ガンゲイル・オンライン:Apex of Gunfighters 作:EoEo.
▼若干書き方変えました。
荒野の砂が混じった風が荒れた住宅地に流れる。
サーニャはAKのコッキングレバーを引き、離す。ガチャンッと重い金属がぶつかる音が人気のない無人の住宅地に響いた。
彼が逃げ込んだのはこの旧住宅地エリアの一角にある工場跡、戦闘前にサーニャが食べていたSBCグロッケン船員向けの宇宙食の一つ、あの"ショートブレット"などを作っていたという"設定の"場所だ。働いていた人々は皆避難したか、或いは。
サーニャは一歩づつ、慎重に工場へと近づいた。
工場の入り口の門は彼が通ったからか、はたまた最後にここから出ていた工場の職員がそうしたのか、鍵はかかっておらず半開きで荒野から吹く風に揺られていた。
門をくぐり工場の壁にたどり着く。至る所が錆びついており、無機質で大きな工場のはずなのに機械が動いている音などが一切しないそれに、サーニャはとても薄気味悪く感じた。
「...クリア。」
張り付いた壁にあるドアからサーニャは侵入。その扉の先は事務所だったのだろうか、パソコンや机などが並ぶ部屋だった。サーニャは部屋の中を調べるが、特にこれといって何も無く、すぐさま向かいのドアを静かに開けようとドアノブに手を伸ばし捻り、開けた。
その時"ピピッ"という電子音が聞こえた。
「...!?」
サーニャはとっさにドアから離れ、ドアに沿った壁の方に飛び込む。すると爆発音とともに扉が"く"の字に曲がって部屋の方に勢い良く吹き飛んできた。どうやらドアブリーチ用の爆薬を使ったトラップのようだ。
爆発の煙と部屋に溜まった埃が舞い、一瞬にして視界が悪くなる。
「げほっ...本当、爆発物ばっかりだなぁ...。」
ドアがあったはずの場所にはドア部分の四角い空間ができている。そのドア自体はサーニャの居るこの事務所らしき部屋においてあった椅子や机ごと吹き飛ばし、向かいの壁に立てかかっていた。
煙が少し晴れサーニャはしゃがみ、膝をつきながら開いたドアのスペースから奥を覗く、がその瞬間刻み良く連発する銃声とその縁に銃弾らしき物が着弾する音で直ぐに顔を潜めた。
「あの連射速度...
サーニャは立ち上がりもう一度縁から顔を出す、すると今度は5発、数発は部屋の中の机や椅子に当たった。それを確認する前に素早くしゃがみ、再び顔を出して今度はサーニャのターン。
「そこっ...!」
先ほどの発砲炎から位置を割り出し、指切りで3発そこに弾丸を放つ。
「よしっ...!!」
仕掛けておいたトラップが作動して扉が部屋の方に吹き飛ぶ。
爆発による煙と、放置されていた部屋の埃が吹き飛んだ扉のスペースからもくもくと出ている。相手が扉を開けるその瞬間をバッチリと彼は見ていた。
しかし、煙が少し晴れたのと同時にその相手がその開いたスペースから顔を出す。
「なっ...!? くそっ...!」
トラップで仕留め損ねた彼はアイテムストレージから出しておいたサブマシンガン、SWD社製"
しかし利き手の右手が使えないため左手で持ったためか、弾は相手の居るドアのあったスペースの縁に数発着弾、外れた。
「ちっ...さぁ...、顔を出せっ...!」
彼は相手の居る事務所のドアを開けた先にある生産ラインの機械を盾にして相手へ攻撃をしている。破壊したドアのスペースの上の位置から再び顔を出した相手に5発、バーストで発砲したがやはり思うようには行かず、その弾は部屋の奥の机に着弾。それを確認した途端今度は相手が急に下の位置から反撃に転じてきたため彼はすぐそれに対応することができず、また発砲炎で彼の位置まで特定されることになってしまった。
「ルーキーとか言っちまったが、あの動き...ベテランだ...。多分BoBやらSJとかの...。とんだ勘違いで喧嘩を売っちまったみたいだ、くそっ...!」
数分前の自分を殴ってやりたいと思っている彼の思考を、顔のすぐ横をかすめる銃弾の飛翔音がかき消す。
「くっ...! ただ...トラップは効いてるようだ、まだ...まだ行ける...!」
彼は手に持っていたM11/9を力良く握りしめ工場の更に奥へと進んだ。
「逃げ足の早い...!」
動く先を予測し、指切りでトリガーを引くが工場の機械を盾にして動く彼には当たらない。どうやら更に奥へと逃げるようだ。サーニャは逃げた彼を追うために彼が開けた扉とは別の、近くにあった工場内のキャットウォークへと通じる螺旋階段を上がり上から攻撃を行うことにした。
螺旋階段を上がりキャットウォークへ、その先に扉がありサーニャは静かにゆっくりと開け次の部屋に進入する。
先程まで居た加工などを行う部署の隣は材料などを保存してある倉庫のようで、包装した材料が棚に積まれている。
すると、駆ける足音がサーニャの耳に届きすぐさまその方を見ると、すでに彼が棚と棚の間から銃を構え
「っ!」
サーニャはキャットウォークの策を飛び越え倉庫の棚の上に着地、彼から放たれた弾丸はサーニャには当たらず手すりに当たり、その後ろの窓ガラスを割った。
サーニャはすかさずAKを構え下に居る彼に撃つ。頬と太ももにかすりはしたが彼はとっさの緊急回避で棚の後ろに隠れた。
すると今度は彼が棚を登り頭と銃だけを出して棚の上にいるサーニャに向け発砲してきた。サーニャは反撃しながらすかさず棚から飛び降りる。
「埒が明かないよ...。 ん...?」
サーニャはふと、棚に山積みになっている茶色い大きな紙袋に目をやる。そこには"
「小麦粉...もしかして...。」
とあることが頭によぎり、サーニャはこの《仮想世界》を試すことにした。
この"GGO"という《仮想世界》がどれだけリアルに再現され、それが《現実世界》に近いのかを。
「どこに行ったんだ...。」
先程まで絶え間なく銃声がしていた倉庫が今度は突然不気味なほど静かになり、まるでそこには彼1人しか居ないような空気に包まれていた。
「まさかさっきのでくたばる筈は...。」
すると先程まで静かだった倉庫に突如、銃声が鳴り響いた。
「うおっ...!?そっちか...!!」
彼は銃声のした方へ駆ける。
銃声は彼の居るところから4つほど奥の棚の通路から聞こえ、彼が到着するとそこは床一面、白い粉が撒かれ窓の有る壁に背を向けて敵、彼女が立っていた。
「アンタ、気でも狂ったか...?」
彼は彼女に問いかける。彼女の手には先程まで握られていたアサルトライフル"AK"は無く、その代わり右手にハンドガン"ストライクワン"が握られていた。
「ちょっと試したいことがあってね。」
彼女はそういった。
彼はいつでも彼女を撃てるよう軽く胸の前でM11/9を構えていたが、彼女の方はとても余裕のある表情をしている。
「残念だがその実験だかなんだかに付き合っては居られない。ここで死んでもらう!!」
彼がそう言ってM11/9を構えた瞬間、彼女は背中から飛び込む形で後ろの窓ガラスに飛び込み、そのまま持っていたストライクワンを発砲。
その弾丸は彼の左右の大きな茶色い紙袋に命中、中から白い粉が吹き出し、もくもくと白い煙になる。
「残念だったな!外れだ!!」
彼がM11/9のトリガーを引き、発砲炎が銃口から発せられ銃弾を放つ。その瞬間銃の周りで何かが炸裂。
「なっ、何だ...!?」
直後彼は謎の爆発に飲まれ、赤いポリゴンの破片となり消滅した。
「うっっ...!!」
間一髪爆発には巻き込まれず窓ガラスを割って外に飛びてたものの、破った窓から放出された爆発の衝撃がサーニャの身体を吹き飛ばし、地面に勢い良く叩きつけた。
「いたた...あー...まさかここまでとは...」
GGOの使用上、数時間で元通り綺麗になるとはいえ爆発で屋根の一部が吹き飛び、サーニャの飛び出した窓ガラス以外もめちゃくちゃに割れ建物が燃えていた。
サーニャが試した実験、それは"粉塵爆発"。空気中に舞い散る可燃物(粉塵)が引火して爆発する現象のことである。粉塵は表面積が大きいので空気中に舞うと空気との反応面積が大きくなり、燃焼反応に敏感になる。 そしてその粉塵が連鎖的に燃える事で爆発するのである。
今回の場合、サーニャが窓ガラスを割り飛び出す際にストライクワンで袋に穴を開け、空中に舞った小麦粉の粉がピエージェが発砲した際のマズルフラッシュで燃え結果、大爆発を起こしたということである。
「流石にこの爆発で生きてるわけ、無いよね...。」
天井から鉄筋コンクリートが先ほどまでサーニャが居た場所に落ちる。
サーニャの実験は想像を遥かに超える成功であった。
「そういえば名前...聞いてなかった...。」
ただ敵を倒すことに集中していたため、相手の名前を聞き忘れていた。そもそも自分を倒しにくる相手の名前を伺うのもどうかと思われるが、サーニャには彼が言い残した"ある言葉"が気になっていた。
「"あんたみたいな強い奴だったら、こんな苦労はしない"...一体どういう意味だったんだろう...。」
サーニャはそれが気にかかり、町を出てすぐの岩陰に元々SBCグロッケン市街地から乗って、迷彩シートを被せ隠していた"M1030 A4"オフロードバイクに跨るとSBCグロッケンのとある場所へと向かった。
- SBCグロッケン 主街区エリア -
SBCグロッケンとその外の広大な荒野を繋げる大きなゲートをくぐり、再び戦闘から寛ぐことの出来る主街区画エリアに戻ってきたサーニャ。その一角にある"転送ゲート"前にバイクを止めた。
「もうどっか行っちゃったかな。」
SBCグロッケン外のフィールドで死亡した場合、一番近い主要都市のゲートに転送される。その大きなゲートがある場所がここである。各主要都市には必ず設置されていて先程までサーニャが居た荒廃した町から一番近いところにSBCグロッケンはあるためサーニャはここに先ほど倒した彼を探しに来たのであった。
同じエリアにはショップや飲食店などが並んでおり人通りも多く、探すのは容易ではない。
「うーん...あっ、居た。」
ぽつんとベンチに腰かけうなだれている一人の少年風のアバター、先ほどまで戦闘を繰り広げていた彼がそこに居た。
サーニャは一歩づつ近づく。
「隣、良いかな?」
サーニャは彼に話しかける。
「あぁ、すまない...ってお前...!?」
先ほど倒された相手が目の前に居ることに驚いた表情の彼。
サーニャは言葉通り彼の隣に座る。
「お、俺がルーキーとか言ったのが気に障ったのか!?それで俺を探しに...っ!?」
彼が焦りの表情を浮かべ、ベンチから身を引く。
「違うよ、ただあの時言ったことが気になって。」
「あ、あの時...?」
「ほら、私が右手を撃った時。"あんたみたいな強い奴だったら、こんな苦労はしない"って。」
サーニャがそう言うと、崩れ落ちるように彼は再びベンチに座り直し、肩を落とした。
「あぁ、あれか...。」
「差し支えないなら聞かせて欲しい。」
「別に構わないが...大したことじゃないぞ...?」
「良いよ。」
「俺は"こっち"じゃあこんな風にしてるが、現実の方じゃ学校で虐められてんだよ...。弱い《現実世界》の自分から現実逃避するためにアミュスフィアとこのゲームを買ったんだ...。」
彼はサーニャには目を合わせず、ただ下を向き話す。
「でもGGOを始めて、最初に銃を手に取って構えた時、違和感があった。」
「えっ...?」
「銃を構えて狙いをつけようと意識させると距離感がつかめなくて...長くしてると吐き気がしてくる...。」
「それって...つまり...?。」
「後々調べてみたら"フルダイブ不適合者"だった...。幸い銃さえ使わなければなんともない。だから見ただろ、俺が基本、爆発系の武器しか使わないの。」
「なるほど...利き手の右手を撃たれたせいで銃をあまり使わないのかと...。」
「最後の方はバレット・ラインのアシスト任せで目つぶって撃ってたから当たりゃしなかったがな...。それに俺、唯一自慢できる両利きなんだぜ?右手撃たれても問題はないんだよ。」
彼はサーニャに向けて初めて、明るい顔をした。
「でもな、俺はそのことを隠してスコードロンのリーダーをやってたことがあったんだ。」
彼の表情が再び曇り始める。
「《現実世界》じゃあ友達って呼べるような奴も居ないし、スコードロンはまさに本当の友達の集まりみたいなものだったよ。スコードロンのメンバーといろんなクエストもやった、他のスコードロンのやつとも戦った。俺は上手くごまかして自分がフルダイブ不適合者ってことを隠し続けた。でも少し経って、今ならこいつらになら話してもいいと、きっと皆理解してくれるって思って打ち明けたんだ。けど帰って来た言葉は"お前は俺達を騙してた"、"銃が使えないくせにGGOをプレイするな"とか...結局それを機にスコードロンは解散。こっちの世界でも独りぼっちになっちまった。」
「...。」
「それがついこの間の話、それで次に誰か他のプレイヤーと戦って勝っても負けてもそれが最後。"この世界"ともお別れと思ってたんだ。そんな矢先あんたがあのトラップに引っかかってくれた。」
「じゃあもう"この世界"とはお別れ...?」
「いや、あんたと戦って考えが変わったよ。あんたはどう思ってたかは知らないが、あの時の戦闘はとても楽しかった。」
「つまり?」
「俺はもう少しこのゲームを続ける。」
「そっか、それは良かった。もし...良かったら、私の入ってるスコードロンに入らない?」
「良いのか...?さっき言ったとおり俺はまともに銃を使うことは出来ないぞ...?」
彼は戸惑いの表情を浮かべる。
「たとえ銃が使えなくても、この世界を楽しむことは出来るでしょ?それに、あそこまで爆発物を扱える人は、私の入ってるスコードロンにはいないから。」
「じゃあ...よろしく...。」
「こちらこそ、私はサーニャ。あなたは?」
「そういえば名前言ってなかったな、俺は"ピエージェ"よろしく。」
「他のメンバーは今日ログインしてないから紹介は後日。私は疲れちゃったから今日は落ちるよ。」
「わかった、今日はありがとう。」
サーニャはベンチから立ち上がり、再びバイクへと戻ろうとする。
「サーニャ!」
ピエージェはサーニャを呼ぶ。
「?」
「俺は必ずあんたを倒す!」
ピエージェはサーニャを指差し、そう叫んだ。
周りに居た他のプレイヤーが何事かとちらちら、こちらを見ている。
「う...恥ずかしいから...。」
サーニャは軽く手を振ると逃げるようにバイクに飛び乗り、その場を後にした。
- 翌日 -
- 都内某中高一貫校 中等部棟 -
サーニャと詩子の通う高校は中高一貫校で、サーニャ達高等部の棟と連絡通路を挟んで中等部の棟がある。詩子はもちろんこの学校を中等部から入学しており、成績も優秀である。
「ごめんねサーニャ!手伝ってもらっちゃって。」
「良いよ、これくらい。」
「クラス委員長の私ばっかり扱き使うのってどう思う?!中等部の職員室に教材を持っていってとかさぁ~!」
「まぁまぁ...。」
詩子が愚痴を滝のようにこぼしつつ、サーニャとともに中等部の廊下を歩いてゆく。
丁度休み時間のためか、中等部の生徒たちが廊下に出て生徒同士で話をしている姿があり、中等部の方にサーニャが顔を出したことがないため生徒が指を刺したりと注目の的であった。
「サーニャ人気者だね~。」
「恥ずかしい...。」
サーニャは顔を伏せながら廊下を歩き、1階から2階へ続く階段を登ろうとした時、踊り場で中等部の男子生徒と思われる4人の姿があった。1人は壁の隅に追いやられており、他の3人が囲むようにして居る。
「あっ、あの子また...!」
「?」
詩子はそう言うと階段を急いで駆け上り、踊り場にたどり着くやいなや
「こらっ!あんた達!!」
詩子が1人を囲む3人に声を荒げる。
「あぁ?何だあんた!?」
「あんた達のグループか知らないけど、この間もこの子と虐めてたでしょ!」
3人の男子生徒の後ろには顔を背けながら佇む男子生徒がおり、彼の頬には殴られたような跡があった。
サーニャも階段を上がる。
「あぁあんたか、最近良く突っかかってくる高等部の女子っていうのは。」
3人のうちの1人、真ん中に居た男子生徒がゆっくりと詩子の方に近づいてくる。
「な、何よ...!」
「上級生だからって女が...しゃしゃり出てくんじゃねぇ!!!」
彼は右手に握りこぶしを作り、詩子に殴りかかった。
しかしそれを後ろで見ていたサーニャがとっさに近づき、その拳を手の平で受け止める。
「あぁ...?何だお前、邪魔すんじゃねぇ!!」
そう言うと、今度は開いている左手で今度はサーニャに殴りかかろうとするがそれをするりとかわす。勢い良く振りかぶったがそれをかわされてしまった為、そのままの勢いでよろめきながら階段の一段を踏み外し転落しそうになるが、それをサーニャが服の襟を掴み静止する。
「くそっ、離せよこの...っ!!」
「離してもいいの?私が手を離せば落ちるよ。」
サーニャはわざと一瞬だけ手を離して、再び掴むのをしてみせた。
「ひぃっ...?!」
サーニャが引っ張り、踊り場に引き戻すと男子生徒はそれで懲りたのか他の2人を連れてそそくさと階段を上がっていった。
「大丈夫?」
詩子が囲まれていた男子生徒に声をかける。
「すみません...また助けていただいて...。」
「駄目じゃない、前に言ったでしょ堂々としなさいって!」
「す、すみません...。」
「そうやってすぐへこへこ謝らない!ほら、とりあえず保健室行くよ?」
「は、はい...。」
男子生徒は詩子に引っ張られ、サーニャもその後について行く。
階段を降りて一階のすぐにある保健室の扉を開けると教室全体から消毒液、アルコールの匂いが仄かに臭う。生憎、保健室の先生は居らず詩子はその男子生徒を小さな丸椅子に座らせると、救急箱を取り出し手際よく応急処置をした。
「い、痛っ...!」
「男の子でしょー、我慢する!」
詩子が消毒をし、頬にガーゼを貼る。
「はい、おしまい!」
「本当...すみま...う...。」
詩子に言われたことを思い出し、口を噤む。
「はぁ...、ほら授業始まっちゃうよ!立った立った!」
「はっ、はい...!」
詩子に急かされ、椅子から立ち上がりいそいそと3人は保健室から出てゆく。
「それじゃあ私たち先生からの頼まれごとをしなきゃいけないから、"サーニャ"行くよー!」
サーニャは詩子に手を引っ張られる。
「ま、待ってください!」
「えっ?」
サーニャ達が振り返ると、慌てる様に彼が駆け寄ってきた。
「いま"サーニャ"さんと言いましたよね!?」
「そ、そうだけど...?」
「も、もしかしてGGOやってたりしますか?!」
「え...っ!う、うん。」
「同じ名前で!?」
「えーっと、うん...。」
彼の顔がぱっと明るくなる。
「僕、昨日あなたに会ってます!僕"ピエージェ"です!まさか会えるなんて...っ!!」
「えっ...!?」
サーニャはGGOとのあまりのギャップに心底ビックリした。
「あれ、二人共知り合いなの?」
サーニャと彼は事情を話し、この時は授業開始の時間が迫っていたため放課後に再度会うことにした。
「お待たせ~。」
「はい、お待ちしてました!」
校門から出てすぐに、彼の姿があった。
サーニャたちは駅前のカフェでお茶をしながら話をすることになった。
「そういえばまだ君の名前聞いてなかったね。」
「あっ僕は、中等部2年の"
「あら、女の子みたいな名前だね。」
詩子がグラスに注がれた紅茶を手に取り、ストローで飲む。
「実はいじめられてる理由もそれなんです...。」
それを聞いて詩子は飲むのをやめた。
「あっ...ごめん。」
「いえ、良いんです!うちは代々名前に花に由来する名前を付けることになっているのでそれでらしいです。」
「へぇ...。」
「自分は気に入ってるんで良いんですよ、はい!」
「それで...、昨日はGGOでサーニャと戦ったと..。。」
「はい、負けちゃいましたけどね。」
「どうだったのサーニャ?」
詩子がサーニャに聞く。
「どうって言われても...。」
「強かった~とか、弱かった~とか。」
「うーん...トラップ主体のヒットアンドアウェイ戦法...。ただ一撃で勝負をつけないと長期戦になる、かな。」
「さすがサーニャ...葵君はサーニャと戦ってみてどうだった?」
「先程、初めてまだ数週間と聞きましたが...正直やり込んでるプレイヤーでもびっくりでしょうね...銃弾で銃弾を撃ち落とすなんて...それに動き方も初心者には思えませんでした...。」
「なるほど。サーニャ、言っちゃっても平気?」
「いいよ。」
サーニャが温かいコーヒーにミルクと砂糖を入れながら詩子からの問に返答する。
「こんな可愛い顔したロシアからの留学生のサーニャだけど、ここだけの話、実は元々向こうの士官学校生だったんだ。そこを卒業して本当はそのまま陸軍大学に入る所をこっちに留学生として来たってわけ。」
「というとつまり...?。」
「元士官候補生。」
サーニャはそう言ってコーヒーを飲んだ。
「でも凄いじゃないですか、通りでGGOでも強いわけだ...。」
「葵君。」
サーニャがコーヒーを飲む手を止める。
「は、はい?」
「なんだかGGOの時と話し方が違う...。」
サーニャがカップを受け皿に置いて、彼に聞いた。
「せ、先輩方の前なので...あはは...。」
「GGOの時はこんなしゃべり方じゃなかったの?」
あの場に居なかった詩子がサーニャに聞く。
「一人称は"俺"で、もっと勢いがあった。」
「うわーっ!サーニャさん恥ずかしいからそれ以上言わないでください!」
葵がテーブルから乗り出してサーニャに言った。
「えーっ!?今とぜんぜん違うじゃん~!」
「あ、あれは演技ですよ!現実の僕を出さないために!」
慌てて葵が身振り手振りで説明する。
「こっちでもGGOと同じ感じにしてたら良いのに。」
「それが出来たら苦労しませんよぉ...。」
葵が肩をがくっと落として、ため息を付く。
「えっと...あ、そういえば。スコードロンを組まれているということは今後、大会とかに出場する予定は有るんですか?」
再び姿勢を戻して、サーニャと詩子に聞く。
「うーん、得にはないなぁ...まだスコードロンの規模も小さいし。」
詩子が応える。
「僕、今度夏に行われるGGOプレイヤーが集う大会に出ようかと思ってたんですよ!一人でですけど...」
「大会?」
サーニャと詩子は顔を見合わせ首を傾げた。
「はい!リアルの1日を丸々使ってGGOで大規模戦を行う大会です!参加登録者はGGO内に設けられた別の専用マップに飛ばされて、戦うって言うものです。度夏休みを使って行われますから、予定さえ合えば可能ですよ!」
「うーん...まぁ私は参加...は、考えておくけど...。サーニャは?」
「自分の実力がどれくらいなのか試せるなら...出たい。」
「(あぁ、この子本気だ...。)」
そう思いつつ詩子は紅茶をストローでずずずっ、と飲み干す。
「もし詩子さんが参加するならぜひ3人で行きましょう!」
「あぁー...うちのスコードロンあともう一人いるんだけど...。」
「え、もう一人ですか?」
「うん、カウボーイのコスプレをしたおっさんなんだけど...。」
どこかでくしゃみをする声が聞こえたような気がする。
「は、はぁ...。」
「八百屋のおじさん。」
再び、くしゃみをする声が聞こえたような気がする。
サーニャが詩子の言葉に合わせて言葉を付け足す。
「え、八百屋...?」
「あぁ、八百屋はリアルのほうね...!」
「でも、腕は確かだよ。」
「まぁ確かに...。」
「ぜひ会ってお話してみたいです!」
「うーんと、じゃあ今日ゲーム内で会う?私まだ葵君のアバターは見たこと無いし、スコードロンに入るなら皆で顔も合わせないとだしね。」
「はいっ!」
「場所と時間は....。」
今夜、GGOで合うことを約束した3人はカフェから出ると、お互い帰路に着いた。
- SBCグロッケン アルフレッドの店 -
夜、サーニャ達はアルフレッドの店で集合し仕事が終わるスコッチを待っていた。
「中々かっこいいアバターね~。」
「ど、どうも...。ラファールさんのアバターも素敵ですよ。」
昨日のサーニャとの戦闘の時の彼は何処へやら、頭をポリポリし照れながらラファールのアバターを褒め返す。
「褒めても何も出ないぞ~。」
「ラファール、なんだかお姉さんって感じだね。」
サーニャがラファールをかからう。
「えぇ~、そうかな?」
店内の裏で談笑ををしていると、店の扉が開いた。
「すまん、遅くなった。」
扉を開けながら謝罪の言葉とともに店内に入ってきたのはスコッチだった。
それをサーニャが迎える。
「こんばんはスコッチ。」
「おう、サーニャ。新人は?男か女か?」
「"男の子"だね、もう来てるよ裏にいる。」
「男一人で肩身の狭い俺としちゃあそれはそれで安心だな。」
そう言うとサーニャとともに店の裏の部屋へと向かう。
「スコッチ来たよ。」
「遅くなった、で、新しく入ったのは?」
「俺です、どうぞよろし...げっ...。」
「な、なんでお前がここに...!」
2人が睨み合う。
「仲悪そうだけど何、二人共知り合いなの?」
椅子に座っているラファールが二人に聞いた。
「いや、こいつが賞金首になってた時に一度俺と戦ったことがあるんだが...。」
スコッチが部屋を入ってすぐの壁に凭れながら言う。
「卑怯な手使って逃げやがって...!」
「卑怯だなんて!スモークグレネード使って逃げただけで大体、便利な物があるのにカウボーイの真似事なんかしてそれ以外の武器を使わないから俺を見失うんですよ!」
「なんだと!」
2人が言い合う。
「はいはい!ストップストーップ!」
ラファールが間に入って止める。
「うちのスコードロンに入った以上、一緒に"仲良く"やってもらうからね!それに、今回ピエージェ君を誘ったのはサーニャだから、スコッチは文句があるならサーニャに言いなさい!」
「えっ、サーニャ...?」
スコッチがサーニャの居る方を振り返ると。
「(じー...)」
サーニャは死んだ魚のような目でスコッチを見ていた。
「あぁ...すまん...。」
「ん...。それでラファール、大会の件はどうするんだい?」
サーニャが先ほどリアルの方で話していた、夏の大会の参加についてラファールに聞いた。
「スコッチ、夏休み取れる?」
「夏休み...?あー、取ろうと思えば取れるが...。」
「サーニャは、夏休み大丈夫?」
「さっき店長に電話したら"行ってきていいよ"だって。」
「じゃあ決まりだね。」
ふぅ、っとラファールは一息つく。
「ということはラファールさん...!」
ピエージェがラファールに近づき聞く。
「えぇ、私を含め、うちのスコードロンは夏の大会に参加します!」
「おいおいなんだよそりゃ、聞いてないぞ!」
スコッチがラファールに駆け寄る。
「提案はピエージェ君で、教えては貰ったけど自分でも調べてみたら夏休み中に開催されて、プレイヤーがGGO内に設けられた別の専用マップに集って大規模戦をするんだとか。頑張ってねスコッチ、期待してるから~。」
「何じゃそりゃ!?」
ラファールがスコッチにウィンクをしてみせる。
すると、スコッチは後ろから肩を叩かれ、振り返ると
「スコッチ、頑張ろ。」
サーニャがサムズアップしてスコッチを励ましていた。
「で、でもなぁそんな大会だったら予選とか有るんじゃないのか...?」
「"スクワッドジャム"と同じく予選は無いですよ、こっちから主催の日本のGGO運営に参加の旨を書いたメールを送ればそれで参加完了です。」
「説明ドーモ。」
スコッチとピエージェは相変わらずお互い睨みつけている。
「はぁ...大丈夫かなこれ...。」
ラファールは大きなため息をつき、再び2人の間に入るのであった。
- GGO内 SBCグロッケン外部 某所 -
「ほら、アンタから誘ってきたんでしょ?このクズ!」
フィールドに響く少女の声。髪を後ろで二つに結び、その二つ結び目には大きなリボンがつけられている。
「も、もう許してくれぇ!ごはぁッッ!!」
その少女の足元には後ろ手に
少女の蹴りがそのプレイヤーの腹部に刺さるように入る。
「そろそろ死んじゃうかも、また打って。」
「うん。」
少女が話しかけた相手、全く瓜二つの容姿をした少女だ。
アイテムストレージから体力回復用のオートインジェクター(自動注射器)を取り出す。
「おい...?!もうかんべんしてくれぇ!!!」
彼の言葉など耳に入らぬかのようにその少女は、取り出した注射器を彼の首筋に勢い良く刺す。
「その注射器ちょっと高いんだから、もっと私達を楽しませてよね~、あはっ!」
そう言うと、ぐったりとした彼の頭部を足で起こす。
「へ、へへ...。いい眺めだぜ...。」
頭を足で無理やり起こされた彼の目線の先には、少女のスカートの中が見えていた。
「誰が見て良いって言ったの?! 変態!」
少女は足を彼の頭から更に上げて、それを勢い良く振り下ろし彼の頭の天辺に踵落としを食らわせる。そして、アイテムストレージから自身の武器、
「ぐあッッッ!!!」
彼の両太ももが赤く煌き、ポリゴンの破片が宙に浮かぶ。
「お姉ちゃん、そろそろ拘束アイテムの耐久値が0になるよ?」
トレンチガンを持っている少女と瓜二つの、もう一人の少女は拘束しているプレイヤーの後ろに立っており、拘束用アイテムが赤く煌き始め、耐久値が0になりかけているのに気づいた。
「えぇ~、もう時間?しょーがない、終わりにするかぁ。ほら立って!」
そう言って彼を立たせると、再びトレンチガンのポンプ動作をする。
「さっさと殺せよ...! このクソガキ...!」
フラフラとしながらも少女たちに悪態をつく彼。
少女達はお互い顔を見合わせて、ニッコリと笑う。
「じゃあ終わりにするね!」
そう言うと少女らしい微笑みをしたまま、トレンチガンを構える。彼の下半身に向けて。
「は...?」
短くも長く感じたその時間は響き渡る数回の銃声によって幕を閉じ、彼の今まで以上の悲鳴がフィールドに広がる。
「はぁ~あ、全然楽しめなかった。」
メニューウィンドウを操作し、まだ銃口から硝煙の上がっているトレンチガンをアイテムストレージへ戻す。
「そういえばお姉ちゃん。」
「うん?どうしたの?」
「夏休み、GGOの大会があるみたいなんだけどどうする?ほら、これ。」
もう片方の少女がメニューウィンドウを開き、ブラウザを立ち上げイベントページを表示する。
「大規模チーム戦かぁ。」
「どう?」
「もちろん出るでしょ!」
「そう言うと思ってもう"参加します"って運営にメール送っておいたよ。」
「流石、頼れる妹だね~!」
そう言って、少女はもう片方の少女の頭を撫でる。
この少女達こそ、スコッチが探している"双子の悪魔"で、数カ月後の大会でサーニャ達が戦うことになることをまだ彼女達も、そしてサーニャ達もまだ知る由も無かった。
第一章 終
*1 "M11/9"
1969年にゴードン・イングラムの経営するSionics社が、同社の"MAC-10"の小型版として開発した"MAC-11"を後年MAC社から製造権を受け継いだSWD社によって9mm×19弾を使用するよう改良されたサブマシンガンである。
最大の特徴は延長されたレシーバーの後半部であり、ボルトの後退量を稼いでいる。このため発射サイクルが低下し、あまりのじゃじゃ馬で弾薬を弱装の.380ACPに落とさざるを得なかった本来のMAC-11の弱点を解消し、多少コントロールしやすくなっている。
*2 "拘束用アイテム"
GGO内で使用される手錠のようなもの。
SFチックな見た目で、使い方は現実世界の手錠と一緒ではあるが、解錠方法は鍵ではなく予め設定された4ケタのパスワードを本体の小型モニターに入力しなければ解錠することはできない。
なお拘束はゲームの仕様上15分間であり、拘束したその時から耐久値が減り始め15分後に耐久値が0になり、消滅する。
*3 "M1897 Trench"
ジョン・ブローニング設計によるポンプアクション式散弾銃。同じくブローニングが設計した"M1893"の問題点を改善させたもので、元がレバーアクション式だった物をポンプアクションに改めたため、後のモデルと異なりハンマーが露出しているのが大きな特徴。M1897のグレードの一つである"トレンチ"は塹壕戦で扱いやすくするためバレルが若干短くなり、M1917バヨネットを装着するための着剣装置が加わっている。また過熱した銃身から射手の手を守るため、バレルジャケットも追加されているのが特徴である。第一次大戦では、塹壕戦の狭所戦闘にて凄まじいまでの有効性と残虐性を示し、"トレンチガン(塹壕銃)"の異名を得るほどまでに活躍した。