気がつくと、何もかも真っ白い六畳くらいの部屋にいた。
「……なんでさ」
いや本当に何故?昨日は普通に自分の部屋で布団に潜って寝たはずなのに。
とりあえず辺りを見回してみることにする。ドアや窓のようなものが一切見当たらない。
……俺どうやってこの部屋に入ったんだろう?
「気になります?」
「うわあっ!?」
いきなり声がした。思わず振り向くと__いつの間にか部屋の中央に机と二脚のイスが出現していた。
イスの片方には、黒いドレスを纏い、同じ色の眼鏡をかけた女性がもたれている。先程の声はその女性のものらしかった。
「えーと、貴女何物ですか?」
「これからお話しますよ。立ち話もなんですから、座ってくださいな」
くすくすと笑いながら、女性がイスを指差す。壁や床と同じ材質のように見えるイスは、意外に座り心地がよかった。
「……さて、何から聞きたいですか?」
腰掛けて正面を向くと、女性が再び口を開いた。その色っぽい微笑みに、思わずどきりとしてしまう。
……まあ、それはそれとして
「えーっと、じゃあ……
・ここはどこなのか
・貴女は何物なのか
・何故俺の体は向こう側が透けて見えるのか
この三つについて教えてもらえますか?特に三つ目について詳しく」
そう__何故か知らないが俺の体は『透けて』いるのだ。他のことはともかく、流石にこれは説明がつかない。
「__落ち着いていらっしゃいますねぇ。普通もっと取り乱すものなんですけど。
まず一つ目。ここは現世とあの世の境界線に私が造った部屋です。
二つ目。私はただのけちな堕天使です。つまらないことをして天界を追われてしまいまして、最近とても退屈しています。
最後に三つ目。これは簡単__貴方が死んでいるからです」
……ああ、やっぱりね。
「そうじゃないかとは思ってましたよ__で?こんなところに俺を連れてきてどうする気ですか、堕天使さん?」
「……ふふっ、本当に面白いヒトですね。こんな状況なのにほとんど動揺しないなんて__まあ、それは置いて本題に入りますか。
さっきも言ったように、私は非常に退屈しています。ですので貴方、私の暇潰しに付き合ってください」
命令形ということは他の選択肢はないんですね、わかります。
「……具体的に何をすれば?話し相手ですか?」
「それもいいですけど、私は他人と話をするより劇を見る方が好きなので、貴方には貴方がいたところから見た並行世界__つまり創作物の世界に転生してもらおうかと思っています」
「……ああ、なるほど。完成された脚本に異物を放り込んでどうなるか見たいわけですか」
「その通り。理解が早くて助かります__ああ、ちなみに転生先は貴方がよくご存知の『魔法少女まどか☆マギカ』の世界ですので」
ぱちぱち、と彼女が拍手をした。適当に言ったがアタリだったのか。
……しかし、『まどか☆マギカ』ねえ?
「私からの条件は、『どんな形でも構わないのでストーリーの本筋に関わり、変化をもたらすこと』。これだけです」
「ちょっと待ってください。本筋に関わるとなるとミンチにされて終わる可能性が99%なんですけど」
前世ではただのモヤシだった僕だ。あっという間に死ぬ自信しかない。
「ああ、ご心配なく。私の能力の一部を貴方に差し上げますので、それを精々活用してくださいな」
そう言うが早いか、彼女は机越しに体を乗り出し__
「あ、ガッ……!!??」
__透き通った俺の首すじに噛み付いた。そのまま何かを流し込まれ、同時に体中がかっと熱くなる。
「能力の扱い方とデメリットは脳に刻みましたので、向こうに着けば分かりますよ。それでは、良い人生を」
その言葉と同時に、俺の意識は闇に落ちた。
・ ・ ・
「はてさて、不幸にもこのベルゼブブ《わたし》に魅入られた彼は、どんな物語を見せてくれるのでしょうね……今から楽しみでしょうがないです」
白い部屋の中、蝿の王は嗤う。自らの力を与えた彼の末路に思いを馳せながら__