今回はやらかしません。
でもこれからやらかすことの片鱗は見せたつもりです。
あと第二層は駆け足でいきます。
そこはどことも知れぬ場所…
円形の広い空間。
壁には一桁の数字がいくつも不規則に上から下へ水が流れるように落ちていく。
電子的な雰囲気を醸し出している。
しかし、中央の一ヶ所だけ周りとくらべて異質だった。
土の地面の上に岩や原っぱ、少ないが木々も存在している。
デジタルとリアルがアンバランスに結合している異様な空間。
その異様な場所にさらに異質な集団がいた。
全員同じ服装。
フードが付いている黒いコートを着て、フードを深く被り、顔は誰一人として見えない。
だが、まったく同じ姿の彼らがそれぞれ別の個体であることはよくわかった。
身長や体格の違いがあり、なにより仕草に違いがあった。
ただ立っている者もいれば、子供のように座っていたり、寝そべっている者さえいる。
量産した人工物がそれぞれの別々の意志を持ち、好きに動いているようだった。
その中の一人が口を開いた。
「リンクジョーカーが奪われた」
その言葉に全員が口を開いた者に注目する。
「邪魔者はいないんじゃなかったっけ? 」
寝そべっていた者が軽い口調で発言する。
「想定内だ。問題はない」
「そ」
興味を無くしたように寝そべっていた者は顔を明後日の方を向く。
「てかいいの? 一番欲しがってたじゃん? 」
岩の上に座っていた小柄な者が高めの声で訊く。
「かわまん。しばらくは様子をみる」
最初に口を開いた者がそう言った後、誰も何も言わなかった。
櫂は足早に森の中を歩いている。
その足の向かう先に目的地は存在しない。だが闇雲に歩いてるわけではない。
しいて向かう場所を表すとしたら、櫂が行ったことない場所、見たことのない場所である。
そう櫂は第二層の森を探索しているのだ。
クラン見つけるために。
櫂はアインクラッド第二層に上がってから一層の頃以上にクラン探索に力をいれていた。
その表情は鬼気迫るものがあり、他人は近づくことを躊躇ってしまうだろう。
櫂自身自覚はある。しかし、余裕のない今の心境では改善するまでには至れなかった。
「とうっ! はあッ!! 」
櫂が深い茂みを散策していると、少し遠目に見える開けた場所で蜂型モンスター《ウインドワスプ》と戦っているプレイヤーがいた。
第二層のメイン雑魚モンスターであるウインドワスプは見た目は完全にただの蜂なのだが、大きさが現実ではありえないもので、1メートル近くある。
虫嫌いの者が見たら、発狂するか卒倒してしまうことだろう。
しかし、所詮プログラム。しかもゲームでいうところ難易度は低い。
行動パターンは割と決まっていて、冷静に対処すれば危険な相手ではない。
しかし今戦っているプレイヤーはかなり苦戦していた。しかもたった一匹にだ。
そのプレイヤーはフード付きのマントを着け、フードを被り、顔は僅かに見える限りだと鉄仮面かフルフェイスの兜を装備していてまったくわからない。腹部から見える丈夫そうな鎧は現時点で良い装備なのがわかる。左手にはバックラーを持ち、右手には《アニールブレード》、あのキリトが使っている剣と同じ物を持っていた。
装備は一目で良い物だとわかるが、動きはテンで駄目だ。特に間合いの取り方がなっていない。
良いところといえば時折出す投剣スキルで使用する投げナイフだけだった。
櫂が様子を見ている間にウインドワスプの尾の針攻撃が激しくなってきた。
そろそろ本当に危なくなってきた。
櫂は助けようと市販の片手剣を腰の鞘から抜き、ウインドワスプに近づく。
しかし、櫂が手を下す前にヒュパンという音と同時にウインドワスプは真っ二つに切り裂かれ、消滅した。
煌めくソードスキルを伴って現れたのは赤いフード付きマントのプレイヤー、アスナだ。
アスナの登場に櫂は動揺した。
別に先にウインドワスプを倒された気まずさがあったわけではない。
純粋に会いたくない相手に会ってしまった動揺だった。
第一層のボス戦でパーティを組んでいたアスナに会えば、嫌でも思い出してしまう。
自分の罪を…
幸いにもアスナ達は櫂に気づいていない。
櫂は音を立てずにその場を離れた。
あのディアベルを失ったボス戦から本当に誰とも接していなかった。
自分は他のプレイヤーと共のいることは許されない…
そう結論を下した櫂は攻略最前線にほとんどの出ないようにしていた。
目的が違う自分は彼等の戦いに参加する資格はない…
だからフィールドボス討伐戦が行われる噂を聞いても櫂は参加しないと決めていた。
しかし、クランがボスの中に隠れていることがある。その有無は気配でわかる。
そうなったら他のプレイヤーには悪いが参加をせざるおえない。
そう考えると櫂は自分の勝手さに反吐出る思いだった。
数日が経ち、今第二層フィールドボス巨大牛型モンスター《ブルバス・バウ》攻略戦が行われている。
櫂は見晴らしの良い丘の上でフィールドボス戦を見ていた。
「あぁーもう! そうじゃないだろッ」
櫂と離れた場所で同じくボス戦を見ている男が騒いでいる。
男は鍛冶スキルを取得した初のプレイヤー鍛冶師で最前線にサポートと稼ぎに来たようだ。
鍛冶師は印象として気が強い方ではなさそうなのだが、苛立ちながら戦っている者たちに文句を言っている。
それも仕方のないことだった。
今最前線の攻略組は二つのグループに別れている状態だった。
一つはディアベルのパーティメンバーだった《リンド》が率いるドラゴンナイツと名乗っているグループ。
もう一つはあのキバオウが率いるアインクラッド解放隊と名乗っているグループ。
その二つのグループが最前線を完全に仕切っている。
だからボスとの直接戦闘はその2グループが担当している。
だがあまりに連携が悪すぎて苦戦している。それどころかお互いに不毛な言い合いをはじめる始末。
しかし、櫂は二つのグループを笑うことはしなかった。いや、笑ってはいた。
命をかけて戦っている者たちに自分が何かをいう資格はないと、自嘲していた。
本隊とは逆にスムーズに戦っている取り巻き担当のプレイヤーたち。
その中に櫂はキリトとアスナを見つけた。
相変わらずズバ抜けた実力を発揮している。
それから暫く戦闘が続き、苦戦しながらもボスのHPが残り僅かとなった。
しかし突如ボスが異常に暴れだした。
いきなりの激しい行動変化に本隊は混乱。本隊は壊滅状態になった。
異変に気づいたキリトとアスナはボスに向かう。
その間を支えていたのが見慣れない良い装備をした集団だった。
彼等はボスの突進を真っ正面から迎え撃ち、耐えきってみせた。
その後、キリトとアスナにスイッチをし、ボスの弱点である頭のコブを空中でソードスキルを発動させてヒットさせるというキリト荒技によって倒すことができた。
どうやらフィールドボスにはクランは隠されていなかったようだ。
櫂はキリトの空中でソードスキルを発動させたことに感動している鍛冶師を余所に先の町を目指した。
「はぁ…」
櫂は大きく息を吐いた。
重厚な扉を開け、モンスターが出現しない広間に出て、ポーションを飲む。
レッドゾーンの入ったHPが徐々に回復していく。
ここは第二層の迷宮区のボス部屋前。
今櫂はボス部屋から出てきた。
フィールドボス討伐後さらに数日が経ち、櫂は第二層の探索も殆ど終わらすことができた。
残すは迷宮区とそのボス部屋だけになっていたが、今しがた迷宮区とボス部屋、そしてフロアボスにクランが隠れていないか確認し終わったところだ。
迷宮区のモンスターは所謂ミノタウロスと呼ばれる牛人間型のモンスターで、斧やハンマーを武器に二重の阻害効果をかけてくる攻撃をしてくる。
ボスも基本的には同じで、行動パターンの違いとサイズの大きさとステータスの高さに慣れることが出来れば、問題はない。
少なからず最初にいる二体は。
ボスにクランが隠されていないことが確認した櫂は回復を待って、もう一度第二層を周ることにした。
「あっ」
そろそろ櫂がボス部屋から離れようとした時、見たことのある人物が現れた。
「よう…」
黒ずくめの剣士、キリトだ。
「一層のフロアボス戦以来だな」
キリトが話しかけてくるが、櫂はそれを無視して通りすぎようとする。
「あっ…」
櫂の反応にキリトは尻込みをしてしまう。
キリトはお調子者の性格だが、櫂に負けず劣らずのコミュ障なので、明らかな無視に上手く反応することが出来なかった。
しかし…
「なあ…! 」
意を決したキリトは櫂に声をかけ続けた。
「フロアボス戦には参加しないのか? 今回はアスナは来れそうにないから、いてくれると心強いんだけど」
キリトの不器用だが気持ちの入っている声に櫂は足を止める。
「一層ボスの時はかなり良い動きしてたし、ここにソロで来れたってことはレベルも申し分ないんだろ? あっでもあんな無茶な戦い方は勘弁な」
櫂はキリトの自分を必要としてくれている事が十分にわかった。
だがそれ以上に櫂自身を気遣っていることがわかった。
「すまない…」
櫂はキリトの思いを踏みにじる自分に嫌悪しながら、謝り、拒絶した。
今度こそキリトは口を閉じ、櫂の背中を黙って見送った。
櫂が第二層の迷宮区を戻っている途中、リンドとキバオウのパーティとすれ違った。他にも幾つかのパーティともすれ違った。
キリトの言っていたことも合わせ、櫂は今日が第二層の攻略戦の日だということがわかった。
迷宮区の入り口に近づいてくる度に足が重くなっていく気がした。
ディアベルの死が鮮明に思い出される。
櫂の精神に暗い影が濃くさしはじめたと同時に迷宮区から出た。
迷宮区に無かった日差しが、今の櫂には嫌みに感じた。
作り物の太陽を睨み付けていると、こちらに向かって走ってくる集団がいた。
一人は赤く目立つアスナだ。もう一人は地味ではあるが特徴的な服装をしている鼠。そして最後の一人はフィールドボスで櫂と同じように戦闘を見ていた鍛冶師だった。
「あなた…」
アスナは櫂に気が付き、足を止める。
「ボス戦はもうはじまっている!? 」
アスナが少し興奮気味で櫂に訊いてくる。
「たぶんな…」
「たぶんって…」
櫂は状況から今ボス戦が行われているのは予想できても確信がないので、正直に応えたがアスナには気に入らない応えだったようだ。
「アーちゃん、ボスが三体いることをはやく攻略隊に伝えないと」
「! …そうね! 」
後ろにいた鼠の言葉にアスナは迷宮区に急いで入ろうとする。
「待て」
櫂は鼠の聞き捨てならない言葉にアスナたちを引き止めた。
「攻略組はボスが三体いることを知らないのか? 」
「あなた知ってたの!? 」
今度は櫂の言葉が聞き捨てならなかったアスナが櫂に食って掛かる。
「ああ」
「まさかその事みんなに伝えてないんじゃ…」
「…ああ」
「どうして!? 」
アスナは怒りを隠さずに櫂を問い詰める。
「攻略組が知らないことを知らなかった…」
「オレっちのガイドブックにボスは二体って書いてたはずだけド? 」
「俺は読んでいない…」
櫂は第一層のボス戦から鼠のガイドブックを読まないことにしていた。
鼠のガイドブックはこのゲームで死を乗り越える為の物で、自分には読む資格がないと。
「どこでボスが三体いることを知ったの? 」
「さっき自分の目で確認してきた。最初に二体のボスモンスターが出てきて、強い方のボスのHPがレッドゾーンの入ると三体目のボスが現れる…」
「っ…とにかく攻略隊にこの事を伝えに行くわよ」
アスナは櫂の腕を掴み、引っ張っていこうとする。
「っ…! 」
櫂はアスナの手を振りほどく。
「俺は行かない…」
「はっ? 」
「俺に行く資格はない…」
櫂はアスナから顔を背け、溢れ出そうな感情を押さえつけながらアスナを拒絶する。
「~~~~…っふざけないで!! 」
アスナの怒鳴り声が響きわたる。
「あなたが何か思い詰めてるのは誰が見ても丸わかりだし触れてほしくないことも何となくわかるわ! でも命を掛けて戦っているみんなを助けにいかない理由にはならない! 」
アスナの巻くたてるような言葉。その声は櫂よりも側にいた鼠や鍛冶師の方が狼狽えさせた。
「ましてやみんなの為に戦いたいと思っている貴方なら尚更よ」
アスナの言葉に櫂は思わずアスナの顔を見る。
「貴方が何に悩んでいるかはわからない。でもそれが私たちに後ろめてしまうことだということもわかる」
櫂の目を真っ直ぐに見つめるアスナ。その目に櫂は背けることは出来なかった。
「もし私たちに後ろめたい気持ちがあるのなら力を貸してくないかしら? 貴方にはその力があるはず」
アスナは知っていた。櫂が攻略組の中でもトップクラスに良い動きをすることに。
良い動きとは連携を上手く出来ることだけではない。ゲーム内の体を上手く動かせることだ。
アスナは僅かな連携戦闘の特訓とボスと至近距離で斬り合いで櫂のその能力の高さはわかっていた。
特にボス戦の時はギリギリではあったがほとんどのボスの攻撃を避けていた。
それは動きの速さではなく、巧さでギリギリのところで調節していたこともわかった。
これはもしかしたら何年もゲームの中にいれば出来るようになるかも知れないが、櫂は僅か一ヶ月ほどでやってのけている。
それは機械的なレベルアップやスキルアップでは獲得できないものだとアスナはわかっていた。
櫂はアスナの言葉に揺れる。
櫂の迷いをさらに揺さぶる。
だが櫂は…
「すまない…」
拒絶した。
真っ直ぐこちらを見るアスナの思いは痛いほどわかった。わかった故に櫂はそんなアスナと共に戦えないと思えた。
「わかったわ…行きましょう二人とも」
アスナは櫂から背を向け、迷宮区に足を進める。
アスナの言葉に鼠と鍛冶師も迷宮区に入っていく。
取り残された櫂。
相変わらず嫌味たらしく櫂を照らす太陽の光。
櫂は自分でどうするべきかわからなかった。
だからこそ誰かにすがりたい思いだった。
アイチお前だったどうする…?
そして櫂は気づいた。
今自分を照らしているのは太陽の、黄金の光だと…
その光の先には見えたのは…
光の…
第二層迷宮区ボス部屋前。
櫂は再びここに来ていた。
何か背中を押されるように足が動き、気が付けばここにいた。
やはり自分は迷っている。
櫂は自分の煮え切らなさを自覚しながら、ボス部屋の扉を開ける―――
その瞬間、何重もの大きな歓声が櫂の耳に入った。
「犠牲者ゼロ! みんな生きてる! 完全勝利だ――――――――ッ!!! 」
櫂の目に入ったのはボスモンスターがいない変わりに何十人のプレイヤーが喜んでいる光景だった。
しかもどうやら死人を出さずに済んだようだ。
櫂は心底良かったという思いと間に合わなかった自分の滑稽さに笑える気持ちだった。
ボス部屋の外と内。たった一歩だけだが、櫂にとってどれだけ足掻いても乗り越えられない壁がある気がした。
櫂はこの勝利に水を刺さないために離れようとしたが、すぐに足が止まった。
それは中の様子が変わったからだ。
喜び声は止み、プレイヤーの注目はある一点に集中していた。
あの鍛冶師だ。
鍛冶師が何人かのプレイヤーとトラブルを起こしているようだった。
プレイヤーの中には巨体の黒人もいた。
経緯を観察している限りではどうやら鍛冶師は強力なレア装備の強化を頼まれた時、すり替えをして装備を盗んでいたらしい。それも何回も。
所謂、詐欺だ。
それは単独犯ではなくパーティで行っていたらしい。
それをここで白状し、謝罪をした。
それから鍛冶師のパーティの装備品をその場ではじめたオークションにかけて、それで発生したお金を被害者たちが分配し、金銭的な賠償をすることになった。
しかし、それだけではこの騒動は収まらなかった。
「そんなことで許されるわけねぇだろ!? 」
フードを被った男が怒鳴る。
「強化しまくったご立派な装備品で、金銭的な弁償は出来るだろうよ。でもなぁ! 死んだ人間は帰ってこねぇんだよ!! 」
その言葉で全員に同様が走った。
「おらぁ知ってるんだ! そいつに武器を騙し取られたプレイヤーは他にもたくさんいる! その中の一人が店売りの安物で狩りに出て、それまで倒せてた雑魚モンスターに…殺されちまったんだ!!!!! それが! 金だけで償えるわけねえだろォ!? 」
瞬間、場の空気は一気に変わった。
間接的とはいえ人の命を奪った以上死んで償わせるしかない。
何故かその考えがプレイヤーに伝染していき、殺せコールがはじまった。
鍛冶師とそのパーティは部屋の中央まで引きずられ剣を向けられる。
なんだこれは?
櫂の率直な感想だった。
誰も彼も理由があるいにせよ。
当然のように…
人の死を望んでいる。
櫂にはそれが我慢ならなかった。
ギイィィッン!!
無造作に中央に投げ込まれた剣が地面に刺さる音でボス部屋が静寂に包まれる。
「いい加減にしろ」
その場にいた全プレイヤーは声の主…櫂を見る。
「お前たちは自分が何をしているか、わかっているのか? 」
櫂はさっきまで躊躇していた一歩を難なく超え、ボス部屋の中央に歩き出す。
櫂の言葉と行動にプレイヤーたちは非難を浴びせた。
何故邪魔をするのか、詐欺師どもを庇てんのか、お前も仲間なんじゃないのか、と。
だが櫂はそんなものには応えず、一つの言葉を遮った。
「何って、こいつらせいで死んでいった奴の償「それじゃないっ! 」
「お前たちが人の死を望んでいることだっ!! 」
櫂の言葉にプレイヤーたちは我に返った。
「どんな理由があるにせよ、お前たちは人の死を望み手にかけたら…果たして詐欺を行ったとはいえ計らずして死に追いやってしまったこいつらと、どっちが人殺しになるんだろうな? 」
櫂の言葉に言いたいことはあるが、何も言えない。
そんなプレイヤーの中、一人口を開いた者がいた。
「ちょおええか? 」
手を上げなら前に出る聞き覚えのある関西弁の男、キバオウだ。
櫂も含めプレイヤーたちはキバオウに注目する。
櫂は何を言われるのかと、身構えたが…
「…なぁジョー? 一つ聞きたいことがあるんやけど? 」
キバオウはさっきのフードの男に向かって話はじめた。
自分が何か言われると思っていた櫂は毒気を抜かれた思いだった。
「はっ…? 」
逆にいきなり話を振られたジョーと呼ばれたフードの男はすぐに反応できなかった。
「詐欺あって死んだっちゅうプレイヤーって誰や? 」
その問にフードの男は誰の目にも明らかに予期してなかった事への反応をした。
「どこのパーティの奴や? あいつらが狙うレベルの使い手や。ワイらが知っててとうぜんやろな。プレイヤー名は? 」
「あ…いえ」
フードの男の態度はまさに言い訳を探している者そのものだった。
「…俺も人から聞いた話なんで名前までは…」
そして出てきた答えがこれだ。滑稽以外の何でもなかった。
「こんな信憑性のない情報で人殺しなるんかいな。割にはあわへんなぁ? 」
キバオウはわざとらしく大きな声でそんなことを言う。
「ウォッホン! 」
キバオウに続き、わざとらしい咳払いをする男がいた。
「この件は今回のレイドリーダーである俺が裁定を下す」
第二層フロアボスの指揮をとっていたリンドが咳払いの後、そう言った。
リンドの発言に誰も異を唱えなかった。
するとリンドは先ほどまでオークションの司会をしていた鼠の前まで行く。
「強化詐欺によって死者が出たかの真偽を調査してもらいたい」
そう言われた鼠はニンマリと笑い顔になり
「いいヨ。特別に無料でネ」
即承諾した。
「調査の結果が出るまでこの問題は俺が預かる。いいな!? 」
リンドはレイド全員にそう言うと、場は空気だけで提案を了承したことがわかった。
櫂はその場の収束が見えはじめた頃には迷宮区の出口に向かっていた。
その事は誰にも気づかれていなかった。
一部を除いては…
「? 」
不意に櫂は後ろから肩を叩かれた。
振り向くとアスナがいて、その後ろにはキリトがいた。
二人の表情は心なしか穏やかだ。
アスナは背伸びをする。
すると櫂の顔とアスナの顔が至近距離に近づく。
急にアスナの綺麗な顔が視界を覆い、柔らかいそうな唇が動く。
「ありがとう」
そう言ったアスナはキリトと共に、レイドの中に戻っていった。
何を感謝されたのか櫂には解らないだが、自分が何かしらあの二人とこのレイドの為に動けたことは解った。
しかし、櫂の中にはやはり迷いしかなかった。
第一層の後は時間が飛ぶ予定なんでしたが、とりあえず今出ている限りのプログレッシブを取り入れることに挑戦しようと思います。
なので今回みたいにあと2~3話は駆け足になると思いますが、これからもよろしくお願いします。