次話投稿いたします。
武器を手放し、降伏の意を示しながらも、乱暴に地面へと転がされ、四肢を拘束されるアザミ。
見下ろす男達の瞳は、アザミに対して奇怪な視線を含ませているが、その命の有無には、さして興味も持っていない。
周辺では殺戮に特化した獣達の遠吠えが反響するようにこだまする。
「リーダー見つけましたッ!?」
「よし、スクワラついて来いッ、トチーノそいつを見張っておけッ」
色黒い肌をした男、スクワラと、リーダーと呼ばれた男は、二頭の猟犬の先導に従って急ぎこの場を去る。
その場を任された男、トチーノは、地面に転がるアザミの姿に対して、ただ淡々とした表情で見下ろす。
トチーノの表情は感情を隠しながらも、アザミの横に浮かぶ奇形な海坊主へと警戒を深めていた。
一歩、背後へ下がると同時に右掌を上に向ける。
「風船黒子よ俺を守れッ!」
右手からは、黒子を纏った11人の人影が生みだされた。
それらはスクラムを組むように、二人の間に立ちはだかる。
「妙な真似をするな、お前はただ質問に答えるだけでいい」
それ以外は口にするなと告げると、地面に転がった拳銃を黒子に拾わせて、それをアザミへと向けるが、
『ウゴクナッ!』
突如響くカナキリ音にも似た叫び声! とっさのことにスクワラは、黒子に命じてアザミの身体を押さえつける。
『全てを受け入れよ、すべてを諦めよ、その命、その身体、戻るべきところはなッ!? 「おい黙らせろッ!」 天使の言葉に――「聞こえないのかッ!」、えなさい――』
「まっ! 違うッ!?」
警告と同時に、アザミの足が撃ち抜かれる。
さらに警告を聞き入れないと見て、左肩を撃ち抜かれた。
それでも、海坊主は言葉を止めない。
念能力の恐ろしい所は、その姿形から、能力の特定が難しいところだ。
その姿が、単純なる武装を示していたとしても、何らかの能力が付加されている場合すらある。
例えば相手を捉えると同時に眠らせる鎖であったり、獣の姿を模しながらも、全く別の性質を持った人形であったり、予測はできない。
例えば、声で相手を操ることも、操作することに特化した能力者であれば可能である。
その奇怪な声を最後まで聞いたとき、自分達が無事でいられる保証などないのだ。
ならばこそ、相手が何かを成す前に、殺すしかないのだ。
『―――翼を捥いだ小鳥の為に、貴方は機械仕掛けの羽になる』
3人の黒子に四肢を押さえつけられ、4人目はアザミの眉間に銃口を添える。
「そいつを止めろ、そして能力は何だ?」
アザミにとっても不気味な天使を黙らせたいが、この不気味な天使を創りだしたのがネオンであるためそれは不可能だ。
ゆえにアザミは一言、相手の興味を持たせるために、いまの生の瞬間を引き伸ばす為に叫ぶ。
「ネオンの念だッ!」
―――撃鉄が落ちる。
しかし、破壊は起こらない。
弾倉に装填されていた弾が尽きたのだ。
トチーノは、自身の雇い主の娘の名前を出され、困惑した様子を見せる。
トチーノ自身、ネオンが能力を使う瞬間を見たことがあった。しかし、決していま目の前に浮かんでいるような姿ではなかった。
それでも、この不気味な海坊主の姿は、かつて見たネオンの念能力の天使の姿と、どこか酷似している。
だが、この不気味な海坊主がネオンの念能力により生みだされたとして、何故ネオンから離れたこの場所に浮かんでいるのか?
「これは、ネオンの新しい念能力だッ! だから、俺からこいつに何かすることはできないッ!」
「どういうことだ?」
殺せばすべて解決するという、単純な事態でなくなったことは把握した。
ならば、どうするべきか?
アザミが告げた言葉が真実であるという保証もない。
だが、もしもこの不気味な天使がネオンの念能力であるというなら、アザミ自身を殺す事で何かしらの不都合が起きる可能性も否定できない。
どこで、誰が、何をしようとも、自分達はネオンの護衛としてそれらをねじ伏せれば良いとだけだが。
しかし、それは相手の力を真っ向からねじ伏せなくてはならないということだ。
格上に対しては、犠牲覚悟で決しで挑まなければならないこともあるだろう。
未知の能力に対して、その身を犠牲に能力を明かす必要もあるだろう。
不完全な予測は、突如のイレギュラーを見余らせてしまうから。
自分達は、確実に“後の先を取る“そのように命じられているのだから。
ある意味これは、敵に対して一種のアドバンテージを与えてしまうことにも他ならない。
「こいつは俺には操れない……」
アザミは告げるべき言葉を吐き出し、不気味な天使は言いたいことを言いきったように再び沈黙に戻る。
思考を巡らす二人の間には静寂が、だがその世界に割って入るように、外敵を吠えたてる獣の叫びがこだまする。
叫び声の先から、この空気に似つかわしくない白衣の天使が現れた。
「無事? みたいです(ね)」
白衣の天使。その女性の名前をサンビカノートン。
彼女は医者であり、研究者であり、念能力者であった。
その知名度は、いわゆる専門家達の中で知らないものがいれば潜りと言われても仕方のないほどのビッグネームである。
例え念能力を使えぬものであっても、その研究結果は、医療技術が、どれだけ希少なものであるかを知っているほどに。
つまり、ノストラードの特異な性癖にとって、その医術を持つサンビカノートンという女性は、決してないがしろにできないものであり、その護衛であるトチーノもその例外には漏れていなかったのだ。
「なんで、貴方みたいな人がこんな所に……」
「私は医者で(す)。治療を開始しましょ(う)」
身体中から血を流すアザミの姿を見て、自身の鞄から治療用の薬品と器具を取りだす。
「まっ、待ってほしい。いくらアンタでも勝手なことをされちゃ困る」
何故サンビカノートンが此処にいるのかわからないが、敵か味方かよくわからないアザミを勝手に治療されては、後でリーダーから、何を言われるか分からない。
せめてリーダが戻るまで治療を待ってもらわなくてはと思うが、どうやら幸運はアザミに味方したようだった。
「構わない。そのアザミという男、治療してもらえるなら治療してもらいたい」
「アザミッ!? ごめんね、捕まっちゃった」
大量の猟犬と護衛に囲まれるようにして、緊張感のない声色でネオンが姿を現した。
そして、ネオンの予想以上に元気な姿を見ると同時にアザミは意識を失った。
同時に不気味は天使の姿も消失する。
ただ、不気味に脈打つ心臓だけがアザミの身体から生えるように鼓動を続けて……。
「随分と厄介なことになったものだ」
リーダーの男は、治療されているアザミと、ネオンを交互見比べながら深いため息を吐き出してサンビカノートンに告げた。
「Dr.サンビカ。この後俺と一緒に、ボスへ会ってほしい。お嬢様の状況、その説明だが、俺だけではとても難しそうでな……、現在のお嬢様の症状、それをただ語ってくれればいい。診察費として、報酬は出させてもらう」
「分かりまし(た)。あまりよくない状況で(す)。これは専門家とし(て)、立ち合わせてもらいま(す)。それと梟という人を呼んでくださ(い)。この子の師匠らしいで(す)」
治療を続けるサンビカから出て着た言葉に、さらに男達は困惑する。
梟という男は、今や裏世界では次期の陰獣候補として名前が上がっているほど有名な運び屋であったのだ。
以外な繋がりを知らされ、状況が自分達だけの判断だけで進めることに手が余るということだけが知らされた。
もはや、この事態が如何転がるのか、誰にも予測することはできなかった。
それを知ることが出来るとすれば、この世ならざる化け物に等しい存在だけであろう。
此処まで読んでいただきありがとうございました。
ここで原作前の話を終了させたいと思います。
次投稿するときは、試験編なるべく書き溜めてから投稿したいと思います。