ザァッ、と水飛沫を巻き上げて彼女達は海上をひた走る。
先頭は戦艦である金剛が、それから雷、電、暁、響、菊月の順で一列に行儀よく並んで航行する。
ふぅ、と菊月は息をつく。
初日から出撃するとは彼女も思いもしなかったが、艦娘であるならばいずれは戦いに出なければいけないのだから、それはそれでいい。
問題は彼女は戦い方がまるでわからないということか。
この鎮守府の戦い方、というだけではない。
どう戦えばいいのか、だ。
引き金を引けば弾は出る。排莢、装填、魚雷。
どこをどう動かせば射出出来るのかはわかってはいるが当て方がわからない。
例えるならば自転車に乗るという大雑把な方法はわかるがスピードを出す、制御の方法がわからないといった方が正しいか。
「どうしたんだい?」
「いや、なんでもない」
前にいた菊月と同じ白髪の子。響がそんな様子を察したのか声をかけてきた。器用に菊月の方へと向き直り、彼女は船にあるまじき後退しながら進み続ける。
「不安?」
「……少しは」
「大丈夫さ。やればなんとかなる」
「なんとかなるって……」
そんな適当な。
「君は建造でも、ドロップでもなく拾われてきたんだから戦った経験があるんじゃないか?」
「……わからない。覚えてるのは天龍に砲撃したところだけなんだ」
菊月は静かに首を横に降る。
忘れているだけかもしれない。
もしかしたらたまたまそこで生まれて、すぐに拾われたのかもしれないし、生まれたはいいが戦うこともなくあの場所でずっと立ちすくんでいたのかもしれない。
でもサビがついていたのだからと当人としても思わなくもない。
「そうなのか。でも気にしない方がいい。いずれは遅くも早くも出撃することには変わりがないから。それに」
「それに?」
「いや、特に気負わない方がいいよ。私達が負けても死ななければ安いからね」
それだけ言うと響は再びくるりと前方へ向き直り少しずれた隊列を元に戻す。
主砲を握り混んだ拳の中で汗がじんわりと滲み出てきた。初陣、練度0。防衛戦。
気負うな言われど勝手に心は焦り、やはり今すぐ引き返したくなる。
大きく、何度も深呼吸を繰り返しながらその時を待つ。
ああ、艦隊の皆が羨ましい。
姉妹4人が集まって、緊張感を適度に保ちながらも談笑を繰り返しているのが視界に映る。
提督も提督だ。
可能であるならば姉妹艦と一緒にしてくれればいいものを。
「さあ、皆サーン?準備はいいですカー?」
金剛の声が響く。
大袈裟に両手を開き、5人の方へと振り返りその大型の艤装を展開した。
「今回は知っての通り、ニューフェイスのファーストミッションネ。皆でカバーしあいまショー?」
「はい(なのです)!」
艦隊全体の意識が前方へと集中する。
嫌が応にも菊月の意識もそちらへ向く。
だけど、でも。
嫌な事ばかり考えてしまう。
誤射、衝突。しないと言う保証はどこにもない。
「ヘイ菊月ー」
「!?」
「スマイルスマーイル」
にっこりと自らの口角を人差し指で吊り上げて金剛が笑う。
それでもおどおどと様子をうかがっていると金剛は顎に手を当てて首をかしげて見せる。
やがてぽんっと手を打つと、
「心配しなくてもダイジョーブネ。私達が例え負けてもバックには後続がいるし、艦娘はそう簡単には沈まないヨ!」
「いや、そ、そういうことじゃ」
いや、でも、もうそんなこと言ってる場合でもなさそうだ。
夥しい数の深海棲艦が水平線から現れる。
あれらが全部鎮守府へと向かっているのかと思うとゾッとする。
それでも、やらなくては。
各自が各々散開し、横一列に位置へつく。
「それじゃあ!防衛作戦開始ネ!」
「了解!」