とある無力の常識殺し《ルールブレイカー》【完結】 作:ちひろん
既に読まれた方、申し訳ないです。
上条とインデックスが部屋から出ていって1時間、佐天は部屋の中でただ俯いて、人の気持ちを思いやれなかった自分の行動を後悔していた。好奇心で個人情報を手に入れ、感謝の言葉を捏造し、人の秘密を暴こうとした、自分を責めていた。
佐天は、この部屋から逃げ出したかったが、部屋の鍵を持っていないため、自分が出た後に鍵をかけられない。上条かインデックスが帰ってくるまで待っている必要があった。そして、できれば上条の方が先に帰ってきてほしいと思っていた。
だが、そういう気持ちは、大抵叶わない。
ドアを開けた音に反応して、佐天がドアの方を向くと、そこには上条ではなく、インデックスが立っていた。
佐天は緊張のあまり、息を飲んだ。
インデックスは佐天を見ると、ゆっくりとした動作で部屋の中に入った。そして座った佐天の前までいくと、佐天を見下ろした。
佐天は、インデックスを見ることはできなかった。
「ねえ」
インデックスの声に、佐天の体が反応する。
だが言葉は続かない。何を聞かれるのかと、佐天は待ち構えるが、静寂だけが部屋を満たす。
張り詰めていく緊張感、酸素の濃度が低くなったかのように、呼吸がしずらい。
佐天は、待ちきれず、伏し目がちに、少し顔を上げて、インデックスの顔を覗いた。
そこには、見下すような目をしたインデックスがいた。
『ああ』
佐天は、耐えられないと、今すぐに全てを話して謝りたいと、心の中で声を上げた。
単なる好奇心だった。都市伝説を暴くための冒険だった。自分の罪悪感に、押し潰されそうだった。
「何か、言うことあるんじゃない?」
そのインデックスの言葉に、佐天の心が、折れてしまった。
「ご、ごめんなさい…」
佐天は、その謝罪の言葉を皮切りに、濁流のように、謝罪を、本心を、全てを、告白した。
スッキリしたとも言えるが、いまはただ、 座り込んだ佐天の前に仁王立ちしたインデックスが怖いだけだった。
「ふーん」
相も変わらず値踏みをするような目で佐天を見下すインデックスは、深く、長い溜息をついた。
「ま、信じてあげる」
佐天が、俯きがちだった顔を思わず上げると、目の前にインデックスの手のひらが広げられていた。
思わずのけぞったが、その意図が理解できず、目の丸くして、インデックスを見つめた。
インデックスは吐き出すように短い溜息をついて、言った。
「信じてあげる。だってあなたは、とうまに何かできるような人じゃない」
それは、褒め言葉ではなかった。
「あなたは、本当は『する』側じゃなくて『される』側だから」
『される』側、主体性のないと、そう言っていた。
その言葉に、多少の苛立ちを覚えた佐天を、弱者であれば、誰も攻められはしない。
インデックスは、佐天の様子を観察して、話を続ける。
「あなたは、『巻き込む』側じゃなくて『巻き込まれる』側。今までも『巻き込まれていた』だけでしょ?」
『巻き込まれていた』だけ、その言葉は、佐天を貫いた。
主人公ではなく、ヒロインでもなく、ただの脇役だと、そう罵られたのにも関わらず、心はその残酷な真実を肯定していた。
佐天は、 言い返す言葉すら思いつかず、ただ黙って唇を噛んだ。
「とうまの能力を教えてあげる」
佐天は顔をあげる。
「とうまは、右手は触れた力を打ち消すことができる」
インデックスは、一度悪意を持って隠した上条の能力を、簡潔に説明した。
「これで満足?」
佐天は望んでいた回答に、顔をしかめた。
「これで満足なんでしょ? あなたの話だと」
佐天は言葉が出ない。無意識に歯をかみしめていた。
「とうまの秘密が解決したら、あなたがここに残る理由は何かある?」
すべてが正論だった。暴力的なまでの正論だった。会話を許さず、感情を無視し、有無を言わせぬ正論。その正論への回答は一つしかなかった。
「私、帰ります」
佐天は絞り出すように言うと、インデックスがあえて閉めていなかったドアを開けて、足取り重く、その部屋を後にした。
佐天が帰った後、インデックス、ドアを見つめていた。そして、しばらくして、ドアに声をかけた。
「サニー、いるんでしょ?」
この声に応ずるように、ドアの隙間から一人の少女が部屋に入ってきて、言った。。
「どうして、あんなにキツく接したのですか? と、ミサカは回答をある程度予測して聞いてみます」
「分かってるなら聞かないで。私だって好きでやっているわけじゃないんだから」
「それにしてはノリノリでしたね、とミサカは覚えたての死語を使ってみます」
インデックスは、ベットに座り、一息ついた。
「そうだね。背負っていないことに嫉妬したのか、それとも好奇心だけで背負うつもりもないことに苛立ったのか。ま、ムカついたのは間違いないね」
インデックスは、唇の端を釣り上げる。
「あの方は、そんなに危険ですか? と、ミサカは敢えて悪者を演じたインデックスさんの顔色を伺ってみます」
「そうだね。何の前触れもなく、とうまがあの子を見つけたよ」
「それは…」
少女は終始無表情だったが、インデックスの言葉に目を細めた。
「私たちは、とうまの脅威だからそばに居れる。きっと、とうまにとって都合の良い存在になれば、そばに居られない。それは、神の加護すら打ち消すあの右手が許さない。じゃあ、とうまは何故あの子を見つけられたの?」
「とうまさんにとって、あの方が脅威だからですね、とミサカはインデックスさんの態度に納得します」
インデックスは、もう一度、ため息を吐き出して言う。
「自覚ないみたいだけどね。あの子はそれを知らない。とうまも知らない。しらないままのほうがいい。」
少女は、ベランダ側の窓から、外を眺めた。
「そうですね」
そして、インデックスの方に振り返る。
「それに、インデックスさんとしてはライバルが増えることは望ましくないからですね、とミサカは自分のことを棚に挙げて言ってみます」
インデックスが少女を見上げた。その顔はあきらかに紅潮していた。
「そ、それを言うならサニーもでしょ?!」
「あの程度のスペックなら障害にもなりません、とミサカは意味深に胸を張ります」
少女は、身体的特徴による異性に対しての一般的なメリットを誇示した。
だが、それは幼児体型のインデックスが、身体的特徴で劣っていると告げていた。
「私、夜に襲われそうになったことあるからね! それって、体型は関係ないってことじゃない?!」
「一度、偶然を装って胸を触らせてみたことがありますが、それはもう興味深々のご様子でした、とミサカはスペックの高さが単純にアドバンテージになることも証明してみせます」
「そんな不自然な偶然ないよ?!っていうかそろそろとうま帰ってくるよ!」
二人の言い合いはしばらく続き、やがて制服の少女は帰路についた。
それぞれの思惑が交差したやり取りは、最適解にて解決されたかと思われた。
だが、あの右手が、それを許すわけはなかった。
インデックスさん、ちょっと怖いっす。
ちなみに、このミサカの検体番号は、10032号です。