ガンゲイル・オンライン:Apex of Gunfighters 作:EoEo.
- SBCグロッケン某所 酒場 -
SBCグロッケンで一番栄えているこの酒場は今日も客のプレイヤー達がどんちゃん騒ぎをしている。
そして今日は特に客数が多く、その理由は酒場内に設置されているモニターで大会のリアルタイム中継が行われているからだ。
すると入り口に付けられた鐘が店内に響き渡り、二人の客が入ってきた。
二人は、がらんとしたカウンター席を選んで席に着くと他の客が二人の男に寄ってくる。
「見てたぜ兄ちゃん達!たった二人だけで大会に望むとは無謀すぎにもほどがあんだろ!」
寄ってきた男の一人が口を開くと
「うるせぇ、ほっといてくれ!」
と、二人のうち片方のニットキャップをかぶった男がそう言うとヘルメットをテーブルの横に置いたもう一人の男と一緒に酒が注がれたグラスを片手で掴み、ぐいっと一気に飲み干す。
この二人の男、大会始まって早々攻撃を仕掛け、カウボーイ風の男にとどめを刺されたあの二人組であった。
「一応兄ちゃん達に賭けた奴等も居たんだぜ?ほらあそこに」
駆け寄ってきた男の一人が指差した先には二人組の男たちをこれでもかとばかりに睨みつける数名のプレイヤーたちが居た。
「まぁなんだ、兄ちゃん達もライブ中継でも見て楽しんでいけよ、なんなら倒された奴等に賭けても良いんだぜ?」
そう言うと寄ってきた男らは自分たちの席に戻っていった。
「あああ!!そこで死ぬなよ!!」
「ははは!残念だったな!1万クレジットだ、1万クレジット!ほらお前らもだ!」
「くっそぉ!この金で装備を一新するはずだったのによぉ…!」
「またしばらく狩り生活だぜ、チクショウ…!」
酒場にいるプレイヤー達は大会中に起こる戦闘でどちらのスコードロン、もしくはプレイヤーが生き残るかを賭けているようで、この酒場だけで一体どれだけのゲーム内通過が飛び交っているだろうか。
「おい!そっちはどうだ?!」
賭けに一人勝ちした男は意気揚々と別のテーブルに座っている賭けを仕切っているプレイヤーの男に声をかける。
「これじゃあ全然賭けにならねぇ!これ見てみろよ!」
賭けに勝った男がモニターを覗き込む、それに続いて周りのプレイヤー達もそれに続く。
モニターには二人組の少女がプレイヤーを次から次へと屠って行く姿が映し出されていた。
「誰もこの娘らと戦ってる連中に賭けやしねぇ、まぁ負けると分かってる野郎に賭ける馬鹿も居ねぇんだがな」
「なぁ、あれって最近噂の"
「可愛い顔して容赦ねぇぜホント…」
周りのプレイヤーがざわざわとし始める。
「あぁクソ!またスコードロンが全滅しやがった!運営は他のプレイヤーを映せってんだ!」
描けを仕切る男がそう言うとそれに合わせたかのように映像が切り替わる。
「おっ切り替わったぞ、こっちもドンパチやってるな。カーチェイス中か?」
モニターには白いバンが黒のピックアップトラックに追われ、双方銃撃戦を行っている映像が流れている。
「おい、白いバンに乗ってるのそこの兄ちゃん達を倒したスコードロンだよな?」
「あぁ、そうだ」
モニターに食い入る男たちの質問に天井に吊り下げられた大型モニターをカウンターから見ていた先程の二人組のヘルメットをかぶっていた男がそう答えた。
「これ本島と結ぶ橋の上か?」
「5対4…なんとも言えんな…」
「なぁどっちに賭ける…?」
「なぁこの助手席に乗ってる子可愛くないか?」
「いやいやこっちの銀髪の子だろ?」
「何言ってんだこっちの金髪の方だろ?」
「俺始めたばっかだがGGOに女子って存在するんだな、都市伝説だと思ってたぜ…」
男達がモニターを見ながらあれこれ話していると。
「おい今!バンから女の子が放り出されなかったか!?」
カメラのアングルの関係でその様子ははっきりと見えなかったが、再び中継のカメラがバンの中を写すと銀髪の少女は映っていなかった。
「白いバンの中に居ないってことは…」
「やられたか?」
「なんだよ、せっかくあの子に賭けようと思ったのに」
酒場の客が全員そのテーブルに集まり、その映像に釘付けになっている。
ここで一人の男が口を開く。
「いや、まて…助手席のやつ、なんか無線でやり取りしてないか?」
バンの前方から映し出された映像にかすかに映る助手席のオレンジ色の髪をしたプレイヤーの姿。その手は耳に当てられ、どうやら誰かと喋っているようにも見える。
「もしかしてまだ生きてんじゃないのか?」
「あのふっとばされ方でか!?」
「おいこっち見てみろよ!」
別のテーブルのモニターの映像に気がついたプレイヤーがそれを指差すと、そのモニターには黒いピックアップトラックから大男が走行中の車から飛び降りる映像が映し出されていた。
「どうやら落ちたあの子にとどめを刺しに行くみたいだな」
「ようしお前ら!ふっとばされた銀髪の女の子とこの大男!どっちに賭ける!?」
賭けを仕切る男がそう叫ぶと、店内で一斉にこの二人に対する賭けが始まった。
- ISLアーネスト 東側市街地 -
「いたた…」
バンから放り出されたサーニャは市街地の大通りに面した一角にある高級飲食店の窓ガラスを突き破っていた。
幸いにも店内の二人掛けソファがクッションとなりダメージは半分に抑えられいるものの、サーニャのHPゲージは3分の2程度減少していた。
「装備は…」
右手でメニューウィンドウを開く、幸いにも破損した装備は無かったがサーニャのAKが手元に無い。どうやら吹き飛ばされた際に身体からスリングごと脱落したようだ。
「困ったなあ…、とりあえず皆に連絡しなきゃ」
サーニャは無線ではぐれてしまったラファール達に無線を飛ばす。
「ごめん、放り出されちゃった」
サーニャがそう言うと、途端に驚きと心配を隠せないラファールの声が帰ってくる。
『さ、サーニャ!?無事なの!?』
「結構ダメージ貰っちゃったけどなんとか…」
サーニャはそう言いながら自分の足元にマップを展開、ラファール達の位置を確認する。
「そっちの位置はマップで把握してるから、こっちから合流できるように向かうよ。それまで耐えてて」
『一人で平気なの!?』
その言葉にメインウェポンであるライフルを失った不利な状況を考える。
が、ふと天井を見上げると照明にスリングが引っかかり揺れているAKを見つけた。
「大丈夫。また何かあったら連絡するよ」
そう言って無線を切った。
改めてサーニャは店内を見回すと、長く使われてない店なのだろうか壁はぼろぼろになり、天井の隅にはクモの巣が張っている。また吹き飛ばられてきた時に突き破った窓ガラスの破片が窓際の床に大きく散乱していた。
「よいしょ…んんんっ…!はぁ…」
サーニャは天井にぶら下がった自分の愛銃を取り戻すために手を伸ばすが、少し高い天井に下がった照明とその小柄なアバターの身長故に手が届かない。
「何か足場になるもの…、ちょうどいいところに」
サーニャの近くには木でできた椅子があり、それを足場に銃を取ろうとする。
「よっと…あれ…?」
サーニャが片足を乗せ足に力を入れて上に登ろうとした途端、木の椅子は音を立てて無残にもばらばらになってしまった。どうやら長い間放置されていたため固定具にガタが来ていたようだ。
次はテーブルを足場にするかと考えていたその時、じゃりっとガラス片を踏む音が聞こえサーニャはとっさにストライクワンをホルスターから引き抜いてその音の方向へ構えるも姿は無い。
「…?…あっ…!」
一度は構えを解こうとしたサーニャだが、陽の当たる窓際に人の影があるのを見て
躊躇なくその影の主へとトリガーを引く。しかし弾は金属製の何かに当たるような音がしてサーニャも当たった感じがせず違和感を感じる。
「何か…防がれてる…?」
サーニャはその相手との距離を取りつつ其処にいるはずの人物に的確に弾を当てる。だが、やはりすべて金属質の何かに妨げられている様だ。
そして透明なその人物はサーニャがストライクワンの弾薬を撃ち尽くし、スライドストップがかかった時、姿を表した。
「大きい...」
それはまさに"大男"という言葉にふさわしいプレイヤーで、2メートルはあるのでは無いかと思える身長とそれに見合う筋肉質の太い身体と手足。そして、サーニャが感じた違和感の正体は左腕に装着された、展開式の金属製の盾であった。
すると大男はベストの背面に付けられた革製のシースから大型のマチェットを引き抜くと店内の床を大きく揺らしながらサーニャに近づいてくる。
その光景を見つつ、冷静にマガジンを交換したサーニャは立て続けに向かってくる大男に発砲するが構えられた盾は大男の全面を覆い、狙える隙間が殆ど無い。
大男はサーニャがマチェットの攻撃範囲に到達したのを確認すると勢い良く振り下ろす。
「くっ…!」
その動作に気づいたサーニャは一度後ろへバックステップ、大男のマチェットの刃は店内の木製の床に勢い良く刺さる。
サーニャは床に刺さったマチェットの背の部分に足をかけてジャンプ、大男の頭上を超えて空中から盾の無い背部へと攻撃を行う。
「これでどう…!」
手に持ったストライクワンで3発、大男の背に向けて発砲。
弾丸は裏から抜ければ確実に心臓と首を撃ち抜く位置に着弾しているが、男は全くもってピンピンしている。
どうやら彼の着ているベストは正面に限らず背面も分厚い防弾プレートが入っており、そして首周りを覆っている厚い襟も防弾素材でできている様だ。
サーニャはそれらを見て、唯一ヘルメットなどの防具が装備されていない頭部に狙いを定めるが着地姿勢に移らなければならないのと、男がすかさずサーニャに向かって盾を構えた為にこれは不可能となった。
「ッ…!コレじゃダメだ…!」
盾を貫通するどころかノックバックさえ与えられない9x19mmパラベラム弾を撃つサーニャのストライクワンでは対処しきれない。
サーニャが地面に着地するとマチェットを握っていない、展開前の盾が付いた大男の左腕が水平にスイングされ、サーニャを打撃。
「うっ…!?」
一瞬の判断により両腕でガードするも鉄製の盾によるその打撃力は凄まじく、サーニャは店の壁へと吹き飛された。
その際、手に持っていたストライクワンも弾き飛ばされてしまいサーニャは撃てる銃を完全に失ってしまった。
「くぅ…」
自身の視界右下に写っているHPを見ると4分の3程にまで低下していた。
大男は壁に打ち付けられた衝撃で床に座り込んでいるサーニャにゆっくり近づくと彼は耳元に手を当て、
「対象を発見、これより無力化する」
と、今まで塞がっていた口を開く。
送信先から何やら返事が帰ってきているようだが内容は概ね了承、許可だろう。
大男は無線が終わると、下ろしていたマチェットを再び強く握り込みサーニャに向かって縦に大ぶりで振り下ろす。
「隙あり…!」
振り下ろされたマチェットはサーニャの頭部目掛け勢い良く振り下ろされるはずだったが、直撃の既の所でサーニャは自身の背にしまってあるブードゥーホークを引き抜き、これを受け流す。
「何…ッ!?」
仕留めたと思いこんでいた大男はサーニャのその行動に一歩後ろへ仰け反るが、そこへサーニャの一撃。
「ここっ…!」
大男の装備の中で数少ない守りが薄い部分、脇の下へサーニャはブードゥーホークのとびの部分を力いっぱい差し込む。
「ぐあッ!?」
GGOの人体の急所に関する再現度はとてもリアルで、事実人間の急所の一つである脇の下に鋭い刃を差し込まれた大男のHPゲージはMAXから一気に半分を下回っている。
また脇の下は神経が集まる部分である為、サーニャが突き刺した脇のある大男の右腕は麻痺という形で動かすことが不可能になっていた。
「こいつッ…!」
大男は機能を失っていない左手で再びサーニャにフルスイングの盾パンチを御見舞いしようとするがサーニャはこれを腕で受け流すように避け、男の懐へ。
「…っ!」
「ごはッ…!?」
身長差を活かし、素早く懐に入ったサーニャは大男の顎に向けてアッパーを決める。
男も負けじと左手でサーニャのプレートキャリアの背部にあるハンドルを掴みサーニャを店の奥へと放り投げるが、放り投げた先には先程サーニャをフルスイングで吹き飛ばした際に彼女が落としたストライクワンが転がっていた。
放り投げられたサーニャは床を転がりつつ自身が手放したストライクワンを再び手に取ると男に向かって走りながら連射。
「くッ…!」
男は盾をすぐさま展開しサーニャの放つ弾を防ぐ。
しかし、鉄製の盾には覗き穴等がない為防いでいる間は盾を構えている側の視界は遮られてしまう。大男はサーニャが発砲しながら接近してくることに気づかないのか、盾を構えたまま動かない。サーニャはこれを利用し大男へ撃ちながら一気に距離を詰める。彼女のストライクワンのスライドストップが掛かったと同時に盾を踏み台にして大男の頭部へブードゥーホークによる一撃を食らわせようとする。
が、盾を踏み台にしようとしたその時、サーニャの目に飛び込んできたのは床に突き刺さったマチェットに立てかけられた男が腕に装備していたはずの盾であった。
「そんな…!」
一瞬サーニャがその光景に惑わされた時、急に彼女の首元が締め付けられ身体がぷらりと宙に浮いた。
「うっ…」
「あのまま倒せたと思ったか?」
サーニャは首を絞められながら声のする、首を締め付ける"手"と思わしきそれが伸びてきているであろう方を見ると誰もいない筈の空間が突如ぼやけ、先程まで盾の後ろに居た大男が今サーニャの目の前にその姿を表した。
どうやら大男はサーニャが盾へ制圧射撃を行っている隙に盾だけを外し、マントの透明化スキルを使ってサーニャを欺いた様だ。
彼女の首を使える左の手で持ち、腕力だけで彼女を軽々と持ち上げ勢い良く地面へ叩きつける。
「こうすれば手は使えないだろう?」
大男はサーニャの両腕を両膝で押さえつけるように馬乗りになり、尚も首を絞め続ける。
「ッ...あぁぁ...!」
サーニャは力を出し振り解こうとするも大男の巨体はまるで一枚岩のように重く、びくともしなかった。
「あと数秒もすれば死亡判定だ、それまで見届けてやる」
サーニャの視界右下に映るHPゲージの少し上に追加表示されたO2(酸素)ゲージが0になり身体は軽い麻痺状態に、既に減っていたHPゲージがジリジリと減って行き、HPゲージが危険を示す赤色表示に変わるとそれを知ってか、大男の口元がにやりと緩む。
と、その時大男の左側面に赤々とした線が2つ程伸びている。
それは紛れもないバレット・ラインだった。
「何っ!?」
大男が気づいたときには遅く、横腹と肩の位置に着弾。しかしこれは防弾装備に当たったため大したダメージにはならなかった。
が、射撃音が全く聞こえず、これに驚いた大男はサーニャの首を絞める腕を緩め彼の注意はバレット・ラインと銃弾が飛んできた方向へと向いていた。
「どこからだ!」
男はサーニャから離れ、胸のホルスターから今まで抜かなかった
すると店の入口の扉が勢い良く開き、それに気づいた大男は入口に向かって数発撃ち込む。彼の放った弾丸はまっすぐ入り口の方へ飛んで行ったが、空中で何かにぶつかり弾け飛んだ。
それと同時に誰も居ない店の入り口の空間がぼやけ、大男に発砲した人物が正体を表した。
「お前は…!」
店の入口に現れたその人物の正体は大男と同じメタマテリアル光歪曲迷彩マントを着たあのサイボーグのプレイヤーだった。右手には
「くっ…!」
大男はその姿を見るや否や、サイボーグのプレイヤーに向かって再び2発、3発、4発と次々に撃ち込むが、すべての弾丸を左手に持った光剣で切り落とされる。
サイボーグのプレイヤーはマガジン内の弾を打ち尽くし、スライドストップの掛かった大男の銃と彼を見て、
「お前を倒す相手は俺では無い」
と、サイボーグのプレイヤーはそう言うと右手に持った自身の銃を大男の方ではない店の天井の方へと銃口向け、
「何…?」
サイボーグのプレイヤーが放った1発の銃弾は天井から吊り下がった照明のワイヤーを打ち抜く。そこにはサーニャの武器、AKがスリングごと引っかかっており照明が落下すると同時に当然銃も落下する。ここで酸欠状態の麻痺から回復したサーニャが飛び込み、これを素早くキャッチ。
「ありがとうサイボーグの人っ…!」
そのまま店の床を滑りながらトリガーを連続して引き絞り、数発大男へと撃ち込む。
「クソっ…!」
大男はとっさに足元に転がっている自身の盾を蹴り上げ、銃弾を間一髪のところで防ぐ。
が、宙に舞う盾の隙間から一気に間合いを詰めるサーニャの姿があった。
大男は直ぐさまデザートイーグルの再装填を行おうとするが、サーニャの接近には間に合わずマガジンを入れる前に彼女の掲げる右腕に握られたストライクワンの銃口が彼の顎に触れていた。
「お返しだよ…!」
乾いた一発の銃声が店の中に轟き、薬莢が床に落ちる音が響いた。
大男は身体の力が抜け壁にもたれかかるようにして倒れると、顎下から脳天に赤くきらびやかなエフェクトを出しつつ頭上に死亡を表すDeadマークが表示された。
「ふぅ…」
流石大会だけあって強いプレイヤーが参加していると改めて感じ、更にゲームならではのフィクション的なスキルや装備に未だ対応しきれていない自分がまだまだであると実感したサーニャ。
ふと、店の中を見渡すと先程まで店の入口に居たあのサイボーグのプレイヤーが居ないことに気づく。
「また消えた?」
そう思いつつ激戦を行った店を後にし、逸れたラファールたちと合流しようとするサーニャであった。店を出るとそれほど遠くない距離から複数の銃声が聞こえ、自分たち以外のプレイヤーもすぐ近くで戦っているのかと思うサーニャ。
「おい、こっちだ」
聞き覚えのある機械音声のする方へサーニャが振り向くと店の屋根に立ち、こちらを見下ろしている先程のサイボーグのプレイヤーの姿があった。
「そこに居たんだ、さっきはありがとう」
「礼など要らん、それにあいつとは少し因縁が有ったからな」
「どういうこと?」
「なに、過去のことだ。それよりマップを開いてみろ、丁度衛星が回ってくる時間だ」
サイボーグのプレイヤーのその言葉でマップを開くサーニャ。
「お前の仲間は今、市街地西側の外れで戦闘中のはずだ。見てみろ」
サーニャ自身が居る市街地北側からマップ表示を西側にずらすと、ラファール達の表示と重なるようにして別の、先程サーニャが倒した大男も属するスコードロンのマーカーも表示されていた。
「奴らの名前は
「まぁ…そうだね」
「俺はこのままデビルツインズを追う、気を抜くなよ」
そう言ってサイボークのプレイヤーは早々に立ち去ろうとする。
「ちょっと待って、そういえば貴方の名前を聞いて無かった。多分知ってると思うけど私はサーニャ、貴方は?」
サーニャがサイボーグのプレイヤーにそう言うとメニューウィンドウを開き、自身のプロフィール欄をサーニャの方へ飛ばした。
「"ショール"?それが貴方の…あれ?」
サーニャがサイボーグのプレイヤーのプロフィール欄から"ショール"(Schorl")"という名を確認し、再び目線を戻すと既にサイボーグのプレイヤー、ショールの姿は無かった。
「変わった人だなぁ…それはそうとラファール達に連絡を取らないと」
サーニャは無線アイテムでラファール達に連絡を試みる。
「ラファール?ラファール達大丈夫?」
「サーニャ!?連絡が来ないから心配してたけど大丈夫そうね…!うわあっ!」
ラファールの言葉の合間にノイズのように響く着弾音と発砲音。
「そういえばなんかデカイ人がサーニャの方に行ったみたいだけど大丈夫なの!?」
銃声で聞こえづらいのか、自然と声を張り上げるように無線越しでサーニャに問うラファール。
「ちょっと手こずっちゃったけどなんとか倒したよ」
「そう!なら良いんだけどこっちは今透明マントの人達と撃ち合いになっててそろそろやばいかも…!」
無線からでも伝わるラファールの焦り混じりの声。
「分かった、出来るだけそっちに早く合流できるようにする。もう少し耐えてて」
「おっけい…!」
ラファール達の戦況が気になるが一旦無線を切ったサーニャは、いち早く合流すべく移動手段となる乗り物を探し始める。しかしサーニャが振り落とされた高級飲食店を出たストリートには一台も走行可能な車両は無く、あるのは車であったのだろう錆びて朽ち果て鉄屑同然なものばかりであった。
「バイクとかでも良いんだけど見つからないなぁ…」
ラファールと連絡を取ってから5分ほどが経ちサーニャの顔にも焦りが見えてくる。
ふと、サーニャはとある家の脇にある小屋が目に留まった。
「うーん…?」
小屋の丁度真ん中には裏から栓か何かで頑丈に閉められた大きな扉と、そのすぐ横にある何重にも南京錠で施錠が施された扉。それは"いかにも重要な何か"が隠されているようなものだった。
サーニャは背にしまってあるブゥードゥーホークを手に取ると南京錠には目もくれず、ひたすらに木製の扉を叩き壊す。
ドアブリーチ用のショットガンをサーニャは持ち合わせていないため南京錠を手持ちの銃で撃っても壊れないと考えたからだ。
「一体こんなところに何をしまったの…さっ…!」
ブゥードゥーホークでボロボロになった木製扉を勢い良く蹴破るサーニャ。
叩き壊された扉の板が崩れ小屋の中が露わになり、そこにはカバーが被せられた何やら大きなものが埃を被っていた。
「もしかして車…?」
大きさとシルエットから察するサーニャは、その埃を被ったカバーを丁寧に剥がすと出てきたのは。
「うわぉ…」
小屋とカバーのおかげか、外に放置してある鉄屑と化した車とは大違いに塗装ハゲもなく新車同然の姿でその車は姿を表した。
低く構えた流線型の車体、小屋の隙間から射す陽の光がその深い青のボディを輝かせている。その形状はまさにスーパーカーである。
「乗り物を探しては居たけど流石にここまでは…」
サーニャが見つけたのはフィールドアイテムとして無数に置かれた物でもレアに位置するものであった。サーニャはまさかのスーパーカーの登場に驚きつつも戦闘中のラファールと一刻も早く合流する為、栓で塞がれていた小屋の大扉を開放し運転席の扉を開けAKを助手席に放ると自分も颯爽と乗り込む。
「鍵は...ここだよね」
駐車場でスコッチに教えてもらった鍵が閉まってある運転席側のサンバイザーを開けると、案の定車のキーが出てきた。
「えっと…どうやってエンジンを掛けるんだろう…」
間違えて戦闘機に乗り込んでしまったのではないかと思えるほどのインテリア。
サーニャは車内を見回してエンジンスタートのボタンを探す。
「これだ…!」
運転席と助手席の間にあるフロアパネルに設けられた白地で"ENGINE START"と書かれた赤いボタンをサーニャは押すとセルモーターが駆動し、地面から湧くような低くいエンジン音が車内に響き渡る。それは長く封印されていた獣が目を覚まし、走り出すのを今か今かと待ち望むように。
「さぁ、行こうか」
突き上げるエンジン音が小屋の屋根を揺らし、久々に日の下に出た獣はエンジンの吹け上がりも良くゲームの設定上とは言え長らく放置されていたにも関わらず上機嫌だ。
サーニャはアクセルを踏み込み数ブロック先のラファール達が待つ地点へと走らせた。
*1 "デザートイーグル Mark XIX L6"
強力な.50AE弾を使用することで知られるデザートイーグルの最新型。
アメリカ、マグナムリサーチ社が製造するこのデザートイーグルMark XIX L6は通常モデルのデザートイーグルから約340gほど(通常モデルの重さは約2000g)軽量化されており、バレル上にはウィーバータイプ、バレル下にはピカニティー規格のレイルを装備し各種ドットサイトやフラッシュライト等を装着可能。
マズルブレーキの為に大胆に肉抜きされたマズルフェイスは軽量化と射撃時のリコイル低減に一役買っている。
*2 "マキシム 9"
アメリカのサイレンサー市場で40%を売り上げるSilencerCoが製造する銃とサプレッサーを一体化させたハンドガンである。
その名の通り、9mm弾を使用する本銃は同社のショットガン用サプレッサー"Salvo 12"や、"オスプレイ・マイクロ"と同じく着脱バッフル方式を採用しており、ユーザーの好みによってバッフルの数を減らし、全長を短縮させることも可能。
また、内蔵したサプレッサーは発砲時のガスで反動を抑える効果もある為、反動の少なさは他の銃にない撃ち応えをユーザーに与えるだろう。
*3 "BLACK SPOOK"
サーニャ達が戦闘中のスコードロン。メンバー全員がメタマテリアル光歪曲迷彩マントを装備しているのが特徴。
サイボーグのプレイヤーと何らかの因縁があるようだが?
名前の由来は"SPOOK"が幽霊(特にシーツを被ったお化け)を指す言葉で、マントを被ったその姿がそう見えることから。