第六節 ー夜が降りてくるー
幻想郷に夜が訪れる…長い長い夜が
その闇夜に紛れて妖精達は長剣を片手に空を飛ぶ
それぞれが襲撃を仕掛ける陣営へと
「これまた大所帯ですね」
その陣営の一つ紅魔館の門番を務める紅美鈴は館に来る妖精の数に少々驚いていた
「多分ウチはノーマークっぽいからそんなに数寄越してこないって言ってたのに…お嬢様の予測は外れましたか」
美鈴はやれやれといった感じで溜め息を吐く
「荒事は専門外…せめて話が通じる相手だったら良かったのですが…」
「そんな事言ってる場合ではないでしょう」
美鈴の隣に一人の妖精メイドが現れる
「おや、ウィンディですか他の者達の配備は済んだのですか?」
「えぇ、何処から攻められようと対応出来る配置にしました」
そう言うウィンディの後ろには他の妖精メイド達が武装を構えていた
「流石ですね」
「恐縮です」
ウィンディも武装を構え他の妖精メイドに指示をする
「お前達、連中を指先だろうと館に入れるな!情けも無用、全力で叩き潰せ‼」
その指示に妖精メイド達は武装を掲げて応える
「「「了解ッ!警備隊長殿ッ‼」」」
妖精達は気付けば少し離れた場所で列を成して歩いていた
「…………」
一人が長剣を構えるとそれに続いて他の妖精が次々と長剣を構える
「来ますね」
「えぇ、そうですね」
「夜食までには終わらせたいですね」
「お腹空いちゃいますから今それ言うのやめて下さい」
少々間抜けた会話が終わると同時に戦闘が開始される
美鈴と前衛を務める妖精メイド達が敵の妖精達の元へと突撃する
「やはり数が多いですね」
美鈴は四方八方から襲い掛かる妖精達の長剣の一閃を気を纏った拳で弾き反撃の蹴りで妖精を十体程体吹き飛ばす
「同感ですよ」
ウィンディは特殊な形状の短剣で相手の長剣を絡め取りそのままへし折りいつの間にか取り出した小型の拳銃で数体を撃ち抜く
「このままでは思うようにらちが明かないですね」
「ではどうします?」
「思うようにらちを明けます」
そう言うとウィンディは投刃を投げて牽制しながら後ろに下がる
「射撃隊、前に出て構えっ!」
ウィンディが後方で待機していた銃を持った妖精メイドの射撃隊に指示を出す
その指示が出た瞬間に射撃隊の全員が同時に指示通りに構える
「よし…前衛射線離脱急げ‼」
ウィンディはそう言いながら小型の拳銃で上に二発発砲する
その発砲音を聞いた最前線で戦っている美鈴と妖精メイド達は即座に射線から離れる為に上空に飛ぶ
「射撃隊、射てえぇぇえい‼」
皆が上空に離脱したのを確認した直後に射撃隊に命を出す
その命に従い射撃隊の妖精メイド達は一斉に銃を発砲する
「……!?」
先程まで前衛の者達と戦闘していた妖精達は銃弾の嵐に巻き込まれその殆どが倒れる
「これで少しは減った筈です」
「ですが怯む様子はないですね…厄介な」
前にいた妖精達は倒れたがその後ろにいた妖精達は怯む事なく長剣を構えて歩いて来る
「何体いるんですか全く…仕事熱心ですねほんと」
「見習ったらどうです?」
「あはは…手厳しいですねウィンディ…カルシウム取った方がいいですよ?」
「貴女の仕事中の居眠りが多すぎるからですよ、あと牛乳イッキ飲みは毎日の日課です」
軽口を叩き合うと美鈴とウィンディは迫り来る妖精達の元へと駆ける
「多く倒した方が今日の夜食貰うってのはどうです?」
「勝てるビジョンが見当たらないので遠慮します」
妖精達の大群を見て溜め息を吐いていたのは紅魔館の者達だけではなかった
「人里にも容赦なしか…やってくれるな」
幻想郷の殆どの人間が住む人里、妖精達は其処にも狙いを定めていた
「やるしかないようだな…」
青髪の半人半妖の女性上白沢慧音は空を覆い尽くしそうな数の妖精を見て目を細める
「こりゃ大忙しですね慧音さん」
慧音の隣に片目を髪で隠した少女が歩いてくる
「君は…確か彼の店の看板娘の…」
「いや看板娘とかじゃないですよほんと」
少女は苦笑いしながら首を振る
「私の名は琥珀ですよ琥珀、何回か店来てるんだから覚えて下さいよー」
琥珀と名乗った少女は手に持っている布に巻かれた長い何かを慧音に渡す
「ご注文の品です」
「相変わらず仕事が早いな、助かる」
「ま、こういう所でしっかりやらないとあの店本当に潰れかねないんで仕方がないって感じですね」
「彼が聞いたら何て思うかな?」
慧音はくすりと笑いながら言う
「あ、勿論店長にはご内密にお願いしますよ?」
「そうか?彼はそういうのを気にしない性格のはずだが」
「他人が言うのと私が言うのは反応が違うんですよあの人…以前口が滑って万年閑古鳥が鳴いてますねー何て言っちゃった日なんて…うっ、寒気が」
「それは流石に君が悪いだろう…」
慧音は再びくすりと笑うと琥珀から渡された何かから布を外す
「ふむ…これが…」
布を外すと一振りの刀が姿を現す
「幻想郷屈指の刀鍛冶師が鍛えた業物ですよ」
「この刀に名はあるのか?」
「ありますよ『
「…それは皮肉か?」
「そんなの名付け親に言って下さいな」
琥珀は慧音の視線から目を背けながら背負っている木の箱を開ける
「とりあえずお仕事の続きでも…」
琥珀はしばらく木箱の中を漁ると中から変わった形の鉤爪のような物を取り出しそれを腕に装着する
「仕事内容の確認です、その刀『百託』のお届け、その後に今夜の人里防衛戦の戦力として戦線に参加…で宜しいですね?」
「あぁその通りだ」
気付けば人里まであと少しの所まで来た妖精達の足元目掛けて琥珀は何かを投げつける
「ご利用ありがとうございますこれは所謂お客様サービスです」
琥珀はそう言いながら何かのスイッチのような物を押す
「………‼」
「………!?」
琥珀がスイッチを押した瞬間投げつけた何かは大爆発を起こし妖精達の一部は遠くの彼方へ吹っ飛ぶ
「はぁ、私こういうの苦手なんですが…仕方がない」
「よし行くぞっ‼」
慧音の合図をすると色々な所から武装をした人や妖怪が姿を見せる
「おぉ、これが噂の」
琥珀はその武装集団の数に少し気圧される
「私が率いる里の最高戦力"人里人妖連合"を舐めるなよ皆の者、私に続けぇ‼」
慧音が『百託』を鞘から引き抜き妖精達に斬りかかるとその後を武装した者達がそれに続く
「今度店長に有給休暇申請してやるぅ‼」
「…多分無駄だろう」
紅魔館、人里の二つの陣営は激戦を切り広げる中、不気味な程静かな陣営が二つ存在した
「静かですねぇ…こんな事なら本来の予定の取材でも行けば良かったですよ全く…冗談ですそんな睨まないで下さい」
「貴女の場合は本当に行きそうですから…」
一つは妖怪の山
「今宵も夜桜が美しいですよ西行寺様」
「えぇそうね…怖いくらいにね」
もう一つは白玉楼
この二つの陣営は今夜来る筈の妖精の群れを迎撃する為に準備を整えて待ち構えていた
「…マジで何もないんですか?帰っていいですか?」
妖怪の山に住まう天狗の一人鴉天狗の射命丸文はつまらなさそうにカメラを弄る
「いや駄目に決まってるでしょう」
そんな文を逃がさないようにと監視しているのは白浪天狗の犬走椛
「だって情報だと紅魔館と人里は現在戦闘中との事じゃないですか」
「えぇ、私の千里眼もそれを確認しています」
椛の千里を見渡すその眼は紅魔館と人里の戦闘の様子が映っていた
「じゃあ山に何か来る様子は?」
「ないですね、ですが今日の夜が明けるまではこの任務は続行されますのでお忘れなく」
「うっへぇー…」
白玉楼でも妖精どころか人っ子一人来そうにない状況に疑問を抱いていた
「結界を張っているとはいえこうも誰も来ませんか、流石に不自然ですが…このまま何も無ければ夜の花見でもいいかもしれませんね西行寺様」
白玉楼の庭師である魂魄妖夢は主である亡霊の姫、西行寺幽々子に軽い冗談を言う
「…そうねと言いたい所だけれど」
幽々子がそう呟いたその数秒後、白玉楼に張られていた結界が何者かに斬り裂かれる
「…やはりそうなりますか、私が見てきます西行寺様は此処でお待ちを」
「えぇ、気を付けてね」
妖夢は刀を手に持つと驚くべき速さで地を駆ける
「ここですか…む」
結界が斬り裂かれた場所に着くとそこには刀を持った青髪の少女が居た
「あらら、もう誰か来たの?」
「えぇそうですよ侵入者さん?」
「ありゃりゃ…こりゃ面倒な事になったなぁ」
少女は頭を掻きながら辺りを見回す
「…―なっ!?」
「巻き込まれないでよ」
その言葉が耳に入る前に妖夢の全神経が危険信号を送る
「そぉれ‼」
少女は地面に刀を突き立てるとその場所から大量の氷が溢れるように生み出される
その氷は全てを飲み込み周囲は氷漬けになる
「チィッ‼」
早めに距離を取っていた為か妖夢は巻き込まれずに済んでいた
「へぇ、勘がいいね」
「それはどうも…妖精共が来ない代わりに貴女が来たということですか」
「ん?私は遅刻したほうだよ?他の奴らはもう来てるはずだよ…様子見してるだけでしょうね」
「成る程…他にもですか」
「それにここまで妖精達は来れないよそのための結界なんでしょ?」
「今貴女に斬られましたがね」
「じゃあ…この後どうなるのかもなんとなくわかるんじゃない?」
次の瞬間妖夢は妖精の気配を察知するそれもかなりの数を
「おやおや…今まで何も感じなかったのですが…鈍っちゃったかな?」
「さぁね、とりあえずここ、落とさせてもらうよ?」
「お断りします」
妖夢は今尚辺りを飲み込み続ける氷を刀の鞘で砕きそのまま抜刀し少女に斬りかかる
「ま、そうなるよ…ねっ!」
少女は地面に突き立てていた刀を即座に引き抜きその斬撃を受け止める
「貴女、名は?」
「"武士"ここではそう呼ばれてるかな?」
「そうですか…では武士、死合いましょうか」
妖夢と武士は互いに笑みを浮かべると同時に一端離れ、再び斬りかかる
「貴女は此処で散りなさい!」
「そんなの御免だね!」
場面は変わり妖怪の山
「白玉楼にも敵が現れたようです…それも妖精だけではないようです」
「そうですか」
椛の千里眼は白玉楼に現れた敵を補足していた
「(ですがこちらには変わらず敵の来る気配なし…椛も白玉楼の方に目がいっていますしその間に―)」
そろそろ本気で仕事を破棄して逃走しようとしていた文だが何者かの気配を感じ取り空を見る
「椛…よそ見をしている暇はもうないようです」
「え?一体どういう…―」
文に肩をつつかれようやく千里眼を解いた椛の視界にあり得ない光景が突如飛び込んでくる
「な…空が…!?」
空が割れていた、硝子のように、あっけなく
割れた空の向こう側には塗り潰したような黒がこちらを覗いていた
「空間を…!?まさか八雲紫っ!?」
「いえ、あの女はあんな真似出来ないし出来てもしない」
「じゃあ誰の仕業なんですかあれは‼」
椛の問いに対して文は割れた空を指差す
「恐らくあれでしょうね」
そこには鼻歌を歌いながら空を歩く男がいた
「さて…お仕事開始ですか」
椛がその言葉を聞いたときには文はもうそこに居なかった
「やぁどうも」
文は男に話しかける
「あ?」
男は気分を害したのか不機嫌そうな様子で応じる
「ちょっと取材させて下さいよ」
「はぁ?無理無理忙しいから」
男は興味無さそうに背を向けて何処かへ行こうとする
「そうはいきませんよー」
文は風が吹くよりも速く男の目の前まで一瞬で移動し笑みを浮かべながら言う
「私にも記者としてのプライドがありましてね、現場に居た貴方を見逃すわけにはいかないんですよー」
「…」
「という訳で教えて下さいよ…あれ、誰がやったか知ってます?それとも貴方が?」
満面の笑で問う文に対して男も同じように満面の歪んだ笑みで言う
「言葉選んでねぇで言いたい事言えよ鴉女」
その直後男の上半身と下半身が離ればなれになる
「立場を弁えろよ三下が」
少し遅れて吹き荒れる風の轟音が響く
「む?これは…?」
飛び散った身体が硝子のように砕ける
「何すんだよ…危ねぇじゃねぇか」
文の後ろの空間が砕けると先程真っ二つになったはずの男が無傷でそこにいた
「手応えを感じなかったからもしやと思いましたが…何をしました?」
「さぁなんだろうな?」
男は嗤う
「あ、別に答えなくてもいいですよ?どうせ潰しますし」
文も同じく笑う
「囀ずるなよ小鳥風情が」
「侵略者を気取るなよ小物風情が…この幻想郷の何処の誰に喧嘩を売ったのか…知れ」
妖怪の山に嵐が吹き荒れる
砕け散った空をも飲み込みかねない嵐が
「名を聞いておきましょう…新聞に載りますよ?この私射命丸文に葬られた憐れな侵略者気取りとしてね?」
「ほざけ小鳥が…"悪魔"、てめぇを葬る奴の名だよ」
二人は互いに睨み会うと揃って口元を歪ませる
「「………殺すッ‼」」
激戦を繰り広げられている四つの陣営の様子を見ていた者達がいた
「射命丸文、接敵」
幻想郷の管理者、八雲紫の式神である八雲藍は紫の借り物の隙間を使って各陣営を見張っていた
「これで永遠亭を除く全ての陣営が戦闘を開始したか…」
「 」
藍と一緒に陣営の見張りをしていた橙は後ろにいる自分達の主である八雲紫に問う
「陣営の責任者に伝えて、後少しで完成すると―」
「何が完成するって?」
紫の言葉は何者かの声で掻き消される
「やっぱり此処には貴女が来るのね」
紫は大して驚きもせずに声の聞こえた方を向く
「こそこそ隠れていい身分だな」
「貴女には言われたくはないわよ…管理者さん」
そこには髪先をリボンで結んだ少女が居た
「貴様よくもぬけぬけと…!」
「よしなさい藍、時間の無駄よ」
紫は袖からクナイを取りだし戦闘態勢を取る藍を制止する
「ですがこいつはッ‼」
「いいのよ、彼女の罪は私が裁く…これは閻魔様にだって譲りはしない」
「大きく出たな紫、今のお前の権限では前のようにはできんぞ?」
そう言うと管理者と呼ばれた少女は掌からノイズの塊のような物体が出現させる
「血の気が多いわね、けど今の私は忙しいの、裁くのはまた今度…橙、頼んだわよ」
「 」
紫が命を下した瞬間妖気を纏わせた爪を構えて管理者の前に出る橙
「貴様が相手か」
「 」
「邪魔だ退け」
「 」
「…もう一度言う退け」
「 」
管理者は溜め息を吐くとノイズの塊のような物体を槍のような形にして投げつける
「なら果てろ」
「 」
橙はそれを横に飛び退き回避する
「 」
橙は変わらず聞こえぬ声で喋ると少し笑う
勿論誰にも聞こえない笑い声で
「相変わらず気色悪いなお前は」
管理者は再びノイズの塊を生み出すと今度はそれを剣の形にする
それを見た橙は笑うのをやめて一瞬で管理者の懐に潜り込み爪で斬りかかる
「 」
「断る」
管理者のノイズの刃と橙の爪がぶつかり合う
「紫様…」
「分かってる、そんなに長引かせるつもりはないわよ?貴女は皆の様子を見るのに徹してちょうだい」
紫は橙と管理者が戦っている中巻物に筆で何かを書いていた
「間に合いますか?」
「間に合わせる、橙と他の皆が必死に時間を稼いでくれてるのよ?これで間に合わなかったら会わせる顔がないのよ!」
筆で字を書くとその字の色は黒から紫へと変わり妖気を帯びる
「藍、もう一度言うわよ?各陣営の皆に伝えて…後少しで出来上がる、それまで皆持ちこたえてねって!」
かなり間が空いてしまいました霞ヶ原です
仕事が少々ハードになりメンタル満身創痍中です
さて今回六話なわけですがキャラが大量に登場しています
キャラ説明の更新のほうがヤバイ
そしてそのキャラ説明のほうが閲覧する数が多い…多分最初にこれ読んでから読もうとする人が多いんでしょう
…修正しときます
これからも頑張って投稿していきますよろしくお願いいたします
感想や指摘がありましたらガンガンボロクソ言っても構いません、お待ちしております!