BLEACH reencarnacion medusa   作:ガブリエール

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告知004 「犠牲」

かつて藍染惣右介が自ら作り出し居城とした巨大な建造物『虚夜宮(ラスノーチェス)。月も星の輝きさえもない虚空の如き闇夜が広がる白砂の上に忽然と姿を現したそれは、この(ホロウ)蠢く虚圏(ウェコムンド)において絶対的な力の象徴であり、理不尽にその鎌を擡げる恐怖の象徴だった。

 

計り知れない叡智で周囲を威圧しているかのようだったそれも、今はもう過去の話。

 

戸魂界(ソウルソサエティ)から侵攻してきた死神達との戦闘の上、第0十刃(セロ・エスパーダ)の暴虐の限りによって半壊同然にまで追い込まれた城は、かつての清純さを表すような乳白色から一変し外気の影響を受けているのか所々にひび割れが走り、黄土色へと変色してしまっていた。

 

だが、そんな主を失った廃城であったとしてもその価値はまだ少なからず残っている。それは壁や天井を構成している素材殺気石(せっきせき)にあった。霊圧を完全に遮断し何物をも寄せ付けない物質である建造物は、城の形無くしてもなおまだ要塞としての役割を保っていたのだ。

 

「これは……」

 

その虚夜宮の最奥、藍染惣右介が座していた場所で粗末な椅子に腰かけていた褐色肌の女は、奇妙な予感に突き動かされて咄嗟に椅子から立ち上がる。ぞわりと身体に走る悪寒、それは決して先の戦いで感じた強者へ対する恐怖から来るものでも、妄想が作り出した過去のトラウマでもなかった。

 

大虚から破面へ至り十刃へと身を連ねた強者だからこそ感じることのできた僅かな感覚、それは、砂漠の中に一滴水を垂らしただけの取るに足らない違和感だった。辛うじて霊視濃度の濃い虚圏であるが故に、それが虚のものだと分かる様な小さな小さな、ふとすると見逃してしまいそうになるもの。

 

だがそれを彼女は見逃すことが出来なかった、いや本能に刻み付けられた恐怖があれは危険なものだと警報を鳴らしていたのだ。虚は魂魄を喰らい失た魂を埋めていく、その性質上どうしても同族同士の殺し合いは避けられないものだ、そのため虚は他の存在に比べて生存本能とも言われる感覚が頭一つ分飛び抜けて高い。

 

「ザエルアポロ……?」

 

だが、そんな身体の変化とは裏腹に彼女の歴戦の鍛えられた探査神経(ペスキス)が捉えたのは既知の霊圧だったのだ。死んだ筈の同胞、その霊圧が何故今更現れるのかその事実が彼女を混乱させる。確かに未知数の技術を持ち、計り知れない手段を持っていたザエルアポロならば死んで復活するという事くらい簡単に行うことが出来る、だがそれだけなのだ。

 

いくら奇妙奇天烈な技を持つとはいえ、霊圧や純粋な戦闘能力から言えば所詮第8十刃(オクターバ・エスパーダ)、上から数えた方が早い順位であった彼女にとってそのレベルならば警戒はするにしろ恐怖までは抱かないはずだった。

 

故に、女の表情が疑念に歪む。何かがおかしい……と。

 

それは、小さな霊圧。

それは、知っている霊圧。

しかし、恐怖を覚える霊圧。

 

藍染亡き後、王の不在となった無秩序の虚圏の統率者とおさまった女にとってこれは由々しき問題だった。未確認の脅威が出現した可能性、それはまた再びこの地で血みどろの争いが起こることを意味していた。女が望むのは自分を慕ってついてきてくれた仲間たちとの平穏、その安定した世界を突然現れた何者かに奪われてはならない。

 

虚圏で何が起こっているのか、最上級虚なりが自力で破面化したという低確率の可能性を含めて女は頭の中で危険度を精査する。この異様な霊圧、それを今考えなければ今後それは未来への憂いになりかねないという経験から来る確信が彼女にはあった。

 

一度現地へと赴いて調査する必要がある、と意識がそこまで回った時、感知した霊圧とは違うそれなりに高い霊圧が此方に向かってくることに気が付いた女は咄嗟に背中に結びつけられた刀へと手を伸ばす。

 

異常な事を感知した瞬間、それに瞬時に適応できなければ次の瞬間にも死んでしまう可能性がある。それを彼女は圧倒的な藍染との戦い、そして数十年前の破面との戦いから学んでいた。警戒を強め何時でも戦闘へと移行できる態勢を取る女だったが、すぐにそれは無駄な事だったと悟る。

 

近付いてくる霊圧が先程感じたものと違い何処か安心を覚える仲間のものだったからだ。長年連れ添った部下と上司の関係以上の信頼に結ばれた存在。女は張り詰めていた霊圧を解き、だが周囲に対しての探査は怠らず刀から手を離したのだった。

 

さて、この異常を部下たちに報告すべきか否か……余計な不安を持たせてしまって怖がらせてしまうのも可哀想だ。彼女はそう自分の心で結論を出し、自分が立ち上がったままであることに気づき慌てて椅子に座るのだった。

 

「ハリベル様、どうかされましたか?」

 

彼女の霊圧が動揺によって大きく乱れたことを察したのだろう、現在虚夜宮において褐色の女もといティア・ハリベルに次ぎ最も霊圧感知に長けた長髪の女が、響転によって目の前に姿を現したのはその数瞬後だった。アオザイの様な長く白い死覇装を身にまとった色白の女は、だらんと垂れ下がる長い袖で口元を隠しながら、主人に対する違和感に眉をひそめて周囲の様子を確認する。

 

第3十刃であったハリベルの動揺、それはこの虚夜宮の危機に繋がることかもしれないと考えた上での行動だった。主人であるハリベルに言われる前に色白の女も自らの探査神経を鋭敏にさせ、虚夜宮内そしてその付近の霊圧の感知を行う。だが、その結果にハリベルが今の現状になるような明確な異常は発見できなかった。

 

ならば何か体調でも悪いのではないか、虚とはいえ死神に近くなった魂は構造的には人間に近くなっている。だからこそ体調も悪くなれば簡単に風邪を引いてしまう時だってあるだろう。普段は仲間内から毒舌家として知られる彼女だったが、こと敬愛する主の前ではその性格は反転して心配性へと様変わりする。

 

「スンスンか、いや私は大丈夫だ……少し気になることがあってな」

「ですが……先ほどの霊圧の揺らめき様、ただ事ではないかと」

「スンスン、私が信用できないのか?」

 

何でもないとばかりに腕を組み平静を装い、疑念の表情を向けるスンスンを牽制する意味で眉を顰めて見せるハリベルだったが、十刃以前、破面になる前から連れ添った従属官の目は誤魔化せなかった。先ほどの心配そうな目から一転して鋭い目つきになったスンスンは、じろりとハリベルの姿を見つめ抑揚のない冷淡な声で言葉を紡ぐ。だがそれは決して攻撃的なものではなく、どちらかと言えば無理をしそうになっている子供を諫める様な口調だった。

 

「ハリベル様はたまに嘘をつく時がありますから、信用できません」

 

ついと視線を反らしながら仕える者にあるまじき暴言を吐き出すスンスンに、ハリベルの瞳は驚愕に見開かれるが、すぐにその発言を言わせてしまった自分自身にも責があると思い直し言葉に詰まってしまう。彼女が従属官たちに抱くのは彼女らを護る為に、彼女らの意思を蔑ろにしてしまった罪悪感。

 

「それは…しかし…」

 

ティア・ハリベル背負う死の形は『犠牲』、欲望に支配され本能のままに生きる虚にあるまじきその優しさは、時には自分よりも仲間の命を優先させてしまうほど深く、そして脆い。しかし仲間を心配させまいとして吐いた嘘、それはだが吐かれた側からしてみればお前たちは無力だと、自分の力になり得ないと公言しているものなのだ。

 

確かに第3十刃だった主人は強い、それこそスンスンを含めたこの場にいない2人の従属官が合わせて戦ったとしても帰刃さえも使ってもらえないほどに。恐らく大抵の脅威であるならば彼女一人だけでも容易に退けることが出来るだろう。だがそれ故にスンスンは思うのだ、従属官であり彼女に忠誠を誓う私たちが主人の強さに甘えて護られるだけの存在に成り下がってしまってもいいのかと。

 

藍染支配化の時のスンスンならばそのことに疑問こそ覚えこそすれ、主人の意向ならばと自分の意思を抑え込んだだろう。だが、スンスンは死神達との現世での決戦の際、自分たちが全く手も足も出せず、まして従っていたはずの王によって刃を突き立てられたハリベルの姿を見てしまっている。

 

そして伝え聞いた真実、ハリベルはスンスンを含めた従属官に迫る脅威から守る為に藍染の軍門に下るという決意をしたのだという事を。

 

「もう、護られてばかりは嫌なんです」

「スンスン……」

 

自分の敬愛する主人が気高くそして同時に脆いのだと知ったスンスンは、例えそれが主人の言葉であったとしても自分の意思を曲げるつもりはなかった。主人の枷になりたくはない、その気持ちは今この場にいない二人の従属官も同じだろうとスンスンは続ける。

 

「仰ってください、私達に……貴女の苦悩を私にも背負わせてください」

 

かつて、ハリベルに助けられた命、その時この人に一生ついていくと忠誠を誓った者があろうことか主人に守られて生きながられているなどどれほど滑稽で愚かな事なのか。

 

辛ければ伝えてほしい、悲しければ慰めてあげたい、痛ければ分かち合おう、少しでも自分という存在を頼ってほしいとスンスンは、主君であるハリベルに思いの丈をぶつけ始める。主従関係からでは到底起こることのない互いを思いあう親愛の情、殺伐とした虚の世界において繰り広げ有れるそれは非常にほほえましく……そしてある、一匹の大虚にとって目障りなものだった。

 

『停滞は、敗北しか生まない』

 

それは、唐突に……だが必然だった。彼女は、決して油断していたわけでもない、探査神経を片時も休めず周囲を警戒していた。彼女は、決して諦めていたわけではない、藍染にされた屈辱をぬぐう為日々身を粉にして身体を心を鍛え続けてきた。

 

だが……その全ての行きつく先が、仲間との平穏なのだとすれば……

 

「なっ……」

「ハリベル様!?」

 

常に進化し続ける化け物に…勝てるはずもなかった……

ずるりとハリベルの胴から突き出した鋭い刃、それは彼女の血を啜るかのように銀色の刀身を朱に染めていく。滴り落ちる血液は無機質な殺気石の床に染み込み黒く大きなシミを作った。

 

平和を望む心に、純粋な強さを求める心が勝るはずもない。ハリベルが放っていた霊圧は一瞬のうちにその襲撃者の霊圧に塗り替えられ、虚夜宮の支配権は移り変わる。これは襲撃者……進化する者が頂に立つための前日譚に過ぎないのだ。

 

 

「こんにちわ、負け犬……突然だけどその似合わない頂の座、僕が奪いに来たよ?」

 

 

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