだ。

櫂もキリトも健全な十代男子だ。恐らく同年代の女子がすぐ隣で入浴していたら、意識して緊張してしまうというものだ。時折恍惚の声が聞こえてくるのならなおさ当然気まずくなり、口数は無くなる。

特にキリトは完全にテンパっていた。

その証拠に真面目にボス情報が載っているガイドブックを真面目な顔で読んでいるが、ガイドブックが逆さまだ。

櫂はキリトが自分以上に動揺してくれていたおかげで、まだ冷静でいられた。

もし櫂一人だったら櫂はどうなっていたことか

櫂はガイドブックのことを指摘しようかと思ったが、そうすることはなかった。

それは指摘しないことが武士の…いや男の情けだとわかっていたからだ。

 

沈黙が続く中、外に通じるドアから奇妙なリズムのノックが聞こえた。

そのノックに驚いたキリトは直ぐ様、ノックがしたドアを開ける。櫂にことわりを入れないのは勿論テンパっているからだ。

櫂は自然とキリトと来た客に注目する。

二人の会話を聞く限り客はアスナを探しているようだ。

そしてキリトは今自分の宿にいることを知られたくないようで、嘘をついて客を追い返そうとしていた。

しかし、客は追い返すどころかキリトの脇をすり抜け、部屋に入ってきた。

 

「お邪魔しまース。おっ部屋広いナ…って、んっ? 」

 

部屋に入ってきた客は中を見渡す。そして自然と櫂と目が合う。

 

客はアスナとは色の違うフード付きマントを着ていた。フードは被っているが、顔が見えなくなるほどではない。顔に左右対称の髭のようなペイントが印象的だった。背が低いことと、顔立ち、高い声から櫂は客が女性と判断した。

 

櫂と客が見つめ合う(?)こと数秒。

客は大きくため息を吐いた。

 

「キー坊…フェンサーさんを連れ込んでいると思ったら、男を連れ込んでいるとハ…」

 

客はキリトの肩を軽く叩きながらとんでもないことを言う。

 

「違うっ! 」

 

当然キリトは否定する

 

「お姉さん驚いちゃったヨ…しかもこんなイケメンヲ…」

 

「違うって言ってるだろっ! 」

 

「武士の情けダ…この情報は高値にしておいてやル…」

 

「聞けよ人の話っ! 」

 

ウンウンと頷いている客。客の誤解を解こうと必死のキリト。その中で櫂は冷静だった。

櫂も当事者なのだからキリトと一緒に否定してもいいはずだが櫂はそうはしなかった。

何故なら二人の会話が櫂の頭に入っていなかったからだ。

櫂はさっきからずっと客の顔をじっと見ていた。

櫂は客の風貌からある人物を連想していた。

 

「オレッちの髭が気になるかイ? 」

 

櫂の視線に気付いた客はからかうように言ってくる。

 

「お前は…情報屋の鼠か? 」

 

「その情報は50コルだヨ」

 

客の問いを無視して櫂は訊ねると、冗談なのか本気なのかわからない返答をされた。

だが櫂は噂に聞いた特徴から確信を持ってこの客が情報屋の鼠だということがわかった。

 

「ずっとお前に会いたかった」

 

「「………」」

 

沈黙が場を支配する。

 

「キー坊どうしよウ…いきなりイケメンに告白されタ」

 

「いやそういう意味じゃないだろ」

 

「情報屋のお前とパイプを持ちたい」

 

櫂はため息を吐きながら訂正する。

 

「生憎とオレッちは贔屓はしないヨ。誰にでも情報は売ル。だからやりとりの方法はそんなに難しいものにはしていなイ。もし今までオレッちを本気で探し続けていたら、オレッちと交渉する方法を見つけていたはずダ。いくらなんでも情報収集が怠慢が過ぎやしないカ。イケメンくン? 」

 

今までのふざけた雰囲気から一転、客いや情報屋鼠は真剣な顔で櫂に指摘する。

 

確かに櫂は鼠を本気で探していたかと言われれば、自信を持って頷けない。

その理由は櫂自身わかってはいるが、背けて考えないようにしている。

 

「おっ! こっちはバスルームカ」

 

鼠は櫂と話すことはないと、シリアスモードから普段のノリに戻った。

 

「そこは開けるなっ! 」

 

キリトはバスルームの中を確認しようとする鼠とドアの間に立つ。

櫂はその光景を目にし、何かしらを感じ取って立ち上がる。

そしてキリトが弾みで転けてしまった隙を付き、鼠がバスルームのドアを開けた。

その時櫂はバスルームに背を向け、外に出るドアの前にいる。

 

「え…っと…その―――――そこも初期装備(? )なんですね」

 

「キー坊……短い付き合いだったナ」

 

櫂が外に出て、ドアを閉める間際にきいたのはキリトと鼠の言葉だった。

その後何があったか櫂は知らない。櫂は自分の宿に戻ってやすむことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、櫂はキリトとアスナと合流し、何故か鼠も見学にいたが、とにかく連携戦闘の特訓をした。アスナの機嫌が悪かったのはご愛嬌である。

連携のやり方自体は櫂は知っていたのでキリトの最低限の説明で理解し、すぐに上手く出来るようになった。

櫂はわざと手を抜き、スイッチなどの連携の特訓を何度もした。

一方何も知らないアスナはしっかり説明を受け、一回で理解し、スイッチも一発で完璧にこなした。まあその一回しかスイッチをしなかったが。

 

「よし。二人とも連携戦闘は完璧だな。フェンサーさんは一回しかスイッチしてないけど…」

 

「何か言った? 」

 

クエストをクリアし、櫂とアスナにキリトは労いの言葉と余計な一言を言う。そして機嫌の悪いアスナのツッコミにビビる。

 

「しかし、いい動きをするんだな」

 

アスナから逃げるようにキリトは櫂を褒める。

 

「動きの速度的にあまり敏捷値を上げてないんだろうけど、体を動かす技術でカバーしてる感じだな」

 

キリトが言ったように櫂はかなり筋力よりに振り分けをしている。その為動きのスピードはさほどない。

しかし、櫂自身そんなに自覚はないが、VR内の自分の体を動かすことが非常に巧いのだ。だから敵の行動パターンがある程度わかっていれば動きを先読をして最短コース、最少の動きで避けたり、攻撃することができる。

 

「だけど使っている剣は市販の物だな。あんまり攻撃力が高くないから、せっかくの高い筋力ステータスを生かしきれないぞ。何ならもっと良い剣が手に入るクエスト教えるけど? 」

 

キリトの指摘通り櫂は一層の店で買える中で一番良い両手剣を使っている。だから弱くもないが強くもないといったところだ。しかし、ボス戦となれば心もとないのは確かだ。

バスターソード・ファントムを使えればいいのだが、レア装備で目立ちたくない。

かといって今さら無理をして良い武器を手に入れたいとは思えなかった。

 

「いや、この剣のままでいい。焦って新しい剣を手に入れるより使い馴れている物を使いたい」

 

「そっか…あっ剣といえば、フェンサーさん。ドロップアイテムを確認してみなよ」

 

櫂に提案を断られた後、思い出したようにアスナに話を振る。

キリトに促されてアスナは自分のアイテムストレージを確認すると見慣れない剣があったので実体化させる。

アスナが実体化した剣はウインドフルーレ。

キリト曰く、俊敏性や正確さを重視するフェンサーには良い剣、とのこと。

櫂はキリトが連携戦闘の特訓にこのクエストを選んだ理由がここにもあったことがわかった。

アスナが今まで使っていた剣はアイアン・レイピア。櫂と同じ市販の剣なので強い剣ではない。

だからキリトは少しでも戦力強化、ひいてはアスナが生き残る可能性を上げるために、このクエストで特訓したことを櫂は確信した。

 

「――――綺麗…」

 

ウインドフルーレに見惚れるアスナ。

櫂とキリトも見惚れていた。しかし、ウインドフルーレにではなくアスナにだ。

綺麗な剣を翳し、恍惚に近い表情をしているアスナに二人は魅入っていた。

そんな二人を現実に戻したのは鼠の咳払いだった。

 

「あとは剣の《強化》だナー」

 

鼠の提案と紹介でアスナのウインドフルーレを強化するために鍛冶屋に行くことになった。

その強化も無事に終わり、ウインドフルーレ+4になった。

 

剣の試し振りをするアスナであったが、NPCとはいえ人の目の前でするのはどうか、と櫂は思った。

 

「これ+5にはできないの? 」

 

「ああ。+5以上の素材は第二「第一層では素材が手に入らないんだ」

 

試し振りを止めたアスナが何気なく質問すると少し自慢気に話そうとするキリトを遮り、鼠が答える。

 

櫂はこのやりとりでキリトがベータテスターであるとわかった。そしてわざと鎌かけたアスナもそのことに気付いたこともわかった。

 

「では私は他に買いたいものがあるので失礼します。じゃあ二人とも明日十時に」

 

アスナは前半は鼠に、後半は櫂とキリトに言って鍛冶屋を出ていく。

何気にアスナに初めて話をかけられた櫂だった。

 

「俺も失礼させてもらう」

 

アスナがいなくなり、櫂も一緒にいる理由がないので明日に備えて休むことにした。

 

「ちょっと待ってくレ」

 

出ていこうとする櫂は鼠に引き留められた。

 

「昨日は少し嫌な言い方をしタ。すまなかったヨ。何なら仕事の依頼を受けようカ? 」

 

「気にしていない。言われたことは的を射ていた。自分で接触方法を調べて依頼をしにいく」

 

「そうカ。待ってるヨ。それと明日は健闘を祈っていル」

 

「ああ」

 

鼠に応えた後、櫂はキリトの方を見る。

 

「明日はよろしく頼む」

 

「えっ? あ、ああ」

 

キリトの返事を聞いてから櫂は二人と別れ、その日はずっと宿の部屋にいた。

押し寄せる自分の思いと戦いながら、決戦の日を待った。

 

 




気づいた人は多いと思いますが、漫画版プログレッシブ軸です。
後々のアスナの性格を考えると、アニメの方が納得出来るんですがプログレッシブのアスナの方が僕は可愛いと思います。
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