果たしてたたむことはできるのか?
いまだにたためていません……
「俺の名前は、撫宮アザミです(ただ、それは偽名であるがな)」
梟に名前をと問われたときにアザミは、満面の笑を浮かべてそのように答えた。
別に、自身の名を忘れてしまったとか、記憶喪失になったとか、不可抗力の理由なのではない。
この世界に放り出された瞬間の事は覚えていないが、それ以外のことならすべて覚えている。
ではなぜ偽名など答えたのか。
ただ一言で言えば、反抗心。ただの自己満足だ。
それ以上でも、それ以下でもない、
梟にとってそれは全く意味のないものであり、別段どうでもいいものであるだろう。ただ、梟のやり口が尺に触った、それだけから来た行動だった。
やわらかすぎるベットに寝付けず、瞼の下を黒くさせてながら、アザミは梟に仕事を手伝うと答えた。
「快く俺の仕事を手伝ってくれるようでうれしいぜ。お前みたいな才能のありそうなやつが手伝ってくれれりゃ、俺も助かる」
胡散臭い笑顔を向ける梟にアザミは、それ以外の選択しはないだろうと心の中で毒づく。
半ば諦めの境地で、仕事を手伝うことを承諾すると、早速念の修行に入るのかと思ったのだが……、渡されたものは、ひどく現実的な暴力だった。
「梟さん? これは一体」
「ベレッタM92、軽量で反動も小さく、手入れもしやすい。こいつなら初心者にも使いやすいだろう」
黒光りする重厚なフォルムを見せつけられて、渡された拳銃に若干焦る。
「そしてこれが、軍で使用されている手榴弾、M84だ効果範囲は1.5メートルで、殺傷範囲も1.5メートル以内だから気をつけろ」
ベレッタ、手榴弾、催涙弾などを渡されながらアザミは問い掛ける。
「梟さん、まずは念の修行とかは」
「念なんて、一朝一夕で身につくもんじゃねえ。少なくともまともに使えるようになるまで下手をすりゃ1年、2年掛かるだろうからな。まずは、手早く死なないように自衛手段を与えてやる」
まさか、ハンターハンターの世界で、普通に拳銃で身を守れとか言われると思わないんだが。確かに、原作にも、一人前の念能力者になるには、それぐらいの時間が居るって言っていたと思うけど、漫画の世界ですよ。
なんでこんなところだけ現実的と思うが、今はこれが現実かと意気消沈するアザミ。
こんなものじゃ念能力者に出会ったら、すぐに死んじゃいますよと言ってみるが、梟は念能能力者にはめったい合わないから大丈夫だと言う。
確かに旅団クラスの念能力者がうようよいたら、この世界は、大変なことになっているだろうけど……。
「ダメだっ! 目の前に死亡フラグしか見えない」
なんとか、最低限の念能力を覚えるまでは危ないことはしたくないと訴えるが、梟はその発言をことごとく却下してくれた。
その後、銃の扱い方と、簡単な整備の仕方、手榴弾の注意事項を教わると、いきなり仕事に向かえと言い渡される。
「いいか、お前はこれから指定されホテルに行って書類を受け取って来い。受け取ったら、これから指定するホテルに言ってそのフロントに書類を渡せ」
「いきなり仕事って言われても、俺何をどうしたらいいのかわからないんですけど(絶対無茶だって、念もなしにいきなり運び屋とか、普通新人にそんなことやらせないだろう)」
「大丈夫、お前はまだ顔が割れてないから、それほど危険なことはねぇよ」
「確かに顔は割れてないでしょうけど(むしろ“まだ”っていうところに悪意を感じるんですが? それとも、俺はおとりですか? そうかッ、きっとそうだ。俺は囮で、本命は別ルートから動いているはずだ)」
やばくなったら、書類なんてさっさと捨てて逃げるとしよう。
おそらく、書類がダミーであるだろうと当たりをつけて、既に逃走計画を立てるアザミ。
「いいか、ホテルはノストラードのものだ、最近まで小さな田舎マフィアだったが、どういうわけか最近このあたりにまで顔を聞かせ始めた」
「(ノストラードって事は、未来でクラピカが入るゲテモノ趣味のお嬢様がいる組織じゃないか。もしかして、その書類ってネオンの占いの結果かよ)」
「梟さん、その書類の内容って」
「書類の内容をお前が知る必要はねぇ。お前は言われたものを無事にこのホテルフロントに持ち込めばいい。持ち込めなかったときは、内臓だけじゃすまねえから気を付けろよ」
そして、一分ほど地図を見せるから、すぐに頭に叩き込めと告げる。
一分後、即座に地図を燃やした、梟はすぐに部屋を出て行ってしまった。
「マジで、ノストラードだったとは……」
巨大なホテルを出ると、アザミは渡された封筒をなくさないように専用のアタッシュケースに入れる。
梟いわく、ノストラードは、最近になって、成り上がったマフィアであり、周囲のマフィアたちからの評判も悪いらしい。
十老頭からの依頼というのも伏せられているらしく、何も知らないマフィア連中からすれば、ここぞとばかりに、手を出してくる可能性は高い。
さっさとホテルを出ると、一目散にホテルに向かうために、手近なタクシーへと乗り込む。
今のところ危険なものはない。さっさと仕事を終わらせてしまおうと、運転手へ行き先を告げていると、黒髪おかっぱの少女が駆け込んできた。
「すみませんっ! ちょっと急いでるんですけど相乗りさせてくれませんか?」
黒いサングラスとスーツの女性は、俺の答えを聞くよりも早くに、タクシーの運転手にこの場所を離れるように告げる。
動き出す車、背後で口ひげの生えた男が、息を切らせながら何かを叫んでいたようにだが、きっとこのタクシーとは関係のないだろうと思うことにした。
「あの、君は一体どこに行くつもりなんです」
突如乗り込んできた女性に対して、アザミが問いかけると、少女が、にこり笑って答えた。
「えっ、ああっ、そうね。近くで人体博覧会があるからそこに行こうと思ってるんです。友だちと待ち合わせしてるんですけど寝過ごしちゃって」
可愛らしく笑っているが、人体博覧会に出かけるとは、さすがノストラードの一員だ。
アザミは、走ってきた為にずれていたカツラと、そこからはみ出たピンク色の髪を見なかったことにした。
車が走り出して五分少し、カツラをかぶった少女は自身をネオと名乗った。既に警戒心など海原の彼方に放り出したかのようにアザミに話かけていた。
「私こんな大きな町に来るの初めてなの。パパに言っても、危ないからって絶対に部屋から出してくれないし。パパは毎日外で女の人と会ってるのに」
どうやって逃げ出してきたのか、知らないがとっとと、もとのホテルに連れ戻したほうがいいのだろうか?
そうこう考えていると、後ろからけたたまし騒音が聞こえてくる。
激しい弾幕音と、パッシング。左右に挟み込むようにして現れた黒塗りのワゴン。
「さすがヨークシン、マフィアの抗争が日常茶飯事とは」
「ちょっと、アンタらこれは一体どういうことなんだ」
現実逃避していたが、運転手の非難する叫びに現実を見ざるを得ない。
「いえ、僕にも何がなんだか――(ええ、現実逃避していましたけど、確かにこれは、俺たちを追ってきているわけですよね。俺たちというか、このトラブル娘を)」
ちらりと、ネオへと目を向けると、いたずらがバレた子供の様にみえた。
「ごめんなさいッ、実は私悪い人に追われているんです」
(ええ、知ってましたよ。あなたが、実はノストラードの娘であり、ネオンであるということも)
「アンタら、なんでもいいから降りてくれっ!!」
運転手が、涙目を流しながら叫ぶが、こんなところで降ろされてはたまったものではない。
「助けてくださいって言われても……」
念も使えないのに、こんな人数を相手にどうしろというのか。むしろ彼女が素直に戻ってくれれば、すべて丸く収まるのではないかと思うが、それで自分が無事に住む保証はないと考えため息をつく。
梟さんというか、陰獣の名前を出せば、即座に殺される事はないだろうが、それを聞いてくれるような状況でもないし。
「畜生、もう少し話の分かる、ダル……、なんとかさんとか、会話の分かる奴を連れてこいよッ」
悪態を付く。しかし自体は好転しないし、奇跡も起きない。
左右からぶつけてくる車の衝撃にネオンの身体が、アザミの方へと飛び込んでくる。
アザミは、激しい衝撃からネオンを守るように抱きしめると、指定されたホテルに逃げ込めばなんとかなるだろうと思い、なんとかそこまで逃げる方法を考える。
しかし、考えがまとまらないうちに、タイヤに銃弾が打ち込まれた。
突然のことに、車体はバランスを失い、回転しながら近くのビルへと突っ込んでいく。
「くそう、こうなりゃ、ヤケだ」
片腕でネオンの身体を抱きしめ、反対の手を自身の腰に移す。
「(機会は一瞬だ――ッ)」
先ほどより大きな衝撃が襲いかかり、車が完全に停止する。
それと同時に、手にした手榴弾からピンを抜くと窓の外へと放り投げた。
「なッ!!!」
投げ出されてから数秒後、激しい閃光と音響が周囲を支配した。さらに続けて、催涙弾をまとめて放り投げる。
車へと近づいていた人間が、音と煙に悶えるのを横目にネオンの手を引きながら駆け出した。
駆け出している途中で、ネオンを置いていけば、十分にげられたのではと、あとから気づいて少し後悔した。
決して女の子に頼りされる状況下に、映画の主人公見たくやってみたかったということはない。
大通りに出れば、無闇に発泡される事は……ッ!
「ぎゃぁッ!!」
近くを通り掛かった一般人の脚を髭男が放った銃弾が貫通する。
「一般人もなにもお構いなしかよッ。これだからマフィアって奴はッ!」
一般人の命など、まるで石ころと同じかのように銃を撃つ。
(威嚇だろうが、なんだろうが、愛娘がいるのに、拳銃を撃ってるんじゃねえよッ!)
周囲の人間は、危険を察知したようにアザミたちから離れていく。
アザミは、読みが外れたことを苦々しく思いながら、道をそれて裏通りへと曲がった。
その瞬間、目の前に現れた白衣の女医と目があった。
まばらな人波の中でも目立つ全身真っ白の女性。
ほんの数秒の間を置いて、背後から何人かの黒服が追いすがる。
アザミは涙ながらに、腰に引っ掛けていたベレッタに手をかけようとするが、その瞬間に女医がアザミ達の前に身を躍らせた。
「みなさん、危険で(す)。さがってくださ(い)」
誰に言った言葉か分からないが、突如に不可視の重圧が当たりを覆い尽くす。
その重圧に、動きの鈍った追跡者達。動きの止まった者たちに向かって白衣は指先から白い固まりを放った。
連続してはじき出されるそれは、アザミ達を追いかけていた黒服達を順々に気絶させていく。
最後に残ったのは、口ひげの男のみ。
「貴様、念能力者かッ!」
驚いた様子だが、男の声にはいくばかりかの余裕が残っていた。そして男は両拳を握りしめてそこへとオーラを集めていく。
「栄光の「流出不可の診療録(シークレットカルテ)」」
男が何かを出そうとするより先に、女医のオーラが周囲の全てを包み込んだ。
なにが起こったのかを理解できたものはその場にいなかった。ただ、男が驚いた様子で一瞬の隙を見せる。女医はそのスキを突いて、男に何かを投擲した。
それは一本の針。それが男の腹部に突き刺さると共に、男は膝をついてその場に倒れ込む。
「戦争は戦場(で)」
白衣はそれだけを告げると、周囲の巻き込まれた人々の手当を始めた。
鮮やかなる手腕を目の当たりにして、アザミとネオンは口を開くこともできずに、女医の行動を見守っていた。
当時、ハンター選挙編見ていて、ノートンさん出したかったんです。
人気出ると思ったけど、思ったほど、二次作品でも活躍してないですよね。
彼女の念は、作者の想像です。
誤字修正しました。uytrewqさん、鬱ボット@さんありがとうございます。