魔女を喰らう転生者   作:金木

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毎度遅い上に不定期で申し訳ありません……今回からは好感度は変動した人のみ表示します。


月光__ゲッコウ__激昂 其壱

魔女に喰われた、誘拐された。大体の可能性は想定してたが__

 

 

「ほんと、これは予想外だ」

 

 

佐倉妹……もとい、モモちゃんは先程から微動だにせず、虚ろな目でぼんやりと宙を見つめている。瞳が赫眼になっているので余計に不気味だ。

 

 

出しっ放しになっている赫子__四本の白い蛇腹剣のような形状__には、べったりと魔女の体液らしきものがこびりついていた。

 

 

「……何をするにしても、とりあえず近づかないことにはどうにもならんよな」

 

 

砂まみれのコンクリートを踏みしめ、一歩近づいた瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

ぐりん、とモモちゃんが上体を捻じ曲げてこちらを向いた。その虚ろな赫眼に俺の姿が映り込む。

 

 

「ッ!?」

 

 

同時に、先程まで地面に力なく投げ出されていた赫子が大蛇のように持ち上がった。完全に戦闘態勢だ。

 

 

「殺る気満々だなオイ」

 

 

いくら幼女とはいえ、赫子のポテンシャルのみであの銀の魔女を倒した相手である。油断しているとおそらく手足の一、二本は容易く持っていかれる。

 

 

「____」

 

 

モモちゃんは完全な無言、無表情だ。母親が父に親よって殺され、父親が自殺するのを見て、更に魔女と自分のおかしな力の追い討ちで感情が麻痺しているのか。とりあえず気絶させた方がよさそうだ。

 

 

「____」

 

 

風切り音と共に、彼女の腰から生える赫子のうち二本が急速にその長さを増大させた。元の長さの数倍ほどにはなっているそれは、巨大な鋏のように俺の首と膝を切断しようと迫ってくる。

 

 

「よっと」

 

 

体を捻りながらジャンプし、頭を狙った赫子を跳び越える。背後ちで運の悪い街路樹が二本ほど真っ二つになった。

 

 

次の瞬間、腹部に焼けるような痛みが走った。視線を下ろすと、二本の赫子が貫通しているのが見える。

 

 

「っぐ……!うまい手だな。本能だけでこんな動きしてんのか?」

 

 

赫子を伸ばして鋏のように動かすことで、下と後ろへの退路を断ち、逃げ場を身動きの取れない上空に誘導。残りの二本による攻撃を確実に当てる。普通こんな幼女ができる芸当じゃない。おまけに木を切った二本もこっちに戻してトドメを刺そうとしてるし。

 

 

まあ、今刺さってるのは消化管だからマシだが、肺や心臓に刺されたら流石に命が危ない。黒ひげ危機一髪じゃあるまいし。

 

 

「というわけで__そりゃ」

 

 

赫子(尾赫)を使って腹に刺さったものを半ばから切り落とす。地面に落ちた直後に頭上を戻ってきた二本が通過していった。

 

 

「よいしょ……っと」

 

 

体内に残った赫子を二本とも引き摺り出し、投げ捨てる。その間モモちゃんは不思議そうに切り落とされた赫子の先端を眺めていた。

 

 

地面を蹴り、至近距離まで詰め寄る。とりあえず顎を殴って気絶させようと拳を繰り出し

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ痛!?」

 

 

その拳が腕ごと赫子に絡め取られた。鋭い刃が肉に食い込み、血が流れ出す。

 

 

「__って、痛い痛い痛い痛い!何この痛み方!?」

 

 

肉を直接ヤスリで削られているような感覚だ。そうか鱗赫だから表面がザラザラしてるのか成る程。しかもまた残りを構え直して首切るつもりらしいし。

 

 

「まあやられる前にやればいいだけの話だけど」

 

 

こちらも赫子を振るい、モモちゃんの顎を撃ち抜いて脳を揺らす。どさりと小さな体が地面に落ちた。少々手こずったがあっけない終わりだ。

 

 

「しかし、どうするかなぁ……」

 

 

家に運ぶわけにもいかないし、人目に付かないどこかの廃ビルにでも連れ込むことにしよう。

 

 

* * *

 

 

「ん。あのビル人が来なさそうだな」

 

 

格好だけなら妹を背負った兄だが、セリフと格好を照らし合わせると完全にロリコンの誘拐犯である。モモちゃんの服は汚れてる上に赫子出てた部分は破れてるし……通報とかされなかったろうな。

 

 

埃まみれの床に横たえる。蹴り起こすのも躊躇われたので、自販機で買った水を顔にかけることにした。

 

 

「!?はぶっ、げほっ!ごほっ、ごほっ__!!」

 

 

「OK、まずはその物騒なものをしまおうか。君が攻撃しなきゃこっちも攻撃しないから」

 

 

……水かけた瞬間速攻で飛びのいて赫子を出しやがった。妊娠中の猫か何かか。とりあえずホールドアップして敵意がないことを示す。いざとなったら赫子で攻撃できるので実質のところこのホールドアップには全く意味がない。

 

 

「俺は君の敵じゃない。聞きたいことがあるだけだよ。今からする質問に話せるなら口で答えて。話したくないなら頷くか首を横に振るだけでいい。分かったね?分かったら返事して」

 

 

優しい声音と柔らかい表情で話しかける。大抵の子供はこれで安心させられるんだが__

 

 

「……」

 

 

こくりと頷いたものの、依然として赫子の(きっさき)はこちらに向いたままだ。いくら何でも警戒し過ぎだろう。しかし話を聞こうとする姿勢を見せただけでも前進だ。

 

 

「じゃあまず一つ目から__君のお名前教えて?」

 

 

セリフが本物の誘拐犯じみてきたが気にしたら負けだ。

 

 

「……モモ」

 

 

少しの沈黙の後、おそらく人の聴力では聞き取れないであろう掠れた声で名前が呟かれた。

 

 

「モモちゃん、か。じゃあ、お家はどこ?お父さんとかお母さんはいる?」

 

 

「……知らない。わかんない」

 

 

(……心因性の記憶喪失か)

 

 

よく見ると服の前面にナイフや包丁で滅多刺しに刺された痕跡が見えた。信頼してた父親に刺されたショックで家族に関わる記憶を全部封印した、ってところだろう。表情筋が死んでるし。

 

 

「……クズが」

 

 

「ひ……!」ビクッ

 

 

「あ、いや。何でもないよ。怖がらせちゃってごめんね」

 

 

つい感情を抑えられず表情と声音が崩れ、モモちゃんを怖がらせてしまった。Be cool、鹿目葉介。フラットに行こうじゃないか。幼女を怯えさせるなんて紳士の風上にも置けないぞ。

 

 

……やばい。最近キャラがブレてる。さっきの思考を活字にしたら変態以外の何物でもない。このままでは某吸血鬼もどきの人間と同類になってしまう。アレのようになるのだけはごめんだ。

 

 

閑話休題。というか今の状況では計画が根本から瓦解してしまうが、どうしたものか。

 

 

「モモちゃん、これから何かしたいことある?」

 

 

「わかんない……」

 

 

ですよねー。本当にこの子どうするかなぁ……とりあえずヤツを呼ぶか。

 

 

「__キュゥべえ!居るんだろ?出てこい!」

 

 

『呼んだかい?葉介』

 

 

「ねこさん?」

 

 

相変わらず胡散臭いな。口開けて喋れよ。

 

 

『やあ始めまして。僕の名前はキュゥb「営業トークは後にして、お前しばらくこの子の面倒見てろ。勝手にどこかに行こうとしたら別の個体通して俺に伝えろよ?」……話を遮るのはやめてくれないかな?』

 

 

うるせえ。お前俺とモモちゃんが戦ってる間からずっといやがったくせに分かってんだぞ。

 

 

「モモちゃん。お兄さんは出かけてくるから、こいつと一緒にしばらくここにいてくれるかな?どうしても俺に会いたくなったらこいつに言って」

 

 

モモちゃんは不安そうにこちらを見上げている。わしゃわしゃと頭を撫でてみた。

 

 

「……わかった」

 

 

全く表情が動かないが納得はしてくれたようだ。ちょろい。

 

 

* * *

 

 

「あー……疲れたー。腹減ったー」

 

 

現在、夜八時。一時間ほど前にあの廃ビルにモモちゃんを匿うため、ざっと掃除をし、ヒーターや毛布、まどかの古着などを運び込む作業を終えたところである。

 

 

そして今は、獲物を探して魔女の出そうな場所をうろついている最中だ。

 

 

「お、みーっけ」

 

 

空腹により更に鋭敏になった鼻が、すぐ近くにある結界を捉えた。その場所まで歩いていき、入口をこじ開けて入り込む。

 

 

入った瞬間に違和感を覚えた。元々は桜並木のような結界だったようだが、辺りの木は途中から折れたり弾痕だらけになったりしている。おまけに遠くから発砲音のような音と人の血の匂いがし、更に辺りには見覚えのある装飾がついた何丁かのマスケット銃が打ち捨てられていた。

 

 

「……巴、か?戦況はどうなってるんだ?」

 

 

目を閉じ、聴覚に意識を集中する。

 

 

普段はある程度セーブされているものの、喰種の五感は凄まじい。集中さえすれば、遠く離れた場所の音からですら様々な情報を得られる。足音の大小から質量、音色で質感、反射で周辺環境、心臓の律動で人物像をも把握可能なのだ。チート乙とか言われても仕方ないレベルである。

 

 

(……巴との直線距離350、使い魔は粗方相当済、か巴がその場から動いてない?足にケガでもしてるのか?)

 

 

いや、それ以前に一人ってことは__もう佐倉とは決別してるのか。それで戦闘にも影響が出たな?

 

 

「放置しとくと危ないかもな__しょうがない。友達のよしみで助けてやるか」

 

 

普段はゆっくりと戦いながら向かう結界の奥へ全力疾走する。途中にまだ生きた罠があるかとも思ったが、何の苦もなく最深部に続く扉の前に到達できた。

 

 

扉を蹴破り、中に踏み入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何となく、嫌な予感がした。

 

 

* * *

 

 

__桜。桜。血。桜。桜。

 

 

俺の目に飛び込んできたのは、吹き荒れる一面の桜の花びらと、その中心で佇む魔女。そしてその魔女の触手に持ち上げられたままピクリとも動かない巴の姿だった。

 

 

「__ッ、人のクラスメイトに何してやがんだクソ魔女が!」

 

 

瞬時に頭が沸騰した。羽赫を発現させ、邪魔な花びらを薙ぎ払いながら魔女の足元に突っ込む。

 

 

「__オ、ラァッ!!」

 

 

羽赫を振るう。ザシュ、という音と共に巴を捕らえていた触手が地面に落ちた。すぐに抱きかかえて魔女の側から離脱する。

 

 

巴の容体を診る。変身は既に解けており、背中と腹にまるでショットガンかで撃たれたような傷がついていた。特に背中が酷く、肉が抉れて流れ出した血で服が真っ赤に染まっていた。

 

 

だが、生きてはいる。ソウルジェムは無事で、ヒビが入ったりはしていない。このまま放置したら魔女になるレベルでドス黒く濁ってはいるが。

 

 

「■■■■■■■■■__!!!!」

 

 

不愉快な音が鼓膜を揺らす。魔女が殺気を撒き散らしながらこちらに向かってきていた。髪だか指だかよくわからない触手をがさがさと動かして移動している。

 

 

「はは、触手(ソレ)切られたのが癪に障ったか?」

 

 

巴を後ろに横たえ__魔女の顔とおぼしき場所に全力の蹴りを叩き込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かが潰れた感触と共に、結界の反対側まで魔女が吹き飛んだ。

 

 

 

 

「__お生憎様だが、こっちは過去最高にブチ切れてんだよ」

 

 

黒羽が俺の怒りに呼応するようにざわざわと揺れる。

 

 

 

 

 

 

「さあ、殺しに行くぞ。逃げんなよ__!」

 

破裂音と共に、足が地面を蹴った。




【result】

from葉介

佐倉モモ【憐憫】



今回出したのは『春の魔女』です。姿を知りたい方は検索していただければ
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