枯れた菊、壊れた月   作:sssn

3 / 4
第3話

「それじゃあ作戦の概要を説明しよう」

先程呼び出していた金剛が合流し、執務室の中には6人。つまり第一艦隊に今回選ばれた艦娘が揃っていた。選ばれたといってもそのうちの4人。暁達第六駆逐隊はそこにいたから選ばれたようなものだが、これでもこの鎮守府では貴重な戦力であることは代わり無い。

金剛と第六駆逐隊の面々は流石に以前から所属しているからかどこかリラックスしているようで表情に余裕が見える。

「の前に海図とホワイトボードどこにやったっけ?」

「確か隣の部屋にあったわね」

「必要だと思って海図は持ってきておいたわ!」

「ホワイトボードはどこなのです?」

「ここにあるよ」

とまあ、緊張感の欠片もない声が飛び交う程度には気楽にしている。

それはいいことだが、足元を掬われないかが心配だと萩野は思う。

問題は菊月だ。

しきりに辺りをキョロキョロと見渡しては萩野を見て、視線を下げたかと思うと自分の体を眺めたりと落ち着きがない。

これは仕方がないとある程度は予測はしていた。回りが全員今出会ったばかりの人達で、それについて生きるか死ぬかの戦場に出るのだから。

「今回は新入りが一人参加しているから改めて説明するよ。現在加賀率いる第二艦隊が敵戦力の確認と足止めに向かっている。第一艦隊が合流後第二艦隊は後退帰投する流れになっている。第一艦隊は引き続いてまず第二艦隊と交戦中であろう敵艦隊を強襲。撃滅後に指定ポイントまで後退。鎮守府に近づけないように撃退するか殲滅するのが目標。なにか質問はある?」

さっき用意されたホワイトボードに海図を張り付けてマグネットを艦隊に見立てて説明する。

赤いマグネットには一。

青いマグネットには弐とかかれており、同じく青いが一回り小さいそれは港湾外側に大量におかれていてこれらが敵艦隊だ。

説明が進む度にマグネットを移動させて取り付けて外して。そしてこの作戦の基本的な動きはこれで全部だ。ここから先は実動部隊の彼女らに自ら考えて動いてもらわなければならない。

「ヘイ!提督!撃ち漏らした敵艦はどうしたらいいのデスカ?」

ばっと手を挙げて質問を行うのはこの鎮守府には二隻しか存在しない戦艦のうちの一隻。金剛だ。

わかっているはずなのにわざわざ質問するのは彼女なりの気遣いか。

 

「撃ち漏らした敵艦は鎮守府で待機の第三艦隊、第四艦隊で迎撃するからとにかく敵の数を減らすことを優先で」

萩野は答えながら新たに緑と黄色のマグネットを取り出して鎮守府近くに取り付ける。

合わせて敵艦隊をすっと鎮守府に近づけたあと取り外した。

「ハイハイ!司令官!戦闘方法はどうしたらいいのかしら!?」

と、こんどは元気よく雷が跳び跳ねながら質問を重ねる。

「戦闘方法はみんなに任せる。各々得意な方法で可能な限り被害を押さえて戦って欲しい」

とは言うもののこの面子では近接戦闘が主になるだろうか。

艦隊対艦隊ではその巨体から遠く離れた砲撃戦、航空戦が主だったがシステムは移り変わり始めた。

人形まで小さくなった現在の戦闘では砲撃を敵に当てるのも一苦労なのだ。

それこそ、拳銃で200m先の的を撃ち抜くようなものであり。

そんなことができるのは戦艦達だけだ。

「なら何時も通りね」

といいながら聞いてきた雷本人は鎖のついた錨型のハンマーを目の前で掲げて見せる。

この萩野の艦隊では肉弾戦闘を推奨していた。

えっと驚くのは菊月だ。

推奨しているとはいえ近接の肉弾戦闘は未だ敬遠されている節が他の鎮守府であるのも事実ではある。

何しろ一応は艦の名がつく通り、艦娘とは船なのだからぶつかり合うことはあまり誉められたものではない。

「無理に殴りかかったりしなくても大丈夫だよ菊月」

「そ、そうか」

あくまでも確実に砲撃を当てるための近接戦闘であって、それ自体で沈めることが出来る駆逐艦はほぼ存在しない。

それ専用の装備を持つもの限定だ。例えばそこの雷とか。

 

「さて、そろそろ出撃しないとまずいかな」

ちらりと壁に掛かった時計を流し見ていまだ連絡の来ない通信機に手を伸ばす。

通信は来ない。心の中でなにか起こったのかと焦燥感が溢れ始めるがそれを飲み込む。手持ち無沙汰に手は空を掴む。

「それじゃあ行こうか。金剛、後は頼むよ」

代わりに振り替えって6人へと号令をかける。

「了解ネー!私の目が黒い限り、誰も沈ませないネー!」

と、元気よく宣言するとぞろぞろと駆逐艦達を引き連れて金剛達は出ていった。

「菊月」

「……なんだ?」

その最後尾を慌ててついていく菊月を萩野は呼び止める。

「いや……死ぬなよ」

「……了解」

気の聞いた言葉のひとつもでなかった。

はぁと菊月も走り去ったあとに一人ため息をつく。

何時まで経っても誰かを戦場に送るときのこの気持ちには慣れることはない。

「…………」

ポケットからしわくちゃに潰れた煙草を取り出して火を着けて一息ついた。

一息すって、煙を肺に溜めて。

煙と一緒に自分の気持ちも吐き出して煙に撒いた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。