BLEACH reencarnacion medusa   作:ガブリエール

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告知001 「受胎」

 かつて今から1000年ほど昔の話、ただ白い砂と何処までも続く地平線しか存在しない虚無の世界、そこにある一匹の虚が居たことを今となっては誰も知るものはいない。1000年前、それはある特殊な力を持った一族によって起こされた、世界を巻き込んだ戦乱が起こされた時期であり、ある意味では虚にとって最も平穏の時期でもあった。

 

現世に満ちる魂を統括し、(ホロウ)を浄化するバランサーの役目を負う死神が、手段を同じくするが目的の異なった虚を憎む一族と何年にも及ぶ戦乱の時代を迎え、虚の討伐が滞っていた戦乱期。それはすなわち互いが本分であった虚の討伐を疎かにしたと言うことを示していた。

 

一族の頭目が死神の世界へと侵入を果たしたと同じ時期、突如としてソレは現れた。まるで彼らの戦の眼をかいくぐるかのように、世界にひっそりと現れてはまた気配を消してしまう存在感の薄かった虚。それは放置された数十年の間に力を増し、飛躍的に大虚(メノス・グランデ)へと異例の速度で進化していったのだ。

 

鬼の居ぬ間に洗濯といった風貌で、多種多様の魂を喰らい、挙句の果てには同族である虚までをも自らの糧にしていった化け物。それはついに虚圏(ウェコムンド)の王でさえ手を焼いたと言わしめるまでに大きく成長を果たしてしまった。

 

だがソレが持っていた力とは虚の本能じみた破壊力でも、理性に裏打ちされた狡猾な知性でもなく、ただの生命力だった。ソレが他の大虚を蹴散らし頂に到達せんと上り詰めたのは、たった一つその不死を思わせる能力があったから。

 

虚圏で行われた、世界の支配者を決める殺し合い、髑髏の王に惜しくも敗れてしまったソレはだが、死ぬことはなくヒッソリと暗闇のそこで復活のときを待っていたのだ。力を他人に貸し与え、自らの復活の手助けになるように少しずつ少しずつ、全盛期の力を取り戻していった。

 

弱肉強食の虚の世界において、ただ死なないと言うことがどれほど魅力的で理想的であるかは、想像に難くないだろう。老いさえも退け、死をも克服したその力はまさに生命の究極とも言える。完璧な生命、それに最も近づいた虚が今、1000年の時を越えて再び眼を開ける。

 

 

「ア・・・アア、ア・・・ア」

 

全てを覆い尽くす漆黒の空、星の光一つ見えないのはある意味当然だった。何故なら此処は人間が住む土地では無いのだから。殺伐とした自然界より死に近く心を失った魂が引かれ合うように集まる場所、虚圏。細かい白砂に覆われた無機質な大地に存在した、同じく白い瓦礫の山。

 

大小様々な形のあるそれはかつて第8十刃が研究に使っていた離宮の変わり果てた姿だった。まるで巨大な何かに内側から押し上げられたかのように、外側に向かって飛び散っている瓦礫の中でひっそりと悲鳴のようなものが聞こえていた。

 

今から約1年前、かの不完全をこよなく愛した研究者と、完璧を求めた研究者が相対した場所。元はそこに無数に置かれていた書類の山も、ホルマリン漬けにされたモルモットが入った試験ビンも今は全て持ち去られ、その場所にはただ激しい戦いの痕跡が残っているだけに見えた。

 

「ア・・・あああ・・・あっ」

 

不完全を愛した研究者が開けたある研究棟の倉庫内、巨大な開け放された門の側で寝かされ苦痛に悶えていたのは、頬に紫色の涙のような形のエスティグマがある少女だった。焦点が定まっていない眼で虚空を見つめながら、少女は自分の死期が近いであろうことを動物的な本能で感じ取っていた。

 

真っ白な彼女の死覇装を押し上げて肥大を続ける腹、それは何も知らない第三者が見れば妊娠しているように見えたのかもしれない。だが状況はそんな生易しいものでは無かった、時間が経てばたつほど少女の腹は臨月の様に膨らんでいき身体を圧迫し始めている。

 

そして少女からどんどんと吸い取られていく霊力が腹部に集中している所為で少女はもうまともに動く事すら出来なくなっていた。体内構造の全てを霊子で構成している虚にとって、身体の霊力を吸われるという事は自らの肉体を食べられているという事に等しい。

 

その証拠に身体が急激に減少していく霊力に対応しようと幼児化を始めている。身体を小さく抑える事で生命維持に必要な霊力を最小限に抑える虚の最後の防衛本能。だがそれも全ての霊力が吸われてしまっては意味が無い。辛うじて生を繋いでいた少女だったが、それも風前の灯火だった。

 

「く…そ…」

 

消えかかった意識の中で少女はもう最後になるかもしれない悪態をつく、こんな事ならあの眼鏡の滅却師(クインシー)に殺されておけば良かった、戦いの果てで死んでおけばよかったと少女は自分の腹を見つめ後悔した。虚とは言っても元々は未練のある人間の魂魄だった者たちだ、失った心を同族を喰らう事で埋め合わせあの男の手によって再び人の形を取り戻した彼らはその胎内に子を宿すことが可能だろう。

 

だが、少女……その胎内に子を宿した破面は、誰かと子を成した覚えなど無かったのだ。それに虚圏、1年前まで圧倒的な力を誇った王が君臨していた前で、仮にも争いの前にそんな事を行おうとする破面(アランカル)はいなかった。

 

身に覚えのない受胎、だが少女には今の現状を自分に敷いているモノの正体が分かっていたのだ。滅却師に敗れた自分を実験材料として掃討部隊(セクセキアス)に回収を命じた張本人、そして破面の中でもっとも生命に精通していたあの男の姿が、気持ち悪い笑みが脳裏に思い起こされる。

 

受胎告知(ガブリエール)その能力を少女は見たわけでは無かったが、元十刃としてかの男の狂った研究心の噂は伝え聞いていた。「他者を媒介にして超速再生を行う能力」かつて聞いた時にはその意味が理解できず軽く流してしまったが、それはこういう事だったのかと少女は納得する。

 

もっとも少女自身、その能力をまさか自分が受ける事になるとは思ってはいなかったようだが。

 

「く…そぉっ」

 

悔しい、十刃であった自分が十刃落ちへと落とされた時、自慢の武器を切り落としてまで挑んだ相手に敗北した時、死を賭して戦い、敗北し相手に生を望まれた時、少女にとって1、2を争う後悔と憎しみの記憶。だがここまで惨めな死を遂げる事になるのかとまさか、自分があの憎い敵の復活を手伝ってしまう事になってしまうのかと少女は唇を噛んだ。

 

出来ることなら自分の腹に虚閃を打ち込んで腹に巣食うモノごと死んでしまいたい。これでは自分なんかの命を繋ごうとしてくれた男へ顔向けできない。

 

「う…あああっ…」

 

そして、その時は来た。ドクンと大きな鼓動が膨らんだ腹に響き少女の身体に鋭い激痛を走らせる。それは僅かに残った少女の霊圧の全て魂を飲み込むように、生命の鼓動を始め……少女とは違う霊圧を発し始めたのだった。蚊sらだの中から感じる自分のものとは違う気配、それだけで少女は背筋を撫でられたようなうすら寒いモノを感じて身体を震えさせた。

 

十刃だった頃からやたらと不気味で何をしているか分からない男、皆が己を高めあい戦いに明け暮れている中で唯一研究に没頭していた破面、少女はその筆舌に尽くしがたい魂の根源をも揺さぶられる様な気持ち悪さを心の底から嫌っていた。

 

観察されているような目を、何かを企んでいるかのような笑みが大嫌いだった。自分の一番嫌いだったものを自分の手によって生み出してしまう苦痛は想像を絶するものがある。

 

「いや…生みたくない…いやだぁぁ、こんな奴の子なんて…嫌だああああああああああ…あ」

 

最後に残った霊力の全てをその言葉に込めて、破面の少女。十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)№105果敢な王女様、チルッチ・サンダーウィッチは意識を手放した。反応の無くなった少女の身体、彼女の意思に反してその腹部が蠢き奔流が下半身から溢れ出す。破水…血の混じった羊水が少女の幼い股座から溢れ出し、そしてそこから赤ん坊の頭が現れた。

 

新たな生命の誕生は誰にも祝われることなく行われ、だがそんな事は気にしないとばかりに、ずるりと零れ落ちる様に少女の胎内から生まれ落ちた生物は、少女の予想を裏切らずピンク色の髪をしたていたのだった。だが、その姿は少女の知るソレとは随分と差異があったのだ。

 

あの狂った研究者のような桃色の髪は確かに正確に再現されていたが、生まれ落ちた胎児にはその研究者の特徴とも言える眼鏡が存在していなった。筈かなはずの変化、だがそれは明確に生れ落ちた生物が少女の幻視した男ではないと分かってしまう。

 

虚には決して離れることのない、顔面を覆うための仮面が存在する。それは仮面を砕き死神の力を手に入れた破面となっても、完全に消し去ることは不可能なもの。それは言わば指紋のような自分自身の存在を主張するアイデンティティーなのだ。

 

かの研究者にとってその象徴は眼鏡のように見える仮面だった。だが生み出された存在が持っていたのは、ピンク色の髪の生えた頭部の右端につけられた髪飾りのような仮面の一部。それは奇妙にもチルッチのそれと酷似していた。

 

誕生への歓喜なのか満面の笑みを顔に貼り付けた胎児は、そっと息を吐き出し深呼吸するように空気を大きく吸い込んだ。何気ない動作、だがそれを虚がすることに意味があった。胎児の呼吸に呼応するように白い世界の端々から集まってくる青白い塊。それは紛れもない虚の魂なのだから。

 

魂吸い(ごんずい)」と呼ばれる周囲一体の魂を強制的に肉体と切り離して集める技。強引な方法で集めるそれらは術者の力の有無によって集められる量を大幅に変化させる。それに通常魂と肉体に明確な差が生じる現世でのみ行える技だった。

 

だがその何十万ほどの魂を一瞬で事も無げに集めてしまった胎児は、一つ一つ吟味するようにぷっくりと膨らんだ唇につけゼリーを啜る様に優雅に飲む紺でいったのだった。

 

魂を啜るたびに力が増大していき、それに比例して赤ん坊の状態から幼児の姿へと一気に急成長を遂げる悪魔、同じく成長とともに太もも近くまでまで伸びてしまった髪の毛をかき分け、背後で強引に結んでしまうと、開けた視界にやっと少女の存在に気が付いたのかそっと仰向けに眠る彼女に近づき口づけをする。

 

精一杯の自愛をこめて、自分の集めた魂の力の一部を労うかのようにチルッチに注ぎ込んだ。それだけで今にも霊子分解してしまいそうになっていたチルッチの身体は、色を取り戻して苦しそうだった顔色も元の明るい肌色へと回復していく。

 

「僕を生んでくれてありがとうです」

 

一つだけ少女は大きな間違いを起こしていた、いや気づけるはずもないミス。それは受胎告知(ガブリエール)その能力が本来あの男のモノではなかったという事。そう……1年前敗北をきした研究者ザエルアポロ・グランツ完璧な生命に憧れ自らの到達点へ定めた彼が垣間見せたそれは、ただその一部を取り込んだ結果に過ぎないという事を知らなかった。

 

「いやぁ、まさかこんな事になってしまうなんて、やっぱり融合率は低かったってわけです。邪淫妃(フォルニカラス)は君では扱いきれない、僕の意識を完全に消しきれてない時点で、完璧なんて程遠いんです…ザエルアポロ?」

 

だが別に全てを彼に託しても良かったのもまた心理、あらゆるものを犠牲にして貪欲に完璧を渇望した彼だからこそ、自分の身体をも切り離し地位をも捨てた彼だからこそ、彼女は自身の力を彼に譲渡したのだから。何かを求めもがき足掻く様に彼女は焦がれた。

 

生まれ落ちたその瞬間から、誰よりも強くなろうと、誰よりも頭が良くなろうと醜く努力するのはとても美しい。例え望む願いが其処になくとも、叶った願いに裏切られようとも、自信が成長したという証は其処に残るのだから。だから、彼女は一度は受け入れた者を切り捨てた。

 

自分と言う完璧を受け入れ、努力を止めてしまった者を、彼女は決して認めない。生きとし生きる者には全て可能性がある、それは必ずしも平等ではないが、それでも魂は何にでも成れることだけは確かだろう。何故なら元は全て同じ素材、材料から生まれたものだ。

 

誰かに出来る事が、自分に出来ないなどと決めつけるのは、死ぬ寸前での走馬灯を見るまで待てばいい。もっと上を、さらに上を、完璧なら究極を、究極なら絶対を、渇望し続けていく事こそが彼女の在り方だった。「渇望」それが彼女の持つ何物にも勝る死の形であり、頂点のさらに先を求めた虚の呪いとも言える能力。

 

「向上心あるものは進化する余地がある、だけど…どこかの死神さんが言ってたように、完璧じゃぁいけないんだ」

 

君には素養があったんだけどね、残念だ。と桃色の髪をしたかつて虚圏の頂に立った古の虚、生命力の権化が再び重い腰を上げた。

 

「もっかい天下とりにいくか、です」

 

破面を束ねる虚圏の主が、生まれて間もない死神代行に倒されて1年。動き出した勢力の陰でゆっくりと行動を起こす虚もまた、野望にゆがんだ瞳でこれから訪れる先を見続けていた。

 

 

 

 

 

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