「あー……暇だ。何で検査入院なんてしなきゃならんのだ」
誰もいない深夜の病室というのは思いのほか退屈だった。壁のシミを人の顔に見たてて遊ぼうかと思ったらシミ一つない真っ白な壁だったので何もできなかった時のもどかしさは異常。
……まあ、それは置いておくとして。宿主の記憶が違和感なく馴染みすぎて怖い。ひょっとして死んだ体に入り込んだのではなく、某ナメック星人のように人格が統合されたのだろうか。
「しかし、予想以上にとんでもない人間関係だったなぁ……」
ちょっとほじくり返したら、もう原作キャラとの関係が出るわ出るわ。間違いなくあの堕天使の仕業だ。向こうからの高感度もえらいことになっている。
鹿目まどか……妹。すこぶる良好な関係だが、向こうは勉強ができる俺に劣等感を感じている模様。他は原作通り。
美樹さやか……妹分のようなもの。向こうからは中々懐かれているらしい。他は原作通り。
志筑仁美……妹の友人。そこまで深い付き合いではない。原作通り。
上条恭介……弟分。向こうは何故か俺を尊敬しているらしい。原作と異なり、宿主の暗躍の影響でさやかの方に少し矢印が出ている様子。宿主GJ。
巴マミ……友人。本の貸し借りなどをよくしている模様。他は原作通り。
佐倉杏子……知人。何回か教会を訪ねた経験あり。他は原作通り。
……あー。考え事してたら眠くなってきた。もう寝てしまおう__
『やあ』
「ッ!?」
体を起こし、窓の方を振り向く。満月の青白い光の中に、一つのシルエットが浮かび上がっていた。
ウサギとネコの中間のような姿に、耳から垂れた房毛。感情の気配がない、無機質な赤い瞳。
そう、コイツは__
『僕の名前はキュゥべえ。鹿目葉介、君に伝えなきゃならないことがあって来たんだ』
『__おめでとう、君は今日から喰種《グール》になったんだ!』
「……は?」
* * *
『__というわけさ。理解してくれたかい?』
「ああ」
あれからキュゥべえに
・魔法少女と魔女について
・
・俺の持ってる赫子の種類について(因みに全種類というチート)
の説明を受けた。(まさかこっちの世界に同族が存在していて、しかもそいつらは普通の食べ物を食べられないとは思っていなかったが。赫子のことといいつくづく俺は例外的な存在らしい)
『それにしても驚いたよ。四種類全ての赫子を併せ持ち、しかも覚醒してすぐそれを使いこなす
……最強の
「んなこと知るかよ……そういえばキュゥべえ、質問いいか?」
『なんだい?』
「__俺たちに魔法少女や
そう、ここが重要だ。魔法少女にとっての魔女化のように、とんでもない落とし穴が仕掛けられている可能性がある。既になってしまっているので今更知ってもどうしようもないが、それでもいざという時の覚悟くらいは決めておきたい。
『……まあ、隠すことでもないしね。葉介、君はエントロピーっていう言葉を知ってるかい?』
それから話されたのは、原作9話でまどかに話されたのと大体同じようなことだった__喰種《グール》の話を除いて。
・
・一人の
・しかし
……と、いうことらしい。
「なるほど、魔女喰わないと死ぬのと普通の食べ物喰えない以外特にデメリットはないわけか……じゃあ、
『餓死、戦死、老衰だね。ごく稀なケースとして、極度の飢餓で理性を喪失して暴走した結果、魔法少女に討伐されるというのもあるけれど』
なにそれ怖い
『しかし、君が理性的で助かったよ。魔女が元々魔法少女だということを説明すると、激昂して襲いかかってくる
「……へえ」
まあ__そいつらの方がヒトとしては正常だろう。魔法少女の骸を踏みしだき、何も感じずその上を平気で歩けるような人間は、ヒトとは呼べない。
そういった連中は、人でなしと呼ばれる。
……最も、人でなしであったからこそ堕天使《かのじょ》に魅入られたのだろうが。
『そうだ、君にこれを渡しておかないとね』
「ん__?うおおっ!?」
キュゥべえの背中の口(?)が開き、その中から何かがこちらに向かって飛んできた。そこグリーフシード食うための器官じゃなくて小物入れ的なあれなのか。マジでびっくりだわ。
「……なんだこれ、デジタルの腕時計か?」
それにしてはデザインがのっぺりしているし、本来時刻が表示されているはずの液晶には『0』の文字があるだけだ。
『魔女を倒して食べきれなかった時に、余ったエネルギーを貯蓄するための装置さ。君が横のスイッチを押せば黒い角砂糖のような物体が排出されるから、狩りに行けなかった時は飲み物に溶かして飲んで空腹を抑えるといい。それを溶かしておけば、体に悪影響が出ることもないからね』
「……なるほど。この数字は『角砂糖』の個数を数えるためのカウンターか」
『その通り。「角砂糖」三個で平均的な
これは良いモノを貰った。万が一狩りすぎても大丈夫というのは、精神的にかなり楽だ。
『それじゃ、僕はもう行くよ__この街には魔法少女が多い。縄張りや魔女の取り合いにならないよう注意してね』
「……善処する」
確約はできないがな。
* * *
「あー……だるかった」
検査の結果、特に異常なしということで無事退院しました。しかしお見舞いイベントすらない野郎の入院とか誰得だよ。
それはそうと、今は魔女を捜索中だ。宿主の記憶によると「ちょっと散歩」と言い残して外出することはかなり頻繁にあったらしいので、特に不自然だと思われることもなく家を出ることができた。
「……お、こっちから匂うな」
因みに魔女の魔力は、
幽かな痕跡を辿り、路地裏に踏み入る。薄暗い中結界の入口が視認できた。
躊躇わず踏み込む。どこかグロテスクな絵画のような空間の中で、強くなった甘い香りに混じって鉄臭い臭いが鼻を突いた。
「……血の臭いがするってことは、魔女か使い魔か知らんがもう何人か喰ってるんだな。それなりに強いだろうし、楽しみだ」
結界の中にもう一歩踏み込むと同時に__首のないキリンのような使い魔がわらわらと湧いて出た。灰色の翼が背中から生えており、飛行しながらこちらに向かってきているものも__
「って首のないキリンって最早キリンとは呼べないだろ!!」
「■■■■■■■■■__!!」
「ごふっ!?ちょ、何でいきなり動きが速くなるんだよ!!」
ツッコミ入れたら体当たりで跳ね飛ばされた。解せぬ。
「つっても、まあ__」
再び接近してきた使い魔に、カウンターで手刀を叩き込む。胴体が綺麗に両断され、黒い靄となって消滅した。
「紙装甲だし攻撃力もしょぼい……赫子出さない戦い方を練習するのにはちょうどいいか。強さは魔女の方に期待だな__それでは、いただきます」
直後、絶え間無い悲鳴と、何かが潰れるような湿った音と共に__一面に黒い華が咲き乱れた。
* * *
「っと、結界はここみたいだよ、マミさん」
「ええ……あら?結界が歪んでるわね。誰か魔法少女がいるのかしら?」
「とりあえず結界に入ろうよ。苦戦してるかもしれないし」
「……そうね、そうしましょうか。行くわよ、佐倉さん!」
「はいっ!マミさん!」
__彼女達はまだ知らない。結界の中に魔法少女や魔女どころではない『
劇中の使い魔はオリジナルですが、次の話に登場する魔女はモバゲー版に出てきたものを流用します。
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