やばい……視線が痛い。やはりこの学校は女子校なだけあって、女子しかいねぇ……当たり前だけど。
「なぁ……先生」
「なんですか、遅刻魔」
「いや、まだ一回しか遅刻してないんですけど」
「ふん……これからも遅刻すると思いますから遅刻魔でいいんですっ」
「そんな横暴な……」
「で……なんですか?」
「あ……えっと、すんごい視線が痛いんすけど」
そう言うと、先生はため息をついてから俺の方を向き、口を開いた。
「あたりまえでしょう? 創立以来初めての男子生徒なんですから」
「で、ですよね〜……」
あぁ、わかってたさ、うん……でも流石にこのパンダを見るような目はおかしくないか? まぁ……確かに? 女子校の生徒からしたら男なんて街中くらいしか見ないだろうからそんな目で見られても仕方ないかもしれないけどよ……。
「もう諦める……」
「そうした方がいいですね」
こうして、自分のクラスを紹介され、自分の自己紹介をすることになった。なぜ遅れたのかは聞かれなかったものの、どうして男の人がいるのかとかをすっごく問い詰められ、好きな食べ物だとか、恋人はいるのかなど、根掘り葉掘り聞かれたのだった。
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「確かに恋人はいないけどさぁ……体はどこから洗うだとか、そういうのはセクハラだろう……まったく」
女子パワーの恐ろしさというのを味わった俺は、正直あのクラスでやっていけるか不安だった。もう今すぐこの学校をやめることはできないだろうか。
……できるわけないよね〜……
「はぁ……」
今更だが、時は進んで放課後……やっと質問攻めから解放された俺は気を休めるために屋上へと向かっていた。
「はぁっ……はぁっ」
「ん……? うおっ!?」
「へ……? きゃ!?」
階段を上がっていく途中、いきなり女の子が走って降りてきてぶつかった。なんだか今日はよく女の子とぶつかる日だな……
「なんて考えてる場合じゃなかった……大丈夫か?」
「あ、は、はい……すみません、前見てなくて……」
「いや、気にするな。 それよりも足とか大丈夫か?」
「は、はい……平気です……いつっ」
女の子は立ち上がろうとすると、足を抑えてすぐに座り込んだ。どうやら俺とぶつかった時に足を打ったかなにかしてしまったようだ。
「大丈夫? 立てそうか……?」
「ちょっと難しいかもしれません……て、お、男の人!?」
ゆっくりと顔を上げた女の子は俺のことを見て驚愕していた。今までの会話で気づかなかったのか……相当なうっかりさんか、なにか他に心の中にしこりを抱えているか……まぁ、俺には関係ないか。
「あぁ……今日からこの私立リディアン音楽院に編入した出雲ユキヒラだ。 よろしくな」
「あ……わ、私は小日向未来です。 宜しくお願いします」
俺が手を差し出すと、少しおっかなびっくりな感じでゆっくりと俺の手を握る。それを俺はひっぱり、俺の肩に回すようにして小日向を立たせる。
「あぁ、よろしく。 一応年は十六だ」
「あっ、先輩なんですね。私は十五歳です」
「お、そうなのか……しっかりしてそうだから同い年くらいかと思ったが……まぁ、改めてこれからよろしくな、後輩」
「はい、こちらこそ宜しくお願いします、先輩」
そういった後、どちらかともなく、くすっと笑い。少しの間二人で軽く笑った。
「取り敢えずは保健室まで連れてくよ 道案内、頼めるか?」
「はい、お手数お掛けします」
「気にすんなって」
小日向に道を教えてもらいながら、保健室に向かう。
「失礼しま〜すって、誰もいないな」
「誰もいないですね」
「仕方ない、軽い捻挫の治療くらいなら俺でもできるからな、よっと」
小日向をベッドに座らせ、湿布と固定するための包帯を取りに行く。
「すみません、なにからなにまで」
「むしろこの状態で放置する方がおかしいだろ」
「そ、そうですか?」
「そうですよ、ほら……足出して?」
そういうと、小日向は足をゆっくりと持ち上げる。湿布を貼るために靴下を脱がす……べ、別に足が綺麗でドキッとかしたりしないんだからねっ! なんて、そんな心の中のツンデレは置いておいて……この子…
「なぁ……小日向」
「なんですか?」
「もしかして元陸上部か何かか?」
「は、はいっ、そうですけど……なぜわかったんですか?」
「いや、足の筋肉の付き方がな」
「あ、なるほど……そういうことですか」
「あぁ……無駄がないからな……」
そう、小日向の足の筋肉には無駄がなかった。少し衰えが見えることから、現在も陸上部にはいないことがわかるが、とても綺麗に筋肉がついていた、やめてしまったのが惜しいくらいだ。
「そ、そのっ……んっ……せ、先輩……あまり撫でないでほしいんですが……ふぁ///」
「うぉっと、すまん……ついな」
あまりにいい足だったせいか、つい撫で回してしまった。いかんな、もっと自制しないと。その後、湿布の上から、軽く走っても大丈夫なように包帯で固定する。
「い、いえ……あ、手当してくれてありがとうございます」
「さっきも言ったとおり、あまり気にしなくていいぞ……こっちにも非があるんだしな」
「それでもですよ」
にこっと笑う小日向。この子もだが、俺からしたら気持ち悪いくらいに優しい。なんなんだろうか、この学園の女子生徒は優しくなる呪いにでもかかっているのか……。
「ん……そうか、ところで小日向」
「はい?」
「なんで屋上から走って降りてきたんだ? あの時、泣いてたろ?」
「っ!? そ、それは……」
「言いにくいことか?」
「い、いえ……」
そう言った後、決心したかのように顔を上げて、少しずつ……何があったのかを語り始めた。
「友達と喧嘩……か」
「喧嘩というか……私が一方的に酷いこと言っちゃって……それで……もうどうしていいのか」
小日向は俯いていた。今どんな表情をしているのかもわからなかった。正直に言ってしまえば、小日向が友達と喧嘩しようとなにしようと俺には関係ないし……俺が立ち入るようなことでもない。
「さぁな……でも、本当に大切で、本当に大事なら……その絆は切れたりなんてしねぇよ」
「そうでしょうか……」
「あぁ……俺はもうそんなもん……信じてねぇけどな」
「え……?」
おっと、ちょっと話しすぎたかもな……
「いや、なんでもない……それじゃあ、もう大丈夫だと思うし、そろそろ戻ろうぜ?」
「そうですね……なにからなにまでお世話になりましたっ」
「おうっ、友達と仲直りできるといいな」
「はいっ」
そういって小日向は保健室を出て行った。 外を保健室の窓から見ると、陸上部らしき子たちが校庭をランニングしていて、太陽は傾き……地上をオレンジ色の光で照らしていた。
「小日向は俺みたいになるべきじゃない……この血で染まった俺のようには……だから、頑張れよ、小日向」
俺は小日向が出て行ったドアを見ながら、ゆっくりと噛み締めるように呟いた
ここまで読んでいただきありがとうございます
時間軸的には、アニメ一期の七話から八話の間くらいになると思います