とある無力の常識殺し《ルールブレイカー》【完結】 作:ちひろん
お気に入りに入れてくれた人がいて、嬉しすぎたので…
佐天さん、好奇心爆発です。
佐天涙子は、休日の午後、道路脇の路地裏に隠れながら、探偵の気分を堪能していた。
8月中旬だけあって、日陰にいるにもかかわらず、暑さと湿度はかなりのもので、全身から汗が噴き出すしていた。
たまに、汗が首筋を流れ流れるのがうっとおしい。予め用意していた保冷剤をタオルで包んで、首に巻いた。
昨晩の出来事は、普通の認識であれば酷く現実離れした話であるが、学園都市にいるものであれば、ある程度許容出来る出来事だった。
不思議であり、脅威であり、危機ではあったが、彼女はそういったことにも、ある程度の免疫があった。
学園の風紀を取り締まる、ジャッジメントに友達がいるためか、学園都市第3位、常盤台の超レールガンとも知り合い、危ない状況に身をおくことがあったからだ。
だが、それは心の何処かで、『守ってくれる』という、他人任せな気持ちが無かったとも言い切れなかった。
今回も同様に、誰かが守ってくれるという、当てもない希望が彼女の心にあり、それは感情を鈍感にさせた。
それよりも彼女を興奮させたのは、昨夜、炎を打ち消したあの男のことだった。
助けてもらった後、彼と彼女は言葉少なくこちらの心配をすると、すぐに立ち去ってしまったので、彼から詳しい話は聞けなかった。
だが、別ルートで、情報は手に入った。
「上条当麻」、 風紀委員《ジャッジメント》の友達に、お礼を言うためと嘘をついて、手にいれた情報だった。
友達を騙すことには気が引けたが、それによって得られる情報には、それだけの価値があった。
しかし、彼が制服でなければ、おそらく特定は難しかったかもしれない。
佐天は、そうして得られた学生寮の一室を、路地裏から見張っているのであった。
目当ての彼はまだ見かけていなかったが、それ以外の情報はかなり得られていた。
その情報について、佐天は、眉をひそめながら考える。
それらの情報は、【女】という言葉で説明ができた。とにかく女性の訪問が多い部屋だった。
どうやら目当ての家主は留守のようで、そのまま踵を返すのだが、半日程度の張り込みで、既に3名の女性の訪問があった。
そのうちの一人は遠目で判断できなかったが、酷く御坂美琴似ている女性であったようにも見えた。
ただ、常盤台の制服でショートカットであれば、そう見えてしまうかもしれないとは、思っていた。
佐天は、昨夜のことを思い出す。
どう考えても顔が良いわけでも、ルックスが良いわけでも、髪型が良いわけでもない。むしろ一般的な男性と比べて平均以下のように思える。
少なくとも、女性から好かれるような男性ではなかった。
内面的に魅力があるのか、それとも、あの能力関係があるのか、そう考えて笑みが零れた。
張り込みはそれからも、しばらく続いたが、相も変わらずの女性訪問率の高さが浮き上がる以外は、特にこれといって得られた情報はなかった。
と、またもや、女性と思われるシスター服の人物が現れた途端、佐天の顔に緊張が走った。
その女性は、恐らくあの夜、彼と一緒にいた、シスター服の彼女と思われた。
しかも、部屋の中から外に出てきたのだ。
見張っている部屋が間違いなく目得ての部屋であることは張り込み前に十分に確認済みである。つまり、彼女は家主と非常に繋がりが濃い間柄であると言えた。
佐天は張り込み対象を、シスターに変えることを決断した。
何度もあった訪問者に応答を返さなかったことは、物珍しいシスター服を着ていることを除いても、怪しいと考えたのだ。
シスターは、学生寮の出入り口から堂々と外へ出て、足取りもしっかりと歩き出した。佐天はその後ろを尾行する。
佐天は物陰に隠れて、シスターがある程度見えなくなったら、早足で距離を詰めて、物陰に隠れる。その行動を繰り返していた。
実際、シスターがそれに気づいたような素振りは無いように見え、佐天は自分の尾行に少しばかり自信がつき始めていた。
その行動を何度か繰り返していたのち、突然シスターが走り出した。
佐天は、思わず物陰から飛び出してシスターの後を追いかけた。
シスターは走ったままビルとビルの路地裏に走りこみ、佐天も思わずそれに続き、思わず立ち止まった。
仁王立ちしたシスターがそこに立っていた。
佐天はシスターを真正面から見た。身長は低く幼顔、けれどその眼には気圧される気迫があった。
「何?」
佐天はその高い声に気圧された。
まるで見通すようなその眼に、言い訳をつけず、言いよどんでしまう。
いっそのこと本当の理由を言ってしまおうとも思ったが、シスターと彼の関係性がはっきりしないうちは、避けた方が無難だと考えた。
それは正しい選択だった。もし佐天がここで本当のことを言えば、間違いなく敵と判断されたに違いない。
「えっと、あの」
佐天はそう言うのが精一杯で、二の句を繋げずにいた。
シスターは次第に怪訝な表情になっていったが、この状況を打破する言葉が思いつけなかった。
「何やってんだインデックス」
その声に振り向くと、大通り側に、探し求めた彼がいた。体のあちこちに包帯を巻き、松葉杖をついて。
佐天が探していた、能力が効かないという言葉からは、縁遠い姿だった。
能力が効かないとは、この街では最強を意味するはずだからだ。
「とうま、この娘が、わたしを尾けてたんだよ」
インデックスと呼ばれたシスターが、仁王立ちのまま、そう言った。
彼は一瞬にして警戒のレベルを最大限に上げたように、佐天をみつめた。シスターの尾行が、彼にとってどれだけの脅威かが判断出来た。
佐天は、シスターをますます怪しいと感じた。
「この娘、この間の時の娘だよ」
シスターのその言葉をきいて、彼は少しだけ、警戒を解いた。
「あー、あの時の。どうしたの? なんかインデックスに用?」
とはいえ、今だ警戒されているようではあった。シスターにはそれだけの秘密があると見えた。
佐天は、ここがチャンスだと感じた。
さっきは気圧されてしまったが、そもそも言い訳は準備していたのだ。
「す、すみません。私、あなたにちゃんとお礼が言いたくて、色々聞いてあなたの部屋のお伺いしたんですが、いらっしゃらなくて。あきらめてかえろうとしたんですけど、そしたら可愛らしいシスターが部屋から出てくるじゃないですか。もしかしたら、あなたのところに行くのかと思って、つい尾けてしまいました。ごめんなさい」
ここぞとばかりに、佐天は用意していた言い訳を並べたてた。
一気に喋り過ぎてしまったかとも思ったが、変にやり取りをしてボロが出るよりも、多少の違和感があっても筋が通っている方がよいと判断した。
佐天は言い訳をするのに必死で、二人の顔をまともに見ていなかった。
そろりと顔を上げて、二人の顔を見る。
彼は、安堵の表情を浮かべていた。先ほどのやりとりで信用してしまうところを見ると、かなりのお人好しと思われた。
また、シスターは多少表情を緩めた。可愛い女の子が効いたらしい。
さらに、ここで、追い打ちをかけておけば間違いない。
「もしよければ、何処かでお食事でもご一緒しませんか? お礼に何か奢らせて下さい」
佐天さんって中学1年生なんですよね。
驚愕するわ…