銀さんに憑依した俺は幻想郷で気ままに万事屋を開く 作:肥満猫
突然だが、俺は常にやる気のない男だ。
仕事ではやる気がない男ナンバーワンと言われるほどで、同僚からは「お前はいつも死んだ魚のような目だよな」と、常日頃から言われている。
何をやるのも気怠げにするのが俺だ。
「でもなぁ、流石にこの状況でやる気を起こさないと死ぬよな……おっさん大ピンチ」
そう、何故やる気を起こさないとダメなのか、それは。
――大きな大きなクマさんが目の前にいるからです。
軽く四メートルは超えてるんじゃないかな? うん。
死ぬよな。これ……。
目の前で威嚇するように唸るクマさんを見ながら、こうなるほんの少し前の事を、俺は呆然としながらも思い出す。
――――おっさん現実逃避中――――
目を覚ましたら気持ちの良いほど青い空が俺を迎えた。
……え? 何処ここ。
思わず開けた目を閉じて、もう一度、今度はゆっくりと瞼を開けるが、現状は変わらない。
取り敢えず身体を起こし、周りを確認する。
周りは木々に囲まれ、恐らく森の中だと言うことはわかる。鳥の鳴き声が森に響いたり、風で揺れる葉の音が耳に心地いいな、なんて現実逃避する俺は悪くない。
――誘拐か?
いや、こんな見た目ダメなおっさんを誘拐する意味がわからんし、いたらとんでもない変態だな。
やれやれと首を横にふった俺は、そこであることに気づく。
あれ? なんか前髪が銀髪なんですけど、これはどゆこと?
よく見れば天パだよな。それに服もおかしい。さっきまで自宅の家でゆったりビール飲みながら休暇を楽しんでいた、白ティーと短パンの姿じゃなくなっている。
今は、黒の上下服の上に波模様が入った白い着物、黒ブーツといった格好で、しかも腰には木刀が差し込まれている。
しかもその木刀には、銘が刻まれていた。
名は……洞爺湖。
どこかで見たような格好&木刀だな……いやいやまさか、そんなまさか。
何度も首を横に振る俺は、認めたくない現実に立たされた気持ちで、早足で森の中を歩く。
ま、まずは何処か人が住んでいる所に向かおう、そうしよう。
知らぬ間に額から大量の汗を掻きながらも、俺は前へと進む。若干足取りが悪いのはご愛嬌。
宛もなく彷徨うこと数分、早くも歩くことに精神的に疲れた。
いやな、肉体の方は全然疲れていないんだ。けどな、もうなんか歩くの面倒いんだよ。
歩けど歩けど同じ景色、そりゃあ飽きるわ。
近くにある立派な木を背にして、座る。
最悪な状況だが、同時にちょっと嬉しい気持ちだったりする。
明日から始まる仕事に行かなくていいのは素直に嬉しいな。仕事ほど面倒なことはないし、仕事に比べれば、この状況もまぁ、悪くはないか。
なんとも気楽な考えをしていると、何やら地面が揺れるではないか。
お、地震か? と、地面に手をつきながら身体が倒れないように踏ん張っていると、前方にある木が突如として大きな音を立てて倒れる。
それはまるで何か強い衝撃を与えれたかのようだ。
……嫌な予感をヒシヒシと感じる。
その予感は残念なことに当たってしまう。
先ほどまであった木の後ろに、黒い毛が全身を覆い、丸太のように太い腕と足、獰猛さをアピールするように凶悪な牙を剥き出しにして威嚇する、大きなクマがそこにいた。
――――おっさん現実逃避終了――――
おわた……。
いや待て俺、まだ、まだ俺の人生は終了していないはず。考えろ。俺!
今も威嚇する目の前のクマのあんちくしょうを見ながら、俺は前にテレビで見た事を思い出す。
そう、確かクマとかって案外臆病なんだよ。
それと、クマと視線があったら逸らしてはダメとか聞いたぞ。
俺はジッと、クマの目を見つめる。
「グォォォォァァアアアッ!!!!」
「やっぱりダメじゃねぇかコノヤローッ!!」
クマの咆哮が耳を劈く。俺は絶叫でそれに返して、回れ右をして全力で逃げに徹する。
木を縫うように軽々と走りながら、俺は自分の身体能力がかなり上がっていることに驚く。
なにこの身体の軽さ、前の俺とは全く違う。これなら……。
「ガァァアアアッ!!」
「ダメですねわかります!」
すぐ後ろで口を開きながら追いかけてくるクマに、俺は一瞬だけ振り向いた顔を前に戻し、腕をブンブンとふりながらがむしゃらに逃げる。
クソ、なにかいい方法はないのか?
走りながら必死に考えるが、いい方法など見つかるはずもなく、段々と疲れが出始める。
なんだこの夢みたいな出来事は。
起きたら見知らぬ森の中にいて、知らない身体になってて、クマに襲われるとか、どこのアニメや漫画だよ。
俺は平穏にだらけた生活が出来ればそれでいいんだ。
息が上がり、足が鉛のように重くなる。
ここで俺は死ぬのか? もう、ダメなのか?
徐々に生きる希望がなくなる俺だったが、絶望するには早かった。
必死に走る俺の前から燃え上がる火が頭上を飛来してきたのだ。
その火は一直線にクマの胴体にぶつかると、爆音が響き、クマの周囲に火柱が立つ。
「なんだぁ、あれ……?」
いきなりの展開に頭が追いつかず、逃げるために動かしていた足を止め、火柱が上がる現場を見つめる。
そこには、クマ以外に、一人の少女がいた。
銀髪のロングヘアーに紅い瞳を持ち、上は白いカッターシャツに、下は赤いもんぺのようなズボンで、ズボンには乱雑に護符が貼り付けられていた。
何と言うか、個性的なファッションだな。
危機的状況にいたのも忘れてそんな感想を抱いていると、燃え上がっていたクマは地面に倒れ、ピクリとも動かなくなる。
少女はそれを確認すると、こちらに向かってくる。
「そこのアンタ。怪我はないか?」
「あ、あぁ。怪我はねぇ」
「そうか。それならよかった」
ホッとした顔で笑う少女。
助けられた事に今更だが気づいた俺は、感謝を口にする。
「なんか知らんが助かったわ」
「私が言うのもあれだが、感謝の気持ちが伝わらない言い方だな」
ジト目で見られてもこれが俺だから仕方ない。
「そりゃあ悪かったな。これが俺だ」
「あぁうん、もういいよ。別に感謝して欲しくて助けた訳じゃないし。それで、アンタはなんでこんな森の中にいるんだ?」
「目が覚めたら森の中にいた」
「は?」
嘘は言ってない。だって実際そうなんだもの。
「だから、目が覚めたら森の中にいたんだよ~もんぺガール」
「その呼び方やめろ。私には
「外来人?」
「そう、外来人だ。説明は後でする。とりあえず人里まで一緒に来てくれ」
それだけ言うと、もんぺガール改め、妹紅は歩き出してしまう。
仕方ない。ここは言うとおりにした方が良さそうだ。
文字数が少ないと思う方が多いかと思いますが、次回からは少なくても4000文字以上は超えるので、楽しみにしてくれたら嬉しいです。