涙の跡が残る目元をハンカチで拭きながら、狐の話しを聞く少女――北凪。その隣には、この地球に似た世界に連れて来られた時に唯一手に持っていた本をパラパラと読んでいる少年――南条も、狐の話しを横目に聞いていた。
「じゃあ何? この地球にそっくりな世界は、もう一つの地球で、ここに居る【影無為】だっけ? これは……えっと……」
チラッと助け船を南条に求める。
「はあ……。本当の地球に居る人達の影。だろ?」
そう、それよ! 何故か自分が言ったかの様に、誇らしげに胸を張る。
『はい。大まかな事は、だいたいそんな感じです』
狐の声……なのだが、少しだけ掠れている様にも聞こえる。
「うーん。それで、どうして残り二人なの?」
北凪の向いた場所は、壁に飾られていた神棚だった。
「ってかお前……なんでわざわざその神棚に入る訳?」
読んでいた本を閉じて、神棚を睨み付ける形で話し掛ける。
『えっとですね……。ぶっちゃけると、ここの方が居心地が良いと申しますか……』
姿が見えないのでどんな表情をしているのか分からないが、声のトーンからして、申し訳ないという気持ちで言っているのだろう。
「まあまあ、良いじゃない。誰にでも居心地良い場所ってあるでしょ?」
「……別に、攻めてる訳じゃないさ」
誰にでも居心地の良い場所。それは、この二人だってあるのかも知れない。
「それで、 狐さん。さっきの話しにもどすけど、どうして残り二人なの?」
椅子に腰掛け、机の上に両腕をダラーンとさせていた。行儀が悪いと言って、持っていた本で北凪の頭を叩く。
叩かれた北凪は涙を流しながら、頭をさする。
『そうですね……何と説明したら良いか。簡単に申しますと、この地球……パラレルワールドに来てしまった人間は、貴方がた二人だけではないからです』
自分達だけではない。それを聞いた北凪は、勢い良く椅子から立ち上がる。
「え!? 本当なの!?」
神棚を力強くわし掴みしているからなのか、微かだがミシミシと軋む音が聞こえて来る。
『は……はい。自分には、それを感知する能力があります。あの地震の時にこの世界に転位してしまった方は、少なくとも後二人だと思います』
その言葉に反応したのは北凪――ではなく、南条だった。
「何!?」
もっと詳しく聞く事にしたらしく、狐の声がよく聞こえる位置まで移動する。その足音は、苛ついている様にも聞こえてしまう位、大きな音だった。
『……どうして、貴方がたを含む四人がこの世界に来てしまったのか……それは、自分にも分かりません。ですが……残り二人は、生きている筈です』
「どうして分かるの?」
神棚に埃が付いているのか、右手で払いながら訪ねる。
『……【影無為】以外の気配がするからです。貴方の様に人間の気配が、です。このパラレルワールドは、人間は存在しませんから』
狐のこの言葉が希望に聞こえたらしく、北凪は満面の笑顔へと変わる。
「そっか……。じゃあ早く見つけて、助けてあげないとね? 武器とかないと、戦えないでしょ?」
貰った刀を横目に見ながら、再び笑みを溢す。